軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12 ユルルクの日常

リーンハルトが準備運動をしている間、飛び級試験の噂を聞いた冒険者たちが野次馬で集まってきた。

「お、亜人だぜ。久々に見るな」

「でも亜人って魔法が苦手なんだろ?職員の攻撃魔法が防げるのか?他と違ってユルルクは戦える職員ばかりだが」

「魔導人形って魔物に似せてて丈夫なんでしょう?時間制限もあるし、力任せじゃ厳しいって聞いたことがあるわ」

野次馬の話を聞いて、リーンハルトの魔法を見たことがないとステラは不安になった。というより実力を知らないに等しい。

前回の飛び級試験の受験者は魔法の乱れ打ちで、一気に魔導人形を壊していた。肉体派には難易度が高い試験だ。

「ハル、大丈夫ですか?」

「確かに魔法は苦手だけど何とかするよ。任せて」

リーンハルトの微笑みには自信が表れていた。

するとマダム・シシリーが試験を始めると告げた。

「頑張ってね。私、ハルと森に行けるの楽しみにしてますから」

「うん。俺も」

今はリーンハルトの言葉を信じるしかない。

彼はスタートラインに立つと、腕を獣化させた。肌は白くなり皮膚には硬い鱗が現れ、指先からは鋭く太い爪が出てきた。そして金の瞳はギラリとひかり、瞳孔が細まった。

野次馬からは「おぉ」と浮足立った声が聞こえる。

「いくわよ〜♡よーい、はじめ!」

マダム・シシリーが開始を合図した瞬間、職員は魔法を発動し、リーンハルトは走り出した。

放たれる魔法は 水球(アクアボール) と 落雷(ライトニング) が主だ。

水球に当たると落雷の被弾率も上がるため、威力が弱い魔法でも面倒な組み合わせだ。

しかしリーンハルトは華麗に攻撃魔法を躱していく。バク転、前方宙返り、おまけにひねりも加わり、まるで演舞を見せられているような動きだ。

そしてあっという間に魔導人形を一体、二体と爪を突き立てて破壊した。

「すごい。速い!」

身体強化を使ってもステラにはここまでの動きはできない。

亜人の運動神経の良さを目の当たりにして、驚きというより感動すら覚える。

野次馬も同じなのか「いけー」「いいぞ」などの言葉が飛び始めた。

「ハル頑張ってー!」

ステラも大きな声で応援する。

わずかにリーンハルトの口元が弧を描いたように見えるが、すぐに体が翻り見えなくなる。

壊した魔導人形が十体を超えたところで職員の魔法の攻撃が強まった。

「 風盾(ウィンドシールド) 」

初めてリーンハルトが魔法を使った。

しかしシールドの欠点は移動速度が格段に落ちるところだ。彼の長所が活かせないし、残り時間も心許ない。

だというのにリーンハルトの表情には余裕が残っていた。

「すまない」

そう言うとリーンハルトは思い切り息を吸い込んで、叫んだ。

「――――――いっ!」

ステラの耳では彼の声は聞こえなかった。

代わりに爆発を受けたような衝撃波が全身を襲う。体が飛ばされたり痛むことはないがビリビリと痺れたように体は硬直し、指すら動かない。

(咆哮!?こんな威力のある咆哮したらドラゴンだってバレるんじゃ)

唯一動かせる目で周囲を見渡せば、野次馬も職員も動けずに固まっていた。その間にリーンハルトは残りの魔導人形を全部破壊したのだった。

ギルド職員も痺れが取れて、全員無傷。一次試験は減点なしの合格だ。

リーンハルトが笑顔で手を振ってくれたので、ステラも手を振り返した。

そこへマダム・シシリーがふらつきながらリーンハルトに近づく。

「とんでもないもの使ったわね♡咆哮って猛獣系の亜人の特権じゃなかったの?爬虫類系も使えるのは知らなかったわ……くっ、さぁ筆記試験に行くわよ♡」

「マダム、どうぞお手を」

リーンハルトはマダム・シシリーをエスコートして、ギルドの建物の中へ戻っていった。

(咆哮って魔物やドラゴン以外の亜人も使えたんだ。バレるかと心配して損しちゃった。筆記試験も頑張ってね)

ステラが心の中でエールを送ってから一時間後、ホールで待っているとリーンハルトが奥から出てきた。

「ハル、お疲れさま!どうでしたか?」

「これを見てくれ」

「――――Bランク!筆記試験も高得点だったんですね?すごいわ!ハルおめでとうございます」

「ありがとう。これで少し恩返しができそうだ」

ステラがリーンハルトの両手を握ってピョンピョン跳ねれば、優しい眼差しで彼は微笑んだ。

これで思い切り魔法の練習ができるとステラは楽しみで仕方ない。

またリーンハルトも冒険者になったため、仕留めた魔物で彼が直接報酬を手にすることができる。

ステラとリーンハルトが喜び合っていると、いつものオジサマとお姉さま冒険者たちが近づいてきた。

「試験見てたぞ!お前さんやるな。今夜どうだ?」

オジサマがビールジョッキを持つ真似をする。どうやら合格を祝ってくれるらしい。

それに冒険者同士で顔をつなぐことは大切だ。いざ困ったときに知り合いなら助け合うことができる。

「ハル、今夜は一緒にギルドの食堂でごはんどうですか?それに今日はお祝いなので私が奢りましょう」

「じゃあ喜んで。初めまして先輩方、リーンハルトです」

「俺はザラスだ」

リーンハルトとオジサマ冒険者たちは握手を交わして自己紹介をした。

ステラはギルドの中堅とリーンハルトが仲良くなれそうだと安堵した。

オジサマ冒険者達ははじめからリーンハルトに好意的な態度だが、残念ながら全員とはいかない。

リンデール王国の人とは違う姿を見て戸惑う者。試験の様子を見て畏怖する者。実績もなく飛び級試験を受けられた彼を妬む者。亜人自体を蔑む者――――ホールで待っている間も感じたが、反応は様々だ。

(ハルは私の恩返しのために冒険者になったようなものだもの。きっかけの私がハルを守らないと!)

ステラは新たに決意した。

その日の夜は楽しい宴になった。はじめは小さな輪だったが、酒が進むにつれて大きな輪になり、食堂の半分が宴会状態になった。

オジサマ冒険者のひとり、ザラスがリーンハルトの肩に腕を回す。

「ステラの時も珍しかったが、いい大人になってから不安定な冒険者を目指すとは物好きだぜ。リーンハルト、お前さん年はいくつだ」

「今年で四十歳の予定です」

「へぇー四十……その見た目で四十歳!?俺と変わらないって嘘だろ!?」

輪に加わっている全員がざわめいた。

どう見てもリーンハルトはピチピチの二十代前半だ。いや、十代後半でも変ではない。

同い年くらいだと思っていたステラもショックだ。

「ハルは老けないんですか?」

秘訣があるなら教えてほしいと女性陣は聞き耳を立てる。

「二十年間は卵の中だったんだ。卵から出て二十年、見た目は人間の二十歳と変わらないよ」

「卵!?そうか……卵で生まれるんだ……でも人生の半分は卵の中って凄いですね」

「はは、俺も親から聞いたときは驚いたよ」

あとはリーンハルトが今まで旅をしてきた国々の事を語ってくれた。

美しい海、神秘の遺跡、燃える山など、どれもステラを夢中にさせる話ばかりだった。

今度から森の道中でも聞ける。そう思ったらリーンハルトと森へ行くのが更に楽しみになり、お酒が進んだステラだった。