軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43:メイドが起こしに来る日常って、素晴らしいよなって話

「おはようございますマスター」

「んん……おはよ」

俺は、人造メイドであり、使い魔でもあるリュウコの声で、もっさりと起き出す。

すっと目の前にワゴンが運ばれ、水の満たされた桶が差し出される。

冷たい水で顔を洗うと、ようやく目が覚めてくる。

「どうぞ」

「ん」

滑らかに差し出されたタオルで顔を拭うと、リュウコがそっとタオルを受け取った。

「朝食はリビングと寝室のどちらで摂られますか?」

「リビングで頼む」

「かしこまりました。お着替えこちらにご用意いたしました。それでは」

リュウコは一礼すると、音も無く部屋から退出していった。

最初、リュウコは俺の着替えを手伝おうとしていたのだが、恥ずかしいのでそれだけはやめてもらった。

一度頼むと無理強いする事も無く、毎日徹底的に洗濯された服が着やすい順番で用意してくれるようになった。

うん。すげぇ楽。

着替えてリビングにつくと同時に、焼き上がったパンとタマゴ焼きが並ぶ。

スタミナポーション入りのお茶を飲むと、眠気がスッキリと飛んでいく。

「今日の予定ですが、午前にカイル様と面会となっております。午後に予定は入っておりません」

「ああ、畑関係の途中結果が出るから、相談にのってくれって話だったな」

ドラゴン討伐した土地から、岩などを取り除き、大規模農園へと改造していたはずだ。初期開拓民や農耕馬のおかげで、予定を大幅に縮めて、すでに実験をかねつつも、かなり大規模な小麦畑にしていたはずだ。

「上手くいってりゃ良いんだが……」

畑の一部には、俺の作った錬金肥料が使われている。

実はジャビール先生の名を広めた研究の一つに、錬金農薬がある。それを使うと病気になりにくく、作付面積あたりの収穫量が増大するのだ。

ただ、作成費用が高額になることが多く、一部の希少ハーブなどにしか使われていない。

俺は先生の書を読みあさり、紋章の囁きから得られた知識から、大量生産が出来て、かつ比較的安価な錬金肥料を開発した。錬金釜を使えば、さらに大量かつ強力に作る事も可能だが、実験用に渡したのは、通常の錬金術師の紋章持ちが作れる物を渡してある。テストなので量もそんなには渡していなかった。

「しかし、相変わらず滅茶苦茶美味いな」

「ありがとうございます。良い卵のおかげです」

「そっか。養鶏も上手く言ってるみたいだな」

養鶏には手を出していないが、こちらも腕の良い養鶏農家が移住してきたとかで、かなり大規模にやっているようだ。栄養食でもあり、保存食でもある卵が気軽に手に入ると喜ばれているらしい。

「ごちそうさま。さて、いくか。……そういえば、俺が出掛けた後って、リュウコは何をしているんだ?」

「今日は掃除の予定です。あとは普通に家事をしております」

「そうなのか。いつも助かるよ。じゃあ行ってきます」

「はい。いってらっしゃいませ」

この時、わずかに違和感を抱いたのだが、その理由に思いつかず、ブラックドラゴン号にまたがり、カイル邸に向かったのであった。

「ん?」

カイル邸の前で、馬の仕度が進められていた。

見ればカイルの愛馬であるホワイトファング号と一緒に、二足鳥と二足トカゲが見えた。

そう言えばペルシアとアルファードの二人は、ドラゴン討伐の金でそれぞれ高価な二足鳥と二足トカゲを購入したと言っていた。

ようやくアキンドーによって届けられたのだろう。

あとポニーもいた。

「あ、クラフト兄様」

「よう。今日は会議じゃなかったのか?」

「はい。その予定だったのですが、報告書を読んで現地に行った方が良いと判断しました」

「それは良いんだが、お前少しは馬に乗れるようになったのか?」

「これでも練習していますから」

「カイル様は努力家だぞ。まだ襲歩(全速力)は不安定だが、駈歩なら問題無い」

「なら大丈夫か」

農園まで、そこまで距離があるわけでは無い。

ホワイトファング号はれっきとした軍馬であり、カイルが初めから所有していた名馬だ。

もっとも、体調から馬には乗れなかったので、他の農耕馬と同じく作業に借り出されていたのだが、結果的に俺のブラックドラゴン号よりも立派に育っていた。

「二人とも、届いたんだな」

「ああ。少し前にな。クラフト印のポーションを飲ませているんだが、なかなか凄いぞ」

アルファードが立派な二足トカゲをぽんぽんと叩いた。

荒れ地に強く、タフで強いのがこの二足トカゲだ。ただしお値段も相当らしい。特にアルファードの愛騎は赤褐色をしており、二足トカゲの中でも一番タフな奴だ。

「いい馬……じゃなくてトカゲだな」

「ああ、レッドフレイム号だ。可愛がってやってくれ」

「良い名だな」

精悍な顔つきはまさに燃え上がる炎だ。良いトカゲを見つけたものだ。さすがアキンドーというべきか。

「ペルシアは二足鳥にしたんだな」

「ああ。アルファードがトカゲを買うと聞いたからな。ならば私は機動力を重視するべきだろうと」

「なるほど。二足鳥は足が速いし小回りもきくからな。もう名前は付けたのか?」

「もちろんだ。来い! テバサキ号!」

「……え?」

ダダダダと走り寄ってくる、黄色い羽の二足鳥。

え、今なんつった?

