軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

227:驚愕の事実を知るのは、突然だよなって話

衛星貴族(王都の隣接貴族)の領地を抜けると、まともな街道が一気に減る。王都からさらに外側に存在する、魔物との最前線となる領地とは、各々の砦と砦を結ぶ街道しか存在しない。

町や村もあるにはあるが、常に魔物の恐怖にさらされている場所である。このような村や町が滅ぶと難民が発生するが、現在そのほとんどをゴールデンドーンが引き受けていると聞いた。

そりゃ、大量の難民が常に押し寄せるわけだ。

実際に衛星貴族領を抜けてから、魔物との遭遇率が跳ね上がっている。

まぁ、接敵した瞬間にペルシアとノブナが瞬殺する程度の敵ではあるが。

「うーん。俺が冒険者をやっていたころなら、出会ったら即逃げ出すような魔物が瞬殺かぁ」

「おいらの弓の出番がないっす」

ジタローが猟師には不釣り合いな名弓を撫でて凹み、エヴァは瞬殺された魔物の遺体を見下ろす。

「サイクロプス……冒険者殺しの名が泣きますね」

「今のエヴァなら、あれくらい瞬殺だろ?」

「魔術式を構築するより早く細切れになられると、思うところがあると思いませんか?」

「わかる」

相変わらず俺は攻撃魔法が基本禁止なので、敵が出たときは自然にマイナとジャビール先生の直掩にまわるのだが、下手すると馬車の前に立つ前に終わってる。

うん。こいつらおかしいわ。

そんな安心感からだろう、少しばかり気が緩んだのは。

ダウジングティアドロップが示す方角に向かう街道がなくなり、いよいよ道なき道を進み始めてしばらくのことだ。

先行して偵察をしているカミーユが、魔物の集落を見つける。避けて通りたいところだが、見通しが悪く避けた後で背後を突かれる可能性を考え殲滅することにした。

「では行ってきます」

「おう、任せた」

念のため魔物の集落からかなり離れた位置に馬車を停め、その馬車を中心に俺、マイナ、リーファン、ジタロー、ジャビール、リュウコが残り、その他のメンバーが魔物集落へと向かった。

リュウコが食料を並べ始め、リーファンが簡単なかまどを設置していく。

「皆さまが戻ってきたときに、すぐ食事が出来るようにしておきましょう」

二人は手際良く料理を準備し始めた。

「リーファンかリュウコがいると、飯が楽しみだぜ」

ジタローがうんうんと頷く。

「普通は旅だと干し肉とか干し芋ばっかっすからね。おいら、もう普通の旅が出来ないっすよ」

「いやお前は猟師だろ。何日も山に籠もるときとかどうすんだ」

「弁当を持ってくっす。だから狩りは一泊で終わらせるっすね」

「それでいいのかマタギよ」

ジタローの腕なら、一日で大物を仕留められるか。ぬるい生活してるなぁ。

「ジタロー君。しょっちゅう弁当をねだられるの、地味に面倒なんだからね?」

「いやー! いつも助かってるっす!」

「なにをやってるんだお前は」

マイナも料理を手伝いつつ、食事の支度を進めていると、ジタローとリュウコがふと顔を上げた。

「……敵の気配を感じるっす」

「これは、おそらく集落の別働隊と鉢合わせてしまった可能性があります」

「まずいっすね、ちょっと囲まれるような形になってるっすよ」

ジタローが辺りを警戒するように、弓を構えると、リュウコが冷静に状況を分析した。

俺は慌てて、水魔法でたき火を消しながら、マイナたちに指示を飛ばす。

「ジャビール先生! マイナ! リュウコ! 馬車の中に!」

「なんじゃなんじゃ? ピンチなのじゃ!?」

あわあわと慌てるジャビール先生とは正反対に、マイナはやる気を見せて、護身用のロッドを構える。

「私も、戦う」

「ダメ! 言うこと聞かないと転移門を今すぐ設置して追い返すぞ!」

「う……」

いくら魔法を使えるようになったからって、マイナを戦闘に出すわけないだろ!

マイナを抱えて、半ば放り投げるように馬車へ押し込む。

「リュウコも早く!」

「いえ、この布陣ですと、戦力が足りません。僭越ながら私が出ます」

「は!? いや、お前メイドだろ!?」

「はい。メイドの嗜みです」

「へ?」

リュウコの言っている意味がわからず、素っ頓狂な声を上げてしまったが、現実は甘くない。木々のあいだから、次々とオーガが姿を見せた。

「来たっすよ! ”画竜点睛”っす!」

「ええいクソ! オーガの集団か! 連係攻撃に気をつけろ!」

「こっちは任せて!」

四方向からの一面をジタローが。一面をリーファンが受け持つ。

残り二面!

「しかたねぇ、俺がでかい魔法で……!」

ド派手な魔法でまとめて吹き飛ばそうと、魔術式を展開し始めたとき、スルッとメイド服がたなびいた。

「リュウコ!?」

「こちら方面はお任せを。マスターはそちら方面をお願い致します」

「お願いって……」

リュウコが手に持っているのは、その辺の枝を削って作った木製のオタマである。

オタマって!

