軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

247:旅の目的は、温泉だよなって話

廃村……いや廃里か?

言い方はなんでもいいが、見つけたのは滅んだ集落だった。大瀑布の上にそれはあった。

ジタローが最後の崖を見上げる。

「やっぱ滅んだ理由は、魔物っすかねぇ?」

「ヤバいのがいるのは間違いないと思うが……」

聞こえた咆哮を考えると、かなり距離は離れていると思う。それに気になることも多い。

俺の懸念を確実にしたのがカミーユだった。

「建物の破壊が執拗に徹底してる。丈夫な建物だったはずなのに、一部の土台くらいしか残ってない。魔物の仕業にしては変」

「だよなぁ」

冒険者時代に、魔物に滅ぼされた村なんかは何度か見たことがある。魔物は不思議なくらい人間や亜人を狙うので、人工物を徹底的に破壊したりなどはしないはずだ。人を狙う過程で結果的に壊れるだけである。

エヴァが瓦礫を調べながら呟く。

「魔術師の隠し里のように、ここが錬金術師の里だったのなら、ちょっとやそっとの魔物に襲撃されたところで撃退出来ると思います。跳ね返せないほど凶悪な魔物だったのか……」

エヴァは顔を上げ、最後の崖を見上げたあと、もう一度里全体に視線を這わす。

「別の原因があったのか」

「それってつまり、第三勢力の可能性って話だよな」

「……」

考えたくねぇ。考えたくないが、やらなきゃいけないことや考えなきゃいけないことは山ほどある。

まず最初にやるべきは――。

「温泉なのよ!」

「そう、温泉……え?」

目をキラキラと輝かせながら宣言したのはミズホ武士のノブナだった。

「は? 温泉?」

「そうなのよ! 温度も最適! 湯質も最高! 入浴施設は壊れてるけど、長年温泉の滝が流れ込んでいたから、湯船は瓦礫もなくて綺麗なものなのよ!」

「お、おう」

「巨大な露天岩風呂なのよ! 入らない理由がないのよ!」

「えっと、遠いとは思うが、奥にヤバい魔物がいるかもしれないんだぞ?」

「近づいて来るようなら、着替えて迎撃すればいいだけなのよ!」

敵がワイバーンみたいな飛んでくるやつだったらどうするんだよと言いかけたが、このメンバーなら余裕で着替えられるか。マイナはリュウコがどうにかするだろうし。

「だいたい、ここがそいつの縄張りだったら、とっくに襲われてないとおかしいのよ。だから気がつかれてないか、無視されてるのよ」

「たしかに」

「最高の露天風呂に入らないなんて、ミズホ国民としてあり得ないのよ!」

「当然ナリよ。周囲に危険はなさそうなので、入浴タイムナリよ」

ウッキウキの二人を見て、ミズホ人の温泉好きを舐めていたと実感。風呂好きなのも温泉好きなのも知っていたが、これほどまでとは。

「わかったわかった。長旅だったしな。埃を落とすのは賛成だ」

「さすがクラフトなのよ! あたしとチヨメがみんなを集めてくるから、ジタローと先に入ってるのよ」

「あー、わかった」

二人のテンションに、なにか言ったところで無駄だろう。

一区切り付いたタイミングだし、少しくらいゆっくりしてもいいだろう。

温泉部分は少し高台になって、崖に張り付いた棚が、小さな滝壺のようになっていて、温泉の排水が、里に広がる噴水のような役割になっているようだ。

小さな滝壺と表現したが、それは崖のサイズに比例してのことで、人間から見たら、十分大きな湯船となっている。

崖沿いに残っている石段を上がると、少し広い空間があった。おそらくこのあたりに着替えのための小屋でもあったのだろう。辛うじて土台の跡だけが見える。

その奥に、ちょっとした訓練場くらい大きな岩風呂があり、その中心部には温泉の滝が流れ落ちていた。

「おお! こりゃ凄い!」

「早く入るっすよ!」

俺とジタローは物陰で素早く水着を着ると、温泉に飛び込んだ。

「ふひー! なんか風呂とはまた違うっすね!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛……。なんてーか、スタミナポーションでも取り切れない疲労が取れていく感じだ」

疲労というより、緊張感が湯に溶け出している感じか?

