軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

230:市場原理は、くつがえせないって話

森を抜け、火山地帯に近づくにつれ荒れ地気味の平野になっている。そんな荒れ地を進んでいると見えてきたのが 商隊(キャラバン) だが、想像よりも大規模だった。

数十台もの荷馬車が列を作っているのだが、その一団の雰囲気には覚えがある。

ジタローが手のひらでひさしを作って様子を窺う。

「あれ、ゴールデンドーン産の馬じゃないっすか?」

ペルシアも目を細め、 商隊(キャラバン) の馬を凝視。

「あの筋肉の付き方は間違いないな」

獣騎兵(ビーストライダー) の能力で断言しているんだろうか、それともただのカンか?

ペルシアだからなぁ……。

馬で判別しようとする二人に、少し呆れ気味な笑みでリーファンが教えてくれる。

「それ以前に商隊旗を見ればいいよ。あれはアキンドー商会だよ」

なんとというか、さすがというか、やはりあれはアキンドー商会の 商隊(キャラバン) だったか。

「ずいぶんと遠方まで商売に来てるんだな」

チヨメが小さく首をかしげる。

「なにを運んでるナリか?」

ノブナも目を細めて 商隊(キャラバン) を凝視するが、すぐに肩をすくめた。

「荷車には布が被せてあるからわからないのよ」

まだ距離があるのだから、ここからわかるわけもない。

「うだうだ言っててもしょうがいない。直接聞いてみよう」

そもそも、別に荷物がなにかわからなくても困らなんだが、気にはなる。アキンドー商会なら教えてくれるだろ。

俺たちが近づいていくと、商隊を護衛している冒険者の一人がこちらに気づき声を上げた。

「あれ!? リーファンさんにクラフトさん!?」

名前は覚えていないが、冒険者の顔にほんのり見覚えがある。

リュウコがこそっと「こちらに駆け寄って来ているのがアジフイラ様。奥で手を振っているのがラクターン様です」耳打ちしてくれた。

よく覚えてるな……。

「なんだってこんな辺境にクラフトさんたちがいるんです?」

「あー、その辺はあれだ。守秘義務ってやつだ」

一瞬、俺たちが旅立った理由はゴールデンドーンじゃ公然の秘密だったはずと身構えたが、 商隊(キャラバン) でずっと出ていたこの二人はカイルのことを知らないだろうからと思い直したので、余計なことは言わないことにした。

そんな俺のわずかな態度の変化に気づかず、アジフイラはのんきに聞いてくる。

「わかった。帝国の侵攻に備えて、火山灰を仕入れに来たんでしょ」

この二人、帝国の侵攻が確定したあとに、 商隊(キャラバン) で出ていたようだ。

「火山灰?」

「ええ。この荷馬車もほとんどが火山灰ですよ」

「あー。この辺りから運ばれてきてるのか。そりゃあ輸送費が跳ね上がるよな」

「原価のほとんどが、輸送費と人件費らしいですよ。数字のことは良くわからないけど……クラフトさんたちがいるってことは、帝国はまだゴールデンドーンに到着してないんですかね?」