突っ込む間もなく、リュウコは迫るオーガの一匹に狙いを定めると、スルリと懐に潜り込み、敵の急所に連撃を加えた。

見えなかったのでたぶんだが。

数秒で崩れ落ちるオーガ。

あれ? オーガってあんな簡単に倒せる魔物だっけ?

「クラフト君! よそ見してる場合じゃないよ!」

「それもそうだ!」

リュウコは大丈夫そうなので、俺も目の前のオーガ集団に集中する。

「ジャビール先生に近づけるか! ”旋岩硬貫槍”!」

複数の岩石槍が、回転しながら次々とオーガを粉みじんにしていく。

リュウコが一方面受け持ってくれてなかったら、大規模魔法で森ごと焼き払うしかなかったところだ。

最初の緊張感とは裏腹に、僅かな時間でオーガの集団を殲滅することに成功した。

「おおお恐ろしいのじゃぁあ……」

馬車の隅っこで、ガタガタと震えている先生の肩に手を置き、落ち着かせる。

「大丈夫ですよ先生。もう敵は全部倒しましたから!」

「違うわ! このド阿呆! 恐ろしいのはお前たちのことなのじゃ!」

「ええ……」

おかしい。普通に考えたらオーガはとても強くて恐ろしい魔物だぞ。なんで俺たち?

先生とは違い、マイナは俺たちの活躍に大興奮である。

うんうん。頭を撫でてやろう。

「クラフト兄様かっこ良かった!」

「そうかそうか。でも馬車から顔とか出しちゃダメだぞ。ヘッドショットしてくる敵もいるかもしれないんだからな」

「ん」

興奮しているマイナにあまり強く言えないが、注意だけはしておこう。しかし結構な惨殺現場だと思うのだが、マイナは大丈夫なのか?

「人じゃないから」

「そうか」

強くなったな、マイナよ。

そんなやり取りをしていたせいで、俺はジャビール先生の呟きを聞き逃してた。

「お、おかしいのじゃ……なんでリュウコがあんな強いのじゃ!? 戦闘兵器にならぬよう、メイドの知識をベースにしたのじゃぞ!?」

「ジャビール様。戦闘などメイドの嗜みでございます」

「のじゃあ!?」

俺が振り返ったときには、頭を抱えてしゃがみ込んでいたジャビール先生を不思議に思いながらも、残存兵力がいないか気をつける。

「大丈夫そうっすよ。おいら魔石を集めてくるっす」

「わかった。気をつけろよ」

俺はジタローを放置して、リュウコをまじまじと見つめる。俺の使い魔で人造魔物のメイドでしかないはずなんだが。

「しかし、リュウコって強かったんだな」

リーファンも、俺と同じような顔をしていた。

「私もびっくりだよ。ある程度強いっていうのは、資料とか冒険者ギルドから聞いてたんだけど……コソ泥を捕まえる程度かと思ってたんだよ」

俺も、自宅に入ってきた泥棒を捕まえたとかいう報告は受けていたから、少しは戦えるのかもとは思っていた。そもそも素体のベースがドラゴン素材だからな。

もっとも、泥棒を捕らえたのは冒険者ギルドとか護衛の人だと思い込んでいたわけだが。

「マスターやご友人たちに比べれば、嗜み程度です」

「いやいや! オーガを複数倒せるとか、少なくともCランク冒険者レベルだからな!?」

オタマで倒されたオーガが不憫に思えるくらいには、実力に差があったからな。再開した頃のレイドックより確実に強いって。

そこに集落殲滅に出ていたメンバーが戻ってきた。

ノブナは倒れているオーガのケガを一瞥しただけで、状況を理解したらしい。

「あら、気づいちゃったのよ」

「ノブナ!? お前知ってたのか!?」

「気づいてないのは貴方とリーファンさんだけなのよ。レイドックが面白いから気づくまで黙ってろって」

「あんの野郎っ!」

俺たちの会話に、チヨメが嬉しそうだった。

「賭けは拙者の勝ちナリよ」

「カイル様が倒れて冒険に出るなんて、誰も考えてなかったんだから無効じゃないの?」

「ノブナ様。賭けは賭けナリよ」

「仕方ないわね。今度ゴールデンドーンに戻ったら、高級レストランを奢るのよ」

「やったナリよ!」

こいつら、俺がいつリュウコの強さに気づくか賭けてやがったのか!

「お前ら、人の観察力を賭け対象にするんじゃねぇよ!」

「それは違うナリよ。鈍感力を対象にしていたナリよ」

「余計悪いわ!」

俺の横で、リーファンが跪いて脱力していた。

「ううう……クラフト君と同じ扱いにされてたよ……ショックだよ……」

「気にするのそこ!?」

ちくしょう。気づかなかった俺が悪いんだけどよ。

とにかく、頼もしい戦力が増えたと考えよう。

「リュウコは基本的にマイナとジャビール先生の近くにいてくれ」

「了承いたしました。この身に変えてお二人をお守りします」

「頼りにはするけど、無茶はやめてくれよ」

「全力を尽くします」

優秀なメイドの知識がベースだから大丈夫だろ。うん。たぶん。

どこか虚ろ気味な目で、ジャビール先生が呟いていた。

「メイド……私も雇うのじゃ……あははは……」

先生は家で暮らしてるんだから、すでに雇ってるようなもんですよ?

なぜか、そう言うのをためらわれる先生の様子であった。