軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

102:虚勢をはるのは、時と場所を考えろって話

危険な湿地帯の中央部まで足を踏み入れたレイドックたちは、とうとうザイードたちを見つける。

ソラルが連絡員として、彼らに接触するため、移動を始めようとした時だった。

突然、ソラルの耳にとんでもない声が飛び込んでくる。

それは信じられないことに、今まさに決死の覚悟で進む予定の場所から聞こえてきたのだ。

「聞け! 我が兵士たちよ! あれこそがこの湿地の主に間違いない! どのみち逃げ道などないのだ! 剣を掲げよ! 心を奮い立たせるのだ! 全てはこの一戦にかかっている! 突撃!」

レンジャーの紋章を持ち、耳の良さには自信のあるソラルが、自らの能力を疑ったのはそれが初めてである。

続いて聞こえてきたのは、兵士たちの雄叫び。

「「「うおおおおおおお!!!」」」

彼らは隠れていた黒い大木の根元から、飛び出し、無謀にも八ツ首八ツ尾の巨大ヒュドラに突っ込んでいったのだ。

あまりの出来事に、一瞬硬直していたソラルだったが、すぐにレイドックを振り返る。

「レイドック!」

レイドックはソラルの声にはっとして、悪態をつきつつも、すぐに全員に指示を飛ばす。

「シュルルチーム以外、全員巨大ヒュドラに突撃! 絶対に助けるぞ!」

冒険者とリザードマンの合同隊も八ツ首ヒュドラに突っ込んでいくことで、ようやくザイード隊と合流した。

謎のヒュドラを合同隊に任せ、レイドックは責任者としてザイードを探す。

「ザイード様! 救出に来ました!」

レイドックが叫ぶ。

すると、兵士たちに突撃と叫んでいたザイードが振り返り目を剥いた。

「なんだ貴様らは!?」

レイドックは内心で、問答する暇があるのかバカ野郎と悪態をついたが、なんとか飲み込む。

「カイル様の命により、ザイード様を救出に来た冒険者のレイドックと申します! 直ちに兵をお引きください! あの化け物は俺たちが抑えます!」

安堵してくれるかと思いきや、なぜかザイードは怒りを露わにする。

「なんだと!? カイルの!? ……ええい! この私に恩を売ろうというのか!? 浅ましい!」

(何言ってんだ、このおっさん!?)

レイドックは叫ばなかった自分を褒めてやりたかった。

「……っ! カイル様はザイード様の事を心の底から心配していました! とにかく! 問答している時間はないんです! 今すぐ後ろに下がってください!」

「なに! 冒険者風情で私に命令するというのか!?」

冒険者とリザードマンの混合部隊が、ザイード兵の前に割って入ることで、辛うじて死者は出ていないが、レイドックの目から見ても、この八ツ首ヒュドラは危険すぎる。

一秒でも早く、部隊に指示を出さないといけない状況で、ザイードと問答している余裕はないというのに、まるで話が通じない。

ジュララが代理で指揮しているおかげで、まだ戦線を維持できているが、リザードマンである彼は、人間中心の冒険者をうまく活用しきれていない。崩れるのは時間の問題だ。

むしろ、これだけの指揮をぶっつけでやれているジュララは優秀である。

だが、今、この状況では足りない。

(だいたいあのヒュドラ! 八ツ首のくせにでかすぎる! 丈夫すぎる! しかも動きがはええ!)

黒い植物の森を見たときから、覚悟していたが、やはり尋常じゃない魔物と化している。

唯一の救いは、コカトリスの時のように、大量の魔物がこの黒い植物を食べてはいなさそうな事だ。

レイドックは様々な感情を飲み込み、ザイードに吠える。

「あれは危険過ぎます! 今すぐ撤退を!」

「撤退……撤退だと!? この私が!?」

「ここは場所が悪すぎます! 完全にヒュドラのテリトリーなんです! ここで戦うのは無茶です!」

せめて木々が薄くなっている場所でなければ、隊列すらまともに組めないと、内心で叫ぶ。

怒りで怒鳴ったザイードだったが、ふと、ヒュドラと冒険者たちの戦いに目を向ける。

「……貴様レイドックと言ったか。あれを倒すのに協力しろ」

「……は!?」

「見たところ、貴様らはなかなか腕が立つ。私と同じ戦列に立つ許可をやろう。協力しろ」

レイドックはあまりの物言いに絶句した。

「あのデカイ魔物は、この湿地帯の主だろう。詳しくは知らぬが、ダンジョンや一部の地域では、主がいるのだろう? ならばあれを倒せば、この湿地帯は安全になる」

ザイードの言葉に、レイドックは衝撃を受ける。

(物言いは心底腹が立つが、たしかにあれはこの湿地帯の主だろう。ザイードの言っていることにも一理ある。あのヒュドラを倒せば、残りのヒュドラが連携を取ることはなくなる。だが……)

「貴様が問答している暇がないと言ったのだろう! つべこべ言わずに戦え!」

ザイードは引かない。気絶させて運ぶ訳にもいかない。

レイドックに取れる手段はなかった。

「……ぐっ! 兵士はザイード様をお守りください! 冒険者部隊は拡散しろ! ドラゴンと違って動きがはやい! 遠距離攻撃に徹して、弱るまで近寄るな! リザードマン部隊は冒険者をフォロー! 湿地帯ではお前たちが頼りだ! 守ってやってくれ!」

