軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

128:立ってる者は、友達でも使えって話

「クラフトさーん! 遊びまーしょーっす!」

その日、生産ギルドの扉を潜ってきたのは、狩人のジタローだった。

いつも通り、ギルド内は職人たちや商品を受け取りに来た生産ギルド関係者などで埋め尽くされ、職員が忙殺されているというのに、間抜けな声で遊びに誘ってくるジタローは、心臓に鉄の毛でも生えているのではないだろうか?

「ちょうど良かった! 暇か!? 暇だよな!」

俺は間抜けに突っ立っていたジタローの両肩を掴むと、背後のリーファンが目をキラーンと輝かせる。

「ジタローさん! 暇よね!? 暇だよね!?」

「遊びに誘うくらいだ! 暇に違いない! 間違いない! ジタロー! お前は暇だ!」

「ぅえ? ま、まぁ暇っすけど……」

「よし! 護衛確保! 湿地帯に行ってくる!」

「うん! 気をつけてね!」

ジタローが珍しく呆気にとられているが、こんな時にやってくるのが悪い。

「ジタロー! 今すぐ旅支度! 数日分でいい! 今すぐスーパージェット号を連れてこい! 三〇分後に東門で落ち合うぞ!」

スーパージェット号とは、ジタローの愛馬……というか愛ポニーだ。

スタミナポーションで育てられ、ゴールデンドーンの特産となっている強馬と変わらない強さを持っているのだが、なぜかいつまで経っても見た目が変わらない、不思議なポニーだ。

「お、おうっす」

「気をつけてね! 二人とも!」

「できるだけすぐ戻る!」

俺も急いで簡単な旅支度を済まし、愛馬のブラックドラゴン号に跨がった。

東門に行くと、すでにジタローがスーパージェット号ににんじんを食わせている。

さすが狩人、急な旅支度でも問題無いようだ。

「んで、クラフトさん。どこに行くんですかい? はっ!? まさかエッチなお店じゃないっすか!? この街にはほとんどないらしいっすからね!」

「んなわけあるかい! それならリーファンが送り出すわけないだろうが!」

女の子に宣言してエッチなお店に行くとか、どんな変態だよ!?

だいたい、そんなお店に行くのは恥ずかしい!

「そうだよ! そんな所に行かなくたって、私がいるんだから!」

俺とジタローの会話に割って入ってきた人物がいた。

真っ先に目に入るのは豊満な胸!

次に気になるのは尾てい骨あたりから伸びる、爬虫類な尻尾。

凜々しくも可愛さの残る顔立ちは、誰もが美人と答えるだろう。

彼女はシュルル。ひょうたん沼村村長シャルレの娘、シュルルである。

危険な辺境の調査中に出会った、リザードマンの生き残りの一人だ。

リザードマンと言っても、彼女の兄であるジュララの様に、爬虫類の特徴を多く残す者もいれば、シュルルの様に尻尾と瞳以外は人間とほとんど見た目の変わらない者もいる。

つまり、ぱっと見は巨乳美人。

そんなシュルルが俺の腕にむぎゅうと捕まってくるのだ。はっきり言って焦る。

「ちょっ!? 当たってる! 当たってるから離して!?」

「当ててるの!」

「羨ましいっす! 羨ましいっす!」

肘に当たる謎の柔らかさぁぁぁあああ!

俺はやや強引にシュルルを振り払った。

「あんっ」

「シュルル。遊んでる時間はないだろ! 村づくりに行くんだろうが!」

俺がそう怒鳴ると、ジタローが「ああ」と手を打った。

「これから湿地に行くんすね? それで護衛が欲しかったってことすか」

「おう。話が早くて助かる。最近一人で街の外に出るのを禁止されてんだよ」

カイルだけでなく、リーファンにまで禁止されてるので、渋々従っている。心配なのはわかるが、ちょっと過保護じゃね?

これでも元冒険者なんだが。

もっとも今回はシュルルも同行するので、護衛をつけるのは妥当なところだろう。

今から向かう湿地帯では、リザードマンの村を建設中。すでに最低限の住み家は完成して、リザードマンの大部分は現地に引っ越し済みだ。

シュルルは人間とほとんど同じ見た目なことから、ゴールデンドーンに用事があるときは彼女の仕事になっている。

通信の魔導具があるんだからそれを使えばいいじゃないかとも思うが、俺の方からしか繋げられない欠点がある。

シュルルに通信を繋げると、延々と会話を求められるので、ちょっと大変なのだ。魔力もそうだし、時間も取られる。

なにより……。

「クラフト様! 一緒の馬に乗りましょう!」

「大丈夫だ。ちゃんとカイルに馬を借りてきたから」

「ええ? でも私、馬が苦手で……」

「湿地帯からここまで馬で爆走してるのは知ってるぞ」

「あんっ」

「なら、おいらのスーパージェット号で一緒に――」

「さあ出発しましょう! クラフト様!」

シュルルが湿地帯からこの街に戻ってきたとき、なぜか開拓伯から借りていた馬を返却したと聞いて、先手を打っておいたのだ。

(油断できねぇ……!)

