軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

263:絶望は、奇跡が覆すよなって話

ゆさゆさ。

ゆさゆさゆさ。

うーん。もうちょっと寝かせてくれ。

ゆさゆさゆさゆさ。

ゆさゆさゆさゆさゆさ。

頼む。疲れてるんだ。あと五分……。

ゆさゆさゆさゆさゆさゆさ。

ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ。

無性に眠いんだよー。あと五年寝かせてくれー。

「……クラフト、兄様!」

「ぅへあ!?」

どーん、と身体に衝撃を受け、睡眠状態が一気に覚醒する。

なんだなんだ!?

目を見開くと、眼の前に美少女のどアップが。

「あー、マイナ。おはよう」

「兄様!」

俺が寝ぼけ眼で挨拶すると、マイナが首っ玉にしがみついてきた。

「ひっく……もう、起きないかと……バカ……バカ……」

「ちゃんと戻るって約束したろ」

マイナの頭をぽんぽんと撫でてやると、少し落ち着いたのか、無言ですすり泣きながら、俺にしがみついている。

改めて状況を確認すると、俺はテントで寝ていたらしい。

そのテントに、新たに人が入ってくる。エヴァだ。

「はぁ。やっと目が覚めましたか」

「どんくらい寝てた?」

「魔力枯渇だったんですよ。三日ほど」

「迷惑かけたな」

「無事ならそれでいいです。すでにジャビール先生を筆頭に、世界樹の調査は始まっています」

しがみついたまま、抱っこちゃん状態のマイナを抱えたまま、テントの外に出ると、錬金術師の里跡のベースキャンプだった。

王国の兵士はたくさんいるが、レイドックやリーファンなどの仲間は見当たらない。あ、マリリンはいるな。

「エヴァは調査にいかなかったのか?」

「リリリリーが行っていますし、ベースキャンプの守りも必要でしょう」

「なるほど」

ジャビール先生とリリリリーがいれば、調査に問題はないだろう。そこにリーファンやソラル、ジタローにカミーユ、さらにチヨメがいれば完璧だな。残りのメンバーは護衛兼、お手伝いってところか。

「進捗は?」

「……」

芳しくないってことか。世界樹らしき大樹が黒く染まっていたからな。

だが、俺は諦めるつもりはない。

「俺も行こう」

「そうですね。でも……」

エヴァがちらりとマイナに目を移す。

そうだな、可能性を考えると、置いていくほうがいい。

「マイナは転移門で領地に戻っておくんだ」

「いや」

「じゃあ、王国兵士に……え?」

「いや。一緒に、行く」

「待て待て、ただの調査だし、退屈だし、えーと、なんだ、調査だし、退屈だし」

エヴァが半目を俺に向けた。

「語彙力ないんですか」

「うるせー!」

「マイナ様、調査が進展したら改めてお呼びしますので――」

「だめ。いく。絶対」

あ、これはダメだ。こうなるとテコでも動かないやつ。

なにげにマイナは危険なところでも突っ込んでいくタイプなんだよな。

今まで危ない目に何度もあってるのに、実は折れない心を持っている。そこは誇らしくもあり、大変な面もあるが。

「エヴァ。現地の安全度は?」

俺が尋ねると、彼女は小さくため息をついた。

「もともと動植物が少ない地域ですし、ニーズヘッグの縄張りだったのでしょう。山頂の台地は小動物一匹いないそうです」

「わかった。連れて行こう」

「了解しました。私も一緒に行きます」

「ここの守りはどうするんだ?」

「もともと王国兵だけで十分ですよ。この辺りも魔物なんて出ませんし」

なるほど。……ん?

ならなんでエヴァはここにいたんだ? 専門家のリリリリーほどじゃないにしても、魔術師として優秀なエヴァの知識は調査に最適だろうに。

俺の心の声が漏れたのか、今度はマイナが俺に半目を向けてくる。

「クラフト兄様……にぶちん、朴念仁」

「ごはっ!? ちょ! マイナさんどこでそんな言葉覚えてきたの!?」

俺は唐突なディスに、心に一〇〇万ダメージを受けた!