レイドックはすぐさま指示を飛ばす。

戦力にならない邪魔な兵士をザイードと一緒にまとめ、攻撃力の高い冒険者を火力とし、そのフォローに湿地に強いリザードマンを当てることで、最低限の機動力を確保する。

「それにしても、あの巨体でなんていう速度だ!」

足場の悪い湿地帯を、縦横無尽に駆け回るヒュドラに舌打ちした。

戦力を分散したことで、吹っ飛ばされる冒険者も多いが、ペアになっているリザードマンがすぐさま救い出し、ヒールポーションを使う事で、どうにか死者は出ていない。

固まっていたらまとめて吹っ飛ばされておしまいだったろう。

広く分散する事で、ヒュドラは攻撃目標を絞りきれない様子で、イラついているのが見える。

(ここで殺るしかない!)

レイドックはオリハルコンの剣を握りしめ、八ツ首のヒュドラに突っ込んでいった。

さて、この時の俺といえば、そんなレイドックの苦労をつゆ知らずに、マイナと一緒にのんびりと過ごしていた。

マイナのお手伝いを暖かく見守りつつ、自分の仕事をこなしていく。

「……おっと、そろそろレイドックに通信を繋げる時間だな。マイナ、ちょっと待っててくれ」

「ん」

マイナを椅子に座らせ、俺は通信の魔導具を起動する。

通信の魔導具は、消費魔力が大きすぎることから、俺から発信しない限り通信できないようになっている。

正確にはジャビール先生に渡した指輪は俺と同じ能力を持っているが、先生から他のメンバーに通信をつなげることはないので、除外していいだろう。

基本的に俺からの一方通行なので、時間を決めて定時連絡を取るようにしている。

朝食後のこの時間に連絡することになっている。

探索チームのリーダーであるレイドックに、精神感応の許可を求める通信をだす。

まさに、それと同時だった。

湿地帯の中心部方向から爆音が聞こえたのは。

「な、なんだ!?」

俺はマイナを庇うように立ち上がる。

『クラフト! 聞こえるか!?』

「レイドック!?」

通信の魔導具で、レイドックが精神感応を許可したのだろう。

やつの見ている視界や音が、俺の脳へと流れ込んでくる。

信じられないことに、そこら中の木々が折れていて、めちゃくちゃに倒されている景色が脳内で見えた。

一瞬、レイドックが暴れた跡かとも思ったが、それにしても規模がでかすぎる。

……いや、ちょっと待て!

よく見たら、荒れた湿地のあちらこちらに、傷だらけの冒険者とリザードマンたちが転がっているじゃないか!

「なにがあった!? レイドック!」

『グッ……見えるか、クラフト……あの魔物が!』

共有しているレイドックの視界が遠くに向けられる。

視界の先まで、木々が倒れ、巨大な何かが通った跡なのは一目瞭然だ。

破壊跡の先に、黒く、巨大な何かがいる。

『クソ! そっちに向かってやがる! 逃げるんだクラフト!』

「あれがさっきの爆音の正体かよ……!」

レイドックが睨みつける先にいたのは、暴走する巨大なヒュドラ。

それも、八ツ首八ツ尾の巨大ヒュドラだった。

木々をなぎ倒し、冒険者を吹き飛ばし、まっすぐに進む黒い巨体。

「レイドック!? 大丈夫なのか!?」

『こっちはかまうな! なぜか急にそっちに向かってまっすぐ移動しはじめた! とにかく逃げろ!!』

俺はレイドックの視界を薄めて、自分の視界を上げる。

先ほど、大きな音がした方向。めきめきと大木が倒れていた。

間違いない! 八ツ首ヒュドラがこっちに迫ってる!

「レイドック! 切るぞ! なんとか自力で合流してくれ!」

『ああ! 今は逃げろ!』

大木が倒れる音が近づいてきていた。

俺は舌打ちしながら、通信の魔導具を切り、立ち上がりながらマイナを担ぐ。

「う?」

「すまん! 時間がない! カイルたちと合流する!」

「……ん」

俺が荷物のようにマイナを脇に抱え、一緒に護衛しているキャスパー三姉妹とジタローを呼ぶ。

「みんな! ドラゴン並のヒュドラが来るぞ!」

「え? ドラゴン並のヒュドラですか?」

エヴァが首をかしげる。どうやらよくわかってないようだ。

「奥から聞こえてくる破壊音が近づいてくるのがわかるだろ!?」

「レイドック様が活躍しているだけではないんですか?」

まずい!

俺たちにとって、ヒュドラがたいした障害になってないのが徒になってる!

たかがヒュドラと、全員が油断しているのだ!

「とにかく今はカイルと合流して――」

そこで、ひときわ大きな破壊音とともに、マングローブ林の一部が吹っ飛び、折れた枝と、大量の水が巻き上がった。

地面から吹き上がる水の壁となり、すべてを打ち上げる。

水のカーテンの向こうから、巨大なヒュドラの頭が、ずるりと姿を現した。

「は、速すぎる……」

八ツ首のヒュドラは、ドラゴン並の巨体だというのに、恐ろしい速度で俺たちの宿営地に到着する。

ずざざざざと、蛇の這うような音とともに、巨大八ツ首ヒュドラは宿営地のど真ん中へと滑るように割り込んできたのだ。

この時点で、マイナ組とカイル組が分断された。