俺も男なので、好意を寄せられるのは嬉しい……嬉しいのだが!

「よし、まずはリーファン町に向かうぞ」

「おっけーっす!」

「はい!」

こうして俺たちは街道を爆走した。

ゴールデンドーンとリーファン町の間には、とても広い街道が整備されている。

輸送用の大型馬車が余裕で六台横に並べるほどの広さで、もちろん全て錬金硬化岩で舗装されている。そこにラインを引いて、車線として区分。片道三車線となる初めての整備街道だ。

最初、上りと下りが分けられた街道に、初めの頃は商人たちも戸惑っていたが、リーファン町できっちり説明するだけでなく、大商会となったアキンドーの商隊が他の商人たちにルールを教えたことで、すんなりと伝わっていく。

また、街道には早馬用の道も整備されたので、馬を走らせても商隊や通行人の邪魔になることはない。

そんなわけで早馬用の道を三人爆走しているわけだが……。

「クラフト様!」「クラフト様!」「クラフト様!」「クラフト様!」「クラフト様!」「クラフト様!」

シュルルのアピールが凄いの!

彼女の好意は嬉しいが、圧が凄いの!

適当にあしらいつつ、とにかく進んでいくと、ようやく夜となる。

「よし、あそこの休憩所に一泊しよう」

街道にはいくつもの休憩所が設置されている。

錬金硬化岩で作られた四角い味気ない建物で、井戸と暖炉と安物のベッドしかないが、無料で使える。魔物に襲われたとき逃げ込めるシェルターもかねていた。

食糧や薪は持ち込みである。

移民が住み着かないよう、雇った冒険者がこまめに見回っているので、中は割と綺麗だ。

休憩所に入ると、何人かの商人や旅人が乾し肉を炙りながら雑談している。

「ベッドはまだ余ってるか?」

俺が尋ねると、商人が和やかに振り向く。

「ああ。沢山余ってるよ」

「それにしても、こんな設備を大量に設置してくれた辺境伯様ってのはどんな人なんだろうな。ゴールデンドーンに着くのが待ち遠しいよ」

「設置したのは辺境伯じゃなく、開拓伯だぞ」

「そうなのか? その辺はよくわからんが、ありがたいことに変わりはない。辺境の果てと聞いてたから、過酷な旅を覚悟してたんだ」

「旅は辛くないか?」

どうこういって、ゴールデンドーンまでの道のりは果てしなく長い。普通に考えたら、辺境伯領からリーファン町までですら、普通の商人は絶対に行かないような場所なのだ。そのリーファン町からゴールデンドーンまでの道のりは、その比ではない。

「街道に入ってからはびっくりするほど順調だよ。道が整備されてるから、馬車の車輪が外れることもないし、冒険者や他の商隊護衛が魔物を倒してくれてるおかげか、魔物も出ないし、こうやって寝る場所もあるからな」

「そうか。それは良かった」

そのまま彼らと少し雑談してから、ベッドに潜り込んだのだが。

当たり前のようにシュルルが同じベッドに入ってくる。

「あの、シュルルさん?」

「はぁ……はぁ……! いいよね!? いいよね!?」

こういう時は、リザードマン特有の縦長瞳孔が怖い!

「良くないから! 何一つ良くないから!」

「大丈夫! クラフト様は天井の染みを数えてるだけで……はぁはぁ!」

「いいわけあるかぁ! 自分のベッドに戻らないと、俺は今すぐ帰るぞ!」

「ええ……」

「戻りなさい!」

渋々布団を出て行くシュルル。

これだよ!

シュルルが求めているのは子作り! とにかく子作りを迫ってくるので、困るの!

この件に対して、彼女の兄であるジュララにも相談したのだが、その時の言が。

「リザードマンにとって、強き者の子を産むのは誉れだ。クラフト殿は英雄だからな。なに、嫁や妾にしろなどとは言わん。遊び感覚で子種をわけてやってくれ」

だった。

出来るかぁあああああああ!

そういうのって、こう、将来結婚した相手とするものだろうがぁああああああ!

と、内心で叫んでいると、ジタローがジト目を向けてくる。

「クラフトさんって、変なところで潔癖っすよね」

「潔癖って……普通だろ?」

昔の冒険者仲間が、時々娼館とかに行っていたのは知ってるが、俺には無理だった。

もしかしたら教会の経営する孤児院で育ったからかもしれんが、将来を誓い合った相手以外にそんなことはしたくない。

「興味はあるんすよね?」

そりゃ! あるけど!

思わず叫んでしまう。

「エッチなことはいけないと思います!」

「クラフトさんなんて燃えちまえばいいんすよ!」

なんでだよ!