軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騒ぎのあとで

その後、人々が「聖女様万歳!」などと言って集ってきたので、危ないからと近衛騎士達が私達を貴賓室まで誘導してくれた。

そこでしばし待つように言う。

近衛騎士達がいなくなり、メルヴ・ウィザードが姿を現す。

エーリク様が私の肩をぽんと叩くと、安堵感が押し寄せた。

「ゼラ、よく頑張ってくれた」

「――はい!」

労いの言葉が何よりも嬉しかった。

「作戦に保険はかけていたものの、最終的にゼラの訴えが皆の心に響いたようだ」

とっさの行動だったが、上手く働いたようでよかった。

「いろいろと驚いただろう」

「ええ」

まず、聖人インゴルフに私達の作戦がバレていたということ。

この件に関してはエーリク様も想定外だったという。

「記事を出すために報酬はたっぷり積んでいた上に、新聞社は結界で守っていたから、すっかり安心しきっていた」

記者が既婚者で、妻子がいたという情報までは把握しておらず、その穴を聖人インゴルフは突いてきたようだ。

「まさかイゾルテに聖女の役を演じさせるなんて、驚きました」

「ああ」

さすが人気舞台女優と言うべきなのか。

役作りは完璧で、声や身のこなしなど、私の癖をよく掴んでいたように思える。

背丈はイゾルテのほうが高かったものの、遠くから見るだけだった人々は気付かなかったのだろう。

「まさか、あの場にシモンが出てくるとは」

なんでもイゾルテと私が一悶着あるかもしれない、とエーリク様が会場に連れてきていたらしい。

「彼はいったいどこにいらしたのですか?」

「騎士隊の拘置所にいた」

聖人インゴルフによって適当な罪を押しつけられ、掴まっていたのだという。

多額の保釈金をかけていたことから、メクレンブルク大公家側も払いきれずに放置されていたらしい。

エーリク様はそんな状況だったシモンの保釈金を払い、監視下の元保護していたようだ。

シモンは母親が助けてくれるのをずっと待っていたようだが、面会にすらやってこなかったという。

「メクレンブルク大公夫人は実の息子を見捨てた、というわけですの?」

「まあ、夫であるメクレンブルク大公が行方不明の中、聖教会のトップに立った聖人インゴルフのやったことに反抗するような態度に出ることができなかったのだろう」

なんでもメクレンブルク大公夫人は聖人インゴルフと長年愛人契約を交わしており、持ちつ持たれつの関係だったようだ。

「ルーベン様の治療のために、メクレンブルク大公家の屋敷に通っていると思いきや、そういうことでしたのね」

さらにイゾルテと聖人インゴルフは深い関係にあったという。

「おそらく王妃も――」

エーリク様はそう言いかけて口を噤む。

近衛騎士が戻ってきて、国王と王妃が面会を望んでいることを告げた。

「これからご案内してもよろしいでしょうか?」

「問題ない」

「では、こちらへ」

近衛騎士の誘導で、国王夫妻が待つ部屋へと移動する。

私達を迎えた国王夫妻の傍には、両親の姿があった。

「ギーゼラ!」

「よく無事で!」

両親は私の元へ駆け寄り、強く抱きしめる。

私を追い出しておきながら、心配していたような態度を見せるなんて、と思ったものの素直に抱擁に応じた。

「国王陛下、娘に間違いありません!」

「そうだったか」

国王陛下が片手を挙げると、両親は深々と頭を下げて下がっていった。どうやら本人確認をするためだけに、両親を呼びだしたようだ。

「疲れているところ、呼びだしてすまなかった。どうかかけてほしい」

私達は本人確認以外の用事があったようだ。

「聖人インゴルフより事情を聞くつもりだったが、どうやら逃走してしまったようで」

王妃は逃走という言葉が引っかかったようで、国王に物申す。

「陛下、彼は大聖堂に戻っただけかと」

「しかし、偽物の聖女を立てていたことについて聞きたかったのだが、逃げるということは、何かやましい目的があったからではないのか?」

間違ったことをしていなければ、私達のように堂々としていたらいいだけ。そんな国王陛下の主張に、王妃は返す言葉が見つからなかったようだ。

「そなたらには迷惑をかけた」

「いえ……」

王妃は納得していないようで、私達を睨むような眼差しを向けている。

きっと何を言っても無駄に違いない。それくらい、王妃にとっての聖人インゴルフへの信頼は厚いものだろうから。

そんな状況の中、エーリク様が懐から新聞を取り出す。

「王妃殿下には、こちらを読んでいただきたく」

「なんなの?」

エーリク様が王妃に差し出したのは、私がルーベン様との闘病生活について書いた記事だった。

「聖女ギーゼラが書いた、元夫であるルーベン・フォン・メクレンブルクとの闘病について書かれたものです。王太子殿下と症状が似ているゆえ、何か参考になるかと」

これ以上話せることはない、とエーリク様は宣言し、立ち上がる。

差し伸べてくれた手にそっと指先を重ね、この場をあとにしたのだった。

帰りの馬車で、なぜ王妃に記事を渡したのかと聞いてみた。

「そろそろ目を覚ましていただこうと思って」

聖人インゴルフに肩入れしている場合ではない、現実を見るべきだ、と。

「あの記事を読んだら、きっと聖人インゴルフの存在に疑問が生じるはずだ」

「だと、いいのですが」

王妃が我に返って、聖人インゴルフから離れられますように、と祈るしかなかった。