軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第39話

久しぶりの夜の森だ。

夜はやはり危険が多い。感知術があるからまだいいが、魔物たちに奇襲を許す可能性が高い。

やはり、積極的に夜の森は移動したくはないな。

幸い、今周囲に魔物の姿はないようだけど。

「ねえ、クレスト。私、こわーい」

「以前まったく怖がってなかっただろうが」

「そんなことないわ。もう、滅茶苦茶怖い。きゃー」

「棒読みやめろ」

そんな中でも、スフィーはまったくもって能天気そのものだった。

おかげで、緊張とかも吹き飛んではくれるのだが、もう少しくらいは気を引き締めてほしいものだ。

くっついてきたスフィーの頬を押し返すようにしていると、ヴァンニャがふっと笑った。

「おぬしらは気楽じゃの。緊張とかそういう概念はないのかえ?」

俺を混ぜないでくれ。

「そんなことしている暇があったら、もっと別のことができるわよ? ヴァンニャももっと現状を楽しみなさい。助けを待っている皆だって、あなたの強張った顔は見たくはないでしょう?」

……スフィー。

何も考えていないのかと思っていたが、意外にも要点はついている。

救出に来たというヴァンニャが険しい顔をしていたら、それはそれで今奴隷とされている亜人たちに不安を与えてしまうだろう。

「楽しい楽しくないの問題ではないと思うんじゃがなぁ」

ヴァンニャの言う通り、でもあるんだけどな。

「ヴァンニャはもう少し緊張をほぐして、スフィーはもう少し緊張感を持ってくれ」

その間を取り持つように言った俺は、オーガの拠点が感知術の端に引っかかるようになったところで足を止めた。

スフィーとヴァンニャにも制止するように手を向ける。彼女らは動きを止め、俺へと視線を向けてきた。

この辺りから警戒を強めた方がいいだろう。

「スフィー、ヴァンニャ。スキルを発動する。近くに来てくれ」

「やっとくっつけるのね」

「……ここから、本番ということじゃな」

二人はそれぞれの反応を見せてから、俺の方へとやってきた。スフィーが俺に抱き着いてくると、そのまま衣服へと変化した。

そして、その後でヴァンニャが俺の背中へと触れてくる。

それから、控えめながらも俺の首に手を回すようにして、背中に張り付いてきた。

大丈夫だよな? そう思ってヴァンニャに顔を向けると、

「ぬわああ! 近いんじゃ! おぬし、こっちを向くでない!」

顔を真っ赤にしたヴァンニャが俺の頬を押し返す。

スフィーがヴァンニャを支えるように持っているため、俺がわざわざヴァンニャの体を持つ必要もない。

とりあえず、問題なさそうだな。

それらを確認した俺はアサシン、忍び足術を発動する。

俺と、俺に接触しているすべてから音や存在の痕跡が消える。

歩いたところで足音はたたず、足跡さえもない。

すべてが完全に消えた中で、俺は普段と遜色なく移動できる。

スキルがしっかりと発動しているのを確認していると、耳元を声が撫でた。

「うふふ、さらに近くなったわね」

「……ここからは無駄口を叩かないように」

「はーい」

一応スキルで聞こえないようにはしているが、これから先は何があるか分からない。

警戒するに越したことはないだろう。

あと、いきなり耳元で話されると騒がしいからな。

「それじゃあ、進んでいくぞ」

「はい」

感知術に意識を向けながら、ぐんぐんと歩いていく。

やがて、オーガの村が見えてきた。

入り口は門で閉ざされている。石の門は、かなり頑丈なものだ。

押せば開くようだが、さすがに正面を突破するわけにはいかない。

門の付近には見張りもいる。眠たそうな様子でオーガたちは立っていた。

今回の目的が襲撃なら、彼らを仕留めて堂々と入ってもいいが、今回はあくまで下見。

俺はスキルが発動しているのを常に確認しながら、オーガたちの近くを見ていく。

スキルは確実に発動している。そして、その効果も絶大だ。

オーガたちの近くによっても、彼らはまるで俺たちに気づいていない。

「ったく、今日見張り番なんてついてねーよな」

「ほんとにな。オレたちも宴会に参加したかったよな」

「そうだなー。あの奴隷たちをこき使うのがたまらないんだよな」

奴隷たちをこき使う。その言葉に、思うところはあったが、動くわけにはいかない。

それにしても、宴会か。

酒でも振舞っているのだろうか? さすがにこの下界ではないか? いやでも、料理術を持っている亜人がいれば無理なことではないか。

正面から入るのはやはり難しい。そうなると、別の道を使う必要があるが……そういえば、ヴァンニャはどこから脱出してきたんだろうか?

「ヴァンニャ、前にここから逃走したと言っていたがどうやって逃げ出したんだ?」

「空、じゃな。」

「空か」

俺はちらと空を見上げる。

ヴァンニャの持っている翼なら可能か。

「俺たちを連れて飛ぶことはできるか?」

そういうと、ヴァンニャは頬を引きつらせる。

しかし、彼女は控えめに首を縦に振る。

「た、たぶん大丈夫じゃ。ちょっと時間はかかると思うが……」

「それくらいなら別に構わない。それじゃあ、任せた」

「……う、うむ」

ヴァンニャに頼むと彼女は翼をばっと広げた。といっても、それほど大きな翼ではない。

控えめな翼がパタパタと揺れ動く。

しばらくして、俺の体は空へと浮き上がった。

お、おお! 初めての浮遊感に僅かに感動する。

「これ、何だか楽しいわね」

「た、楽しむでない……! お、重いんじゃ!」

ヴァンニャは必死に翼を動かしているが、かなり厳しそうな声を上げている。

これほど派手に動いても、スキルのおかげでまったく気づかれていないようだ。

そのまま、俺たちは内部へと入った。