軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

236:里帰りは、変化を感じるよなって話

魔術師の隠し里は、巨大な島だった。

カルデラのてっぺんだけが、海面から顔を覗かせた地形で、歪みのほとんどない円形をしている。

島の外周が全て、切り立った崖になっているから、外から中に入るのはほぼ不可能だと、エヴァの師匠であるパラディオ老が教えてくれた。

さらに言えば、島の周辺は岩礁も多く、航路を知らないとほぼ確実に座礁してしまうそうだ。

特に今は夜だから、危険度は増しているだろう。

だからさっきから、船が小刻みに方向を変えていたんだな。

しばらくすると、巨大な洞窟……海蝕洞が見えてきた。

これは知らなければまず見つけられないな。

大型の帆船が、ゆっくりと海蝕洞に侵入すると、左右の足場から、ロープが投げ込まれ、船に固定される。あとは島の人間が人力と魔力で船を引っ張り、桟橋へと横付けした。

海蝕洞の内部はかなり広く、大型の帆船が数隻収納出来るだろう。もしかしたらこの中で船を反転させるのかもしれない。

ジタローが目を輝かせて海蝕洞を見回す。

「うひょー! こりゃあちょっとした砦っすね!」

「そうだな。島自体が巨大な城みたいなもんだし、港もここだけっぽいしな」

俺たちが話していると、パラディオ老が横に来た。

「外部とのやりとりが出来るのは船だけだ。里を守るには都合が良かった」

「立地といい、交通といい、かなり考えられてるよな」

「先人の知恵に感謝だ」

「かなり慎重に隠蔽しているようだが、俺たちを案内しても良かったのか?」

「かまわぬ。島の存在を公表するべきとの意見が増えていたところだったのだ。外部からの客人は、良い刺激になるだろう」

「ならいいんだ」

洞窟内は魔法の光とたいまつの光に照らされ、なかなか幻想的な雰囲気を醸し出していた。マイナも大喜びである。興奮しすぎて鼻血を出すなよ?

めっちゃ蹴られた。

護衛女騎士のペルシアが、冷たい視線を俺に向けてくる。

「貴様は本当に無粋な男だな」

「ううう……女心とか全然わかりません」

つい敬語になるくらいには理解不能だ。ペルシア相手ならいつも通りで良いんだけどな。

「本当に貴様は……」

彼女は氷点下の視線を向けたあと、マイナと一緒に下船した。

掛ける言葉が見つからず、無言で見送っていると、メイドのリュウコがやってくる。

「マスター。子供や騎士と思わずに、淑女として接することを推奨いたします」

「うう……、頭ではわかってるつもりなんだ……」

孤児院で育ったせいか、小さな子供をレディー扱いするのが難しいのだ。無意識に妹のように接してしまう。

ペルシアは……、ペルシアだからな。こっちは半分諦めた。

とにかく俺も船を下りよう。早く里を見たい。

船員たちは船の整備をするようだが、パラディオ老は案内をしてくれるらしい。

桟橋の奥に、荷物の積み下ろしのための、広いスペースと倉庫が並んでいた。下船したものは全員そのあたりをうろつきながら見学している。洞窟内の港ってのは、なかなか風情があるからな。

「こちらだ」

パラディオの案内で奥に進むと、巨大な鉄の門があった。パラディオ老が合図をすると、ゆっくりと開いていく。

馬車が二~三台横に並べるほど広い洞窟が、奥までずっと伸びていた。緩やかな登り坂になっているらしい。

「馬車を用意してある。乗られるが良い」

「ありがとう」

俺たちは四台ほどの馬車に分かれて乗車させてもらう。六人乗りのようで、それぞれに里の人間も一人乗る。当然の用心だな。

俺と一緒なのはパラディオ、マイナ、ペルシア、リーファン。それとエヴァだな。

「エヴァは姉妹で一緒じゃないんだな」

「師匠と一緒の方が、道中で色々話ができますから。それに私がいないあいだに重要な話を進められる可能性があるのですから、あとで聞く方が手間です」

別にそんな話はしないと思うが。

俺の考えを読んだかのように、リーファンが小さくため息を吐く。

「クラフト君は、雑談ついでにやらかすんだから、放っておけないんだよ」

「失礼な」

「もうちょっと自覚を持とうね?」

さすがにそこまで……いや、もしかしたら無自覚にやらかしてることもあるかもしれない。気をつけよう。

マイナが当たり前のように俺の膝に乗っかってきたが、なんとなく不機嫌そうだ。

俺の左右にリーファンとエヴァが座る。二人とも窓際が良かったのだろう。もっとも見えるのは岩壁だけだが。

馬車に吊り下げられたランプだけでなく、”浮遊光球”も使っているので、周辺は十分明るい。

道は平らなので、揺られることもなく、馬車は進んだ。

結構長い時間が過ぎた。マイナはうとうとして俺にもたれかかっている。

最初はパラディオたちと雑談をしていたが、里に着くまでに色々聞き出してしまうと、面白さが半減してしまうので、控えめにしておいた。

興味深かったのは、魔術師の里だが、魔術師以外の職業や紋章持ちもかなりの数がいるということ。想像していたより、人口は多そうだ。

ずっと同じ景色で、体内時計が狂いそうだと思っていたところで、ようやく先に出口の光が見えてくる。

トンネルを抜けると、そこは南国だった。

出口周辺は、砦のような建物だったが、そこを抜け、さらに見慣れない木々の森を抜けると、この里の中心地だったのだが、想像以上にでかい。

数千世帯はいるんじゃなかろうか?

