軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

195:人の話は、ちゃんと聞いておいたほうがいいって話

ミズホに魔物の大群が押し寄せてから、三ヶ月が経っていた。

すでに市壁は落ち、現人神の御所を囲う、三つの城での籠城に状況は変わっている。

だが、それは最初から計画されていた作戦だった。

防衛面積を狭めるだけでなく、市壁を維持しているあいだに、強化された城壁による防衛はまさに鉄壁。

確実に魔物の数をすり減らし、ようやく終わりが見え始めた。

今日、観戦武官であるアルファードは、炊き出しの手伝いをしていた。戦局が安定していることもあるが、戦時介入にならない程度の手伝いくらいさせてもらいたかったのである。

休憩に入った弓兵の一団に、食事を配り終わる頃、アルファードは顔見知りを見つけた。

「ルーカスか」

「よう! 久しぶりだな!」

レンジャー装束のチャラい男の名はルーカス・リンドブルム。帝国の冒険者なのだが運悪く、魔物との戦争に巻き込まれ、国外に逃げられず、ミズホに足止めを余儀なくされている。

カイルが使節団を率いていた頃に仲間と知り合ったのは聞いていたし、クラフトからもナンパ野郎と言うのも聞いている。またアルファード本人も、戦争が始まる前の交流期間に紹介され何度か会っていたし、戦争が始まってからも、たまに会話していた。

「まったく、俺はいつになったら帝国に帰れるのかね?」

「災難だったな。だが、今は臨時の弓兵として稼いでいるのだろう?」

「気が向いたときだけなー」

「たまに見ていたが、なかなかいい腕をしているじゃないか。……おっと食事だ」

「おう、ありがとよ!」

ルーカスはお盆を受け取って、一歩横にずれたが、なぜか無言で食事を見下ろしている。

今日の食事はクラフト小麦を使ったパンに、豆の煮物、肉野菜炒め、それに味噌汁だ。もしかしたら米がないのが不満なのかと思い、アルファードが声を掛ける。

「なんだ? 嫌いな物でも入っていたか? それともパンばかり続いてるのが辛いのか?」

「いや、俺は帝国人だからな。パンは大歓迎だ」

「それにしては、なにか考え込んでいるようだったが?」

「毎日ご馳走で、よく食料が尽きないなーってよ」

アルファードは首を傾げた。

「そりゃあ、マウガリア王国から大量の食料支援があるからな」

「……は?」

「聞いていないのか? 二国間に大型の転移門が設置され、武器も食料も全面支援していると、何度も発表しているはずだが?」

「あー。女のところにしけ込むのが忙しくて、聞き逃してたかもなぁ」

想像以上のナンパ野郎っぷりに、アルファードは頭を押さえる。

「いちおう臨時の傭兵扱いだろうに」

「気が向いたときしか参戦してなかったからなぁ」

「まったく……」

戦意高揚の意味でも、市民の不満を減らすためにも、この情報は大々的に喧伝されているのだが、やはり帝国の冒険者ということもあり、ちゃんと聞いていなかったのだろうとアルファードは判断した。

