軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

173:親善は、誠意が大事って話

「ぐわはははははは! よくぞ来られた!」

派手な鎧を身につけている、髭の巨漢が豪快に笑っていた。

武士の身につける、ミズホ風の鎧だが、見るからに作りが良い。

巨漢は隻眼で、格好いい眼帯をしている。

さて、俺たちはノブナの案内で、ミズホ神国の城へと正式に招待されていた。

王国とはまったく印象の違う、謁見室に案内される。この国の調度品は木製のものが多い。シンプルなのだが、手の込んだ一品だと、素人にもわかるものばかりだ。

基本的に、木目なのだが、単調にならないよう、朱色や黒色で全体を引き締めている。

どんな塗料を使っているのか、どれも深い色をしている。そこにさりげなく金の装飾が施され、とても上品な飾りが多かった。

謁見室といっても、王国のように壇上があるわけではなく、椅子が向かい合わせで並んでいるだけだ。その椅子も、木の枠に、刺繍の美しい厚手の布が張ってある、珍しいものである。

独自の文化が育っているのが、これだけでも良くわかる。

ノブナに指定された席に着く。相手側の椅子は三つ。きっと三人来るのだろう。気になるのは、現時点で護衛の武士が一人もいないことだが。

すぐに、二人の武士が部屋に入ってきて、正対する椅子の前に立った。ノブナは残りの席へと移動する。

中央に座ったのが、隻眼の巨漢。

最後に、凜々しいがどこか疲れた様子の見える男。

そして髭の隻眼武士が開口一番に発したのが、冒頭である。

ぐわははと笑う武士に、慌てて俺たちは立ち上がり、礼を取る。

普通、こういう時って、進行役が「立て」とか「顔を上げよ」とか指示するもんじゃね!?

しかも、どう見てもお偉いさんなのに、護衛の一人もいないとか!

それとも、あの木と紙で出来ている壁の向こうに、武士が大挙しているのだろうか?

「お初にお目にかかります、私はマウガリア王国で、領地を任されております、カイル・ゴールデンドーン・フォン・エリクシル開拓伯と申します。この度は急な来訪にも関わらず、このような場を設けていただき、感謝の念にたえません」

カイルが挨拶をすると、隻眼の男が、残ったもう一つの瞳を大きく見開いた。

「ぐわはははははは! ノブナから、若く礼儀正しい領主だとは聞いていたが、話通りだったな!」

髭隻眼が姿勢を正す。

「ワシは現人神ムテン様より、国事代行である将軍を任されている、シンゲン・ヴィルヘルムである! 若き代表者よ、よくぞミズホ神国へいらした! 心より歓迎いたす!」

声がでけえよ、おっさん!

見た目通り、声も態度もでかい。だが、不思議と不快感はないな。

それにしても、気になる単語がいろいろ出てきたもんだ。

「はい。よろしくお願いします。ミズホ神国の儀礼や風習に疎いので、多々失礼をしてしまうかもしれませんが……」

「かまわん! ワシも礼儀や作法は苦手なのでな!」

ぐわははと笑うシンゲンに、隣に座る、目つきの鋭い男がため息交じりに突っ込む。

「父上。相手は一国の使者ですぞ。父上こそ礼儀を持って接してくだされ」

「む……」

「失礼いたしたカイル殿。私は御三家筆頭ヴィルヘルム家の家長で、ハンベエ・ヴィルヘルムと申す。以後お見知りおきを」

「はい。よろしくお願いします」

この国に来てからちょいちょい聞く、御三家ってのは、国の中枢貴族の称号かな?

察しがいいのか、そのままハンベエが続けてくれる。

「ミズホ神国は、ミズホの神を信仰する国家である。そして、古き時代に神の子として生まれた現人神が、連綿と血を紡いでいる。今の現人神がムテン・イングラム様となる。我ら御三家が、ムテン様を支え、政治や軍事をムテン様に代わり取り仕切っているのだ」

えーと、要約すると、ムテン様が一番偉くて、国王に近いんだけど、政治は摂政とかがやってる感じか?

なるほど、まず最初にムテン様に挨拶に行くべきだとアドバイスをもらったのは、正しかったわけだな。

「なるほど。私たちはマウガリア王国の代表として、ムテン様にご挨拶をさせていただけたらと思っています」

「ふむ。……即答はできぬ」

「はい。もちろんです」

「些事は全て、我ら御三家で話し合うことになっている。本来であれば、残りの二家も同席するべきなのだが、どうしても外せぬ用事があってな。代わりに将軍である父上……シンゲン殿に同席をいただいた」

