軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

172:手札は、いくつあってもいいよなって話

ノブナたちが、破壊された船の調査をし始めたので、お邪魔にならないようにその場を離れる。

すると、少し離れたところで、軽薄そうなイケメンがのんびりと岩の上に座っていた。

「よう! 凄かったな!」

チャラそうに片手を振ったのは、道中で道連れとなったルーカスである。

「お前、なにやってんの?」

「あん? なんか美人の武士が騎鳥で走ってたから、ケツを追っかけてきたんだよ。そしたらクラーケンと戦い始めたもんだから、見学してたんだ。遠目には俺好みの締まったいいケツをしてたからな。ナンパしてくる!」

「お前は……」

思いっきり脱力してしまう。

街中でノブナを見て、ここまで追っかけて来たのかよ。頭悪すぎだ!

「戦闘も終わったみたいだし、ちょっと声掛けてくるわ!」

俺たちに振り返ることもなく、ルーカスはノブナの方に走って行ってしまった。

あいつ。馬鹿だろ。

「ま、まぁ恋愛は自由ですし」

カイルは苦笑している。

「それよりも、観光を続けましょう。他にどんな文化があるかを知りたいですから」

「そうだな……ん?」

俺の視線の先に、妙に綺麗な砂浜が見えた。明らかに人の手でならされ、真っ平らの砂浜だ。

「ありゃなんだ?」

なんとなく、そちらに近づくと、複数の男たちが、海水を汲んでは浜に撒き、木のトンボを使って砂浜を綺麗にならす。

なんだあの無駄な行為。

観光用に綺麗にしているのかとも考えたが、北門で、観光ならやめとけと言われたことを思い出す。

近づくと、作業していた男が、大きな声を上げた。

「あんたら! それ以上こっちに来ちゃいかん!」

俺たちは慌てて止まる。

「えっと、ちょっと観光であちこち見て回ってて、これなにをしてるんだ?」

なにかの儀式だろうか。

「んあ? 見てわからんのか? 塩を作ってるだーよ」

「塩!?」

塩は生活に欠かせない食材の一つだ。王国では岩塩が主流で、お値段はそこそこする。

特に僻地にあるエリクシル領では、値段が大きく跳ね上がってしまった物資の一つだ。

「こうやって、海の水を太陽で濃縮して、砂に濃くついた塩を、煮詰めてくだよ」

「え? 海の水を?」

「ん? もしかして海をしらんのか? ちょっと舐めてみるとええ」

俺を含む何人かが、海に駆け寄って、その水をガブリと飲んでみる。

「ぶふぉっ!?」

俺はあまりの塩辛さに思わず吐き出し、男たちに笑われてしまう。

「ぶはは! 海水はあんまり飲むと死ぬかもしれんだよ」

「マジかよ!?」

「なんでも大量にとったら毒だよ。特に塩はいっぺんに食べたらあかんだよ」

「な、なるほど」

塩をたっぷり使うことなんてないから、想像もしてなかった。

それにしても。

俺はだだっ広い海を見渡す。

「これ全部塩かよ……」

「宝の山っすね! 持ち帰れないっすか?」

「塩ならまだしも、水は大量に運べねぇだろ」

すると男たちがまた笑う。

「だからこそ、こうやって塩にしてるだよ!」

「なるほど」

男たちが、近くで塩と海水を煮込んでいる場所を案内してくれた。

正確には、砂の塩分を海水に移して、より濃度の高くなった水を沸騰させているようだが。

気前よく教えてくれる男たちに、銀貨を握らせると、普通に喜んでくれた。武士と違って、普通に受け取ってくれたので、庶民にこの方法は使えそうである。

特にエヴァとリーファンが興味深そうで、色々と質問をしていた。

「なるほどねー。とにかく濃度を高めてから、少ない薪で塩にしてくんだね」

「海水をそのまま煮てたら、いくら薪があっても足りませんからね」

「あんたら飲み込みがええだよ! うちの息子の嫁にならんか!」

「えっと、それは、遠慮しておこうかな。ははは」

「私には心に決めた人がいますので」

「たはー! 残念だよ!」

彼女らの話を聞いていて、ふと思いつく。

「なあ、つまり、海水を蒸発させたら、塩がとれるんだよな?」

「そうだね……あっ!」

どうやらリーファンも同じ答えに行き着いたらしい。

「あの、ちょっとこの樽をお借りしてもいいですか?」

「可愛い子の頼みならかまわんけど、なんに使うだ?」

「ちょっと試してみたいことがあるんです!」

リーファンが桶に海水を満たして、俺の前に置く。

俺は頷いて、錬金薬を取り出し、桶に投入する。

