軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

265:開拓は、俺たちに任せとけって話

カイル・ゴールデンドーン・フォン・エリクシル開拓伯の快癒といニュースは、エリクシル領だけでなく、王都を中心としたマウガリア王国全土を駆け巡った。

ジャビール先生を筆頭とした医師団から、健康体のお墨付きをもらったカイルは、すぐさまエリクシル領で大規模な式典を開くことを国王陛下から命令され、復帰早々大騒ぎである。

俺はゆっくりとカイルと再会を喜び合いたかったが、ヴァンの野郎がカイルにも生産ギルドにも仕事を大量に押し付けたせいで、診察終わりにちょっと挨拶しただけで、まともに会話もできていない。

仕事の打ち合わせなんかもあり、顔はちょくちょく合わせているのだが、マジでゆっくり話もできていない状況が何日も続いている。

今日も生産ギルドは戦場であった。

ギルド長のリーファンが目を回しながらも指示を八方に飛ばす。

「このポーションの納品が遅れてるんだよ。急いで運び出して! 陛下をお迎えする式典会場の進捗は!? 硬化岩を扱える職人が足りないんだよ。急いで募集して! そう! 王都から! 転移門の使用許可はバティスタさんに問いあわせて! クラフト君は調査結果の報告書作成を急いで!」

「お、おう!」

こんな感じである。

人使いが荒すぎだろ! ヴァンの野郎!

内心で国王陛下に悪態をつくが、それが許されるのが王様ってやつだからなぁ。

なんでも王国中の貴族を集めて、ヴァンが重大発表をするとかで、式典の規模がでかいのだ。

そんなものは王都でやれと思ったが、カイルの快気を領民に知らせるのも目的だと言われれば、反論できない。ちくしょう、痛いところをついてきやがる。

なにより本来王都で行うような式典をエリクシル領で実行すれば、カイルにとってはでかい功績となる。応援しないわけにはいかない。

前回、カイルの叙爵となった式典も大きかったが、今回はその比ではない。前回は来られる貴族だけが来訪したが、今回は陛下の命で、全ての貴族が集まるのだから洒落にならん。

街道の警備や宿の準備、それにともなう馬車やら建築資材やら、人員の確保やら、王国内の全てのギルドがてんてこ舞いとなっている。

経費は全て王国から出ているのだが、「国庫を空にする気ですか!?」とザイードとヴァンが怒鳴り合っているのを目撃したこともあったほどだ。

まぁ、ヴァンの野郎は耳をほじくりながら聞き流していたが。

それだけの予算が王国中に回るのである。空前絶後の大景気が国中に訪れていた。

魔族の復活というニュースも同時に拡散されていたが、それを塗りつぶす歓喜が満ち溢れている。

もしかしたら、恐怖の払拭がヴァンの狙いなのかもしれないな。魔族の残酷さは幼い頃から寝物語によく聞かされるらしい。俺は孤児だったが、孤児院の教会にもその手の話はたくさんあったから良く知っている。

実際、出会った魔族は全てクソ野郎だったし、人類の敵なのは間違いないだろう。

そんなこんなで一月近くの準備を経て、国王陛下主催の大規模式典が開かれた。

演劇や闘技会などを開ける巨大な円形コロッセウムのグラウンドには貴人が勢揃いしている。観客席は一般人と一部の招待客で埋め尽くされていた。

グラウンドには、貴族のために豪奢な椅子が揃えられ、偉い順に並んでいる。椅子一つとってもリーファンの手作りだったりするので、ほんとうに準備が大変だった。

その席の最前列、この領地の領主であるカイルの席もあるのだが、今は空である。陛下のすぐあとに出番なので、ステージ脇で俺と一緒に待機しているのだ。あ、俺の出番はないぞ。裏方の一人として一緒にいるだけだ。

