軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14 訪れる変化

ステラとリーンハルトがコンビを組んで早二ヶ月。

ある臨時治療院の日、ステラは行列の長さに気が遠くなりそうだった。

最近長くなっていた気はしていたが、今日は特に長い。

「どこを怪我をしましたか?」

「ここの足首を捻ったんだ。折れてたら……と心配で」

「分かりました、 回復(ヒール) 。はい、料金はその魔道具にギルドカードをかざして下さい。では次の方」

魔力を効率よく使うために、ピンポイントで回復魔法をかけていく。

「あなたは……血が滲んでるところですね。 回復(ヒール) 」

「さすが早いな」

「はい、次どうぞ」

淡々と流れ作業で終わらせていくが、それでも列はまだ長い。魔力ポーションを瓶二本は飲まないと、最後まで持たなそうだ。

しかしポーションは魔力が増えるのに比例して、吐き気や目眩など副作用が出てくるため何本も飲めるわけではない。

「魔力が切れそうなので、ポーションついでに休憩入ります。続きは後程いたします」

ケチをつける声が聞こえるが、魔力と体力が無ければ続けられない。

ステラは遅めの昼御飯を食べに二階の食堂へと向かった。

「ステラ、お疲れさま」

「ハル帰ってたんですね」

薬草採集から帰ってきていたリーンハルトが昼食をとっているところだった。ステラも当たり前のように同じテーブルに座った。

「もう薬草依頼は終わったんですね」

「もちろん。ステラは心配しなくても大丈夫だよ」

ステラが訓練を始めてからは薬草の依頼を受けることが減り、代わりにリーンハルトが行くようになった。

ドラゴンの勘ですぐに見つけてしまうだけでなく、ステラ以上の俊足なので昼で帰ってくる強者だ。

「それより回復魔法を受ける人が多すぎないか?前はこんなに多いようには見えなかったが」

「私が薬草を探すために森を縦横無尽に走らなくなって、怪我をした冒険者と遭遇することがなくなったんです。たぶんその時に治してたような人たちが来てるんだと思うの。あとは新顔が多いから別の街から来たのでしょうね」

