軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139:女性のことは、メイドに聞くのが一番だよねって話

優柔不断でへたれだと思っていた錬金術師に連れてこられた、宝飾店なう。

ショーウィンドウ越しに覗いたことはあるが、店の中にまで入ったことなどもちろんない。

「え?」

困惑する私を無視するように、錬金術師は店主を呼ぶ。

「彼女に似合う色の宝石を探してる。俺は赤系がいいと思ってるんだが」

「え?」

店主は驚く私を一瞬だけ視界に入れたが、すぐに笑顔でクラフトに揉み手する。

「ええ、ええ。透けるような 水浅黄(みずあさぎ) 色の髪には、萌えるような赤が似合うでしょう!」

なんだろう、店主の発音が、なんとなく私が知っている「燃える」と違っていた気もする。

「ちょ! ちょっと待って!? なんでこんな所に!?」

半ばパニックに陥る私に、錬金術師は呑気に頭を掻いた。

「あー、ちょっと注意されたんだよ」

「注意?」

「ああ。食事を奢るのは、エヴァが言い出したことだろ? それだけだと、誠意が足りないって」

「いえ、そんなことは……」

「いや、俺個人としての謝罪というか、誠意もなけれりゃダメだよなって、反省したんだ。自分のアホさ加減に気づいた戒めとして、受け取ってくれると助かるんだが」

ずるい。

この男はずるい。

そんな言われ方をしたら、断れない。

あくまで、自分の失敗を補うためだからと念を押されれば、断れば相手の失敗を追求する形になってしまう。

本当にずるい。

「……わかりました」

私はそう答えるしかなかった。

すると店主がすかさずに宝石をかざす。

「それではこちらのルビーなどいかがですか? 芳醇なワインを思わせる深い赤みが特徴となります」

「んー」

クラフトがしばらく勧められたルビーをのぞき込んでいたが、首を横に振った。

「……いや、こっちのほうが彼女に似合うと思う」

「なるほど! カーネリアンですか! たしかに、彼女にはこちらが似合うかもしれません!」

店主は大絶賛しているが、ルビーに比べると、ややオレンジ寄りの宝石なので、どちらかと言えば、ルビーの方が似合うと思う。

ルビーと比べ、カーネリアンの方がお値段は安い。

最初に高価な宝石を提示しておいて、比較的お手頃な宝石に切り替えるあたり、こちらが断る材料を先に潰してかかってきている。

ペンダントでもつけて帰ったら、妹二人が大騒ぎだろう。

と、言い訳を考えていると、ふと右手が取られる。

(ん?)

錬金術師は、まるで躊躇なく 右手(・・) の 薬指(・・) に指輪を嵌めてきやがったのだ。

今日は魔法の指輪類は全て外してきているので、油断しまくりである。

ちょっ!?

意味わかってるの!?

私が騒ぐより早く、錬金術師は満足げに頷いた。

「うん。 左手(・・) じゃないから、大丈夫だよな」

意味わかってる!

婚約や求婚ほどじゃないけど、恋人なんかに贈る指だってわかってる!

私は思わず叫んでいた。

「私は、レイドック様が好きなんですよ!?」

後で考えると、めちゃくちゃ恥ずかしいことを口走っていたが、この朴念仁にはこのくらいしなきゃ通じなかったろう。

だけれど。

「あー。レイドックがいい男ってのは認めるが……ソラルがいるからなぁ。さすがに、諦めた方がいいんじゃないか?」

つまり。

レイドック様を諦めて、自分にしろと!?

「俺としては、ソラルのこともエヴァのことも好きだから、両方応援したいんだが……」

好き!?

頭の中がぐらんぐらんして、まともな思考が出来ない。

凶悪な、それこそドラゴン並みのヒュドラを前にしても、冷静を保っていた私の理性が、かくも簡単に崩壊している。

「サイズ調整が終わりました。どうぞ」

はっと気がついたら、いつの間にか時間が過ぎていたらしく、サイズ調整された指輪が私の指に収まっていた。

錬金術師が満足げに頷く。

「エヴァ。これが俺の誠意だ。受け取ってくれ」

断ろう。

はっきりきっぱりと断ろう。私は鋼の決意を抱いて、口にした。

「と……友達としてなら……」

「もちろんだ!」

あ、あれー!?

「さて、そろそろ飯の時間だ、行こう」

自分の言動にパニックになって動けない私を、錬金術師はしばらく首を傾げて眺めていたが、なにかを得心したように一つ頷いてから、私の手を取った。

「ふぁ!?」

「悪い悪い。まだこの街の地理に詳しくないんだよな。こっちだ」

私はそのまま手を引かれ、連行される。

そもそも、どこに行くのかすら教えてもらってないじゃないですか!

