軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07 ユルルクの日常

翌朝、ステラはギルドの買取カウンターが開くのと同時に顔を出した。

「急ぎの査定お願いしまーす」

持ってきた薬草は高級回復薬『魔力ポーション』の材料だ。しかもカウンターにたっぷり。

「ステラちゃん、待ってたわぁぁぁあん♡」

ギルド職員のマダム・シシリーが大量のハートを振りまいてステラを出迎えた。

ステラがユルルクに来たはじめの頃、右も左も分からない彼女に色々と教えてくれた恩人がマダム・シシリーだ。別名『ユルルクの母』と呼ばれる素敵なアラフィフである。

戸籍がないステラには冒険者の登録証「ギルドカード」が大切な身分証明書になる。面倒見の良いマダム・シシリーはギルドカードの発行から、アパートの手配までしてくれた。

過去を明かせないと正直に言っても、「私もよ」と追及することはなかった。

だからマダム・シシリーが困っていることがあったら、通常依頼は後回しでステラは駆けつけるつもりだ。

「どうですか?」

「文句なしの鮮度抜群よ♡助かったわ。まとめ買いの人がいたから欠品して困ってたのよ」

「安くはないのにまとめ買いですか。珍しいですね」

「身なりのいい金持ちだったわ。でもこれだけあれば、しばらくは大丈夫そうよ」

この薬草は刈り取ってから早めに加工しないと効果が薄れる。しかも高ランクの魔物が住む森の奥地にしか生息していないため、足を踏み入れることのできる冒険者は限られている。

その限られた冒険者の中でもステラは身体強化のゴリ押しで駿足。誰よりも早くいい状態の薬草を持ち帰るため、ギルドに重宝されていた。

「昨日出発よね?今日納品だなんて、珍しく野営でもしたの?」

「いえ、夜には帰ってきましたよ。黒狼に襲われてたパーティを手助けしたので、わずかに営業時間に間に合わなかったんです」

「あぁ、あの街の外から来たパーティね。道草しても日帰りしちゃうスピード……相変わらず規格外ね」

薬草の生息地は街から遠く、移動と採集作業で通常二日はかかるところだが、ステラは一日で達成させてしまう。

「さすが登録から最速でソロランクBまで昇格したルーキーね♡ねぇAランク試験を受けたらどう?受験資格あるんでしょ?」

「受けませんよ。私がBランクまでこれた理由を思い出してください」

「そうねぇ……」

二人で軽く目をつむり答え合わせをする。

メインはギルドの依頼で、週に数回ホールの一角で回復魔法の有料サービス。臨時治療院と呼んでいる。

次に特別認可を得て、Aランク指定の危険地帯での薬草採集。魔物に遭遇したら全力ダッシュで逃亡。

あとは行方不明になった冒険者の捜索依頼。生きて見つけたら回復魔法と支援系魔法でギルドまで引率。ひとりの時に魔物に遭遇したら全力ダッシュで逃亡アゲイン。

逃げるのが難しい時は一心不乱に魔法の乱れ打ちで、魔物はズタズタ。高ランクの魔物なのに買取価格は雑魚と同額まで落ちてしまっていた。

「あら、まともな魔物討伐が思い出せないわ。Bランクだけど中身は運のいいCランクという残念さ」

「これでAランクになって、指名依頼を失敗したり断るとランクポイント減るじゃないですか。しかも罰金付き。あっという間にBランクに戻ると思います」

「確かにね〜なら攻撃魔法の練習して精度上げなさいよ。そうしたら解決よ」

「あははははは……」

ステラは乾いた笑いをこぼしながら、そっと視線を逸した。

攻撃魔法は使えなくは無いのだが、あまり周囲に知られたくないのだ。

Aランクになってしまうと、ギルドだけでなく国の指名依頼も受けなければならない。そこには国のダンジョン討伐隊の支援も含まれている。

ステラが抜けてから一年経つが、未だにダンジョン踏破は達成されていない。

ユルルクはダンジョンから遠いためまだ支援依頼は来ていないが、王都に近い街のギルドでは有力な冒険者が前線に行ったという噂だ。ステラはAランクになってしまうことで、国に自分の存在が知られることを避けたかった。

(絶対に前線には戻りたくない……あそこは嫌な思い出が多すぎる)