最近は低ランクの依頼が少なくなるほど、ユルルクに冒険者が増えたと聞いている。隣町だけではなく、遠い街からくる人も多く感じていた。

実際にギルドのホールには以前より人が多い。

ため息をつくステラに、リーンハルトは心配そうな視線を向けた。

「ふーん。だとしても、ひとりで大丈夫か?」

「大丈夫!私が訓練したくて、 そ(・) う(・) なっちゃってるんですし」

ステラは気丈に答えた。

冒険者の怪我は、現役生命に大きく関わる。自分の都合で引退を決断する人を出したくなかった。

しかしリーンハルトの表情は不満げだ。

「どうしましたか?」

「ステラが大丈夫なら良いんだ……悪い。気にするな」

「分かりました」

気を取り直して、ステラは魔力ポーションを飲んでからご飯を食べ始めた。

ポーションも飲んだら速攻効く訳ではなく、空腹で飲んでも数分は必要だ。

ご飯を半分ほど食べた頃、一階から大きな声が響いた。

「回復術士のステラはいるか!?重傷者だ!コイツらを治してくれ」

ステラは慌てて二階の吹き抜けから下を見た。運ばれていたのは痛みで呻く五人の重傷者。

「今いきます!」

ステラは階段を使わず、手すりを乗り越えて飛び降りた。

重傷者の服はみな血に染まり、意識レベルが低い。

「Dランクパーティのヤツらだ。ユルルクの森の中央で黒イタチの群れに襲われてたんだ」

「なんでそんな奥まで」

このパーティはランクに合わない森の奥へ踏み込んだらしい。

しかし文句を言っている時間はない。

「 回復(ヒール) 、 拡大(エクスパンド) 」

一刻を争うため、全員まとめて回復魔法をかけた。

服をめくって傷口を確認するが、無事に全員治ったようだ。このうち三人はすぐに目を覚ました。

「助かった。ありがとう」

「いえ、ご無事で何よりです」

ステラは笑顔で答えるが、魔力はスッカラカンで疲労感は隠せない。先程飲んだポーションの分の魔力も思ったより使ってしまった。

あと一本飲んだとしても、残りの怪我人を診たらすぐに魔力は底をつきそうだ。

「ハルごめんなさい。一晩では明日の森に行けるほど回復できなさそうです」

「仕方ないよ。まだ続けるのか?」

「怪我の重い人だけ終わらせて今日は早仕舞するしかなさそうです」

すると一部の冒険者から文句が出るのは当たり前で、並んでいた若いパーティが詰め寄ってくる。

「こっちはずっと並んでたんだ。せめて並んだ順にしてくれよ。治してもらえないと明日森へ行けないじゃないか!」

「生活かかってんだ。重いやつを優先するのは当たり前だろ。軽症なら街の治療院でやってもらえ」

中年冒険者のパーティも加わり、口喧嘩が始まってしまった。

運悪く、いつも冒険者の仲裁をしてくれるマダム・シシリーやオジサマ冒険者は不在だ。

あっという間に若手対中堅の構図が出来てしまう。

「治療院だと薬だけで回復魔法はかけてもらえないかもしれないだろ。俺らは無傷の万全の態勢で森に入りたいんだ。若手のチャンスを潰そうとするな」

「馬鹿野郎。お前らはまだこれから稼げるじゃねぇか。俺ら中年は先が短ぇ。今のうち稼がなきゃならんから、ステラの噂を聞いて隣街から治療しに来たんだ!こっちが先だ。なぁステラ!」

「――――え?」

全員の視線がステラに集中した。床が水面になったかのように、足元がぐらついたが食いしばる。

「若手、中堅関係なく怪我の重い人だけ回復魔法をかけて、今日は終わりです!治療方針の判断はギルドマスターから一任されています。意見は変わりません」

ステラは強い口調で断言した。

若手だろうが中堅だろうが、ステラにとって命の重さは変わらない。

だが加熱しきってしまった冒険者はそれでは納得しなかった。

「なんだよ。治療してもらえると思って、昨日強い魔物を相手に逃げずに無理したのによぉ。それで金だって用意したんだ」

「また数日休まなきゃいけないの?予定が狂っちゃうじゃないのよ」

「というより、ステラが走る姿をみてねぇな。最近その亜人とばかり一緒にいるようだが、回復魔法を独り占めか?」

矛先はリーンハルトにまで飛び火した。ステラは慌てて弁明する。

「違う!ハルは私の特訓に付き合ってくれてるだけなの」

「へーへー、俺ら怪我人よりも大切な特訓って、どんな特訓なんだかなぁ――――!」

中堅冒険者がステラに舐めるような目線を向けた瞬間、ステラの視界はリーンハルトの背中で埋まった。

「さっきから自分勝手だな。文句を言っている奴らは何様だ」

リーンハルトの低くなった声には怒気が含まれていた。声を荒らげていないからこそ、恐ろしさが静かに広がった。

「あなた達はどうして怪我をした?気を抜いていなかったか?身の丈に合わないエリアに足を踏み入れたり、魔物の深追いはなかったか?装備は万全だったか?まさか……パーティでもないステラありきの狩りをしてるんじゃないんだろうな」

「そ、それは……」

先ほどまでの勢いはどこに行ったのか、喧嘩をしていた冒険者たちは視線を泳がした。

「怪我した理由をステラに押し付けるな!未熟さを棚に上げるな!金で解決できると思うな!この臨時治療院もステラの良心で成り立っていることを忘れたのか!忘れ、自分を過大評価し、慢心した瞬間に死ぬぞ」

ホールが静まり返る。みな痛いところを突かれたのか、顔色が優れない。

しかし若手の冒険者のひとりだけはリーンハルトの前に出て引こうとしない。

「アンタは ステラ(回復術士) を常に連れていけるから、そんな事が言えるんだ。アンタだけ死を恐れず、強い魔物を狩れるなんてズルい」

リーンハルトが高ランク魔物を何回も納品しているのを目撃していたらしい。

ランクこそステラと同じBランクだが、リーンハルトの実力はAランク以上なのは明白だ。他の馴染みの冒険者では周知されていること。

だからステラも安心して訓練が出来ていることを、この若者は知らないようだ。

「何がズルいだ。回復術士が近くにいれば死なないと思っている時点で考えが甘い。即死すればお前は終わり。連れた回復術士を守れなければ全員終わりだ。そんな無謀な戦いをする自分本位なやつの所に、戦闘が苦手な回復術士はついていかない。自殺行為だ」

「――――っ」

ド正論の前についに最後の勢いも消え、静寂に包まれた。

庇ってくれたお礼を言いたくて、ステラはリーンハルトの腕を引いた。

「ハル――――」

「ステラも、ステラだ!」

ステラの言葉はリーンハルトに遮られた。

「自分の力を安売りして、価値を下げるようなことするなよ!俺はもっとステラに――――」

リーンハルトはハッとしたように口を手で押さえた。彼の金色の瞳には、目を見開くステラの顔が映っていた。

「熱くなりすぎた。八つ当たりだ……ステラ、ごめん」

彼はぐっと眉間に皺を寄せると、ステラの手を振り解いてギルドの外へと出ていってしまった。