なんであれ、湯の温度に身体がなれると、スライムみたいに心地よく潰れていく感じ。

「風景も最高っすね! 里が滅んじゃってるのはあれっすけど」

「この湯船が建物より高い位置にあるからな、見ろよ。大瀑布の方を! 雲海が広がってる!」

「いやー! 雲ってやつは、下から見ると陰鬱としてるっすけど、上から見たら白く輝いてるんすね!」

「太陽をさえぎるものがないからな! 崖側もいいぞ! もうもうと湯煙を上げる温泉の滝……音も含めて最高だなぁ。ミズホ人が温泉好きな理由を理解できた気がするぜ」

そんな油断しきったタイミングで、背後からノブナの声がしたので振り向いた。

「それは良かったのよ!」

彼女は仁王立ちだった。

全裸で。

「のわあああああぁぁぁあ!?」

「おっっっひょおおおおおおお!」

残念なことに……いや、幸運なことに、滝のしぶきと温泉の湯気で、大事なところは見えなかったけどな!

「二人とも、叫ぶほど温泉が気に入ったのね。良かったのよ!」

「い、いや、そうじゃなくて」

「最高っす! 最高っす!」

そこに水着姿のエヴァが走り込んできた。

「ノブナさん! なんで全裸なんですか!? 水着! 水着を着てください!」

「温泉に水着なんて邪道なのよ? エヴァも脱ぎなさいなのよ!」

「ちょっ!? どこ触ってるんですか!? だめ! 取らないで!」

おっふぅ!

魔術師が体力で敵うわけもなく、一瞬でノブナに水着をもぎ取られるエヴァ。

心臓が爆発しそう!

そこにリリリリーが突っ込んできた。

「ラブコメの匂いを感じたじゃけん! フラグは立てさせないでごわすよ! ダーリンとフラグを立てるのは小生で……ってなんでお二人全裸なんー!?」

「リリリリーも野暮ったい水着なんて着てないで脱ぎなさいな!」

「ほぎゃああああ!」

一瞬で剥かれるリリリリー。一瞬俺と目が合うと、彼女は叫びながら温泉に飛び込んで身体を隠した。

……うん。エヴァの直後だったからか、あんまりドキドキしなかった。子供体型だしなあいつ。

それを見ていたエヴァが、自分も慌てて身体を隠しながら温泉に飛び込む。

おおう。やばい。めっちゃドキドキする!

「なにを騒いでいるのだ? お前たちは」

ペルシアとマイナ、それにリュウコがやってきた。

マイナの水着がフリフリなのはわかるが、なんかペルシアの水着も妙に可愛らしい感じだ。似合ってないなぁ。

「なぜノブナ殿は全裸なのだ?」

「温泉に水着は邪道なのよ」

「そうなのか!?」

「常識なのよ」

深く頷くノブナ。

関係ないけど、さっきから妙に湯気が多い気がする! おかげでチラ見出来るけどさ!

ノブナの言に、リュウコも小さく頷くが少し思案顔だ。

「たしかに、ミズホではそれが礼儀ですが――」

リュウコが言い終わるより先に、ペルシアが目を丸くして叫ぶ。

「そ、そうなのか!? たしかに軍では男も女もない生活訓練をしたこともあるが……」

それにノブナが満足そうに頷いた。

「最前線はとくにそうなのよ!」

「私の親衛騎士団では訓練で男性軍人と行軍と共同生活した程度だが」

「あたしたちはカイル様を復活させる特務部隊で、ここは最前線なのよ?」

「な! なるほど! 言われてみれば確かに!」

あ! ノブナのやつ、説得が面倒で適当なこと言ってるな!?

