軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

110:危険なほど、仲間は見捨てられないよなって話

俺が神酒を造ったことで八ツ首ヒュドラは俺に向かってまっしぐら。

それを知ったレイドックパーティーが突出する危険を冒してまで、俺とマイナのところに来てくれた。

涙が出そうなほどありがたい。

レイドックとソラルの二人が最初に到着、遅れてベップとバーダックが追いつくが、二人とも息が上がっている。

さすがに重武装タイプのモーダは追いついていないようだ。

「レイドック! ヒュドラを俺の背後方向には近寄らせないでくれ!」

「なに!? ……わかった!」

俺の頼みに、一瞬だけ怪訝な顔をしたが、すぐにマイナがいる方向だと悟ったのだろう、レイドックの動きが徐々にヒュドラを別方向に逸らす動きへと変化する。

さすがだ。

ソラルに向かってヒュドラの首が高速で伸びてくる。

でかい図体なんだから、どっしり構えてやがれ!

ソラルが突進を避けようと横っ飛びするが、わずかに避けきれない。

「〝虹光障壁〟!!」

発動の早い防御魔法をとっさに発動。

あの巨体を防げるような魔法ではないので、ヒュドラの勢いを逸らすだけだが、そのわずかな隙に滑り込むように、ソラルはギリギリで攻撃を回避した。

「ナイスよ! クラフト!」

魔力は自然回復するものだ。

だが、今のように少し回復するたび、防御魔法に使ってしまうので、でかい魔法を放つほど魔力をためられない。

「……バーダック!」

レイドックがパーティーメンバーの魔術師であるバーダックの名前を叫ぶ。

「お前は引け! 後続と合流しろ!」

「……な! だが!」

「お前が一番わかってるだろ!? 今だけは足手まといだ!」

「……ぐっ!」

レイドックはきつい言い方をバーダックに飛ばす。

だが、俺にはわかる。そこまで言わなければ、バーダックという男はこの場を離れないのだろう。

……少しうらやましい。

だが、この場に到着して、魔法を放ち続けたバーダックの魔力はとっくに空っぽだ。

せめてリザードマンや冒険者たちと連携できる状況だったら、ここまで魔力を使う男ではなかっただろうが、五人しかいない状況で出し惜しみはできない。

なにより、バーダックは紋章を持っていないのだ。

魔力の回復速度という点で、圧倒的に不利である。

残酷なようだが、状況的に魔力の尽きた魔術師は邪魔だ。

だが、バーダックは昔の俺と違って、ちゃんと活躍したうえでの撤退だ。胸を張って欲しい。

だから俺は叫ぶ。

「バーダック! あとは任せろ! エヴァたちと合流して、現状を伝えてくれ! 作戦はさっき言ったとおり! 再び追いつく頃にゃ、少しは魔力は戻ってるだろ? そんときゃ冒険者たちと一緒に参加してくれ!」

そうだ。バーダックは紋章なしでこれほどの魔術師になった男だ。

俺は相性の悪い紋章で苦労し、バーダックは紋章を刻めなかったことで苦労した。俺には彼の気持ちが痛いほど理解できる。

絶対に役立たずなんかじゃない!

俺の内心が聞こえたのか、渋っていたバーダックがはっと顔を上げる。

「そうだな……ああ。伝令役、確かにたまわった! 戻るまで耐えろ!」

「「任せろ!!」」

俺とレイドックの声が重なった。

背を見せて走り出すバーダックに、ヒュドラの首が高速で伸びる。

「はっ! 見え見えなんだよ!」

どうやらレイドックはヒュドラの動きを読んでいたようで、絶妙なタイミングで伸びる首の下に滑り込んでいた。

剣を深く構え、わずかに溜める。

本来なら大きな隙だが、レイドックの先読みが勝り、バーダックに向かって伸びていたヒュドラの首は方向転換ができない。

「このチャンスを待っていた! くらえ! 〝紅蓮昇竜剣撃〟!!」

レイドックが、炎を纏って、下から斬り上げた。

まるで炎の竜が空に昇っていくように。

初めて見る技だが、あれは強力だ!

