軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

229:夢のチャンスは、唐突にやってくるよねって話

私は商人を目指す村娘のエリン。

何もない村で育ち、これからもずっとこの村で暮らし続けるなんて嫌!

だから旅商人になって、王都とか素敵な場所にお店を持つのが夢なの。

まずは村を出るための資金を集めたいのだけれど……

「ない。なーんもないの! 売り物になるものがこの村にはなに一つないの!」

思わず虚空に叫んじゃったわ。

でもしょうがないじゃない。王国でも辺境に位置する村だし、なによりも火山地帯が近くにあるのだから。

もちろん熱気が伝わってくるような近さじゃないの。

活火山はようやく地平の先に見えるくらい遠くだし、海も山脈もずっと先。

でも、この辺りはほとんど生物がいないし植物も育たない。

理由は火山灰よ。

海風の関係で、活火山からずっと火山灰が降り注ぐの。

村があるあたりは、普段は大丈夫なんだけど、風の強さによっては村に降ることもあるから、その時は村人総出で灰掃除なの。

そんな環境だから、魔物も比較的少ないかな。だからこそ、こんな辺境の小さな村が続いているのだけれど。

そんな場所の村だから、なにか売り物があるわけじゃないの。

なんとか育てている野菜と、たまに現れる動物を狩ることで、細々と村を維持している状態。

だから商人もめったに来てくれない。

年に数度やってくる商人に、いつも根掘り葉掘り聞いてるけれど、まずこの村でなにか商売を成功させないと、とてもじゃないが経験不足が足を引っ張るから、よそで成功などできないと諭される。

確かに私に商売の知識はなにもない。そもそも通貨のやりとり自体めったにないのだから。

いちおう、毛皮の取引は村長に任せてもらってるけど、その程度。

この村でどんな商売を成功させろっていうのよ!

私が叫びたい気持ち、わかってくれる?

村を出て商人になりたい気持ちを悶々と抱えながら過ごしていたある日、村にとんでもない人数のキャラバンがやって来たの。

馬車が三〇台。馬が五〇頭、人は……一〇〇人は軽く超えてるわね。

最初は組織だった野党かと思ったわ。だって、護衛の人たちがとても強そうなんだもの。装備もピカピカなのよ。

そんな巨大な商隊の代表が、村長と話し合うって言うんだもの、私は無理矢理その場に入り込んだわ。だってこの村で一番商売に詳しいのは私だもの!

商隊の代表はアキンドーと名乗ったわ。ちょっと小太りで優しそうなおじさんなんだけど、時折見せる眼光の鋭さは、歴戦の商人を思わせる。

いえ、きっとそう!

「この村にアキンドー商会の拠点を建てさせて欲しい」

要約すれば、彼らの要望はそれだけだ。

怪しい。こんななにもない村に巨大な拠点を建てたがる意味がわからない。

怪しいのは間違いないけれど、その理由がなに一つわからなかった。

でも、話を聞いているとこんなことを言い出した。

「この村周辺に積もっている火山灰の撤去をお手伝い出来るかと思います。そうすれば畑の拡大など出来るのではないでしょうか?」

火山灰の撤去?

たしかに、人海戦術で火山灰を撤去すれば、畑を大きくすることは出来ると思う。しかも村や畑に灰が降るたびにお手伝いしますとまで言っている。

そこまでして拠点を作りたい理由ってなに?

まさか他国に攻める拠点?

いえ。このあたりは他国と隣接してない。王都より北ならまだしも。

アキンドーはとにかく拠点のためならなんでもしますという姿勢。

村長は今にも頷きそう。

考えろ私! こんな辺鄙で不便な場所に、商人が拠点を構える意味を!

だって、特産物になるものなんてなにもないのだから!

……待って。特産物?

逆に考えるのよ。この村で仕入れたい特産物があるとしたら?

それも拠点を構えるくらい大量に、定期的に仕入れたいと思う物。

この辺で無尽蔵に出てくる物なんて、地面の石と火山灰くらい……火山灰?

「ねえ、アキンドーさん。撤去した灰はどうするつもり?」

「灰ですか? そうですね。せっかく荷馬車が空ですし、これで運び出そうかと」

やっぱりそうだ!

