軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93:どうして最期に、フラグを立てるんだよって話

カイルがヴァンに対して、毅然とした態度を見せると、ヴァンのおっさんが、心底楽しそうに笑いながら、カイルの肩をばしばしと叩きまくった。

あんたさっきから馴れ馴れしすぎるだろ!

「わはははは! 気に入った! 気に入ったぞカイル! うんそうか。オルトロスのあとを継ぐ気はないか! よし! ならば、見事ザイードを救出してみせよ!」

上機嫌なヴァンに、ジャビール先生が困惑気味に口を挟む。

「へいか……ごほん! ヴァン殿。まだザイード様が窮地と決まったわけではないのじゃが」

するとヴァンは冷めた目を先生に向けた。

ぶん殴ってやろうかしら。

「はん! 先ほど冒険者ギルドで湿地帯の資料を見せてもらったが、奴の私兵でどうにかなるわけがない! ザイードが現地に到着して、殲滅など夢のまた夢だと理解したのなら、とっくに村へ戻ってきているはずだ!」

先生の意見を真っ向から否定するヴァンはむかつくが、まったくもってその通りだろう。

カイルも口にはしないが、同じ結論だからこそ、救助を急いでいるのだ。

「つまり、ザイードはその判別ができず、湿地帯の奥へと突っ込んでいって、全滅してるか、逃げ隠れしてるのは明白! 反論はあるか? ジャビール」

先生は力なく首を横に振るだけだ。先生だってそんなことは重々承知なのだろう。

カイルは改めて表情を引き締め、ジャビール先生に顔を向ける。

「やはり、救出を急がなければなりませんね。ジャビールさん。お願いがあるのです」

「なんなのじゃ?」

「これから湿地帯に向かうあいだ。妹のマイナを預かって欲しいのです。本来なら、ザイードお兄様に預けるつもりでしたが、その兄がいないとは思わなかったもので……」

「ふーむ。カイル様が湿地帯に向かうのならば、同席させてもらおうと思ってたのじゃが……」

「え? ジャビールさんがですか?」

カイルだけでなく、俺も驚く。なので、つい口を出してしまった。

「先生? 今から向かう場所は魔物との戦場ですよ?」

するとジャビール先生は苦い表情になる。

「うむ。戦闘の役にはあまりたたん人間じゃから、現地にいくつもりはなかったのじゃが、クラフトたちの戦力であれば、私が加わっても一緒に守ってくれると思ったのじゃ」

先生が一緒に!?

そんなの100人力じゃないか!

名医で、優秀な錬金術師なんだぞ! 護衛戦力を割いてでも連れて行くべきだ!

「俺が絶対に先生を守り抜きます!!」

「お……おうなのじゃ……」

思わず勢いで言ってしまったが、そうなると問題が発生することに気がつく。

ヴァンのおっさんもすぐに気づいたのだろう、俺に向かって手をぞんざいに振った。

「まぁまて。腰の重いジャビールが行く気になってるのは朗報だ。もっとも嫌でも連れて行くんだがな。しかし、そうなるとカイルの妹、マイナを村に残していく方が不安だ」

この野郎! ジャビール先生を無理矢理連れて行くつもりか!?

いやちがう。先生が来たがっているのか。

なんかこんがらがってきた。

先生は俺たちと一緒だと安心だからついて行きたいと言っているのだ。

ただ、先生が俺たちと一緒に来てしまうと、マイナを誰に預けていいのかが問題になる。

どうやらこのおっさん、何かを知っていそうなので、俺は顎で続きを促す。

ヴァンは頷いたが、なぜか先生が顔を青くした。

「ここだけの話だが、今、この村の護衛戦力は全く足りていない。柵も木製だったろう。籠城にも向かん」

言われて気づく。

ザイードの私兵がすべていないのだから、村の防衛戦力は皆無だろう。

この村を拠点にする冒険者も少ない。ザイード村冒険者ギルドを使う大半の冒険者は、ゴールデンドーンの冒険者で、湿地帯の貴重素材を採取しにいくパーティーが立ち寄る程度なのだ。

