軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

179:遊びには、必ず終わりがあるよねって話

行きはよいよい、帰りは一瞬。

転移門が設置できたので、いつでも帰れることから、俺たちは予定より滞在期間を延ばすことにした。

ムテンの計らいにより、屋形を一軒いただいたので、俺たちはそこに住んでいる。もっとも、テストと称して毎日何人もゴールデンドーンからやってきては、カイルの前に仕事を積んでいくのはやめてもらい

たい。

ミズホ側の人間も、交代でゴールデンドーンに足を運んだようで、御三家の人は、留守を預かるカイルの兄、ザイードとの面会なんかもしていたようだ。

まだ一般公開された情報ではないのだが、両陣営ともに上層部が激しく行き来しているため、一般市民にも、貿易が始まることが漏れ伝わっているらしい。

初めは他愛のない噂話だったが、ミズホ側では塩田職人に水分蒸発薬が配られ、実験を命じられたり、硬化岩の錬金薬を普請奉行に研究させたり、武士の一部に伝説品質スタミナポーションが配られたりするし、ゴールデンドーン側では、岩塩とは違う白い塩が一部の料理人に配られたり、純度の高い金の塊が商業ギルドに持ち込まれたり、数の少ない二足鳥が牧場に運ばれたりしたのだ。

特にゴールデンドーンでは、王都とつながる転移門の存在は知られているので、商人たちの暗躍がすでに始まっている。ミズホ側でも耳ざとい商人たちが、情報収集に躍起になっているようだ。

そんななか、マウガリア王国の大使館が出来たのだ。ほぼ確定情報として、ミズホの街は激しく活気づいている。

ちなみに、大使館が出来たというのは新設という意味ではなく、城に近い屋形を大使館として指定しただけだ。

俺たちが住んでいるのがその大使館で、本格運用するまで滞在しているだけのことである。

当然、駐在大使候補の文官も一緒に仕事をしていた。

残念ながらマイナは転移門でゴールデンドーンに戻され、ザイードの監視下で、学園生活に戻っている。

もっとも、マイナはしょっちゅう夕食を食べに、こちらに来ているのだが。

マイナはザイードにめちゃくちゃ怒られたらしく、機嫌が悪かったので、息抜きも兼ねているのだろう。

よほどミズホ料理を気に入ったらしいな。俺も気に入っているのでなにも言えない。

勉強がおろそかになっていたら、転移門の通行許可を出さないとカイルとザイードに言われているので、普段よりも真面目に学業を励んでいるようでなによりである。

なお、ジタローはミズホに入り浸りであった。

まぁ、カイルの護衛の一人って名目だから当然とも言えるが、カイルの護衛には、すでに聖騎士隊が交代でついてるので、帰ってもいいのよ?

エヴァはミズホ独特の魔術形態に興味を持ち、借りた書物に没頭している。もちろん護衛なので、執務室の隅に机を借りてであるが。

俺はふと気になって、エヴァに尋ねる。

「そういや、カミーユとマリリンはなにをしているんだ?」

エヴァが顔を上げ、魔導書を閉じ肩を回す。熱中しすぎて身体が固まっていたらしい。

「カミーユはノブナ様の配下の、チヨメさんと一緒に訓練してるわ。同じレア紋章のくのいちの紋章を持ってるから、色々教わってるみたいね」

「ああ。なるほど。先人がいるのは心強いな」

チヨメはノブナ直轄の部下だから、腕は超一流だろう。

さらに猫獣人ということもあり、身軽だ。カミーユも軽装タイプなので、相性もいいだろう。

二人の一番の差は胸……いやなんでもない。

「マリリンは、治療院に出入りしていて、けが人の治療を手伝っているわ。なんか女神とか言われ始めてて、困惑してるみたいね」

「ああ……」

そういや、マリリンがミズホのサムライたちに女神と呼ばれているという話を、風の噂で聞いていた。

ただ、俺の耳に届いたのは「おっぱいの女神」って話だったが。

気持ちはわかるが、やめてあげなさい。

別の噂では、マリリンの姿絵が裏で流行しているらしいのだが、どうもそれが少しばかり大胆な服装になっているらしい。ミズホには変態紳士が多い気がする。

ジタローが躍起になって手に入れようとしているので、奴が手に入れたら、俺も確認させてもらおう。

……。

もちろん、公序良俗が守られているか確認するためだからな!? 他意はないんだからね!

「ま、まぁ、マリリンをナンパするような奴が出てくるのなら、対処しよう」

「不思議とそれはないらしいわ。握手とかは求められるらしいけど、それも行儀良く並ぶみたいだし、この国の人は紳士なのかなんなのか、わからないわね」

「まったくだ」

思わず深く同意してしまう。

エヴァの視線が俺を探るように変化したが、それを無視した。

「ノブナ様は、マイナ様が帰国してしまったのを残念がっていたようよ」

「ああ。妹のように可愛がってくれてたからな。マイナも寂しがってたよ」

珍しく、マイナが俺たち以外になついていた。

いや待てよ、最近は誰とでも積極的に行動してるな。

出会った頃のマイナはカイルの背中に隠れる、お淑やかな性格だったのに、いつの頃からか、他人の迷惑をあまり考えず、突き進む性格に変わっている。

それはもちろん、俺にとって嬉しい変化だ。だからマイナがそれで失敗しても、全力でフォローすると決めている。

「んじゃ俺も調合に戻るよ。何かあったら教えてくれ」

「わかったわ」

屋形の一室に用意してもらった錬金部屋へと移動する。ゴールデンドーンの生産ギルドに戻ることも考えたのだが、ギルドから転移門まではそれなりに距離があるため、緊急時に対応出来ないことから、このような形になっている。

ミズホの錬金術師が数人、助手として手伝ってくれている。ミズホ的には受け入れてくれたらラッキー程度の打診だったのだろうが、俺はジャビール先生と相談した上で、助手を受け入れた。

一部の技術を除き、可能な限り彼らに俺の知っている錬金法を教えている。年上ばかりで少しやりづらいが、彼らは文句を言うどころか、喜んで教えを請うてきた。

俺の……いや、俺やカイルやヴァンやジャビール先生の願いは、人類が一つになって、魔物を打ち倒し、生存すること。

だからこそ、そのための技術を隠すことはしない。

……残念ながら、黄昏の錬金術師の紋章による力押し錬金や、膨大な知識と研究で、錬金する先生のまねは出来なかった。

こう言ってはなんだが、ミズホの錬金術師たちは、ジャビール先生の弟子の弟子の弟子の弟子のレベルにすら到達していない。

どうやら数年に一度、帝国で開かれている学会の存在すら知らないらしく、細々とやっていたらしい。

そんな事情から、先生の考えた手に入れやすい素材を使った新しい錬金法を、食いつくように学んでいるのだ。

とりあえずの目標は、上質品質のスタミナポーション作成だ。

なお、上質品質とは、十段階で真ん中の五番目の品質となる。これでも伝説品質が流通する前は、最高級と呼べる品質だったわけだが。

こんな感じで、楽しくも忙しい日々が過ぎていたのだが……。

俺たちは、少しばかり平和に慣れすぎていたのかもしれない。

ミズホ神国の南にある小国家が、魔物のスタンピードによって、一夜にしてで滅んだという情報が、ミズホ中を駆け巡る。

この世界は、未だ魔物が支配しているのだと、俺たちに思い出させてくれたのだ。

―― 第六章完 ――