「食べたら参戦か?」

「いや、もう勝ちは確定だろ? あとは街が開放されるまで、適当に花んとこへしけ込んでくるわ~」

「しけ込むって……、避難民は避難所暮らしだろうが」

「もともと城勤めで個室持ちのお花ちゃんさ~。早いとこ帝国に帰れるよう頼むぜ」

「ほどほどにしておけよ」

ルーカスは食事をかっ込むと、手をひらひらと振って暗がりへと消えていく。

だが、このルーカスの願いはかなわないのであった。

次の日、ミズホ神国は本来の戦場の姿を取り戻していた。

「矢が足りないぞ! もっと持ってこい!」

「石でもなんでもいいから、とにかく投げつけろ!」

「クソ! クソ魔物どもめ!」

「おい! こっちだ! 魔物が重なり合って城壁を越えそうなんだ!」

「すぐ行く!」

「ちくしょう! どうなってんだ!?」

「泣き言を言うな! 貴様らはサムライだろうが!」

最近続いていた作業のような防衛戦が一転、怒号が飛び交い、兵士が走り回る戦場へと変わっていた。

アルファードは慌てて天守閣まで駆け上がると、すでにノブナが城壁を睨みつけている。

「なにがあった!?」

「急に魔物たちが、狂ったように一斉に押し寄せてきたのよ」

「突然すぎる!」

「まったくなのよ」

アルファードが城を埋め尽くす魔物を目で追う。

「まるでスタンピードだな」

「……もともとスタンピードなのよ」

「そうだったな。……いや、なにかおかしくないだろうか?」

「最初からおかしいことだらけなのよ。そもそも最初から魔物たちはミズホを緩やかに攻め続けてたのがおかしかったと思うのよ」

これに関しては、アルファードとノブナが散々疑問に思って討論していたことだ。本来のスタンピードは、ちょうど今のように魔物の理性が吹っ飛び、もっとも近くの人間に大群で狂ったように襲いかかることを言う。だが、今回の魔物の大群は、たしかに人間の集まるミズホ神国を囲んでいたが、まるで城攻めのように、じわじわと消耗戦を強いるような、真綿で首を絞めるがごときの動きをしていた。

具体的には、昼夜問わず一定数の魔物が攻め続けてきていた。絶妙に放置出来ない戦力が常に押し寄せて、ミズホ側も常に緊張感を強いられていて、物資的にも精神的にも嫌な消耗戦を強要されていた状況である。

さらに、一般的にスタンピードは一種類の魔物が暴走することがほとんどなのだが、今回は様々な魔物の種族が入り乱れていた。

流石に別種族同士が協力して動くようなことはなかったが、防衛側からすれば、種族ごとに対処法が異なるため、難易度が上がる。

「いったい、どうして急にあいつらは本来のスタンピード化したんだ?」

「そんなのわからないのよ」

「すまん、独り言だ」

敵の攻勢は激しくなったが、アルファードには逆にチャンスにも感じる。

「確かに攻撃は激しくなったが、今まで感じていた、統率のようなものがなくなった。今は少し慌てているようだが、ミズホのサムライたちなら、有象無象の魔物なぞ、敵ではないのではないか?」

「もちろんなのよ! ここは攻めどきなのよ。あたしも出るわ!」

これまで空を飛ぶ魔物を警戒していたノブナは、部隊を率いて城門まで一気に移動する。

するとちょうど、城門前にハンベエが二足鳥の騎兵を集めていた。

「ミズホの 武士(もののふ) たちよ! 今こそ敵を掃討するとき! 各々撃って出るぞ!」

ハンベエがカタナを高く上げ、兵士たちを鼓舞すると、今までの鬱憤を晴らすかのような大声で、武士たちが叫んで応える。

「ノブナ!」

「任せるのよ! 我は願い奉る。冥府よりおいでませ! 鵺童子!」

ノブナがオンミョウ術でミズホ独自の召喚術で、熊くらいの大きさの式神と呼ばれる召喚獣を呼び出す。それは猿の顔に狸の胴体を持ち、虎の手足をした異形の獣であった。

鵺と呼んでいた化け物が、城門から飛び降り、何体もの魔物を下敷きにしながら着地する。そのまま城門前の魔物を鋭い爪でミンチに変えていく。

鵺だけではない。様々な式神が次々と城門前に召喚され、殺到する魔物どもを駆逐していった。ノブナの部下とカネツグの部隊が呼び出した式神である。

城門の前に空間が出来ると、跳ね橋がドシンと落ち、門が開いた。

「ゆくぞ!」

ハンベエを先頭に、ミズホ武士たちが突っ込んでいく。

「勝ったな」

アルファードのつぶやきの通り、それから数日で、魔物のほとんどが退治されたのであった。

ノブナは疲れ果て、城門の上で座り込む。

「やっと終わったのよ」

「疲れたんだな」

カネツグも汗だくで座り込んだ。

兵士全体に、終わったという安堵感が広がった瞬間にそれは起こる。

「て……、帝国の軍勢がこちらに向かっております!」

物見の悲鳴が、響き渡ったのだった。