心配そうな二人に戦争が終わったことを話しておけば、 商隊(キャラバン) 全部に伝わるだろうから、教えておこう。

「ああいや、それはもう決着がついた。帝国は撃退したぞ」

「おお! そりゃ凄い! 義勇軍に入ろうとも思ったんだけど、輸送も大事ってアキンドーさんに諭されてさ」

「もちろんだ。邪魔したな、護衛に戻ってくれ」

ゴールデンドーンの力になってくれようとする二人には感謝しかないな。

「そうします……あ、そうそう。馬車のわだちをたどれば、村がありますよ。宿もあるんで寄ってみたらどうです?」

「助かる」

俺たちはお互いに手を振って別れた。

なるほど、大量の馬車が何度も通って、街道になってたのか。

俺たちが街道に沿って進むと、すぐに地平線が見え始めた。ジタローが一際高い山を指す。

「かなり遠いっすけど、煙を噴いてる山が見えるっす! すげえっすね!」

リーファンも目を輝かせて視線を向ける。ノームのハーフなだけあって、自然物が好きなのだろう。

「火山って聞くと、ドーンと溶岩が吹き上がってるものだと思ってたよ。白煙がっぽいのがちょろっと上がってるだけだね」

二人のやりとりを聞いていたジャビール先生が、小さくため息を吐く。

「貴様ら勉強不足なのじゃ。物語に出てくる火山はだいたい天変地異じゃろうが、実際は小規模の噴火をだらだらと続けるもんなのじゃ。そんなにしょっちゅう大噴火しとったら、この辺り一帯死の土地になっとるのじゃ」

俺は辺りを見回す。

「見た感じ、植物なんかはだいぶ少ないですけど」

「小規模の噴火でも、周囲に被害があるのが火山というものなのじゃ」

小規模でこれかよ。俺は背筋が寒くなる。

「魔物の集団より恐ろしいですね。対処のしようがない」

「うむ。結局は自然が一番手強いのじゃ」

「肝に銘じます」

日が暮れる前に、俺たちは村へたどり着くことが出来た。

身長より少し高い錬金硬化岩の壁に囲まれ、見張り塔も立っている。思ってたより立派な村だった。

村の入り口だろう門に向かうと、若い女性が俺たちを待ち構えていた。見張り塔から、やってくるのが見えていたのだろう。

敵対心がないことをアピールしつつ挨拶。大事なのは笑顔!

「こんにちは! 俺たちは怪しくない旅のものです!」

少女とも呼べるような小柄な女性が、あからさまに顔を歪めた。

「うわぁ! 胡散臭い笑顔と、胡散臭いアピール!」

俺の横で、エヴァが頭を抱える。

「私が出るべきでした……」

ジタローが妙に爽やかなスマイルをしながら、俺を指さす。

「笑顔がぎこちないっすよ!」

「うるせえ」

俺たちのやりとりに、少女は首をかしげた。

「あの……えっと、芸人さん?」

「違う!」

お互い話をしたいと言うことになり、宿に案内され、そのまま宿一階の酒場で食事がてら情報交換をすることに。

少女が肉をぱくつきながら、自己紹介をしてくれた。

「私はエリン。苗字はないわ。最近は村長の補佐とかをしてます」

「俺はクラフト。クラフト・ウォーケン。一応メンバーの代表をやってる」

最初はジャビール先生にリーダーをやってもらうつもりだったが、見た目が幼女だからと辞退されたのだ。

気にすることないのに。文句を言う奴は全員ぶっ飛ばしますよと言ったら、他の全員から、いいからお前がやれと押しつけられたのだ。

解せぬ。

「なんだかちぐはぐなメンバーね。貴族の娘さんにメイドとか」

マイナが貴族ってのは……見た目でわかるか。一人だけドレスだもんな。

復活薬を探すために、隠し里を探してるなんて言えるわけもないから、嘘にならないよう、誤魔化す。

「あー、簡単に言うと、このお嬢様の護衛と、調査依頼のためのメンバーだと思ってくれ」

「護衛はわかるけど、調査って?」

「あー……。そうだな。まだ見つかってないとか、交流のない集落や亜人を探している」

「ふーん変な依頼ね。とりあえずこの村で悪さする感じじゃなくて良かったわ」

「理解してもらえてなにより」

そのまま全員で食事をしながら雑談となった。

リュウコ、宿の飯に給仕はいらない。お前も座って喰え。

マイナも一人で食べろ。ほら、こぼしてるぞ、口元を拭いてやる。え? 膝の上に乗るのね、どうぞ。

ペルシア、なぜ急に殺意を向ける?

エヴァもなんか、冷たい視線を向けてない!?