彼らの目的はこの火山灰だ!

なんで厄介者の火山灰なんて欲しがるかわからないけど、彼らはこれを欲している!

欲しいと思う物は商品よ!

「ダメよ。この村から見える範囲は、村の土地なの。つまり、火山灰だって村の資産なのよ!」

私が叫ぶと、村長が慌てて私を止める。

「なにを言っておるのだエリン! アキンドーさんたちは厄介な火山灰を――」

「村長は黙ってて! これは商売の話なの!」

すると、アキンドーさんが片眉を上げた。

「商売、ですか?」

「そう! アキンドーさん! 火山灰が欲しいなら売ってあげます!」

私の勢いに、村長が金切り声を上げる。

「エリン!」

だが、アキンドーさんは笑みを浮かべて村長を手で抑えた。

「良いんですよ村長。ではエリンさんでよろしいでしょうか? いかほどならお売りいただけるのですか?」

「え!?」

ちょ、ちょっと待って、本当に買うって言うの? 火山灰を?

予想は間違ってなかったけれど、ここまで素直に認めると思ってなかったから心の準備が出来てない!

とりあえず吹っ掛けてから考える!

「そ、そうね。あそこにある大樽一杯で銀貨一枚! タダで手に入れたいなら、活火山の麓まで行くと良いわ! でもあの辺は特殊な魔物が出るからね!」

「なにをむちゃくちゃなことを言っているんじゃ! エリンは外に出ていなさい!」

「ははは。なるほど、この村で買うのが一番という情報付きですか。村長。大樽で銀貨一枚でよろしいですか?」

「はぁ!?」

「えええ!?」

思わず私もおどろいちゃったわよ!

でも、商人が一度口にしたんだから引っ込めさせないわよ!

「村長! それなら許可をだすわよね!?」

「え? いえ、あのそりゃあ、買っていただけるならそれに超したことはないですが……」

アキンドーさんが嬉しそうに頷く。

「決まりですね。それでは今後、火山灰を一樽で銀貨一枚お支払いします。拠点建築の許可もいただけるのですよね?」

「そ、そりゃあその条件なら喜んで」

「ありがとうございます」

「……成立しちゃった」

私が呆然としていると、アキンドーさんがこちらに視線を向けてくる。

「ふふ、こんな場所に、ちゃんとした商人がおられるとは思いませんでした」

「え? 商人って私のこと?」

「ええそうです。小さな商人殿。今後ともよろしくお願い致しますね」

「こ、こちらこそ!」

こうして私は初めて大きな商談を成功させたの。

そう、成功。それも大成功。

アキンドーさんは、あっという間に拠点を作り上げたんだけど、その材料がなんと火山灰!

ウソでしょ!?

別のなにかと混ぜていたみたいだけど、火山灰が建材になるなんて考えたこともなかった!

雨に濡れると固まることはあるけど、脆いときもあるからね。

商会が連れてきた職人さんに聞いたんだけど、遥か西の僻地に新しい街が出来て、そこの錬金術師がこの建材を作る特別な薬を作り出したんだって!

すっごい興味ある話だわ!

それにその新しい街ってのも凄いみたい。

火山灰の建材で作られた巨大な城壁。巨大な住居。王都にも負けない最先端の建築物が並び、腕利きの冒険者が集まり、魔物を倒すことで、見たこともない魔物素材が流通してるんだって!

そんな夢みたいな街が本当にあるの?

私は夢が叶った。

商人になる夢。

今はアキンドーさんたちや、その商会の人たちを相手に、火山灰だけでなく、灰を集める人足の手配をしたりしてお金を得ているの。

今では村長にも頼りにされているわ。

でも最近、新しい夢が出来たの。

それは遥か西の果てに出来たって言う、ゴールデンドーンって街に行って商売することよ!

この夢もいずれ叶えて見せるわ!

さて、そろそろ商売に戻らないと。

あれ?

アキンドー商会とは違う旅人さんの集団ね。こっちに来るわ。ちょっとお話を聞いてみましょう。よその地域の話とかは貴重だものね。

どこか垢抜けない魔術師風の青年との出会いが、私の運命をもう一度変えたのは、言うまでもないことだったかしら?