軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

245:陰キャって、面倒な恋愛観を持ってるよなって話

リリリリーが巻き付くように俺に抱きついてきた。ちょ!?

それまで動きを完全に停止させられていた俺たちだったが、エヴァが真っ先に再起動する。

「貴女! なにしてるのよリリリリー!」

「おや、これはエヴァさんではありませぬか」

「気づいていながら白々しいのよ! これはどういうこと!?」

「はーやれやれどっこいしょ。見てわからぬとはさすがおぼこじゃのぅ」

「おぼっ……!」

「小生、この金持ち……イケメンに惚れたじゃけん。猛アピールで嫁になったんごよ?」

「突っ込みどころが多すぎるわよ! 本音がダダ漏れな上に過去形!」

「ぬふふふふ。恋はハリケーンばってん」

「意味がわからないわよ!」

「こっちこそ意味がわからないよ。なんでエヴァが怒ってるか、ほーんに謎なんじゃが」

とりあえず、当事者の俺を無視して、二人で話を進めるのをやめて欲しい。切実に。

「とにかく彼から離れなさい! 嫌がっているのがわからないの!?」

それまで蛇のように俺へ抱きついていたリリリリーだったが、目を丸くして俺を見上げた。

「ふぇ?」

思いもよらないことを言われたやつの顔だこれ。

「ダーリン? 結婚してくれるっちゃ?」

「いや、普通にお断りするが……」

唐突すぎるし、話について行けないし、意味がわからないし、なにより変態と付き合う……を飛ばして結婚とかありえんだろ。

「え……あれ? おかしいなりよ? 童貞は身体を密着させたら勘違いして惚れるって薄い本に……」

薄い本ってなんだろう。レポート提出の束みたいな?

「あの……こう、腕を組んだから、もう恋人じゃけんね?」

「違うぞ」

きっぱりと言っておこう。勘違いしまくるタイプとみた。

「ふぇぇ……」

急に顔を真っ赤にして、俺から離れていくリリリリー。さらにどこからか全身を覆うローブを取り出して、包まるように着込んで、路地の端に座り込んだ。

「ちょ……おかしいっすよ? 話が違うなりよ? 男はケダモノじゃあーりませんか? ちょーっとくっついてやれば、理性をなくして襲ってくるって、アングラから手に入れた貴重な薄い本に描かれていたんごよ?」

ブツブツとつぶやきながら、路地裏に馴染む彼女をしばらく観察して気づく。

あ、これ面倒な陰キャの恋愛観だ!

しかも、大いに打算が練り込まれて、本人もよくわかんなくなってるやつ!

これは、逃げるべき!

そう決意するのと同時だったろうか。俺の手首がむんずと掴まれたのは。華奢な手だったと思う。

エヴァが慌てるように俺の手を引いた。

「なにやってるんですか! 今のうちに離れますよ!」

あとから考えたら、パーティーメンバーと離れてもしょうがないとか。情報提供者を置いてく意味とか。我ながらツッコミどころが多かったと思うが、このときの俺はそんなことを考える余裕はない。

俺の手を引きながら、振り向いた彼女の横顔が、目に焼き付いてしまったからだ。

もしかしたら、俺は恋してしまったかもしれない。

思考がスローになった瞬間だった。

身体に衝撃が走る。

「うご!?」

これは……体当たり!?

俺にタックルしてきたのは、マイナだった。

さらにそのままぐいぐいと身体を押してくる。

エヴァの手が離れたあたりで、ようやく押すのをやめてくれた。

「……クラフト兄さま。出発。今すぐ」

妙に不機嫌なマイナが、力強く俺を見上げている。

予想外に強い意思表示を向けられ、少しうろたえてしまった。

「え? ここが最後の大きな街になるから、少しゆっくりして……」

「休憩はゴールデンドーンでたくさんした。ここは通過点」

「お、おう」

たしかにマイナの言うとおりだ。

それにしても、自分の意見をはっきり言えるようになってきたな。カイルが起きたら驚くぞ。早く起こしてやらないとな。

そうか。きっとマイナのほうがその思いが強いのかもしれない。

「よし! 全員集合しよう! 買い物組には”通信”するとして…… あれ(・・) どうしよう?」

いつのまにか横に立っていたエヴァが腰に手をやる。

「私に任せてください。彼女にはきっちりわからせておきます」

「お、おう」

なにをわからせるのかは聞いてはいけないと、俺の本能が叫んでいたので、そこはスルーすることにした。

「とにかく……全員集合したら、出発だ!」

こうしていつもどおり、締まらないまま冒険を再開したのである。

合流したジタローが一言。

「いつものことっすよ」

同意すると同時に、殴りたくなるのはこいつの顔のせいだろうか?

