軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

132:失敗したって、落ち込んでる暇はないって話

レイドックを先頭に集まってくれた冒険者のおかげで、俺たちの乗った はしけ(・・・) はあっという間に事故現場の水上に到着する。

「よし! 冒険者はパーティーごとに役割を決めろ! ジタロー! ソラル! お前たちはアーチャー系と一緒に、ロープを溺れている奴に放て! ロープの先に木片を結ぶのを忘れるなよ!」

「了解よ!」

「任せるっす!」

すぐにロープの準備を始める弓使いたち。

レイドックがばっと腕を振る。

「治癒が出来る奴はマリリンと一緒に隣のはしけに移動! どうやらけが人が集められているらしい!」

工事現場にはいくつものはしけが鎖でつながって、小さな島のようになっていた。

けが人が集められているのは、見えていたので、俺たちは人工島に横付けして行く。

水夫が何人かこちらのはしけに飛び移り、すぐに鎖ではしけ同士を繋げてくれた。

ついでとばかりに簡単な橋もかけてくれる。

マリリンや、治療の出来る冒険者たちが、急いでけが人たちの元へと走って行った。

「泳げる奴は、俺と一緒に水中に潜って救助活動をするぞ!」

「「「おう!!!」」」

レイドックの指示に、残っていた戦士や剣士系の冒険者たちがキレ良く返答するが、俺は即座に反対した。

「ダメだ! 危険すぎる!」

人間にとって、水の事故が一番怖い。魔物に襲われても、運が良ければ逃げ出せるし、強ければ返り討ちにすることもできる。

だが、水中はダメだ。呼吸が出来なきゃ死ぬ。亜人も同じだ。

リザードマンなら、人間より長時間潜れるかもしれないが、ずっとは無理だ。レイドックならリザードマン並みに潜ってられるかもしれないが、水中で事故って、浮かび上がれなかったら、確実に死ぬ。

そしてここは事故現場であり、なにが起きるか想像もつかない。

いくら人命救助とはいえ、そんな所に行かせられるわけがない。二次遭難、三次遭難は避けるべきだ。

俺はレイドックにそんな内容の話を織り交ぜ、反対する。

だが、レイドックはむしろ呆れた表情を俺に向ける。

「おいおい。お前のおかげでこんな無茶が出来るんだぞ?」

「は?」

意味がわからない。

「まさか忘れてるのか?」

レイドックは目を丸くしながら、ポーション瓶を取り出した。

見覚えがある。

何日か前に大量に作った錬金薬だった。

レイドックだけでなく、残った冒険者たちも同じ瓶を手にしている。

水中呼吸薬だ。

「なぁクラフト。俺一人なら危険な方法でも実行するが、他のパーティーメンバーを巻き込んでるんだぞ? 準備くらいしてる。現場が水中と聞いて、はしけにのるメンバーを水中呼吸薬を持っている奴を優先した」

ああそうだよ。レイドックは無理無茶無謀をやり通せる男だが、周りに強要するような男ではない。

反省。

「よし、クラフトとエヴァは現場責任者を探して、詳しい状況を聞き出してくれ! その後は俺に代わって指揮を頼む!」

「任せろ」

レイドックたちが次々と川面に飛び込んで行く。そのメンバーにカミーユもいたがいいんだろうか?

「あの、さっきからシリアスしてるところ悪いんだけど」

エヴァが魔法使いらしい帽子のつばをかするように、冷たい視線を向けてくる。

「さっきしたこと覚えてます?」

「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁあい!」

俺はその場で土下座した。

エヴァはしばらく俺を無言で見下ろしていたが、はぁと小さくため息を吐く。

「わざとじゃないのはわかってます」

「もちろんだ!」

元気よく答える俺に、もう一度冷めた視線を向けてくる。

俺は額を床に擦り付けた。

「今度ご飯でもごちそうしてください」

「了解だ!」

その程度で許してもらえるなら、安いもんだ!

つーか、最近は忙しすぎて、金を使う時間もないのだ。

「それより急ぎましょう。ギャグをやってる暇はないですよ」

「そうだな」

俺は気持ちを切り替え、遠見の魔法を使いつつ、辺りを見回す。

目的の人物はすぐに見つかった。

「リーファン!」

「クラフト君! 良かった! 来てくれたんだね!」

土小人(ノーム) のハーフで、ゴールデンドーンの生産ギルド長であるリーファンは、 帆柱(マスト) に抱きついていた。

はしけに取り付けられるような細いマストだが、小柄なリーファンが抱きついていると太く見えるのが不思議だ。

いや、そんな感想はどうでもいいな。

「……セミのまねか?」

「違うよ! 船から落ちないように掴まってるだけだよ!」

俺ははしけを見渡した。

リーファンのいたこのはしけは、とてもでかい。その中央部分に立てられているマストから水面までは長い材木二本分くらいの距離がある。

「もしかしてリーファン……」

途端にリーファンが顔を真っ赤にした。

そしてやけくそ気味に答える。

「そうだよ! 泳げないんだよ! 悪かったよ!」

「い、いや。文句を言ってるわけじゃないって! ただ、湿地帯とかで普通に戦ってたから……」

「足に地面が届いて、周りに樹木がいっぱいある状況と同じに見えるの!?」

「見えません! はい!」

思わず背筋を伸ばしてしまう。

マム! イエス! マム!

「と、とにかく状況を教えてくれ。そのままでいいから」

「う、うん。橋脚予定地点に矢板を打ち付ける作業中、水棲の魔物に襲われたの。それではしけが何隻か沈められて」

「はしけが沈められた? マジかよ」

普通の船と違って、浮かばせることに特化したはしけが沈むとは、いったいどれだけの攻撃を受けたのか。

「魔物は撃退したんだけど、水中に落ちた作業員の救出に手間取ってるの!」

「それなら大丈夫だ。レイドックたちがもう向かってる」

「そっか。さすがだね」

安堵の息を吐くリーファン。

帆柱にしがみつきながら。

リーファンの言っていた矢板ってのは、水の中に並べて打ち込み、中の水を抜いて、川の中に空間を作るための板のことだ。

橋脚の建設でもっとも大変な作業の一つである。

それがテスト段階で失敗……。

俺はぞっとしながら、現場を見回した。

すでに冒険者の活躍によって、要救助者は全員助けられている。

外傷はヒールポーションで、呼吸困難などの症状は神官の回復魔法や治療が施されている。キュアポーションも併用しているおかげか、なんとか死者を出さずにすんだ。

俺はリーファンに振り返り、強く頷く。

「リーファン。俺たちは辺境の恐ろしさを忘れていたらしい」

辺境開拓。

そうだ。忘れていた。

本来それは、死と同意語だったではないか。

「うん」

リーファンも頷く。

「だが……」

俺はニヤリと口の端を持ち上げてやった。

「諦めるつもりはねーよな?」

彼女は挑戦的な笑みを返す。

「もちろんだよ! 帰ったら反省会と対策会議だからね!」

そう答える彼女は、しっかりとマストにしがみついていた。

「締まらないっすね……」

どっから湧いた、ジタロー。