な……なぜ、いきなり怒られたのん?

俺の疑問をよそに、マイナはちらりとエヴァに視線を移す。

「貴女、一緒に、行く」

「え? ええ。はい。一緒に行きます」

「ん」

な、なんだろう。魔物とは違う強さを感じるのだが、気のせいだよな?

とにかく、俺たちはニーズヘッグの住処である山頂の台地に移動したのであった。

台地を少し進むと、天を突くような巨木が見え始める。もし、青々と茂っていたら、森のように見えただろうそれだが、黒に染まった世界樹は、禍々しい雰囲気を醸し出していた。

それに気づいたマイナが、俺の手を離し、駆け寄っていく。

掛ける言葉が見つからず、その背を追って一緒に走ることしかできない。

山頂台地の中央に、漆黒の世界樹と、根本に湧く小さな温泉の源泉となっている泉があった。母親の日記に残っていた「フヴェルゲルミルの泉」だろう。

マイナは世界樹に走り寄り、無言で漆黒の大樹を見上げている。

「大丈夫だ、マイナ。俺が絶対にどうにかしてみせるから!」

死ぬ気で研究すれば、きっと世界樹の呪いを解くこともできるはず! 日記にも”黄昏の錬金術師”ならと書かれてたしな!

マイナを元気づけるためにも、色々と言葉を掛けたが、マイナの耳には届いていない様子だった。

マイナの頬に、一筋の涙が流れ、地面へと落ちる。

落涙が世界樹の根に落ちたその時だった。

真っ黒な世界樹の根が、涙を中心に光り輝き、ぶわりと色を取り戻していくではないか!

マイナが衝撃の光景に、小さく声を上げる。

「え?」

遠巻きに見守っていたレイドックたち調査隊も集まってくる。

「なにが起こっている! クラフト!」

「わからん! わからんが!」

予測はできる。なんと言っても、マイナの涙は聖女の涙なのだから。

俺は色を取り戻した根に手を当て、魔法と錬金術による”鑑定”を同時に発動。俺の紋章が答えをくれた。

「世界樹の呪いが解け始めてる……。薬の作り方も、紋章が囁いてくれた」

マイナが不思議そうに俺を見上げる。

俺はゆっくりと頷いた。

「つまり、マイナの涙があれば、世界樹を直して、カイルを帰ってこさせられる」

「それ、は、兄様、生き返……」

「ああ。だからちょっとマイナの涙をもらうな」

その後、感情が溢れたマイナが泣きじゃくるのをいいことに、たっぷりと聖女の涙を採取させてもらった。

ひょいっとやってきたジタローが一言。

「なんか特殊な変態みたいっすね」

丈夫な釘バットを手に入れようと、心から誓った瞬間である。

数日後。

”魔神バグベイアーの呪いの解除薬”が完成した。

ツッコミどころ満載である。

魔神ってなんだよ! とか、名前までわかるのかよ! とか、背後に積み上がってる無数の樽の量とか。

うん。なんかいっぱい完成した。

マイナの……聖女の涙が強力すぎる。ちなみに一部をエリクサーにして、仲間の傷は完全に治しておいた。ペルシアとか腕がなくなってたからな。

魔神の話はすでにヴァンを含めた仲間内で共有済みである。無難に内緒にすることになったので、兵士たちなどには、この錬金薬も世界樹用の薬だとしか言っていない。

ジタローとカミーユに手伝ってもらって、錬金薬を世界樹に撒いていった。

すると、周囲が虹色に輝きながら、黒に塗りつぶされていた世界樹がみるみると色を取り戻しいく。

「おお」

俺は瑞々しくも緑に輝く葉を一枚ちぎり取る。

こうして、とうとう、俺たちは世界樹の葉を手に入れたのであった。

「天ぷらにしたら美味いっすかね?」

ジタロー! 貴重な世界樹の葉を食おうとするな!

マイナも兄貴が復活するかどうかのタイミングで、涎を垂らすんじゃない!

……ま、俺たちらしいっちゃらしいけどな。