軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98:強い奴なら、大歓迎だって話

ヴァンが真っ白な、白亜の巨大剣を手に、ゆっくりと戦闘音の響く方へと足をすすめる。

「おいヴァン。お前はカイルの護衛だろ!? 戦闘に参加してどうする!」

「今はクラフトも、三姉妹も、リーファンもいるだろうが。この陣営なら充分過ぎる」

「それは確かに……」

ヴァンの言うことは正しいが、絶対にカイルを守るとか抜かしてた野郎が真っ先に前線に飛び込んでどうすんだよ。

「ふん。前線はレイドックのいるところで、ここは後方だろうが。それにカイルの私兵が一人でも死んだら、カイルは悲しむだろう?」

「そりゃそうだが」

「それに、俺の実力も見せておかないと、連携もとれんだろうが」

そう言われると、反論出来ない。

俺は少し悩む。

「クラフト君!」

「クラフトさん!」

やってきたのはリーファンとキャスパー三姉妹だ。

ちょうどいいタイミングだな。

「リーファン。エヴァたちとアルファードでこの場所を頼む」

「え? クラフト君はどうするの?」

「ヴァンが戦闘に参加するから、俺は後ろでそれを確認する」

「クラフト君は戦闘に参加しないんだよね?」

「最初から、極力直接戦闘はするなって釘を刺されてるしな」

この遠征に向かうにあたり、そのあたりは散々まわりから注意されている。

俺も、魔術師だった頃の感覚は少し減らさないと思っていたところだ。

錬金術師として、後方支援に徹するつもりである。

「ヴァンの実力を確認したい」

「わかったよ。でも無理しちゃダメだよ?」

「大丈夫だ……そういやジタローは?」

いちおうカイルの護衛として来ているジタローの姿が見えない。

「さっき、戦闘音のする方に飛んでいったよ……」

「自由か!」

まぁ、あいつの弓は頼りになるからな。

私兵には心強い援護だろう。

そんなやりとりをしているあいだにも、ヴァンはとっとと防衛地域へと移動してしまう。

「じゃあ頼む!」

俺はそう言い残して、急いで防衛地点を見渡せる場所へと移動する。

防衛地点寄りだが、いざという時はカイルの所に飛んでいける距離である。

野営地の一〇時方向から大量のヒュドラが押し寄せていた。

カイルの私兵が隊列を組み、完全防衛の体制をとっている。

防衛指揮を執っているのはアルファードだ。

「いいか! 魔物の一匹とて通すな! 攻め上がる必要はない! 防衛で削れば、そのうち敵は全滅する! 絶対に突出するな! お前たちの実力ならば、たやすい仕事だ!」

なるほど。

無理にヒュドラの群れに突っ込まず、防衛に専念することでゆっくり敵を減らす作戦か。

カイルの私兵は、今まで魔物討伐などの訓練をやっているが、実戦はほぼはじめてだ。確実性を求めるあたり、質実剛健なアルファードらしい。

すると、ヴァンがアルファードに近づいていく。

「アルファード! このヴァン様が手伝ってやろう!」

「なに!?」

「なんだ。俺では不足か?」

「……いや。ならばお願いする。敵をかき回してくれ」

「ははは! なんなら全滅させてやるぞ!」

ほう。

あの量のヒュドラを全滅させると言い切るのか。

「いや、それが可能だとしても全滅はやめてくれ。これはカイル様の私兵にとってもいい訓練となっている」

「ならば、首の多い個体を中心に、目減らししてやろう」

「可能ならば頼む。だが、無理はするなよ?」

「心得ている!」

ヴァンは言うなり防衛陣から飛び出していく。

彼の持つ巨大な剣が唸りを上げた。

「〝絶唱烈鮮〟!!!」

気合いの裂帛と共に、凄まじい衝撃が大地を揺るがすと、複数のヒュドラが肉塊となり飛び散っていった。

「「おお!!」」

兵士たちが感嘆の声を上げる。

「馬鹿者! よそ見をするな! 隊列を維持しろ! 集中だ集中!」

「「はっ!!」」

アルファードの叱咤に、兵士が慌てて顔を前に戻す。

だが、彼らの気持ちもわかる。予想以上に、ヴァンが凄い。

「うはははは! 久しぶりに暴れさせてもらおう! 〝旋風鳳斬〟!!」

使えるものが珍しい、高威力の剣技を当たり前のように放つ。

それだけでも驚きだが、その威力がまた凄い。

レイドックが好んで使う剣技なのだが、ヴァンの放ったそれは、レイドックのそれに迫るほどの威力だったのだ。

ゴールデンドーン最強の剣士であるレイドックと威力を比べられる時点で、ヴァンの実力はとんでもない。

技の威力はレイドックに匹敵。

機動力はレイドックに劣るようだが、そのぶん、防御力が高そうに見える。

どうやら高火力の防衛型の戦い方のようだ。

「おおお!? 今まであまり意識してなかったが、これほど戦闘していても疲労を感じないだと!? スタミナポーション恐るべし! 〝風雪乱斬〟!!」

強固体が次々とみじん切りされていくさまは、なかなか壮観だ。

