軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

175:政略結婚は、偉いさんの宿命だよなって話

ノブナの爆弾発言に、俺たち全員が驚愕に固まる。

いや、当人のマイナだけは、気がついてなかったようで、「う?」と顔を上げただけだったが。

ノブナは回りの視線に気づいてないのか、意図的に無視をしているのか、空気を読まずに進める。

「カネツグとマイナなら、年齢も釣り合うと思うのよ。王国が本気で友好関係を望んでいるなら、いい話だと思うのよ」

ようやくマイナが状況を理解し、顔を青くしながらペルシアにしがみつく。

それを見て、俺は思わず立ち上がっていた。

「ダメだ!」

自分でもなんで叫んだのかよくわからないが、とにかくダメだと思ったのだ。

俺はおびえて首をふるふると振っているマイナの姿を見たくない。

「マイナはダメだ!」

俺が否定すると、マイナが目を丸くしたあと、少し嬉しそうに俺を見ていた。

守らなければと決意する。

しかし、ノブナが不思議そうに俺を見上げた。

「貴方はマイナの親でも兄妹でのないのよ? 結婚は親が決めるものなのよ? 王国では違うの?」

「ぅえ!? いや、それは……」

平民の俺たちですら、結婚は親が決めることが多い。貴族ならなおさらだ。ノブナの言っていることは正しい。

だけれど……。

俺が返答に窮していると、シンゲンが食いついてきた。

「ふむ! それは良い! カイル殿! そなたの妹なら、カネツグにはもったいないほどの良縁だ! いかがか!」

それに対して、俺は反射的に答えてしまう。

「シンゲン様! 残念ながらマイナの成績は悪いですから!」

「ぬ?」

「カイルは恐ろしいほど優秀ですが! マイナは学園でも勉強はサボりがちなんです!」

しーん。

部屋中に沈黙が降りる。

……あ、あれ?

ぽかーんとする者、呆れて額を押さえる者、殺意の波動を向けてくる 者(ペルシア) 。

そして、もんのすごく冷たい視線を投げてくる 者(マイナ) 。

あああああああ!

やっちまったぁぁああああ!

俺は思わず、頭を抱えて転げ回った。

すると、カイルが苦笑気味に姿勢を正す。

「シンゲン様、本日のマイナは、私の妹という立場で一緒にいますが、本質的な地位としては、ベイルロード辺境伯の娘となります。ですので、マイナの婚姻に関しては、父上であるベイルロード辺境伯が決定しますので、ここでは返答できません」

「ぬ? そうなのか。では打診だけでも伝えて欲しい」

「お伝えはしますが、難しいとだけお答えしておきますね」

二人のやりとりに、俺はほっと胸をなで下ろした。

相手が誰であれ、マイナには納得のいく相手を探して欲しいもんだ。

「では、カイル殿にノブナをやろう!」

今度はシンゲンが爆弾を落としやがったぁぁああ!

「うぅん。カイル様は可愛いけれど、あたしは武人の方が嬉しいのよ」

ノブナが自分の気持ちを零すが、否定はしていない。

あくまで親の決定が優先ということなのだろう。

「シンゲン様のご厚意は嬉しく思いますが、国王陛下の血族より娶る方向で話が進んでいるのです」

え!?

初耳なんだけど!?

いや、でも、確かにカイルの立場なら、ヴァンが手放す訳がないか。

しかしそうなると、カイルの父ちゃんの嫁と同じような年頃の娘があてがわれるんじゃね?