少し暖かい気候らしく、建物は見慣れた石積みやレンガ積みだけではなく、椰子の木を組み上げたバンガロータイプも多い。

なかなかに異国情緒溢れる里で、テンションが上がってくる。

マイナも興奮しているのか、見慣れないものを指さしてははしゃいでいた。

「あっち! あっちに塔! おっきい!」

「目立つな、あの塔。近くの城よりでかいぞ」

「兄様、あれ! あれ! 城の形が不思議!」

「そうだな。見たことのない造りだな」

リーファンも少し首をかしげる。

「妙な段差があるね。ああそうか。たぶんあの上から魔法を放つんだよ。良く出来てるね」

パラディオ老が目を細め、こちらに視線を移した。

「一目で良くわかったな」

「城の設計に携わったこともありますから」

「ふむ」

当時のゴールデンドーンでは、城と名乗る権限がなかったから、砦と呼んでたけどな。余計なことは言わない。最初から規模は王城を超えてたし。

里の入り口に立つと、大通りが城まで延びていた。左右には商店も並んでいて、それなりに活気がある。

いや、王都やゴールデンドーンと比べてるからそう思うだけか。十分発達しており、里というよりは、街と言った規模だろう。

「普通に生活しているみたいだな」

俺の呟きに、パラディオが答えてくれる。

「基盤になる生活があってこそ、正しい研究と研鑽ができるというものだ」

「なるほど」

「もっとも最近は、もう少し娯楽を増やせ、外との交流を解禁しろという意見も多いのだがな」

「それはしょうがないんじゃないか? 島はかなり大きいみたいだが、閉ざされた空間にずっといるんだ。息が詰まる連中も出てくるだろう」

「然り。だからこそ、外部との交流を解禁するかの議論は、尽きることがない。逆に長く議論し続けていたから、千日手のように、常に堂々巡りしておる」

「あー」

会議って踊るんだよなぁ。

こういうとき、ヴァンみたいな指導者の存在がありがたく思える。

パラディオがエヴァにちらりと視線を向ける。

「お前たちが庭園を出たあと、こちらにも色々と変化があったのだ」

エヴァが少し驚いたように目を瞬かせた。

「変化ですか? 言われてみると、当時より浮かれているように見えますが、それは私たちが来たからかと思っていました」

「それもあるだろうが、”隠者の庭園”が島であることを公表し、さらに外に行く者の人数を増やした」

「え!? そういえば、私はこの里が島であることすら気づいていませんでしたが……」

「里の住人に対して使っていた、様々な隠蔽魔術を維持するのは無駄であると、隠者の会合で決まったのだ」

「そんなことをしていたんですね」

「うむ。今は世界の秘密を探しに出る者は志願制だ。もちろん相応の実力が必須になるがな」

「それは……、ずいぶんと変わったのですね」

「現在は、里の存在を公表すべきという意見が大半になっている」

エヴァは難しい顔で視線を里に向ける。

「難しい判断ですが……私も外の世界を知り、その意見には賛同できます」

「そうか……なにか決め手になることがあれば、どちらかに決められるのだろうが」

「決め手ですか?」

パラディオがエヴァに真っ直ぐ視線を向ける。

「うむ。大きな決め手が必要だろう」

「……師匠は解禁派なのですか?」

「いや。どちらとも決められぬ半端者よ」

少し卑下した物言い。

それが気になって、つい二人の会話に割って入ってしまう。

「それだけ責任があるってことだろ」

「そう言ってもらえると、少し楽になる」

パラディオの顔が少し緩む。

「さて、改めて歓迎しよう。ようこそ、魔術師の隠し里”隠者の庭園”へ」

こうして俺たちは、ようやく魔術師の隠し里へとたどり着いたのであった。

そのタイミングで、俺になにかの実を突きつけてくる男。

「クラフトさん! このココナッツジュースってのがめっちゃ美味しいっすよ!」

ぅおい! ジタロー! いいシーンで割り込んでくるんじゃない!

通貨とかどうしたんだ!?

待て、マイナ! 屋台に駆け寄るんじゃない!

止めてくれペルシア!

違う! なに一緒に並んでんだ、このポンコツ!

「……久々の客人は賑やかだな」

「なんかほんとにすんません!」