軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話

「いい匂いだな」

「今日はトマートスープにしようと思っていまして、今は野菜を煮込んでいました。クレスト様はトマートは大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない。それじゃあ、楽しみにしているよ」

「は、はい! 全力でお造りします!」

皆が敬礼とともにそんなことを言ってきたものだから、苦笑するしかない。

料理に関しても、皆のほうが得意になっているからな……。

初めは色々と教えたものだけど、亜人たちは俺と違って使用した回数でスキルが成長していくようなので、専門分野を任せたほうがいいのだ。

そういうこともあり、俺はすっかり戦闘以外は行わなくなっていた。

まあ、人間の世界でもそれぞれが得意分野を活かして生活をしていくんだし、これが当然といえば当然か。

村の様子を気晴らしのようにして見ていくのだが、どこに行っても「クレスト様」、「クレスト様」と声をかけられる。

……もうずっとこんな扱いではあるのだが、やはり慣れない。

別に俺は権力を振りかざしたいわけじゃないからな。

もっと気楽に接してもらいたいものだが、それは難しい要求なのかもしれない。

そんなことを考えながら村を歩いていると、エリスを見つけた。

一人、村を眺めていた彼女は、こちらに気づくと頬を緩めた。

声をかけないわけにもいかないだろう。

俺はエリスのほうへと向かっていく。

「村には……馴染んだか?」

「まだまだですわね。さすがに警戒されてしまっていますわ」

「……まあ、そうだよな」

俺だって警戒したままなんだし、さらに皆は警戒してしまうだろうな。

「それにしても、クレストは凄いですわね。誰に話を聞いてもクレストのことを褒める人たちばかりですわ」

「……少し過剰すぎる気もするけどな」

「それだけのことをしてきたのではありませんこと? わたくしも、話を聞いただけですけれど色々な戦いで大活躍されたようではありませんの」

大活躍、か。

そういえば聞こえはいいが、俺がやっていたことは自分に従わないものに対して、力で持って制圧しただけにすぎないからな。

ワーウルフたちは、敵対していた者も仲間になってくれたが、オーガたちは全滅させた。

……下界がそういう場所だと言われれば、それまでなんだけどさ。

もっと、うまくやれたんじゃないかとはいつも考えてしまっている。

ちょうど、二人きりになれたし、俺は気になっていたことを問いかけた。

「そういえば、上界はどうなんだ?」

地上に未練がある、と他の亜人たちに思われるといらぬ誤解を与えるとも思っていたので、今まで質問することはなかった。

俺の問いかけに、エリスは少し疲れたようなため息をついた。

「前に簡単に話しましたわよね。地上にはたくさんの次元穴が発生して、その対応に追われている、と」

「そう、だな。……地上の人たちは、魔物との戦いに不慣れだよな? 大丈夫なのか?」

ほとんど魔物なんて出現していない平和な日々が続いていた。

一応、訓練を行ってはいたが、それでも訓練と実戦はまるで違う。

俺の問いかけに、エリスは苦笑した。

それで、上界がやはり危険な状況であることは間違いないのだと理解してしまった。

「かなり厳しい状況が続いていますわ。一応、兵士たちも戦いに慣れてきたとはいえ、それでも過酷な戦いは続いていますわね」

「……そうだよな」

俺はほとんど投げやりな状態だったから、下界に降りても戦いには困らなかった。

恐怖などはもちろんあったけど、どうせ死ぬんだったら……という考えがあった。

しかし、上界で戦っている人たちは、そこまでの割り切りはできないだろう。

自分だけでも助かりたい、という気持ちが強い人たちがいても、けして責めることはできないだろう。

俺だって……どちらかといえばその考えに近いんだしな。

「ミヌやわたくしを中心に、防衛に重きを置いて戦ってはいましたわ。けれど……それでもいくつかの村や町は放棄して、主要都市の防衛に力を入れていますわね」

「……放棄、か」

「ええ、仕方ない犠牲だとは思いますわ。あなたは許せないかもしれませんけれど」

俺が少し腹を立てていたが、エリスはそれを受け入れているようだ。

……弱者は切り捨てられるしかない。

上界の人たちが下したその判断に、全面的な賛同はできないが……俺も似たようなことをしているので批判はできない。

「救える命を救おうとしての結果なら、仕方ない部分もあるとは思うよ。……でも、エリスがいなくなったら、さらに上界は厳しいんじゃないか?」

「だとしても、わたくしはクレストにどうしても会いたかったのですわ。たとえ、何と言われようとも……あなたに謝罪を、心残りを残したまま死にたくはありませんでしたの」

エリスの言葉に、俺は唇をつぐんだ。

……彼女は、これまでの行動のすべてを謝罪するつもりで、下界に降りて来たのだろう。

まだ、完全に心を許したわけではないが、エリスのそれが本心だというのなら、いつまでも警戒したままではいられない。

「俺は……色々とエリスに対して思うことはあるよ。でも、とりあえずは、深くは考えないでおく」

「……クレスト」

「これから、この村のために力を貸してくれると嬉しい」

そう言って手を差し出すと、エリスは柔らかく微笑んでから握り返してきた。

色々と思うところはあるが、エリスがいてくれるのは心強い。

できるのなら、まだ出会った頃のように……昔のように仲良く楽しく生活していければと思った。