そして、重要なことに気づく。

ヴァンの左手が、わずかに発光しているのだ。

あれは間違いなく、紋章光。

成人した貴族が左手につける手袋を、ヴァンも装着しているのだが、よほど紋章の光が強いのか、漏れ出ているのだ。

遠見の魔法を使っている俺でなければ気がつかない程度だろうが。

いや、おそらくアルファードは気づいたな。

一般的な紋章ではあそこまで強い光を発することはない。

ヴァンの持つ紋章は、間違いなく上位の色つき紋章だ。

まるで日頃のストレスを解消するかのごとく、どこか八つ当たり気味に、押し寄せるヒュドラを素材へと変えてしまった。

うん。強い。

なるほど、自信満々でカイルを守ると宣言するだけのことはあるらしい。

これなら、いざという時は、カイルをヴァンに任せても大丈夫だろう。

そんな時は来ないが。

「わははははは! 剣技撃ち放題とは気持ちが良いぞ! 〝覇王凱閃〟」

気分良さげに、大剣を振るうヴァンのおっさん。

「いやはや! これはたのしい! 〝神息纏剣〟! 〝奉天紫影舞〟! 〝征路破進撃〟!」

巨大なヒュドラの身体が、まるでオモチャのように次々と空に吹っ飛び、粉々に砕け、みじん切りにされていく。

それにしても、見た事も聞いた事もない技ばかりだった。

ヒュドラの後続を完全に叩き潰した後、ほくほく顔でこちらに戻ってくるヴァン。

アルファードが苦笑いしていた。

「倒しすぎだ」

「ふはははは! 訓練には十分な程度は残しておいたろう!」

「一応、礼は言っておこう」

「なんだ。一応か?」

「ならば、文句でも言おうか?」

「冗談だ、冗談! 俺はカイルの所に戻る!」

からからと笑いながらカイルの馬車へと足を運んだので、俺も慌てて合流する。

「おっさん!」

「おおクラフト。俺の活躍はしかと目にしたか?」

「ああ、口だけじゃなかったんだな」

「わははははは! 今から尊敬して崇めたてても良いのだぞ!」

「そこまではしないが、安心した。あんた、自分の実力をまわりに見せつけるためにやったんだろ?」

するとヴァンのおっさんが目を細める。

「ほう?」

「ああ。ぽっと出の冒険者がいきなりカイルの直掩だ。俺はジャビール先生の推薦だから信じられるが、他の奴らはそうじゃないだろ?」

「なるほど、気がついていたか」

「俺は利口なほうじゃないが、長い事冒険者をやってたからな、仲間内の機微には敏感なんだよ」

「なるほど……冒険者としての経験か。貴重なものだな」

「おっさんも冒険者だろうが」

「わははははは! そうだった!」

俺は大きくため息を吐く。

これで、このおっさんが貴族なのはほぼほぼ確定だな。

最初は警戒していたが、悪い奴ではなさそうだ。

むしろ、頼もしい味方だと、俺のカンが言っている。

しかし、何者なのかね、このおっさんは。

そんなことを考えていると、アルファードがこちらに近づいてきた。

「クラフト、ちょっといいか」

「なんだ?」

「酒の入った樽を、出してくれ」

「酒?」

「ああ。兵士たちにコップいっぱいだけ許可してやろうとおもってな」

「そういうことか。何樽出せばいい?」

酒樽は何十樽も空間収納にしまってあるので、いわれればいくらでも出せる。

「一樽あれば十分だが……、頑張れば褒美がもらえると目に見えてわからせてやるべきか。一〇樽ほど並べておいてくれ」

「下手に余分を出しておくと、こっそり盗み飲むやつも出るんじゃないか?」

「それならそれでかまわん。カイル様の私兵という矜持も持てないやつは、徹底的に再訓練してやる」

にやりと笑うアルファード。

意地の悪いことでと思いながら、酒樽を取り出して並べた。

「よし! 一人一杯のみ、酒を許可する!」

「「「おおおお!!!」」」

わらわらと集まってくる兵士たちを見て、アルファードがぼそりとつぶやく。

「あいつとあいつは、無許可で持ち場を離れたな。帰ったら絞ってやる」

おーう。目をつけられたのは元冒険者っぽいな。ご愁傷さん。

とか思ってたら、酒樽に一番乗りしている赤毛のひげと目が合った。

「活躍したのだから、俺にも飲む権利はあるのだろう?」

「ヴァン……たぶんだが、あんたには口が合わないほどの安酒だぞ?」

兵士用の酒など、用意してあるだけまし。あっても安酒が基本である。

貴族のヴァンに飲ませられるようなもんじゃない。

「どれどれ? おお! まるで水だな!」

「ヴァン! 他の兵士は嬉しそうに飲んでるだろうだろうが! 持ち場に帰れ! そして眠らずにカイルを守れ!」

「寝るわ! 交代で! だが、クラフトの言うことも正しいな。素直に戻ってやろう!」

笑いながら荷馬車に戻るヴァン。

カイルの荷馬車はすぐそばなので、たいした問題はないのはわかっているが、あれほどの実力を見せたのだ。ぜひカイルをきっちり守ってほしいものである。