今まで使っていなかったのは、溜めが必要で、繰り出すタイミングが難しかったのだろう。

バーダックを下げたのは、この隙を生む理由もあったのかもしれない。

レイドックの剣技は凄まじかった。

見事にヒュドラの首を切り落とし……てない!?

わずかに、首がつながっていた。

普通に考えたら、即死だが、この蛇野郎の再生力は凄まじく、皮一枚しかつながっていない部分から、急速に再生を始める。

「ちっ!」

追い打ちをかけようとするレイドックだったが、残りの首が執拗に襲いかかる。

「くそ! あと一撃で!」

レイドックが怨嗟の叫びをあげた。

「レイドック!」

手札はまだある!

瞬間増強薬(ブーストポーション) だ!

材料が特殊で、なかなか生産できない薬であるため、今回もたった二瓶しか用意できなかった錬金薬である。

肉体能力を飛躍的に高める薬なのだが、効果時間が一瞬で、とにかく使いどころの難しい薬品だ。

この手札を切るなら、今!

「レイドック! ブーストするぞ! 効果は一瞬だが……やれるか!?」

チラリとこちらを振り返り、不敵な笑みを見せてくる。

「誰にものを言ってる! 任せろ!」

ああそうだった。

ゴールデンドーンのエース。レイドックだったな!

レイドックと視線が交差する。それだけで、十分だった。

俺は渾身の力で、ブーストポーションを誰もいない場所へ投擲。

「え!?」

近くで弓を放っていたソラルが、それを見て驚愕する。

だが、大丈夫だ。

レイドックがヒュドラと対峙しながら、急にフェイントを入れ、横っ飛びする。もちろんそのあいだ、ヤツはポーション瓶を見てもいない。

だが、レイドックが飛び込んだ位置は、見事に俺がポーションを投擲した場所だった。

瓶が魔力で消滅し、レイドックの全身へまんべんなくブーストポーションが降りかかる。

「行くぞ! 〝風雪乱斬〟!」

身体能力が跳ね上がったレイドックが、まるで蒼い稲妻のような動きで、ヒュドラの首攻撃をかいくぐり、自己修復中の首へ剣技を叩き込んだ。

ギュモガァァァァァアアア!!!

それはまさしくヒュドラの断末魔。

回転しながらすっ飛んでいくヒュドラの頭。その表情は怨嗟に満ちていた。

「さすがだぜ! レイドック!」

レイドックが一瞬ニヒルな笑みを浮かべるも、すぐに険しい表情に戻り、剣を構え直す。

すでにブーストポーションの効果は切れていた。

「油断するな! まだ五つも首は残ってんだからな!」

ですよね!

首が減って楽になると思いきや、怒り狂ったヒュドラの動きはむしろヤバい。

自らが傷つくことすら気にならなくなったのか、とにかく動きが速く、強烈だ。

むしろ、この巨体相手に、よく俺たちだけで耐えてるよな!