「よしよし。甘えん坊だなテバサキは。ははは!」

あーうん。聞き間違いじゃなかったのか……。

命名センスがジタロー並みだとは思わなかった……。

俺はペルシアに突っ込むのはやめて、なぜか準備をすすめているジタローに声をかける。

「カイルが行くなら、アルファードとペルシア、それにリーファンが一緒なのはわかるが、なんでジタローまでいるんだ?」

「いいじゃないっすかー。今日は暇なんすよー」

「この間の狩りで懐は温かいと思うが……まぁいいか」

ジタローならそれなりの戦力になるしな。

ちなみにジタローが乗っているのはポニーのスーパージェット号だ。名付けのセンスが無いと思っていたが、まさか同レベルの奴がいるとは思わなかったぜ。ポニーはドラゴン討伐の報酬で購入していた。

ジタローと違ってとても可愛い奴なので、つい普通にいつものスタミナポーションを餌に混ぜるよう手続きしてある。なぜか、全く見た目は変化してないが、可愛いから問題無し。

一つ一つに突っ込んでいったら日が暮れそうなので、仕事をすすめることにした。

俺が皆の準備を待っていると、てくてくとマイナがやってきて両腕を上げた。

「ん」

「え? 乗せろっての?」

「ん」

「カイル?」

「このメンバーなら連れて行っても問題無いと思いますが、クラフト兄様にお邪魔になってしまいますよね」

その言い方はずるいな。意識している訳では無いだろうが。

「いや、問題無い。マイナ、俺と一緒でいいのか?」

「ん」

良いらしいので、馬上に乗せてやる。

ブラックドラゴン号なら、マイナ一〇〇人乗せても大丈夫! かもしれない。

動物が好きなのか、俺の前に座ったマイナはご機嫌なようだった。

馬を個人所有していないリーファンは、町の馬を借りているようだった。

準備も終わったようなので、近づいて話し掛ける。

「それで、何が問題なんだ?」

「道すがら説明するけど、なんか農園が大変な事になってるみたいなんだ」

「なんだって?」

農園は未来の穀倉地帯だ。

リーファンの真剣な表情に、俺は嫌な予感がしていた。

◆【おまけ】◆

「さて……」

リュウコはマスターが出掛けたのを確認したあと、すっと屋根に目を向けた。

「出掛けたぞ」

「なあ、折角だから身柄も確保したら高く売れたんじゃないか? すげぇ錬金術師なんだろ?」

「それも考えたが、あれで元冒険者らしいからな」

「噂だとまるで使えなかったって事だが?」

「そりゃ情報が古い。未確定だが、ドラゴン討伐にも参加していたほどの腕らしい」

「それは参謀とかオブザーバーとかそういうんじゃないか?」

「かもしれん。だが無理は禁物だ。それに……」

「そうだな。例の伝説級ポーションが手に入れば」

「そういう事——」

その瞬間、二人に影が掛かった。雲の無い日にもかかわらずだ。

「お客様、当家になんの御用事でしょうか?」

「「——!!」」

屋根にいた男二人、つまり賊が跳ね上がるように振り向くと、そこにはメイド服を纏った絶世の美女がいた。

美しいエメラルドグリーンの瞳だったが……それは人間の目では無かった。

猫のような縦長の瞳孔が、賊を冷たく見下ろしていた。

謎のメイドは、不安定な屋根の上なのに、まるで軸がぶれずに、細い屋根の先端に屹立していたのだ。

そして、感情の無い声で問いかける。

「アポイントメントはいただいていないようですが」

「クッ!」

賊の一人が神速の動きでダガーを投擲。もう一人がクリスナイフを突き出してくる。

クリスナイフは波打った刀身で、生身に対して極めて殺傷力の高い武器だ。

賊は必勝を確信していた。どちらを避けても、必ず残りの攻撃が当たる。さらにダガーを投擲した賊は追撃態勢で、すでにクリスナイフを抜き放っていた。

「なるほど。早朝から忍び込んでくるだけの事はありますね」

「なっ!?」

盗賊であり、暗殺者でもある二人が、プロ失格の音量で叫んでしまったのもしかたがないだろう。

メイドは、ダガーとクリスナイフを、指で挟んで止めていたのだ。

避けられたのなら、ここまで動揺しなかっただろう。

しかも、全体重をのせてクリスナイフを突き出していた賊がビクともしないのだ。まるでナイフだけ空中に固定されているかのごとく。

「くそっ!」

動かないナイフを諦め、蹴りを繰り出す賊だったが、メイドが軽く手を動かすと、蹴りの勢いのまま空中で一〇回転させられ、頭から屋根へと打ち付けられた。

当然、一発で意識は刈り取られていた。

「っ!」

勝てないと悟った賊は、躊躇無く逃げに入る。

いや、入ろうとした。

ごくごく当たり前だが、振り返った先に、すでにメイドが冷たい表情でそっと立っていた。服すら揺らさずに。

賊は思わずもう一度振り返ってしまう。そこにいるのは気絶した相棒だけだった。

「まっ!」

一体賊は何を言おうとしたのか。リュウコの掌底をくらい崩れ落ちて不明だった。

「リーファン様とマイマスターがお造りになったお屋敷に侵入出来るとは思いませんが、土足で踏み込んだ罪、許されませんよ」

その後、ボロ雑巾と成りはてた賊二人が冒険者ギルドに届けられた。

現在は冒険者ギルドが治安維持の委託を受けているからだ。

新しいギルド長は、賊にわずかな同情をしつつも尋問し、背後関係が無いかを詳しく調べていく。驚くほど素直に喋ってくれるのはメイドさんのおかげだろう。

そしていつも通り、報告書を後日リーファンとカイルに提出するのだった。

「掃除、完了です」

クラフトの知らない、平和な日常であった。