嫁に出せるのが、成人前の娘ばっかりって言ってたし……。

「ふぅむ。それならば無理強いは出来ぬな。この話も打診はしておいてくれ」

「わかりました。陛下と父上にお伝えしておきます」

「どちらかでも、話が進むといいのだがな。ぐわははははは!」

口ではそう言ってるが、すでに諦めたのだろう、シンゲンはとっとと飯の話に戻っていった。

ハンベエは残念そうに、政治の話をカイルと始める。

うん。良かった。焦ったぜ。

「そんな話より、レイドックの剣を見せてくれない? 相当の業物よね?」

ソラルとエヴァに挟まれながら、料理をパクついていたレイドックが顔を上げると、左右の二人がノブナを警戒するように身を乗り出す。

どうやらノブナは鈍感なタイプではないらしく、三人の状況を即座に理解したらしい。

「大丈夫よ。武人として興味があるだけだから、取ったりしないのよ」

その言葉に、ソラルは安堵し、エヴァは疑わしげな表情となった。反応が大局的でおもろいな。

「見せるのは構いませんが、武器を取っても?」

レイドックが入り口近くに立てかけられた、自分の剣を示す。

護衛のペルシア以外の武器は、一カ所にまとめられているからだ。

カイルに聞いた話だが、実質この武器を預けるという行為は、礼儀上残っているだけで、ほとんど意味がないらしい。

武具がなくとも、魔法や、素手の技など攻撃方法はいくらでもある。

なので、立場の強い者は、護衛の数を揃えるのが普通だそうだ。

だからこそ、先ほどの会談で、シンゲンとハンベエとノブナの三人しかいなかったことに驚いたわけだが。

そんな事情があるので、レイドックが武器を取ることは、簡単に許可された。

リーファンの渾身作である、オリハルコンの剣をノブナに手渡す。

彼女がゆっくりと鞘から引き抜くと、艶やかな刀身がぬらりと姿を現した。

揺れるロウソクの明かりに合わせて、波紋が波打つ。

しばらく無言で見つめていたが、ようやくノブナがぼそりと零す。

「……凄いわね」

それ以上言葉が出ないのだろう。ゆっくりと息を吐いていた。

カイルと話していたシンゲンがそれに気づき、のしのしとやってくる。

「ほう……これは」

シンゲンが剣を取り、じっくりと眺める。

ひゅ。

空を切る音と、チンという鍔鳴りが同時に聞こえた。

それまで抜き身の剣を持っていたはずなのに、なぜか刀が鞘に収まっている。

やや間を置いてから、近くのロウソクが、三つに分かれて落ちた。

「え?」

状況を理解出来ない俺たちに、レイドックが説明するように話し出す。

「お見事です、シンゲン様。剣技も使わず、並ぶロウソクの一本だけを切りつけるとは。まとめて切ることすら至難の業でしょう」

どうやら俺の目に見えなかっただけで、シンゲンは剣を振り回していたらしい。危ねぇなこの爺さん!

「ぐわはははは! まさか見切られて避けられるとは思わなかったぞ! 見事だレイドック!」

「前髪がなくなると、モテなくなりますからね」

え? どういうこと?

俺の心の声がダダ漏れだったのか、ノブナが教えてくれる。

「お爺さまがレイドックの前髪を、数本切ろうとしたのよ。でも避けられちゃったから、ロウソクに八つ当たりしたのね。あたしでも視認するのが限界なのに、涼しい顔で避けてたのよ。あの男」

マジかよ。全く見えなかったんだけど。

「シンゲン様は凄いな」

「お爺さまの剣を見切ったあいつの方が凄いのよ。王国の剣士は化け物なのね」

「いや、レイドックを基準にされると困るぞ」

ゴールデンドーンの冒険者も、エリクシルの兵士も、強さは相当底上げされているが、流石にこいつと比べるのは可哀想だ。

「くのいちの娘も、相当な腕利きなのね」

「まぁ……こいつらまとめて例外だ」

「その例外と一緒にいる貴方も、例外じゃなさそうなのよ」

どうだろうね?

俺としては、ジャビール先生の足下にも及んでいないと思っている。

俺は紋章のおかげで、作れるもんは多いが、知識と研究で錬金術の質を押し上げている先生にかなう気がしない。

あれこそ本物の錬金術師の姿だろう。精進しなくては。

「立場的に身軽なので、同行してるだけですよ」

「ふぅーん?」

ノブナがずいっと身を乗り出し、俺を品定めするように顔を寄せる。

あの、ちょっと近いです!

女の子に慣れてないので、他意がないのはわかってても「こいつ俺に気があるんじゃね?」とか思っちゃうんです!

お願いします! 俺に誤解させないで!

じりじりと身をのけ反らせるも、ノブナの顔が離れてくれない。

うわ。まつげ長い。

って! 違う!

俺が慌てて視線をそらすと、たまたまエヴァと顔が合った。うん。もの凄く冷たい視線を向けてらっしゃる。

さらに、マイナがすくっと立つと、ツカツカとこちらに歩いてきて、俺のことをぺちぺちと蹴り始めた。

マイナについてきたペルシアも、 深淵の冥層氷獄牢(コキュートス) もかくやという、氷点下の瞳で俺を見下している。

なんで女子って、男子が女の子に近づくだけで不潔! って目で見るの!?

下心はないのよ! ほんと! 信じてぇ!

ノブナはマイナの行動と、周りの視線を見渡したあと、「ふぅん?」と楽しげに笑みを浮かべた。

「クラフトさんはモゲればいいんすよ」

ジタロー……お前はなにか勘違いをしている。

そんな感じで、夜まで続いた昼餐が終わった。