軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

報告連絡相談

王太子殿下が食事を終えたあと、再度エーリク様に報告にいった。

「そうか、召し上がったか……」

安堵したように呟く。

「このまま数日、ここで過ごされたら、快方に向かうかもしれませんね」

「ああ、そうだな」

一方、メクレンブルク大公は目を覚ますことすらしない。

メルヴ・ウィザードの魔法薬を与えるので、生命活動には問題ないというが。

「王太子殿下との違いは、やはり年齢でしょうか?」

「おそらくそうだろう」

二十代の王太子殿下と六十代のメクレンブルク大公では、回復量に差があるという。

また、メクレンブルク大公に与えられる魔法薬の量も年齢を考慮して少量ずつなため、回復するまでに時間がかかるようだ。

「メクレンブルク大公の治療は、長い目で見なければならないだろう」

「ええ……」

メクレンブルク大公が聖人インゴルフに襲われたと証言してくれたら、一発で窮地に追い込むことができる。

けれども現状それは難しい。

「次に聖人インゴルフが王宮にやってくるまでに、目覚めるかどうか」

それまでに別の証拠を突きつける必要があるのだろう。

「エーリク様、実は引っかかる点もございまして」

「なんだ?」

「回復術についてなのですが」

大聖堂で魔力の枯渇状態になった聖騎士に回復術を施した際、効果はまったく見られなかった。

その一方、同じ魔力の枯渇状態だった王太子殿下には、回復術が有効だったのである。

「その違いはなんなのか、わからなくて」

「たしかにそうだな」

通常であれば、魔力の枯渇状態に回復術は効果がない。

「なぜ、効果があったのでしょうか?」

「考えられるのは、王太子殿下を蝕んでいた原因が、他にあるということだろう」

回復術が有効なのは外傷のみ。先ほど述べた魔力の枯渇状態や、病気などには効果がない。

「つまり、別の外的要因があった、というわけですの?」

「おそらく」

いったいいつ、どこで、何が起こったというのか。

騎士が毎日王太子殿下を清拭し、体の異変は記入してあった。

けれども内出血以外、負傷した痕は見受けられない。

「おおよそ聖人インゴルフの仕業に違いないが、それがなんなのか」

「その、もしや呪い、ではないですよね?」

「呪いか……」

その可能性もあるようだが、呪いというのは対象を内側からじわじわと蝕むものがほとんどだという。

そして回復術によって、呪いの効果が和らぐということはないようだ。

「ただ、相手はインキュバスの可能性があるゆえ、僕達の想像が及ばない方法で攻撃を与えている可能性がある」

一度、解析を行ったほうがいいとエーリク様は言う。

「何か調査に役立つかもしれないと、王太子殿下の内出血の痕に巻いていた包帯を預かっていたのだ」

ただ解析というのは専門的な知識が必要らしい。

「この件は四賢者に頼るしかないな」

ハイエルフの研究員アナマリアであれば、血液から情報を読み取ることができるという。

「すぐに依頼してみよう」

「よろしくお願いします」

すでに夜が更けつつあるが、これから魔導省へ行き、頼んでくるようだ。

「わたくしもご一緒してもよろしいでしょうか?」

「疲れているだろう? もう休んだほうがいいのでは?」

「いえ、同行させてくださいませ」

たしかに疲れているものの、四賢者に挨拶しておきたい、というのもある。

「わかった」

そんなわけで、夜の魔導省に出かけることとなった。

◇◇◇

転移魔法によって魔導省に着地し、アナマリアさんの研究室へと向かう。

研究室は無人だったが、さまざまな物が散乱していて、誰もいないのに賑やかに思えるから不思議だ。

「アナマリアさんとは、こちらから連絡が取れるのですか?」

「ああ、この水晶通信を使って、いつでも連絡が取れるようになっている」

エーリク様は研究室の片隅にあった水晶に手をかざし、声をかける。

「アナマリア・リトー、聞こえるか?」

『うーーん、誰ーー?』

「僕だ」

『どこの僕ちゃん~?』

「ふざけるな」

『うう、眠っていたのに~~』

このような時間に連絡を取ることを申し訳なく思っていたら、エーリク様が「決まって昼夜逆転の生活をしているというのに、こういうときだけ規則正しく眠っていたとはな」と苦言を呈していた。

『わかった、わかったから~、なんなの?』

「包帯に付着した血液から、対象の状態を解析してほしい」

『わかった~。ちょっと野暮用があって、早くて三年後に戻るから、そのときでいい?』

「今すぐ、だ!!」

『わ~~、頭に響くから、大きな声出さないでえ』

「酒でも飲んでいるのか?」

『えへへ、百年ぶりにねえ』

エーリク様は真顔で振り返り、「てんで役に立たないみたいだ」と言う。

『聞こえているよ! 酷くない?』

「酷くない。四賢者はすぐに動けるよう、いつでも待機しておく義務があるというのに」

『それはそうだけどさ~』

「そもそも、どこにいるんだ?」

『ここ? キルキルの谷だよ!』

「余所の国じゃないか! すぐに戻ってこられない場所にいやがって!」

なんでも国家間の転移魔法は禁じられているようで、アナマリアさんが言っていたキルキルの谷から魔導省まで、戻ってくるとしたら一ヶ月はかかるという。

「もういい! 他を頼る」

『ごめんよ~。お土産を買ってくるからさ!』

「いらん!」

『え~、キルキルの呪い人形を買って帰る予定だったのに』

『余計にいらない!』

これで終わりと思いきや、アナマリアさんは私の存在に気付いたようで話しかけてくる。

『一緒にいるお嬢さん、どうも初めまして』

「こんばんは」

「おい、話さなくていい」

そうは言っても、無視できるものではないだろう。

『私はアナマリア・リトー、優秀な研究員だよ』

「自分で言うな」

テンポのいい二人のやりとりに笑ってしまいそうになりつつも、言葉を返す。

「わたくしはギーゼラ・フォン・リンブルフと申します」

『ギーゼラだって!? 君はたしかエーリクの――』

「切るぞ」

ブツン、と容赦なく水晶通信を切った。

「何か言いかけていましたが、よろしかったのですか?」

「ああ。酔っ払いの戯れ言に付き合う必要はない」

連絡を取れたのはよかったものの、アナマリアさんはすぐに頼れるような距離にはいなかった。

どうしたものか、と思っていたら、ピンと閃く。

「あの、わたくしの知り合いに魔法使いがいらっしゃるのですが、相談してみますか?」

「ゼラの知り合い?」

「はい!」

メクレンブルク大公家の聖嫁時代に頼っていたお方である。

きっと相談に乗ってくれるだろう。