ジャビール先生、食事が口に合わないのはわかりますが、顔に出すぎです。

ジタローは速攻でナンパしない! つーかエリンさんとは俺が話してるから! 外に散歩? 帰りは遅くなるのね。村に迷惑かけるなよ。

ノブナもその辺のやつに腕試しを申し込まないで!

俺はそんな仲間とやり取りしつつ、村長代理の村娘から情報収集をする。

雑談をしているなかで、エリンがポロッと零した。

「はー、人手が増えたから、畑を拡張したいんだけど、壁が作れなくて遅れてるのよねぇ」

「ん? 材料はあるんじゃないのか?」

ゴールデンドーンでは、火山灰の入手が一番難しい。それが無尽蔵にあるんだから、材料には困らなそうだが。

村の隅には石灰も積んであったよな?

「材料は準備済みよ。肝心の錬金薬以外ね」

おかしい。錬金薬は国策で広がっているとヴァンに聞いたんだが。

あの野郎、適当な政治をやってるのか?

疑問に思って、先生に聞いてみた。

「先生。錬金硬化岩の錬金薬って、各地で生産してるんですよね?」

「改良レシピによる錬金法を広げたのじゃ。そのはずなのじゃが」

俺と先生の会話に、片眉を上げるエリン。

「言ってることがよくわからないけど、王都と衛星貴族でほとんど買われちゃうから、こんな田舎まではなかなか回ってこないのよ。多少は回ってくるけれど、相場よりかなり高いし。……高値だからこそ、一部の商人が持ってきてくれるから文句は言えないんだけどね」

どうやら王都周辺の領地が買い漁ってるらしいな。

需要が高ければ値段も上がるのはしょうがないとは思うが、ヴァンの野郎、魔物から人間を守るんだと宣言してただろうに。

「そんな事情になってたのか。ヴァンのやつ地方に力を入れるとか言ってて全然じゃねーか」

思わず零れ出た文句に、先生が慌てて割って入る。

「げふんげふん! あまりその名を出すのではないのじゃ。あと批判も。かのお方は良くやっておるのじゃ。むしろこれだけの辺境にも、錬金薬が届くのは凄いと思うのじゃ」

そんなもんだろうかと思っていると、エリンが小さくため息を吐いた。

「なんの話か良くわからないけれど、凄い錬金薬だもの。手に入りにくいのはしょうがないわ。ただ、原材料を安値で提供してるんだから、もう少し優遇してもらってもいいじゃないって思ってもしょうがないでしょ?」

そりゃあ思うだろ!

「そんな頑張るエリンに錬金薬!」

俺は空間収納から錬金硬化岩の錬金薬を大樽ごと引っ張り出す。

「ちょっ! クラフト君!?」

「バカ弟子がぁ……」

「はぁ……やっちゃいましたね」

「さすがマスターです」

マイナとリュウコだけが嬉しそうにし、その他のメンバーが頭を抱える。

エリンが樽に貼り付けられたラベルを読んで、目を丸くしていた。

「え? 錬金薬? 冗談よね? 一瓶だってなかなか回ってこないのに」

驚愕するエリンを見ながら、俺は他のメンバーに振り返る。

「あれ? 出しちゃまずかった?」

なんとも言えない表情のリーファン。

「ダメじゃないけど……ここまで錬金薬を運んでくれてた商人さんたちが大損しちゃうよ」

ジャビール先生は明らかに呆れていた。

「流通にはバランスというものがあるのじゃ。じゃが、ここが火山灰の流通拠点なのだとしたら、適切かもしれんがの」

俺たちのやり取りなどまったく聞こえていなかったエリンが急に立ち上がる。

「ちょっとまって、調べさせて!」

エリンが人を呼んで、樽と一緒にどこかに消えた。

少しして飛んで帰ってくる。

「ほ、本物! 本物の錬金硬化岩の錬金薬! 買うわ! 全部買うわ! もうやめたなんて言わせないわよ!?」

そりゃ、そうなりますよねー。