「クラフト兄様。きちんとした時間がずっととれず、すみませんでした」

「気にするな、全部ヴァンが悪い」

「陛下は魔族復活の不安を解消するために動いていたんです。悪く言わないであげてください」

「ははは。わかってるさ」

「改めて、この度は私のために骨を折ってくださり、まことにありがとう――」

俺は深々と礼をしようとするカイルの額に、軽いデコピンを放つ。

「弟の危機を救うのは兄貴の特権だ。だから礼なんていらん。むしろ俺が謝らなきゃいけない立場なんだが?」

「なにを言っているのですか!? 私が危険地帯に出ていったのが悪いだけで、兄様は――!」

俺はもう一度デコピンを放った。

「な? お互いずっと他人行儀に謝罪と感謝合戦を繰り返しても、意味がないだろ。血はつながってないが俺たちは兄弟。迷惑掛けて、掛けられて、助けて、助けられる関係なんだ。それでいいだろ」

「あ……」

「それとも本当の家族と仲良くなったから、俺とは距離を置きたいとか?」

「そっ! ありえません! そんな悲しいことを言わないでください! 兄様は、兄様ですから!」

「ははは、意地悪を言った。もう言わないから、お前もこれ以上気に病むな。俺はお前が元気ならそれで十分なんだ」

「……はい」

カイルが少し照れたように顔を背け、頬を軽く膨らませた。

「大丈夫だ。俺はこれからもカイルを助けるし、俺が困ったときは頼りにするさ」

「はい! お任せください!」

お互いニッと笑い合う。

ようやく、カイルが帰ってきたと実感できた瞬間だった。

「おっと、ヴァンの演説が始まるみたいだぞ」

グラウンド正面に作られたステージ。俺たちの反対側から、音楽とともに出てきたのはもちろんヴァン陛下である。

全貴族が立ち上がり、臣下の礼を取り、一般観客は大声で国王陛下の名を繰り返す。

ヴァンはしばらくそれを無言で眺めたあと、ゆっくりと片手を上げた。貴族たちが揃って着席するのを見て、観客たちも声を止めていく。

一瞬で恐ろしいほど静かになったのを確認してから、ヴァンは口を開いた。

「皆のもの、よく集まってくれた。これより王国の将来に関わる重大な方針を発表する」

魔導具によって拡大された声が、スタジアムだけでなく領都中に響き渡る。

「遥か太古に滅んだと言われていた魔族を確認した。対話による講和も検討したが、言い伝え通り魔族は人族にとって邪悪そのものであった。よって我がマウガリア王国は、デュバッテン帝国およびゼビアス連合王国と手を結び、魔族を殲滅することを誓う!」

ヴァンの宣言に、ざわざわと周囲が沸き立つが、陛下が声を張り上げそれを一喝した。

「我が王国に攻め入ってきたデュバッテン帝国と手を結ぶことに抵抗のあるものもいるだろうが、そもそもその戦争も魔族によって仕組まれたものであった! もちろん帝国には相応の賠償を求めるが、彼らは魔族の被害者でもあったのだ! 交渉はこれからだが、臣民諸君にはこれらの事情を理解し、恨みを残さず、手を結ぶ仲間だと認識してほしい!」

再びスタジアムが完成に包まれる。

割とあっさり受け入れられているのにはもちろん理由がある。式典の準備期間中、帝国は魔族に騙されていたという噂を、緩やかに広げていたからだ。その辺は冒険者ギルドが請け負ったらしく、向こうも大変だったらしい。