都市ガンダールから北上してしばらくすると、危険度が一気に増していく。

俺たちのペースで「しばらく」なので、一般人なら数日以上かかる距離だけどな。

途中、魔物防衛用の砦があったりしたから、あれを越えると危険地帯ってことなんだろう。当然、ここから先に道はない。

さらにその先は、前人未踏の大山脈である。

うーん。マイナは置いてきたかった……。

さて、移動には馬、ポニー、二足鳥といるわけだが、それらの動物をペルシアが指示すると、驚くほど統率のとれた動きをする。

山脈を登っていくような状況で、 獣騎兵(ビーストライダー) の能力は恩恵が計り知れないな。

つまり、なにが言いたいかというと、困難を予想していた旅路は、想定以上に順調だということだ。

例を出そう。

絶壁と絶壁に挟まれ、亀裂のような深い渓谷がある。俺たちは絶壁の片方の中腹あたりを進んでいたが、足場は人が通るのも難しい足場が岩肌にかろうじて存在するだけ。

そもそも人が通るのを想定して道を整備しているわけでもなく、偶然地殻変動なんかでずれた足場が続いていただけだろう。

まず、そんな人が一人通るだけでも難しいような細い道なのだが、ペルシアが叫ぶ。

「大丈夫だ! まずは私とテバサキが先行する! それを見てお前たちも続くのだ! なに! ミスをしても崖下に落ちるだけだ!」

落ちてたまるか!

いや、もちろん安全ロープとか色々対策はしてるけどさ。

普通に考えたら、滑落するような場所だが、ペルシアが指揮すると平然と進んでいくのだから凄いんだけど、なんか納得いかん。

自然に出来た足場だから、当然途切れたりもする。

別の足場を探せば、渓谷を挟んだ反対側の中腹に足場を見つけたときのペルシア。

「飛べ! お前たちなら出来る! 羽があるやつはもちろん、羽のないお前たちには代わりに強靱は四つ足があるだろう!」

俺たちが状況に気づいて、どうやって先に進むか相談するより先に、ペルシアは問答無用で動物たちにジャンプさせたのだ。

想像してみて欲しい。めっちゃ高くて薄い塀の上から、離れたところにある塀の上に、馬に乗ったまま跳躍させられたことを。

うん。マジで死ぬかと思った。

マイナなんて、俺にへばりついたまま、声も出してないぞ。最近はちょっとしたハプニングを楽しむ体質になってたのに、さすがにこれは無理だったようだ。

……。

まぁ、こんな感じで、本来なら迂回や安全対策をしながら進むべきところを、全てのトラブルをペルシアの力押しで突破してきたのだ。

おかげでマイナを送り返すタイミングを完全に失ったわ!

このポンコツ余計なことしやがって。やらかしてくれるわ!

いや、想定以上の速度で進めているのはありがたいんだが、びっくりするほど感謝の念が湧かない。

うん。俺たちの心労を理解してくれると嬉しい。

精神的疲労は大きいが、旅路自体は順調で、探索予定地域に近づいてきたところだ。

渓谷の底を流れる川に沿って登っていたのだが、不思議とこの川の周辺には植物が生えている。

川沿いに進んだ理由は、不毛の土地だと思っていたので、少し気になったことと、川の上流が予定地に向かっていたということがある。

あ、ちなみに酸素問題は、水中呼吸薬を改良した錬金薬を使い、気圧による体調不良には、マリリンの神官魔法で予防と対処をしてもらっているから問題ないぞ。

さて、川の上流にやってくると、そこには巨大な滝があった。

あたりが煙るほどの水滴を巻き上げ、ごうごうと滝壺に突き刺さる巨大な水柱。

まさに大瀑布と言うに相応しい、力強く美しい滝だった。