そう怒鳴ってやりたかったが、なぜか声が出せずに、目的地まで引っ張られていくのだった。

到着したのは、今まで入ったこともないような高級レストラン。

中央噴水の周辺には宝飾店やレストランなど、高級店が多い。

冒険者ギルドが近いので、存在は知っていたが、もちろん入ったことはない。

この錬金術師はそんな高級レストランに、迷いもなく入っていくのだ。

「クラフトさん、お久しぶりです」

出てきたのは小太りの男性で、笑顔で錬金術師に近寄っていく。

「よお、デザイルさん。酒場だけでなく、レストランの経営も始めたって聞いたから」

「ああ。普段は真面目な店長に任せてるんだが、クラフトさんが予約したって聞いたもんだから、今日だけこっちにな」

「わはは! 冒険者を相手をしてないデザイルさんってのは、なんか違和感があるな!」

「自分でもそう思うさ。さあ、今日は自慢の料理を堪能していってくれ!」

「ああ!」

中年小太りの男性をよく見れば、冒険者相手の宿酒場の店長デザイルである。何度か会ったこともあるが、今日は質のいいスーツ姿だったので、すぐにわからなかったのだ。

個室に案内され、二人っきりになる。

なんだろう、もの凄く緊張する。

前菜から始まるコース料理。

錬金術師は元冒険者のくせに、迷いなく食べ進めていく。

そうか、なんでスプーンやフォークがずらっと並んでるのかと思ったけど、外側から使っていくのか。

「クラフトさんは、もともと冒険者ですよね? どこでマナーを覚えたんですか?」

「ん? ああ。うちにはリュウコっていうメイドがいてな、時々コース料理が出てくるんだが、その時に最低限のマナーを教えてくれたんだ。それだけじゃなくて、辺境伯に招かれたときにも、カイルに少し教わった」

「なるほど」

辺境伯の食事となれば、当然最低限のマナーが必要になる。

国王陛下に召集されたときは、別室で冒険者や一般人が集められた食事だったので、あまり気にしていなかった。

レイドック様のパーティーにいるのだから、これからは重要になるかもしれない。

「私も、少しはマナーを覚えた方がいいかもしれませんね」

「なら、また一緒に食事するか? この店ならうるさく言われないしな」

「そうですね」

答えてから、気がつく。

これって、またデートの誘いなのでは!?

この男、ナチュラルに攻めてくる!

「いえ、あの……」

「今度は割り勘だな」

屈託のない笑顔を向けられ、私は「そうですね……」と小さく返すしかなかった。

食事は……美味しく、楽しく終わった。悔しいけど。

錬金術師は元冒険者ということもあり、共通の話題も多く、話が尽きることはなかった。悔しいけど。

店を出ると、外はもう暗く、錬金術師がさらにどこかに行こうと言い出すのではと警戒していたが、あっさりとわかれることになった。悔しいけど。

宿に戻ると、エヴァとマリリンから質問攻めにあった。二人とも恋愛などに興味ないと思っていたが、その目は輝いていた。悔しいけど。

私は二人を適当にあしらい、ベッドに倒れ込む。訓練よりも戦闘よりも疲れ果てていたのだ。悔しいけど。

泥のように眠ったことで、一部、悔しさを感じる部分がおかしかったことに気づいていなかった。

「お帰りなさいませ」

「おう」

俺が家に帰ると、メイドのリュウコが出迎えてくれた。

「うまくいきましたか?」

「ああ。リュウコのアドバイスのおかげだよ!」

もしリュウコが色々と助言してくれなかったら、単純に飯を奢って終わりだったろう。

それは不誠実っていうものだ。

「よろしければ、どのように行動したのか教えてください。箇条書きで」

難しいことを言うな。

俺は今日の出来事を軽く思い出しながら教える。

・きちんとした格好。

・相手に言われた食事だけでなく、自分の謝罪を形にして渡す。

・それはリュウコに言われたとおり、左手の薬指を避ける。

・きちんと友達になった。

・肩肘が張らず、かつ美味しい食事をご馳走する。

・マナーの勉強のために、また一緒に食事する約束をした。

「こんな感じかな?」

「わかりました。このお屋敷の部屋はたくさんありますので、いつ増えても大丈夫です」

「うん? ああ、わかった」

なぜ話が突然すっ飛んだのかわからないが、ジャビール先生の弟子とかが増えても大丈夫って意味だろう。俺は頷いておいた。

その時、リュウコがボソリと呟く。

「ご主人様をより正しく導くのも、私の役目です」

意味はよくわからないが、本当に頼りになるメイドだと、俺は心の中で満足していた。