それを信じるポンコツもどうかしてる!

「くっ……私は栄えある親衛騎士団だったのだ! この程度の羞恥など毛ほどにも思わぬ!」

言いながらずばーんと水着を自ら投げ捨てると、エヴァとリリリリーの方に歩いて行った。

いや、すでに着ている物を脱ぐ必要はなかったんじゃないかな?

マイナは俺とノブナ、次にエヴァとリリリリーに視線を移したあと、ずるりと水着を脱ぎ捨て、俺の方へやってくる。

「……」

無言で見上げてくるマイナ。

「えーっと。熱くないか?」

「ちょうどいい」

「そうかそうか。あとで頭を洗ってやろう」

「ん」

それを聞いて、満足そうに頷くマイナだった。孤児院時代はチビどもを風呂に入れてたからな。そういうのは得意なんだ。

リュウコがぼそりと呟く。

「ミズホ流でいくのですね」

彼女は素早く水着を取り、さらに脱ぎ散らかされていた全ての水着を畳んでから、女性陣が固まる方の湯船へと沈んでいった。

続いてカミーユとマリリンがやってくる。

ぐほっ! ま、マリリンの破壊力よ! さすがおっぱい聖女と呼ばれてるだけのことはあるぜ……!

カミーユは、うん、頑張れ。

「なにか、不当な思考を感じた」

カミーユは超能力者かな!?

彼女はジッとノブナを見つめる。

「聞いたことがある。ミズホ人は裸族」

「違うのよ! 温泉以外じゃただの変態なのよ!」

「違いがわからない」

カミーユに激しく同意!

風呂なら恥ずかしくないって理論がわからん!

でも、マジでそう思ってるよな、ノブナ見てると。

「ふふ。なんであれ、温泉では脱いでもらうのよ」

「だが、断る」

正対する二人。実力は同等か?

いや、ノブナはオンミョウ術も使う魔法剣士系だから、素手の対戦ならカミーユに軍配が上がるかな。

「カミーユとは一度本気でやりあいたかったのよ」

「それは、同意」

そこはかとなくライバル感を醸し出しているが、全裸と水着なのを二人とも忘れてないかな?

全然関係ないが、カミーユはワンピースの水着なんだが、気のせいか普段の戦闘服より布面積多くない?

緊張感を漂わせ、睨み合う二人だったが、そこに全裸が追加。チヨメだった。

「油断大敵ナリよ」

「あーれー」

突然現れたチヨメに、背後から一気に水着を脱ぎ下ろされる。

「二人がかりは卑怯。でも負けは負け。素直に裸族になる」

「温泉だけなのよ!」

大人しくそのまま湯船に浸かるカミーユ。

残されたマリリンが涙目でミズホ組を見る。

「じ、自分で脱ぎますぅぅう」

するり、するりと水着を脱いで、恥ずかしそうに湯船に小走りしていった。ダイナマイっ!

そういえば、マリリンってなんか公開がはばかられる適性紋章があったよな。

……深く考えるはよそう。うん。

今度はジャビール先生がやってきたが、一瞬で剥かれて、湯船に放り投げられた。

「のじゃあああああ!?」

最後にやってきたリーファンは……すでに全裸。ただし、タオルを前に当ててたけど。

「反抗しても時間の無駄だからね。それより被害を減らすほうが大事だよ」

溜息交じりに湯船に浸かる。

「はぁー。極楽だよー」

なるほど。最初からそうしてれば困らなかったのね。

こうして俺たちは温泉をのんびりと堪能したのであった。

……あとで、俺とジタローが水着を着ていたことがバレて、ノブナに延々とミズホの心意気を交え、説教されたのは言うまでもない。

すでに着替えを終え、料理を並べていたリュウコが呟く。

「ミズホ流にこだわる必要はなかったのでは?」

それだ!

あとの祭りだけどな!