軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

177:無い物ねだりは、人の性だよなって話

「それじゃあ仕上げちまうか」

「うん!」

倉庫のような建物に設置されたのは、もちろん転移門だ。

すでに王国側……ゴールデンドーンに対になる門は設置済みである。ミズホ神国に転移門を設置するかどうかの判断は、カイルに一任されていた。

ゴールデンドーン側の転移門は、すでに専用の建物内に設置されているので、セキュリティー的な問題もクリアしている。

カイルはミズホ神国との貿易を、人類一致団結の第一歩と位置づけたようで、早急に設置することを決めたのだ。

俺は錬金術式の魔法で、転移門を仕上げる。

「最終テストだね!」

頷きながら、通信の魔導具を起動し、アルファードにつなぐ。

転移門を繋げることは、昨夜のうちに連絡済みなので、すぐに反応があった。

『クラフトか。こちらの準備は完了しているぞ。カイル様の様子はどうだ?』

「昨日も聞いただろ、いつも通りだよ」

『カイル様はずっとお身体が弱かったのだぞ!? 万一がいつ起こるかわからんではないか!』

エリクサーのおかげで、完全に健康体だっつーの。むしろ日々逞しくなっとるわい。

「わかったわかった。元気にサムライ共とやりあってるから安心しろ」

『なんだと!? 貴様! カイル様になにをさせている!?』

「え? なんで怒られてるの?」

『カイル様に剣を持たせて相手をさせているのだろうが!』

「アホか! 想像力が逞しすぎるわ!」

過保護すぎて、想像がぶっ飛びすぎだ!

「ミズホの重鎮たちを待たせてるから、さっさとテストするぞ!」

『本当に大丈夫なのだろうな?』

「心配ならこっちに直接来て確認すりゃいいだろ!」

『そうだな! すぐにつなぐぞ!』

カイルに会える喜びで、すぐに魔石をセットし、転移門を起動するアルファード。

まったく。通信の魔導具で視界共有してるんだから、カイルの様子は毎晩確認してるだろうに……。

こちらも魔石をセットし、転移門をつなげると、すぐさまアルファードが門から飛び出してきた。

……お前はゴールデンドーンの責任者だろう。

いや違う。責任者はザイード兄ちゃんか。だからいいのか?

「防衛責任者が、他国に来ていいのかよ」

「カイル様のお顔を確認したら、すぐ戻る」

「さよか」

ほんと、アルファードとペルシアはカイルのことが好きすぎるだろ。俺も人のことは言えないが、ここまで過保護じゃないからな。

口に出さなかったのに、リーファンは眠たそうな視線を向けてきた。

「クラフト君も大概だからね?」

俺は肩をすくめることで応えながら、建物の扉を開ける。

「お待たせしました。転移門の設置が完了いたしました」

「おお! 待っていたぞ!」

シンゲンが危険の確認もせずに、建物の中にずかずかと踏み込む。

「ずいぶんと大きいのだな」

「馬車が通れるサイズになっていますから」

「ふむ……ん? 貴殿は?」

シンゲンがアルファードに顔を向ける。そりゃ、建物には俺とリーファンしかいなかったんだから、驚くだろう。例え頭では転移門を設置していると理解していてもだ。

「お初にお目にかかります! 私はエリクシル開拓伯領、聖騎士隊隊長を任されている、アルファード・プロミスと申します!」

「ほう? カイル殿の懐刀と言う訳か。いい目をしているな」

「ありがとうございます!」

アルファードには、サムライたちの容姿は説明してあったので、すぐに将軍とわかったようだ。

……まぁ、隻眼で髭で筋肉ダルマで、カイルより先に部屋に入ってくるのだから、間違えようもない。

ハンベエがチラリとアルファードに視線をやり、ぼそりと零す。

「なるほど。すでに転移門はつながっていて、そちらからお越しになったと」

「はっ!」

「では早速ワシも!」

「父上!?」

ハンベエが止める間もなく、シンゲンが転移門へと消えた。

段取りがめちゃくちゃである。

「……はっ!? クラフト兄様! アルファード! 一緒に!」

呆けていたカイルが、慌てて自分も転移門をくぐる。俺とアルファードも慌てて追いかけた。

「ぐわはははははははは! 本当に……本当に別の地に立っておるぞ!」

ゴールデンドーン側に待機していた、アルファードの部下である聖騎士隊が、一人だけで現れた偉丈夫に困惑している。

不審者として捕まえるべき状況だが、今日は他国の重鎮がやってくることも理解しているので、動くに動けなくなっているのだろう。

カイルが飛び出し、慌てて聖騎士隊を制止すると、騎士たちは安堵を見せた。

俺とアルファードだけでなく、ハンベエ、カゲタカ、マサムネも続く。

「父上! 他国に招かれているのですぞ!? 勝手は困りまする!」

「おお、すまんすまん。ぐわははははは!」

「笑って誤魔化さないでください!」

やべぇ。こいつ絶対ヴァンと同類だわ。

ミズホのサムライたちが、改めてまわりを見渡す。

転移門がすっぽり収まる建物には、門より一回り巨大な両開きの扉があり、大きく開け放たれている。

門の外は大きな広場となっていて、厩舎も並んでいる。建物と広場は錬金硬化岩の壁で囲われていて、さきほどと同じ造りをした両開きの門が、出入り口として設置されている。こっちは閉じられていた。

