軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

政敵の一族

聖教会を統べるメクレンブルク大公家と、魔導会を統べるオルデンブルク大公家は、建国以来の政敵だった。

神を信仰し、神が創造した世界と共存する考えを持つメクレンブルク大公家と、世界樹を称え、魔法による便利な世界を目指すオルデンブルク大公家は真逆の考えを持っていた。それゆえに、意見がぶつかりいがみ合っていたのだ。

オルデンブルク大公とも議会で何度言い合いをしたことか。

微妙に気まずさも覚える。

「その、オルデンブルク大公」

「エーリクと呼べ、命令だ」

「エーリク様、でよろしいですか?」

「まあ、いいか」

オルデンブルク大公改め、エーリク様は腕組みし、隙のない眼差しを向ける。

「それで、なんだ?」

「いえ、オルデンブルク大公家の方々は、私なんぞ連れ帰って、驚かないのかと思いまして」

「心配するな。親族はほぼ全員領地にいる。文句を言うやつなんかいないだろう」

「さようでございましたか」

聖教会を信仰する一家で育った私が、まさか魔導会側の人間になるなんて夢にも思っていなかった。

「メクレンブルク大公家の奴らも愚か者ばかりだな。メクレンブルク大公家の内情に精通しているお前を逃がすなんて」

「ええ……」

ルーベン様が亡くなったときは、メクレンブルク大公が私を引き留めたのだ。

けれどもシモンとの結婚後、子どもが生まれる兆しがなかったので、離縁を認めるしかなかったのだろう。

内情については、口を滑らないとでも思っていたのだろうか。その疑問について、エーリク様が言葉を返す。

「メクレンブルク大公家の聖嫁の名を守るために、口外しないとでも思っていたのだろう」

正直なところ、メクレンブルク大公家の聖嫁なんて二つ名は恥ずかしかったので、執着なんていっさいしていない。

信者の方々は落胆するだろうが、聖嫁と呼ばれる私を作ったのはメクレンブルク大公家の方々である。

その界隈から脱出してしまえば、ご縁のない呼び名なのだ。

「エーリク様は、私が憎らしくなかったのですか?」

「どうしてそう思う?」

「議会で何度もオルデンブルク大公家の計画を潰してきましたので」

オルデンブルク大公家は魔石を動力源とする魔導鉄道の計画を実行に移したかった。

けれどもあれこれと理由をつけてメクレンブルク大公家側が反対し、実現できていなかったのだ。

「ルーベンの代から反対され続けていたな」

「ええ」

ルーベン様の容態が悪くなるまで、議会に参加できていなかったのだ。

「あの男はメクレンブルク大公いちの切れ者だったからな」

当時、オルデンブルク大公家の当主になったばかりのエーリク様は、言い負かされてばかりだったという。

「ルーベンの容態が悪くなって、ようやく魔導鉄道が議会を通ると思っていたらお前が現れて――」

そうなのだ。ルーベン様が行けなくなったあと、義母かシモンが行くものだと思っていたのに、二人から私が参加するように命じられたのだ。

「お前は議員に囲まれて不安そうに座っていたのに、いざ審議が始まると真っ先に意見し、僕の計画をことごとく潰してくれた。まるで、ルーベンが目の前にいるようだった」

「ルーベン様はわたくしの先生でもありましたから」

二歳年上のルーベン様とは、神学校で出会った。

図書室に通ううちに顔見知りとなり、親しくなって、婚約の申し入れがあったのだ。

ルーベン様への気持ちは愛情とは違ったものの、結婚してからは家族愛が芽生えた。

この先も二人で仲よく暮らしていこうと思っていたのに、結婚生活は長くは続かなかったのである。

「不躾なことを聞くが、シモンとの結婚は誰が望んでいたのか?」

「メクレンブルク大公です」

「なるほど、納得した」

シモンや義母が望んだ結婚ではなかっただろう、と予想はしていたらしい。

「ずっと疑問だったんだ。今時兄弟婚なんて時代錯誤もいいところだったから」

メクレンブルク大公については、頭が切れる者の一人として認識していたという。

「だからお前とシモンの離縁を認めたのは、意外だったんだが」

「跡取りがいなかったので、焦りを感じていたのかもしれません。人の命は儚いものですので、継承者がいない状態というのは、不安が募るのでしょう」

「メクレンブルク大公は血統にこだわるような男だと思っていた。愛人との間にできた子どもを認めるなんて、落ちたものだ」

私に妊娠の兆しがないならば、どこの誰が産もうが構わないという考えになっているのかもしれない。

「子どもについて、魔導医に相談でもすればよかったものの」

魔導医というのは、魔法の力を使って診察する医者である。

手をかざしただけで妊娠の有無がわかるだけでなく、妊娠できる体かも魔法で調べることができるらしい。

「妊娠できないのは、男側にも原因があると聞いたことがあったのだが」

「いえ、その、ルーベン様とも、シモン様とも、白い結婚でしたので」

「は!? お前、今、なんて言った?」

「ルーベン様は結婚当時はすでに初夜を執り行う体力がなく、シモン様は愛人を深く愛しており私と初夜を執り行うことを拒絶しておりましたので」

どちらも、子どもを産むための儀式ができていなかったのだ。

「まさかシモンの野郎は、お前を 蔑(ないがし) ろにしながら、子どもができなかったのを理由に離縁を突きつけたのか?」

「ええ、そうなんです」

「世界一のクズ野郎だ」

思わず頷きそうになったものの、上品なお言葉ではなかったので、にっこり微笑むだけに 止(とど) めておいた。