興奮が収まったタイミングで、ヴァンが再び拡声の魔導具を起動させた。

「さて、帝国と連合王国との同盟と、魔族の調査殲滅の大任だが、その責任者をカイル・ゴールデンドーン・フォン・エリクシル開拓伯とする!」

再びの大熱狂。

俺は目を丸くして、横に立つカイルに視線を向けた。

「知ってたのか?」

「はい。そのための勉強と行動方針の策定などを、たった一ヶ月で覚えねばならず、寝る暇もありませんでした」

「ヴァンの野郎、病み上がりになんちゅう無茶を!」

「い、いえ! 陛下から打診があったとき、喜んでお受けしたのは僕の判断ですから!」

「お前、ちょうどいい恩返しだと思って無理してないか?」

「……少しはその意図もあります。ですが、なにより魔族を放置することも、これ以上人類が分裂することも時間的に許されないと判断しました」

「そうか。考えがあるならいい」

「それになにより、魔族には仕返しもしたいですしね。兄様にも手伝ってもらいますよ?」

俺はもう一度目を丸くしたあと、ニヤリと口角を持ち上げる。

「ああ、任せとけ!」

ちょうど陛下の演説が終わったようで、カイルに壇上へ向かうよう指示が入る。

「行ってきます」

「おう。気合を入れすぎずに頑張れ」

ステージ中央に立っていた陛下が、カイルを招き入れ、壇上で短い挨拶を交わしたあと、ヴァンは一歩下がり、カイルが中央に立つ。

「エリクシル領の皆様、王国の皆様、此度は魔族の計略により、長い休養を取っていました。ですが、陛下を筆頭に皆の力のおかげで、ここに完治し領主として復帰したことを宣言いたします!」

先程よりもさらに大きな歓声が領都を覆い尽くす。それだけカイルの復帰を皆が待ち望んでいたのだろう。

「また、名誉ある任務を陛下から賜り、恐悦至極に存じます。我がエリクシル領は賜った任務遂行のため、全力を尽くします。どうぞ領民の皆には協力を願いたい!」

貴族席でマイナの横にいるペルシアが号泣している。お前……顔ぐっしゃぐしゃやぞ。

一際大きな歓声のなか、こうして式典は幕を閉じるのであった。

その後、俺と仲間たちの全員が部屋に集められる。

レイドックや三姉妹。リザードマンや魔術師の里の面々。リーファンやジタローだけでなく、カイルやマイナ。その家族と護衛、さらにミズホ神国の仲間たち。ギルド総長や他のギルドの代表などなど、知り合ったほとんど全員だ。

こうしてみると、俺は本当に良い縁に恵まれたのだと実感する。

広めの会議室にヴァン陛下が現れた。

全員が正式な礼をしようとするが、ヴァンは片手を振って座らせる。

「今日は皆ご苦労だった。聞いての通り、当面のでかい問題を全てカイルに押し付けた」

言い方!

「もちろん俺も協力するが、俺は国内をまとめることに重視する。ま、内政ってやつだな」

まぁ、王様の仕事ってそれだよな。どうしても冒険者ヴァンの印象が強いから、最前線で魔物を狩ってるイメージばかりが湧くが。

「ここに集めたのは信頼できて、かつカイルの関係者ばかりだ。皆に頼みたいのはカイルを助け、俺の勅命を完遂させることだ。できるな?」

陛下の勅命は難しい問題ばかりだが……。

「はん。任せとけっつーの」

俺が真っ先に答えると、ザイードはその口調に苦虫を潰したような表情を浮かべたが、なにも言わない。

ヴァンがニヤリと笑う。

「ああ。他の奴らも同じ表情してるな。任せて大丈夫そうだ。難題ばかりだが、どうにかやり遂げろ。一つも失敗は許さん」

無茶を言ってくれるが、必要なことなのだろう。

ヴァンが手招きして、カイルを横に立たせた。

二人が大きく頷きあう。

カイルが俺たちに向き直り、表情を引き締めた。

「今、陛下からお言葉があった通り、僕たちは難しい問題を解決しなければなりません。今までであれば、どれ一つとっても不可能と言われるものばかりでしょう。ですが、僕は皆とであれば、成し遂げられると確信しています」

カイルは1拍置くと、緩やかな笑みを浮かべた。

「僕に、力を貸してもらえますか?」

そんなもの、聞かれるまでもない。打ち合わせの必要もない。俺は。俺たちは、俺の仲間は声を揃えて答えてやった。

「「「俺たちに、任せとけ!!!」」」

こうして。

辺境開拓の物語は大きな区切りを迎えた。

カイルを中心とした仲間たちが協力して、世界を変えていくのだ!

これは開拓の物語。

大地を、森を、川を、そして人と、そのつながりを開拓していく物語。

人類という大きなつながりを守りぬく開拓の物語。

語られぬ物語もまだあるが、物語はここで終了する

しかし、皆の人生はこれからも続いていく。

そう、続いていくのだ。

仲間と共に。

―― END ――