「心配りに、感謝いたします」

カイルが改めて礼を取ると、シンゲンとハンベエがわずかに驚く。

「本当に、礼儀が良いな。最近の武士でも、その若さでその立ち振る舞いはなかなか身につかない。さすがその若さで領主となり、国の代表となるだけはあるな」

「ぐわはははははは! カネツグに爪の垢でも煎じて、胃の腑に流し込みたいところよ!」

「お爺様、それはもう私が言ったのよ」

カネツグってのは、クラーケン退治で魔物を召喚していた、白装束のおどおどした、ノブナの弟か。

じいちゃんからも不肖の孫だと思われてんのか。不憫な……。

豪快に笑うシンゲンを無視し、ハンベエが疲れた顔をカイルに向ける。いや、最初から疲れ顔だが。

「それで、貴国は我がミズホ神国になにを望んでいるのだ?」

「はい。まずは友好関係の樹立です」

「ふむ……、そちらの国に下れと言う話ではないのか?」

今度は俺たちが目を丸くする番だ。

「とんでもありません! ヴァインデック・ミッドライツ・フォン・マウガリー陛下は、魔物あふれる領域を駆逐するべく、全ての人類が手を取るべきだと考えております」

「ほう。それは興味深い。だが、夢物語にも聞こえるな」

「普通であればそうでしょう」

ハンベエが片眉を持ち上げる。

「では、普通ではないなにかがあると?」

「現在王国では、人類の生活領域を大きく広げ、全人類の課題であった、大量の食料生産を初めております。また、魔物に対する戦力も着々と増やし、街道の整備に力をいれております。ご許可をいただけたら、王国の予算で、街道の建設も厭わないと言われております」

「ふむ……。そして、その街道を使って、王国の兵がやってくると」

どこか面白そうにハンベエが口元を歪めた。

それに対して、カイルはにっこりと微笑む。

「それを口にする時点で、そうは思われていないのでしょう?」

「ほう……!」

今度はハンベエが目を丸くして、シンゲンに顔を向けた。

「父上。親善を結びたいという意思、信じても良いかと」

「うむ! お主がそう判断するならば、親善を前提に話を進めよう!」

「ありがとうございます」

即座にカイルが礼を取る。

どうやら、スムーズに話が進みそうだ。実際の腹の内まではわかんねぇけどな!

「それでは、なにから手をつけるべきか」

「王国の意向として、まず貿易を始めたいと思っております」

「ほう。だが、王国はここから離れた南の国で、さらに巨大な大河で阻まれておるだろう?」

「その件でお願いがございます」

「なんだ?」

ハンベエが思慮深げに、片肘をついた。

「大河を挟んだ王国の北の地域に、貿易都市の建設を認めて欲しいのです」

「ふむ。あの辺りはミズホの関与する地域ではない。他の小国が支配しているのでなければ自由にすれば良い」

「ありがとうございます」

この辺は事前情報通りだ。でもなければ、工事を進めていない。

ハンベエが少し無言で考え込んで、眉をしかめた。

「だが、南は……そちらの王国から見たら北になるが、あの周辺は魔物も多く、地形も険しい。都市の建設など難しいのではないか? 仮に可能だとして、何十年掛かるかわからぬ」

「いえ、最低限の貿易施設ならば、一月もあれば完成します。大型の船がありますので。さらに、大橋の建設も進めております」

「船と橋だと? 船はまだしも、橋は無理であろう? 川幅が広く、水深も深すぎる」

「それらは全て解決しております。完成も間近ですから」

「なんと! 王国の普請技術は進んでおるのだな」

「それもみな、こちらの錬金術師が優秀なおかげです」

ちょっ!

急に話を振らないで!

「ほう。錬金術師だと? 我が国には数名しかおらんぞ。錬金術師が街の建設とどういう関係があるのだ? あれはポーションを製造するのが仕事であろう?」

一般的に、錬金術師と言えばその認識だろう。間違ってはいない。

ジャビール先生の様な規格外が例外なのだ。

「この者が錬金した薬を使えば、丈夫な上に、形を自由にできる石壁を、量産出来るのです」

「それは……興味深い」

「貿易を認めてもらえば、錬金薬を輸出するのはやぶさかではありません」

この辺は国王であるヴァンに、交渉の材料として好きにするよう許可済みである。

「現物を見たいところだ」

「小規模なものなら、すぐにでも設置可能です」

「用意が良いものだな」

感心した様子でカイルを見つめる。

「ですが、それよりもこの国のお役に立てる商品もございます」

「それは?」

「伝説品質のスタミナポーションです」

「……なに?」

ハンベエが眉をしかめるのと、ノブナが呟いたのは同時だった。

「スタミナポーションって、少し疲れが取れるだけの薬よね?」

普通はその認識だろう。

「効果が大きく違います。陛下より預かった献上品の中に含まれておりますが、献上品はムテン様にお渡しするのと、こちらでお渡しするのと、どちらが良いのでしょうか?」

「こちらで預かろう」

「はい、では退出後、係の者に預けておきますね」

「うむ」

ハンベエが頷くと、それまでつまらなそうにしていたシンゲンが、ぐわりと口を開いた。

「そろそろ話は終わりで良かろう! 宴会だ! 宴会をするぞ!」

「え? 父上。まだ詳細を詰めなければ……」

「そんなものは、あとだ!」

「父上……」

「うるさい! ワシはもう腹が限界だ!」

「まったく……。カイル殿。ぜひ昼餐に招待したいのだが」

「謹んでお受けいたします」

「うむ。では、ミズホの幸を堪能して行かれよ」

こうして宴会が始まったのである。

……それにしても、将軍はうちの国王であるヴァンと、気が合いそうな男だな。