それを聞いて、カイルが目を丸くする。

「え? それではこの村の防衛はどうなっているのですか?」

「少数の物好きな冒険者を雇っているようだが、治安維持以上の戦力にはならんな」

おいおい……それってかなりの大問題じゃ……。

「それは……ならば、湿地討伐隊の戦力を割いて、この村に残し……」

「「だめだ」」

カイルの次善策を、俺とヴァンがバッサリと切る。

ハモっちゃったよ。

俺にしても、アルファードにしても、ヴァンにしても、魔物との戦闘を少しでも知る人間にとっては、当然の答えだ。

俺はカイルに理解できるよう、現状を伝える。

「カイル……。今、俺たちができる最善は、一日でも早く、ザイードの部隊を救出し、この村に戻ることだ。湿地帯攻略は、落ち着いてから再挑戦すればいい」

「しかし、その間、この村は無防備ということに……」

カイルの気持ちはわかる。

だが、いくら余裕のある部隊編成といえど、分散するのは愚の骨頂なのだ。

この村に戦力は残せない。

「アキンドーの商隊がかなりの数、この村に滞在してる。奴の商隊の護衛は、ゴールデンドーンの冒険者が多い。スタンピードでも起きなきゃ、数日ていどなら、どうとでもなる」

「あ、たしかに」

カイルから少しは不安が消えたようだ。

村人を守りたい気持ちはわかるが、それをやらなきゃならないのはザイードの仕事だ。カイルが考えることではない。

口にはしないが。

「しかし、そうなるとマイナは……」

アルファードが苦渋する。

「連れて行くしか、ないでしょうな」

「わかりました。僕につく予定だった護衛戦力の一部をマイナに当てましょう。僕の直衛は減りますが――」

そこでスパっとヴァンが割り込む。

「よし! このヴァン様がお前を守ってやろう!」

「――ふぁっ!?」

この赤毛! 思いっきりカイルの言葉を遮りやがった!

変な声になったカイルもかわいいな!

「ヴァン殿!? それは……!」

今度はジャビール先生が慌てだす。

「たった今、そこなクラフトも申していたではないか。戦力不足のこの村で何日も待つより、よっぽどこいつらと一緒に行動したほうが安心だろが!」

「り、理屈はわかるのじゃよ!? しかし!」

ジャビール先生のすがるような言葉を無視して、ヴァンがカイルの肩をばしばしと叩いた。

「このヴァン様が貴様を護衛してやる! なに! 最悪抱えて逃げ切ってみせるとも! そこの護衛! アルファードと言ったか? この俺の実力では不服か?」

「いや……実力は……おそらく……」

口よどむアルファードだが、心配してるのは実力じゃないんだよ!

おそらくそれも理解した上で、ヴァンは平気で話を進める。

「そうだろう、そうだろう! カイルの護衛戦力の半数を、マイナの護衛につけろ。それでバランスは取れる!」

「しかし……」

むちゃくちゃだが、筋は通ってるんだよな。

いや……、冷静に考えると、これ以上はないってくらい、最善策なのでは?

俺の背中に冷たいものが走る。

こいつ……一見脳筋だが、オツムもかなりいいぞ?

俺はヴァンのアイディアを検討すべく、アルファードに目配せする。

(アルファード、妙案だと思うんだが)

(たしかに……、だが、このヴァンという男、本当に信用していいのか?)