なりふり構わなくなった、ヒュドラの攻撃に、俺たちは完全に押さえ込まれ始める。

神官のベップも紋章持ちだが、細かい回復魔法を飛ばしまくっているせいで、魔力は枯渇気味だ。

レイドックたちの治療が徐々に追いつかなくなっている。

もちろんヒールポーションを併用しているのだが、俺もベップも魔力が回復するあいだ逃げ回っているので、手が回らない。

俺たちを守るため、レイドックの負担が増えている。

そして、とうとう、戦線が決壊した。

俺の魔力が枯渇したタイミングと同時に、それまでレイドックとやり合っていた首が、突然俺に向かって突進してきたのだ。

家より巨大なヒュドラの頭である。防御魔法の使えない俺に、防ぐ手立てはない。

俺は自爆用の魔法爆弾を起爆させるタイミングを計る。

「レイドック! 最後に隙を作る! あとは任せたぞ!」

爆弾一つじゃ殺りきれないかもしれない。

だが、隙を作れば、レイドックがとどめを刺してくれる。

首を一つ減らせば、あとはみんながなんとかしてくれるだろう。そんな安心感の中、避けきれないヒュドラの頭が接近するのを不敵に睨みつけてやるのだ。

「このあほう! 〝豪腕豪打ぁぁぁあ〟!」

信じられないことに、レイドックが姿勢を崩しながらこちらに走り込み、俺を突き飛ばしたのだ。

その結果は言うまでもなかろう。

レイドックがヒュドラの突進をもろに喰らい、空中高くに回転しながら吹っ飛んでいった。

「「レイドック!!」」

俺、ソラル、ベップが悲痛なまでに叫びを上げた。

だが、あれはまずい!

やつのことだ、あの一撃で死にはすまいが、動けるような怪我じゃない!

それがわかっているのか、ヒュドラは俺たち三人を無視して、レイドックに突っ込んでいく。

「クソが! こっちに来やがれ蛇野郎!」

ソラルが弓矢で、俺とベップがなけなしの魔力で魔法を放つが、今出せる魔法など、ヒュドラには痛痒すら与えられない。

激しく吹っ飛んだレイドックが、地面に叩きつけられ、とてつもない距離を回転しながら転がっていく。

普通ならあれだけで即死だ。

「クソ……が……」

だが、さすがはレイドック。死んではいなかった。

剣を杖にして、かろうじて上半身を起き上がらせる。

全身血だらけだ。

今すぐヒールポーションを使いたいが、遠すぎる!

そして、ヒュドラは今まさに、五つの首をレイドックに伸ばすところだった。

畜生!

神酒が効いていてあの動きかよ!

反則だろ!

突進するヒュドラが、レイドックを食い破る、その瞬間。

「〝鋼荊薔薇牢獄〟!」

突如、レイドックを覆うように、鋼鉄の薔薇が出現した。

「なっ!?」

勢いよく突進していたヒュドラは、鋼鉄の 荊棘(いばら) に突っ込み、その勢いで全身に傷を負い、悲鳴を上げてその巨体をのけぞらせた。

レイドックを守るように展開していた鋼鉄の薔薇が、しゅるりとどこかへ消える。

かなり凶悪な防御呪文だ。

こんな強力な魔法を放てる人物と言えば……。

「待たせたわね」

つば広のとんがり帽子に、見事なマント。

年季の入った見事な杖。

もちろん、キャスパー三姉妹の長女、エヴァだった。

女神かよ!

俺は内心で喝采するも、次の瞬間すぐにそれを否定した。

「レイドックしゃまぁああぁぁぁあああ!?」

傷だらけのレイドックを見て、女神だと思った魔術師は奇天烈な悲鳴を上げていた。

「今、治しますからねぇ~。〝重傷治癒〟」

慌てずレイドックに駆け寄ったのは、三姉妹の三女マリリン(巨乳)である。

彼女は高度な治癒魔法で、レイドックの傷を治していく。

女神はマリリンだったよ。

次女のカミーユがすぐさま三人のフォローに入る。

今、ヒュドラは痛みで怯んでいるが、すぐに自然治癒して襲いかかってくるだろう。

千載一遇のチャンスなのに、攻撃手段がない!

エヴァは今の防御呪文で魔力を大きく減らしているだろうから、極大系の呪文は期待できない。

ヴァンかアルファードがいてくれれば追撃できるものを!

その時、男の声が奥から響く。

「ふん。待たせたな!」

俺は、二人が来てくれたのかと、期待を込めて声の主に振り向く。

そこに現れたのは、カイルの兄であるザイードだった。

俺は心の中で、絶叫する。

(待ってねぇよ!!)