軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85:意外と少年は、したたかって話

リザードマンとの歴史的会見が終わり、いつものようにカイルと話し合うべく集まっていた。

マイナやペルシアたちと、少々おふざけがあったが、カイルが席についたタイミングで、それまでのおちゃらけた雰囲気を全員が切り替える。

「クラフト兄様、この一週間お疲れ様でした」

カイルはメイドに煎れてもらった紅茶を飲みながら、世間話のように話しだす。

「カイルの方が大変だったろ、リザードマン以外の報告が後回しになってたくらいだからな」

「流石に僕だけで決めていい案件ではなかったですから。国王陛下が受け入れてくださり、心から安堵しています」

「ああ、本当によかったよ」

話がリザードマンの件に移った時点で、全員の表情に真剣みが増す。

「時期がよかったのかもしれません。国王陛下も長年こびりついてきた亞人差別をあらため、魔族討伐と国土拡大を標榜していますから」

「なるほど、そのタイミングで滅んだといわれていたリザードマンと交流を持てるなら、それは国王陛下からしても、大きな成果になるわけか」

「はい。そうなります」

それにしても、この短時間でよくオルトロス父ちゃんは国王陛下の許可を得たものだ。やっぱり大物なのだろう。

「それでリザードマンたちはこれからどうなるんだ?」

「はい。事前に話合いをしていた通り、前ゴールデンドーンで見つけた湿地帯の開拓要員として援助することになりました」

予定通り、湿地帯の開拓に手を出すんだな。

「じゃあ、冒険者を集めての大作戦になるな」

「はい。広大な湿地帯に住むヒュドラの一掃ですからね。大仕事になりそうです」

そこで一番懸念している男が思い浮かぶ。

「ザイードは大丈夫なのか?」

「たしかに湿地帯の位置は、ザイード村の方が近いのですが、それはスタミナポーションで育った冒険者からの感覚で、開拓地域で考えると、離れた場所にありますから」

「たしかに、ゴールデンドーンの冒険者なら一日の距離でも、普通の兵士なら三日……いやそれ以上かかるからな」

ちなみにレイドックは基準にしていない。あいつを基準にすると、数日どころの差じゃすまなくなる。

「念のため、ザイード兄様に許可を得るため、ザイード村に寄ってから、湿地帯に向かいます」

「もしそこで拒否されたら?」

「予備案に切り替えます」

「このゴールデンドーンの横を流れる大河。その岸辺に集落を建設するんだな」

「はい。ただ、文官にジュララさんから彼らの生活様式を聞いてもらったのですが、やはり河よりは沼地、沼地よりは湿地帯が過ごしやすいそうです」

なるほど。可能な限り湿地帯を確保してやりたいところだが、この辺はどうしても政治が絡む。

カイルに任せるしかないので、俺は俺のやれることをこなすまでだ。

「ま、どっちになるにせよ、頑張らないとな」

「はい!」

ザイードがどう動くかわからないが、俺、個人としては拒否される可能性は高いと思っている。

カイルは手紙や伝令を使わず、直接会って伝えれば大丈夫だと思っているようだが……。

ダメならダメで、可能な限りリザードマンが住みやすい村づくりを手伝えばいいだろう。

巨大毒カエルに汚染され、いつまた襲われるかもわからなくなった村に住み続けるよりはいいはずだ。

「さて、それじゃカイルにお土産だ」

俺は空間収納から、三つのインゴットを取り出し、机に並べる。

この一週間、リザードマンの住民との調整でまるで話ができていなかったのだ。

カイルはインゴットに視線を移し、そのうちの一つで止める。

「これは……ミスリルはわかりますが、他の二つは?」

素早くリーファンと視線を交わすと、彼女が説明をはじめた。

「はい。こちらはミスリルのインゴットです。この大きさのインゴットとなると、樽何個分もの鉱石が必要になるでしょう。品質も非常に高いです」

カイルは頷きつつも、ゴクリと息を飲み込んだ。

その価値に衝撃を受けているのだろうが、すまん。本当の衝撃はこれからだ。

「それで、こちらの重い方のインゴットが、アダマンタイトです」

「これが!」

カイルは目を丸くして、アダマンタイトをつんつんと指で突いた。

宝石を扱う力加減だが、アダマンタイトにしてもミスリルにしても、そう簡単に傷なんてつかないから、もっと手荒に扱って大丈夫だぞカイル。

「あの、リーファンさん。これだけ巨大なインゴットとなると、かなりの価値になりますよね?」

「はい。ミスリルは鉱石の価格は上がっていますが、製品の値段はむしろ少しずつ下がっている状況です。ただ、アダマンタイトはごく少量しか見つからないこともあり、非常に高価です。それが精製済みのインゴットでこの量となれば……」