なら、思い切って聞いてみりゃいい。

「なあ、ヴァンのおっさん」

俺がおっさんに呼びかけると、なぜか、ジャビール先生が「こんのバカ弟子がぁああああ!」と叫んだが、すみません。今は無視させていただきます。

あとで正座するのを覚悟して、ヴァンを睨みつける。

「あんた。本当に信用……いや、カイルを守ると誓うんだな?」

するとヴァンは、それまでの不敵な笑みを消し、こちらに身体ごと向き直る。

「このヴァン・ヴァイン。己の命を天秤に乗せ、この剣にてカイルを守り抜くと誓おう」

ヴァンは淀みない動作で剣を抜くと、胸の前に、立てるよう構えた。それを見たアルファードが「なに?」っと声を漏らす。

アルファードとヴァンがしばらく無言で見つめあう。

「……わかった。カイル様を任せる」

「いいのか?」

「あれは 誓い(・・) だ。まねごとでできるとは思わない。クラフト、貴様にマイナ様の護衛を任せる。キャスパー三姉妹もつける」

「わかった。任せろ」

アルファードにどんな心変わりがあったのかわからないが、どうやらヴァンを信用したらしい。なら俺が言うことはない。

もともと、カイルの護衛は、俺とアルファード、カイルの私兵、キャスパー姉妹の予定だった。

ただ、アルファードは全体指揮もあり、実質の直衛は俺になっていた。これには他の理由もあるが、それはそのうち。

「原則として、マイナ様はカイル様と一緒にいてもらう。万が一の時だけ、クラフトはキャスパー三姉妹と共に、マイナ様を死守しろ」

「わかった」

俺とアルファードがカイルに許可を求めると、カイルはマイナに向き直った。

「マイナ。これから戦場に出ることになってしまったけど、大丈夫かい? もし怖かったら……」

そこでカイルは言葉を区切り、つばを飲み込む。

「ザイードお兄様は諦めて、マイナと一緒にゴールデンドーンに帰るよ」

その言葉を絞り出すのに、どれだけ勇気が必要だっただろうか。

カイルがなにより妹を優先する決意を見せたが、マイナはふるふると首を横に振った。

「だい……じょぶ。クラフト……一緒、いる……から」

「そうか……うん。そうだね。クラフト兄様と一緒だものね」

ぱぁんと、ヴァンが手を打ち鳴らす。

「よし! 決まりだ! ジャビール! 貴様もカイルのついでに守ってやるから離れるなよ!」

「あああああ……私はどうしたらいいのじゃぁああ!」

「貴様、相変わらず、慎重すぎるな。よしカイル! 出立の号令を出せ!」

「は、はい!」

俺たちは、討伐隊本体まで戻り、全員を集める。

事情を知らないレイドックが、カイルの横に立つヴァンを、いぶかしげに眺めていたが、事態は一刻を争う。

カイルは声高らかに宣言した。

「これより湿地討伐隊は、目的を変更! ザイードお兄様とその同行者の救出になります! 全軍、出立!」

「「「おおおおおおお!!!」」」

疑問もたくさんあるだろうが、討伐隊は全員大きな声で答える。

そう、この戦、カイルの初陣なのだ。

カイルの初陣を飾るべく、兵士も冒険者の指揮も高い。

実力者揃いである。

油断しなければ、ヒュドラごときに負ける陣営ではない。

俺はマイナと一緒にブラックドラゴン号の背をまたぐ。

マイナが緊張しているのに気がついたのか、ジタローがポニーのスーパージェット号に乗りながら、横に来る。

このポニー。伝説品質のスタミナポーションで育てられているため、そこらの軍馬より強いのだが、なぜか見た目が変わらない。

どこにでもいる、おとなしいまだら模様のポニーにしか見えない。

かわいいから、細かいことはどうでもいいな。

スーパージェット号ののんきな顔を見て、マイナがほわっと表情を緩める。

「マイナ様! 大丈夫っすよ! 討伐隊はドラゴン戦を経験し、コカトリス戦を乗り越えた冒険者だけでなく、アルファード兄さんの地獄特訓を乗り越えた選抜兵士たちなんすよ!? どんな敵が来ても、楽勝っすよ! 楽勝!」

マイナはこくりと頷いていたが……。

うおおおおおおおい!

ジタロー!?

なんかそれ、フラグじゃね!?

フラグじゃね!?

急に不安になってきたじゃねーか! ちくしょう!

こうして俺たちは、ジャビール先生と、謎の冒険者ヴァンを加えて、湿地帯へと、全力で向かうのだった。