ぶわっと激しい水蒸気が巻き上がり、すぐに桶の海水は全て蒸発してしまった。

「……やっぱり」

「な! なんじゃこれはぁ!?」

そう。俺が使ったのは、水分蒸発薬だ。

橋の建造にも、蒸気機関にも大活躍の錬金薬で、大量生産している。

「俺は錬金術師で、この粉は、水分を蒸発させる薬なんだ」

「なっ!?」

錬金薬は無害だし、水蒸気と一緒に全て消滅するので、味も変わらないはずだ。

結晶化した塩をひとつまみ舐めてみるが、特にへんな感じはしない。

念のため”鑑定”も試したが、普通に塩だった。

「こ、この危ない粉は買えるんか? 安かったら欲しいだよ!」

危ない粉ではない。粉末状の錬金薬なだけだ。失敬な。

蒸発薬の値段は安いが、売っていいのか即答できず、困ってカイルに視線を向けると、男たちにニッコリと笑みを向ける。

「私たちは、ミズホ神国の代表者とお話する機会があると思います。彼らが必要になるか聞いてみましょう」

「おお! きっとヴィルヘルム様なら理解してくださるだ!」

「よろしくお願いしますだ!」

明確な返答を避けつつ、かつ信頼を引き出す弟、さすがだぜ。

ヴィルヘルム様ね。覚えとこう。

俺たちは男たちに礼を言って別れると、距離を取ったところで集まる。

「いい情報を手に入れましたね」

「ああ。なんらかの交渉になったとき、カードの一枚になりそうだな」

「はい。それにしても、海があれば大量の塩を簡単に手に入れられそうですね」

「王国の南にも海はあるんだろ? そこで量産するのは?」

「王国の海は、まだ安全を確保してる状況じゃありませんから。むしろ、クラーケンのような魔物が定期的に現れるこの場所で、港を作っているミズホ神国が凄すぎますよ」

「確かに」

ここは大きな湾だから、比較的安全らしいとの話だったのに、あんな大型の魔物が出てくるのだ。よくもまぁ、港なんて作ったもんだわ。

「なにか、前提となる考え方が違うのかもしれませんね」

「ありうるな」

さっきの塩職人だって、少し先でクラーケンが暴れてたってのに、のんきに作業してたしなぁ。

文化の違いを意識しつつ、俺たちは視察と言う名の観光のため、街へと戻っていくのであった。

そんな感じで数日、遊びほうけていると、ようやく旅籠に使者が訪れたのだが……

「王国の使節って、あんたたちだったのね!」

開口一番に叫んだのは、クラーケン退治をしていた女武士、ノブナだった。

「なるほど、納得したのよ。王国にはあの蒼髪レベルの冒険者がたくさんいるのかと思ったけど、使節の護衛だから、特別な腕利きだったわけなのね!」

そりゃ、レイドックやソラルに匹敵する実力者が、たくさんいるわけがない。

たくさんいてくれたら、辺境の開拓も楽になるんだが、世の中そんなに甘くはないのだ。

ノブナがレイドックの前に立つが、レイドックは首を横に振った。

「俺たちはただの護衛だ。話はカイル様か、そのお付きに頼むよ」

「わかったのよ!」

カイルが改めて、礼儀正しく挨拶をする。

「こんにちは。貴女のご活躍は遠目に拝見いたしましたが、お話しするのは初めてですね。私はマウガリア王国で、領地を任されております、カイル・ゴールデンドーン・フォン・エリクシル開拓伯と申します。よろしくお願いします」

「へえ。若いのに領主なのね。領主って、城や砦を任されている将軍みたいな認識でいいのかしら?」

都市国家のミズホでは、理解しにくい概念なのかもしれない。

「ミズホ神国の政治体系を詳しく知らないので、断言は出来ませんが、その認識で大きくは間違っていないと思います」

「ずいぶんしっかりしているのね。弟のカネツグに爪の垢を煎じて飲ませたいのよ」

「いつも大役に震えるばかりです」

「……ほんとしっかりしてるのね」

目を丸くしていたノブナだったが、小さく咳払い。

「失礼したのよ。あたしはノブナ・ヴィルヘルム。御三家であるヴィルヘルム家の長女なのよ。よろしくなのね」

「はい。ノブナさん」

おっと、まさかここでヴィルヘルムの名が出てくるとは。

名前じゃなくて、名字だったのね。

塩職人の感触から、大物の家なのだろう。これは交渉に期待していいんじゃないか?

「クラフトさん。それはフラグっすよ!」

「お前と一緒にすんな!」

ジタローにだけは言われたくねぇよ!

……一応用心しとくか。

こうして、正式にミズホ神国から招待されたのである。

ようやく使節団として、前進だな。