軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話

ヴァンニャの反応は俺が想像していた斜め下のものだった。

ヴァンニャの動揺した声に、俺たちの演技を見破るという意図があったのならば、それは確実に機能していただろう。

それほどまでに、俺たちは動揺していた。

ヴァンニャから何かしら脅されるようなことがあるのではないだろうか? そう思っていたために、余計に硬直時間が伸びてしまう。

ヴァンニャも何も口にしないため、しばらくの間、場に沈黙が訪れる。

「ど、どういうことでしょうか?」

真っ先に反応したのはリビアだった。このまま黙ったままではいけないと考えてくれたのだろう。

この中でもっとも演技が上手なリビアだったがそんな彼女の声にも僅かな戸惑いが混ざっていた。

それは仕方ないだろう。むしろ、この状況で良く話を再開してくれたと俺はリビアを褒めていた。

彼女の指摘によって、その場の空気が揺れた。

次の瞬間だった。

ヴァンニャが土下座をした。

べたーん! といい音とともにヴァンパイアが額をこすり付けた。

そこで、彼女を俺は見ることになった。

小さな翼と可愛らしい尻尾を揺らすヴァンパイアだ。俺が想像していた数倍は威厳がない。まさか、ここまで幼い子だったとは……。

彼女は必死な様子で額を床にこすりつけている。俺が隠れているこの場所からも彼女の姿ははっきりと見ることが出来る。

「た、頼む! わしに力を貸してくれ! 今のわしには力がないんじゃ!」

「……ち、力がない? いったいなにを言っている?」

リビアの代わりにオルフェが言葉を口にした。オルフェもどうにか硬直から脱したようだ。

ただ、あまり声に威圧感はない。どちらかと言えばオルフェの素の声音に近い。

流れが、空気が完全に変わった。

あのままヴァンパイアとは敵対するものだと思っていたのだが、どうやら様子が違う。

「わ、わしの仲間たちが囚われて奴隷のようにこき使われているんじゃ! おぬしたちには、それの救出に力を貸してほしい! わしも、出来る限り手を貸すから! 頼むんじゃ!」

ヴァンニャはペコペコと額を床に叩きつけている。

物凄い剣幕に、それに手を貸してほしいという言葉。

嘘、ではないと思う。

ヴァンニャは本当に困っていて、俺たちに協力を申し出ている。

状況を再確認する。

恐らくヴァンニャは、ヴァンパイアという立場もあったため、下手に出てこちらに協力をするわけにはいかなかったのだろう。

だからこそ、威厳たっぷりに、出来る限り余裕があるように振るまっていたのだ。

恐らく、ヴェールドに対しても「力を与える対価として、こちらの要求を呑め」とかそんなことをヴァンニャは言っていたのだろう。

ヴァンニャはワーウルフたちを利用し、自分の仲間を助け出そうとしていたというわけだ。

これなら、俺も彼女から直接話を聞いてみても、大丈夫ではないだろうか?

そう考えた俺は、隠し部屋からの脱出を試みる。

しかし、不安定な体勢では自分の頭上にあるベッドを動かすのは困難だった。

剣でたたっ斬るのももったいないため、俺はがんがんとベッドを殴りつけた。

「な、ななななんじゃ!? お化けなんじゃ!?」

ビビった声をあげるヴァンニャ。

ぺたんと座ったまま、ベッドに視線を向けてぶるぶると震えている。

俺の中で作り上げていた『恐怖のヴァンパイア像』は完全に壊れていた。

あんなに警戒していたというのに。

対策も立ててきたっていうのに。

これならば、最初から俺が直接会って話して良かったな。

オルフェにも余計な負担をかけてしまったよ。

「ベッドをどかしてくれないか、リビア」

俺がそういうと、リビアがこちらへと歩いてきた。

しかし、俺の声に合わせヴァンニャの悲鳴がさらに上がる。

「ぎゃああ!? お化けの声が聞こえたんじゃ!? 怖い! 怖いんじゃ!!」

床をすべるように移動して、がたがたと震えるヴァンニャ。

こちらにやってきて、リビアとスフィーがベッドをどかしたところで、俺は部屋へと出た。

窮屈な空間にいた体がぽきぽきと鳴る。軽く慣らすように体を動かし、一度深呼吸をしてから、俺はヴァンニャを見る。

きょとんとした顔でこちらを見上げている。

「に、人間? お、お化けじゃないんじゃな?」

改めてヴァンニャと向かい合う。

彼女はやはり、かなり小柄だ。

子ども、とも思ってしまったが、ヴァンパイアは長寿の種族でもあると聞いた。

見た目に騙されてはいけないだろう。

「ああ、そうだ。俺の名前はクレスト。上界から追放された人間だ」

「上界から追放された人間。確かにそういう人は見たことあるんじゃが」

「それなら、話が早い。俺はこの村の人たちをまとめる首領だ」

「な、なぬ!? ど、どういうことじゃヴェールド!?」

ヴァンニャは俺とオルフェをちらちらと見比べている。

「この村を支配していたワーウルフキングは知っているか?」

「そ、そこにおる奴じゃろう?」

ヴァンニャは可愛らしい人差し指でびしっとオルフェを指さした。

俺はそれに首を横に振って返した。

「彼は違う。彼はそのワーウルフキングの双子の弟だ。オルフェという」

俺の言葉に、ヴァンニャが目を見開いた。

双子がいることは情報になかったようだな。

ヴァンニャとヴェールドがどのような関係だったのかは分からないが、私的な話をするような仲ではなかったようだな。

あくまで、お互いに利害関係が一致していたから、協力していただけなんだろう。

ヴァンニャは小さな翼をバタバタと動かし、こちらを睨みつけてくる。

「な、なんじゃとぉ!? わしを騙したんじゃな! ぷんぷんじゃぞ!」

「まあ、それは悪かったよ。こちらとしては、ヴァンパイアがこの村を狙っていると聞いていたからな。敵の情報を探りたかったんだよ」

俺が頭を下げると、ヴァンニャはひとまず怒りを納めてくれたようだ。

「むぅぅ。なるほどのぉ」

ヴァンパイアは警戒するように腕を組み、尻尾でこちらを指さしてくる。

未だ彼女の小さな翼はバタバタと揺れている。警戒していると、揺れるのだろうか?

まだ、完全には気を許されていないようだ。