軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

123:いくつになっても、学ぶのは大事だよなって話

ジャビール先生が我が家で暮らしはじめた。

先生が生産ギルドを手伝ってくれるようになり、連日の徹夜からようやく解放された。

最近は朝食を食べる余裕も出てきたが、今日は特にゆっくりだ。

その理由は、今日が週に一度の教師の日だからである。

カイル学園で、元冒険者の知識を生かし、魔物に対する知識や、簡単な戦闘方法。他にも魔法の基礎理論を教えたり、他の町の様子を教えたりする。

ようは、危険な辺境で身を守る知識と技術を少しでも身につけてもらうための勉強を教えているのだ。

大事な仕事なので、ギルドが忙しい最中でも、教師は続けている。

ジャビール先生と一緒に暮らすようになって、朝食も賑やかだ。

メイドのリュウコが作るご飯はとても美味しい。のんびりとベーコンを突いていると、先生が切り出してくる。

「そうじゃクラフトよ。私もときどき教師をやることになったのじゃ」

「え? 先生が?」

「うむ。今は貴様が教えている魔法の基礎を中心に受け持つことになる。カイル様が貴様が忙しすぎると心配しての」

「カイル……」

ほんまええ子やで!

「しかしそれだと、先生が忙しくなってしまうのでは?」

「私は今のところ、カイル様の主治医としての仕事くらいしかないのじゃ。だから気にすることはないのじゃ」

「負担でないならいいんです。生徒たちも先生に教えてもらった方がいいですからね」

「貴様の魔法知識は、ちと我流な部分もあるからの」

「お恥ずかしいです」

冒険者時代は金がなかったから、先輩冒険者の魔術師なんかに頭を下げて基礎を教えてもらってたからなぁ。

学園で初歩の初歩を教える分には、そこまで問題ではなかったが、ジャビール先生が教えてくれるのなら、完璧だろう。

「座学は私が受け持つ。攻撃魔法や防御魔法の実戦を教えるのは貴様に任すのじゃ」

「お任せください! 先生!」

「うむ。では学園に行くのじゃ」

「わかりました! 家のことは頼むぞ、リュウコ」

「はい」

ぴしりと隙のない礼で、リュウコが送ってくれた。

俺と先生は並んで学園に向かう。

このゴールデンドーンはかなり治安がいいが、犯罪がゼロではない。俺は気合いを入れて先生を護衛することにした。

なんぴとたりとも先生に悪さはさせん!

「クラフト、歩きにくいんじゃが……」

なぜか怒られた。

巨大な学園に入ると、沢山の生徒たちが校舎に向かって、楽しげに歩いていた。

ゴールデンドーンでは子供たちが学園に通うことが義務になっている。

子供でも労働力という常識を覆すのに、カイルはそうとう苦労したようだ。

午前中だけでも、働ける子供を取り上げられるのだから、親にしたらたまったもんじゃない。だが、昼食の無料配布や、子供を学園に通わせた親への補助など、手厚い保護をしたことで、今では普通に受け入れられるようになっている。