カイルがミズホ代表の前に立つ。

「あの門の外を少し進めば、ゴールデンドーンとなります。本日はこの壁より外には出ないようお願いします」

注意事項を述べるが、彼らの耳に届いているかどうか……。

サムライたちの視線は、一点に注がれていた。

ゴールデンドーン。

広大な市壁と、頑丈な城壁。そして壮麗にして威容を誇る城。

それだけではない。市壁と変わらぬ高さの集合住宅が、タケノコのようににょきにょきと生えている。

初めて見る者は、必ず言葉を失うが、彼らも例外ではなかったようだ。

「なんだ……あの……砦は……」

「要塞……なんて言葉では生ぬるすぎまするな」

「げ、幻術ではないか!? 王国が我らを脅すための!」

「カゲタカ……これから貿易をするのだ。今我らを騙すことになんの意味がある?」

「ぅぐ……」

貿易が始まれば、いくらでもゴールデンドーン市内に行ける。ハンベエの言うとおり、ここで騙す意味などない。まぁ、現実味のない巨大都市であるのは認めるが。

カイルが小さく咳払いをし、襟を正す。

「話を続けますね。この広場で荷物の検閲を行い、問題がなければ正門から出ていただき、皆様が見ているゴールデンドーンに向かってもらうことになります。ミズホ神国側にも、同様の検閲広場を準備していただきたいと思っています」

さすがに国をまたいだ貿易となるので、税を取らなくても、お互いに検閲しないわけにはいかない。

「ふむ。壁で囲った広場を作れば良いのだな」

「はい。必要であれば、錬金硬化岩を用意いたしますが?」

「いや、この程度の広さであれば、石垣ですぐに準備出来る」

「わかりました。完成予定日がわかれば、その日に合わせて本格稼働いたしましょう。それまではテストを繰り返す予定です。転移門がつながって開いている状態になると、魔石の消耗が激しくなりますが、当面は王国が負担致します。貿易が本格化したら、ミズホ側で用意していただくか、購入していただきます」

カイルが転移門に設置されている魔石を示す。

「どの程度の魔石だ?」

「サイクロプス級の魔石で一時間ほどでしょうか? サイズや質にもよりますが」

「ふむ。それならば我が国で賄えるな。できるだけ準備をしておこう」

「ありがとうございます」

「父上。壁と門だけならば、急がせて数日で完成できまする。十日後に本格運用を始めては?」

「うむ。お前が出来るというなら、そうしよう」

どうやらハンベエは一刻も早く、貿易を開始したいようだ。気持ちはわかる。こちらとしても、塩や新鮮な魚介類は大歓迎なので、早い分にはありがたい。

「それでは十日後で予定を立てましょう。式典などはいかがしますか?」

「当面はお互いに、指定した商人だけを使った方が良かろう。問題点を洗い出してからでないと、怖くて一般公開なぞ出来ぬ」

シンゲンの爺さん、武力だけでなく、頭も回るらしい。

「わかりました。こちらも人選を進めておきます」

「うむ」

カイル、こっちの商人はアキンドーに丸投げでよろ!

「しかし……」

シンゲンが髭を撫でる。

「あの巨大都市といい、蒸発薬といい、硬化岩といい、転移門といい、オリハルコンといい、ずいぶんと便利なものを、王国は秘匿していたものよ」

カイルは笑って返す。

「違いますよ、シンゲン様。秘匿していたのではなく、おっしゃった全ての技術は、この一年の間に、そこにいる錬金術師のクラフトさんが生み出したのです」

ちょっ!? カイルさん!?

「ほう……この全てを?」

「はい! 他に伝説品質のスタミナポーションや、ヒールポーションなども量産しています。また技術の普及にも熱心で、私が尊敬しているお方なのです!」

「ほうほう……天下一の錬金術師、というわけか。素晴らしいな」

「はい! クラフトに……さんは素晴らしいのです!」

待って、カイル!

三人のサムライが、獲物を見つけたオーガみたいな目で俺を見てるの! 気づいて!

俺はこの日ずっと、三人から熱い眼差しを向け続けられるのであった。

無論、カゲタカ以外の三人からである。

どうやら、カゲタカは、自分の前髪以上には、俺は気にならないらしい。お三方も見習って!

その夜。寝る前の頃だ。カイルが俺に向かって笑みを浮かべる。

「無事に終わって良かったですね。兄様」

「無事……なのか?」

次の日から、現人神ムテンと拝謁するまでの数日。

俺たちは国家間交渉と、接待地獄に陥ったのだが、なぜか出会う全てのミズホ人(亜人含む)から、ミズホ神国に勧誘されるのだ。

行かないよ!?

行かないからね!?

何度か、妙に美人だったり、可愛かったり、壮麗だったりな、色とりどりの見目麗しい女性たちに求婚され、そのたびにウチの女性陣に白い目で見られる場面が多々あったが……、概ね無事に忙しい日々が過ぎていったのであった。

とほほ……。

そして、とうとうムテン・イングラムとの謁見を許され、俺とカイルが代表として向かったのだが、現人神の住まう御所は、まさに人界と天界の狭間に相応しい場所だったのだ。