再びカイルが息を飲み込んだ。

うん。これだけでも凄い価値だもんな。

でもなカイル。まだ次があるんだ。

「それで最後のインゴットですが……オリハルコンです」

カイルがキョトンと顔を上げる。

どうやら状況を把握できないようだ。

「オリ……?」

「はい。伝説の金属と言われた、オリハルコンです」

「……な、なっ!? これが! この巨大な塊が! 全てオリハルコンなのですか!?」

「はい。間違いありません」

うん。そりゃあ驚くよねー。

伝説の金属で、ごく稀にダンジョンなんかの奥深くなんかから見つかる場合も、ほとんどは加工品で、使用されている金属量はごくわずかってのが常識だ。

それがまるっと金属の塊の状態で見つかったのだから、にわかには信じられない。

「こ……これは……とんでもないものが出てきましたね」

「それだけじゃねーんだ」

「え?」

俺はリーファンから続きを引き受ける。

「実はな、オリハルコンがミスリルとアダマンタイトの合金ということが判明した」

「……え?」

今までずっと謎の金属とされていたのだ。鉱石がどこかにあるかもしれないと探し続けられていたが、もちろん見つかったことはない。

合金の可能性ももちろん模索されていたが、名だたる鍛冶の紋章持ちでも、その知識を得ることはできなかった。

そりゃ、合金に必要なのが高度な錬金術で、加工には高度な鍛冶技能が必要。さらに材料がミスリルとアダマンタイトとか、誰も思いつかないよねー。

カイルに黄昏の錬金術師の紋章から得た、衝撃の事実を伝える。

「このミスリルとアダマンタイトのインゴットを使えば……オリハルコンを追加できる」

「……!」

まさに絶句。

カイルは続ける言葉が見つからず、ぱくぱくと口の開閉を繰り返す。

「さ、流石クラフト兄様です」

「レイドックやキャスパー三姉妹なんかのおかげだよ」

俺は軽く手を振る。

「それよりも、これらをどうするか決めたい」

カイルはゆっくりと目を閉じて、そのまま長い時間、黙考する。

紅茶が冷める頃、カイルはようやく目を開いた。

「……見つかったオリハルコンは、父……辺境伯に献上しましょう」

「そうか」

「国王陛下への献上も上手くやってくれるでしょう」

今回見つかった量を考えたら、俺たちが使える分はないかもとは思っていたので、そこまで落胆はしていない。

だが、オリハルコンの作り方を知ったのだから、ぜひリーファンに作ってもらいたかったのも事実だ。

リーファンもオリハルコンに触れたことで、加工知識が流れ込んできたようだし、色んな加工をやってみたかったことだろう。

リーファンに目をやると、やはりほんの少しだけ残念そうだ。

特にオリハルコンには、とんでもない特性が隠されていたので、それを利用したアイテムが作れたらどれだけ楽になるかと考えると、やはり残念に思ってしまう。

しかし、これだけのオリハルコンとなれば、争いのネタにされる可能性も高い。カイルの判断は妥当だろう。

俺が若干諦め気味になったところで、カイルがニヤリと続けたのだ。

「ですが、ミスリルとアダマンタイトに関しては、このゴールデンドーンの財産とします。それでクラフト兄様におたずねしたいのですが、この二つの貴重な金属、なにかよい使い道をご存じありませんか?」

一瞬見せた先ほどの笑みが幻のように、カイルはニコリと笑って首を傾げたのだ。

「は……はははは! あるぞ! とびっきり最高の使い道が!」

「それはよかった。使い道は……全てクラフト兄様にお任せしますね?」

「おう! 俺に任せとけ!」

こうして、俺の手元にミスリルとアダマンタイトのインゴットが残ることになる。

リーファンも瞳をキラキラと輝かせていた。

大丈夫だ! リーファンにもやってもらうことが沢山あるからな!

こうして、後日様々なオリハルコンの加工品を作製したのだが……、その話はまた今度だ。

ふふ、楽しみにしててくれよ!

この日から一ヶ月ほどが過ぎた。

俺とリーファンがオリハルコンに夢中になっていた一ヶ月で、カイルは冒険者と連携し、湿地帯の魔物殲滅作戦を進めていた。

何度も下見に冒険者を派遣し、リザードマンの戦士にも往復してもらい、村に最適な土地かどうかなどを確認していく。

どうやらあの湿地帯はリザードマンにとって最高の環境らしく、ぜひあの土地に住みたいと懇願された。

最終的に広大な湿地帯の半分を農耕地に。残りをリザードマンの村として、農地の維持管理と防衛を担う方向性で話がすすむ。

その間にいくらでもザイードと話し合うことはできたのだろうが、カイルは全ての用意を終えてから話をするつもりらしい。

湿地開拓を絵空事ではなく、確実に可能だと見せた上で、農地の共同開発を持ちかけるつもりのようだ。

上手くいけばいいのだが。

湿地討伐隊の連携訓練が終了した頃、ちょうどオリハルコン製品の一部が完成したこともあり、いよいよ出発することになった。

俺は仲間に配ったのと同じ、オリハルコン製のアイテムを太陽にかざす。

陽光を反射したそれは、完全にアーティファクトだ。

勢いで作ってしまったが、これ、国宝級なんじゃね?

すまん国王陛下、オルトロス父ちゃん。

思わず作っちゃったよ これ(・・) 。

だが、便利なので自重はしない!

改めてあたりを見渡す。

ドラゴン戦に参加した歴戦の冒険者に、リザードマンの戦士たち。新たに実力を認められた冒険者も参加する。もちろんキャスパー三姉妹も含まれていた。

カイルの直衛として、一部兵隊がアルファードに引き連れられている。

ペルシアは今回お留守番組だ。

ちなみにリーファンも参加している。

彼女からしたら、あの湿地帯の魔物を一掃するのだから留守番などできるわけもない。

旧ゴールデンドーン村、現ザイード村は、昔彼女が住んでいた村の跡地に建てられ、その村を滅ぼしたのが、あの湿地帯からのスタンピートだったのだから。

戦士たちがずらりと並ぶさまは、壮観だった。

カイルが先頭に立ち、咳払いを一つ。

「それでは湿地討伐隊! 出立します!」

「「「おおおおおおおお!!!」」」

こうして、新たな開拓の戦いが始まったのだ。