もっとも、ゴールデンドーンの好景気あってこその政策だが。

玄関ホールに向かうと、ベップ、バーダック、モーダの三人が立っていた。

彼らはレイドックたちと袂を分かち、新たにパーティーを組んでいる。

「なんだ、今日の警備はお前たちか」

「クラフトか。久しぶりだな」

答えたのは魔術師のバーダック。

最近生産ギルドが忙しかったせいで、彼らがパーティーを組んでからほとんど顔を合わせていない。

「ああ、元気そうでなによりだ。でも、お前たちほどの実力者が学園の警備かよ?」

「今日は午後の一般教室に参加する。だからちょうどいい仕事だったんだ」

「なるほど」

学園では、午前に義務教育の子供たちが勉強をする。そしてお昼の給食を食べたら帰宅するのだ。

そして午後は、読み書きや計算の出来ない一般人や、より高度な教育を受けたい人のために、自由参加の教室が開かれている。

もちろん亞人や獣人も参加できる。

バーダックのことだ、冒険者ギルドでジャビール先生の高度な魔術教室のことでも聞きつけたのだろう。

「なんであれ、お前たちが警備なら安心だな」

「ああ。任せておいてくれ」

俺は三人に手を振って、教員室へと向かう。

義務教育である午前の部は、六歳から一六歳までの、一〇年間だ。

十六歳からは成人となるので、その後は自由参加の高等教育となる。

午前の部は、一〇年なので、本来は一〇学年あるのだが、まだ学園が始まったばかりの関係上、現在は三つの学年しかない。

六~八歳のクラス。

九~十一歳のクラス。

十二~十五歳のクラスの三つだ。

俺が受け持っているのは十二~十五歳のクラスである。

教室に入ると、学生たちががやがやとおしゃべりをしていた。

「よーし、みんな席につけー。今日から俺の授業の座学は、ジャビール先生が教えてくれる。凄い先生だからみんなよく話を聞くんだぞ」

「「「はーい」」」

生徒たちがばらばらと席に着いていくなか、一人だけ微動だにしない人物がいる。

実力はたしかだが、どちらかというと、残念な騎士であるペルシアだ。

彼女は教室の後ろで直立不動している。

ジャビール先生の授業を受けに来た、訳ではない。もちろん理由がある。

それは。

「……ん」

俺も教室の後ろに行く途中、一人の生徒が俺に向かって顔を向けてきた。

きらめく金髪と整った顔立ちの少女。つまりカイルの双子の妹であるマイナである。

ペルシアはマイナの護衛なのだ。

どうでもいい話だが、カイルは正式に貴族の領主となったことで、名がカイル・ゴールデンドーン・フォン・エリクシル開拓伯となった。

しかし、マイナはマイナ・ベイルロードのままである。

早くカイルにいい嫁さんが来てくれないと、エリクシル家はいつまでも一人だ。

学園の教育は身分にかかわらず平等という理念を打ち出している。

だからマイナも通っているのだが、さすがに貴族の娘を無防備に平民と一緒にさせるわけにはいかないのでこんな形になったのだ。

俺はマイナとすれ違いざま、彼女の頭をぽんと撫でてやると、ふんすとやる気を見せてくれる。

その時、近くから元気な声が上がった。

「なぁ! クラフト兄ちゃん! あの先生って子供じゃん!?」

「なに!?」

失礼なことを言う奴は誰だ!?

声の出所を見れば、孤児の悪童。狼の獣人である、エド・ケンダールだった。

悪童というか、わんぱくな奴だ。

彼は、ルインセント教の神官であるアズールが運営する孤児院の子供である。

アズールは獣人なのに神官になった凄いやつだ。俺と幼馴染みということもあり、ゴールデンドーンに来てもらい、教会と孤児院の運営をしてもらっている。

俺がエドを叱りつけるより早く、隣に座っていた兎の獣人が、怒ってくれた。

「こら! 先生に向かって失礼でしょ!」

「えー? でもちっちゃいじゃん?」

「まだ言うか!」

エドと同じ孤児であるサイカが、エドとお互いのほっぺたを引っ張り合いを始めてしまう。

すると今度はレッサーパンダ獣人の男の子が、おどおどと仲介を始める。

「ちょっと二人とも……だめだよ。もう授業の時間だから……」

「「カイは黙ってて!」」

「あう……」

カイと呼ばれた少年は、涙目になって、助けを求めるように横に目を向けた。

カイの隣に座っていた猫獣人の少女が、のほほんと振り向く。

「うーん。ほっとけばいいとおもうのー」

「ええ……止めてよワミカちゃん……」

「無理かなー」

簡単に仲裁を放り投げられ、途方に暮れるカイ。

このエド、サイカ、カイ、ワミカの四人は血の繋がりはないが、カイルから苗字を送られ兄妹となっている。

今は孤児院の人数が増えたが、この四人は最初からのメンバーで、孤児院のまとめ役となっている。

エドはガキの頃の俺にそっくりで、どうにもほっとけない。

エドとサイカの関係が、昔の俺とアズールを思い出させる。

収集がつかなくなりそうなので、そろそろ止めるかと思ったら、それより先に、なんとマイナが立ち上がり、ケンカをしている二人の横に立つ。

どうするのだろうと見ていると、横に立つペルシアが、わずかに鯉口を切る。

いやいやいや!

大人げなさ過ぎだろペルシア!?

そんな俺たちの内情を知らないマイナは「ん」っと声を漏らしながら、エドとサイカの肩を叩く。

二人ははっとして、動きを止めた。

「悪いマイナ」

「ごめんね、マイナさん」

特にマイナが何かを言ったわけではないのだが、二人は冷静さを取り戻したのか、大人しく席に戻っていく。

するとマイナがこちらを向いて、ふんすを鼻を鳴らした。

(素晴らしいです! マイナ様!)

隣から心の叫びが聞こえて来た気がする。

落ち着け、ペルシア。

俺も軽く頷き返してやると、マイナは満足したように、自分の席につくのだった。

「ふむ。では授業を始めるのじゃ」

成り行きを見守っていたジャビール先生も、満足げに授業を開始する。

マイナ、成長してるな。

そんな学園を作ったカイルも、頑張っているマイナも、なぜか誇らしい。

俺はそのまま先生の授業を聞いていたのだが……。

どんどんと気分が落ち込んでいく。

(おいクラフト。どうした? 顔色が悪いぞ? 体調が優れないのではないか?)

(……いや、先生の授業が素晴らしくわかりやすくてよ。思いっきり自信をなくしてる)

(……そうか)

今までどや顔で、生徒たちに教えていた俺を、誰かぶん殴ってくれ!

(私が斬ろうか?)

(斬るな!)

ちくしょう!

俺も頑張らないと!