ほぼタダ働きをして、騎士より貧しい生活をして、婚約詐欺に遭い、命を狙われ、仲間と思ってた人たちに捨てるように見放された。

ステラは脳裏に浮かぶ当時の光景に、僅かに顔色を悪くした。

「ごめんなさいね。向き不向きがあるのに期待を押し付け過ぎちゃったわね」

マダム・シシリーは申し訳なさそうにステラの頭を撫でた。

「いえ、良いんです。長く冒険者生活を送るには上達するに越したことはないんですし。次、倒せそうな魔物に遭遇したら自分でトドメをさしてみます!」

ステラは満面の笑みを作って答えた。

期待されるのは嫌いじゃないし、もっと上手に魔物を倒せるようになりたいのは本心だ。

「無理しちゃだめよ」

「はい」

報酬を入金してもらい、ギルドカードを更新する。増えた残高にステラはニンマリした。

そして今日はギルドのホールで希望者に有料で回復魔法を施す臨時治療院の日だ。ギルドの治療院は国の登録が不要でガッツリ稼げるので、ステラにとっていい収入源になっていた。

既にホールにはステラに怪我を治してもらおうと冒険者が何人も待っている。怪我の期間が長引くほど森に行けず、生活に関わるから少し料金が高くても人気だ。

「さて、頑張りますか!」

ステラは気合を入れて治していく。足の腱が切れたもの。骨が折れているもの。中には魔物に噛まれ出血したものもいたが、テキパキと全員治していった。

一段落し、休憩しているとひとりの大男がステラの前に現れた。

「おい。少し来いや」

「ごめんなさい。今休憩時間なので緊急でなければ再開まで待っててください」

「うるせぇなぁ。俺のこと忘れたんじゃないだろうな」

そう言われてステラは顔をまじまじと見た。

その大男は先日森で回復魔法を施してあげたBランクの冒険者ジョニーだ。悪すぎる人相のお陰で覚えていた。

最近隣街からユルルクに拠点を移したらしいのだが、素行の悪さが原因で追い出されたともっぱらの噂だ。

「忘れてませんよ。謝礼金の期限延長の相談ですか?まだ振り込まれていないようですが」

「延長だぁ!?勝手に治しておいて金を取るたぁ随分良いご身分だって言ってんだよ。払うわけねぇだろ」

「あれ?礼をさせてくれってジョニーさんが言ったから、討伐報酬の三割をギルド経由で請求したのですが」

ジョニーが睨みをきかせ威圧してくるが、前線の修羅場を潜ってきたステラには体の大きい子犬にしか見えない。

ユルルクの冒険者たちはいつでもステラの助けに入れるよう構えているが、ギルド内での私闘、特に乱入騒ぎは法度。ステラは視線で制する。

「では不要です。次は回復魔法をかけて欲しい時は前払いのみとします」

「ちっ、それじゃぁ俺がケチつけてるみてぇじゃねぇか。礼はしないって言ってるわけじゃない」

「お金以外ということですか?」

「あぁ!アンタずっとソロだって話じゃないか。確かに可愛くない性格だが、俺は器がでかい。俺様がパーティを組んでやろう。謝礼の代わりに稼がせてやるぜ」

ジョニーは得意顔で言った。「お前もソロじゃねぇか」と思うが、口には出さない。

「お断りします」

「テメェ、この俺が誘ってるのに断るのか!」

「そうです」

パーティになれば報酬の分配率は自由。自分が大半を頂いた上で、ステラに無料で回復魔法をどんどん使わせたいのだろう。

この手のパーティの誘いは何度もあった。そんな搾取されることはごめんだ。

「何が気に食わねぇ」

「態度も見た目も懐の小ささも全てです」

「たいして戦えない回復術士で、女のくせに何様だ!」

わざと煽ったステラは胸ぐらを掴まれ、もう片方のジョニーの拳は掲げられた。このまま殴られたら頬の骨は砕けるだろう。

しかし防御の魔法は発動させない。

一方的にジョニーを悪役にして、今後ユルルクで大きな顔をさせないようにする必要がある。

(みんな、反撃はしないでよ)

ステラは痛みを覚悟して目を瞑った。

しかし数秒待っても痛みは来ない。代わりにジョニーの苦痛の声が聞こえ、目を開けた。

「――――!」

目に映ったのは振り上げた拳を掴まれ、痛みに耐えるジョニー。

そしてジョニーの拳を止めているのは、異国の藍色の織物のマントを羽織った長身の男だった。