軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第990話 冬休みの話題とかつて味わった恐怖

すっかり秋も深まり、ライト達の過ごす日々も次第に冬の気配が強くなっていった、とある日のこと。

ライトは朝、布団からガバッ!と飛び上がるようにして起きた。

「……うわぁぁぁぁッ!…………って、何だ、夢か……」

ライトはハァ、ハァ、と荒い息を吐き、バクバクと高鳴る心臓を抑えるように、胸に手を当てている。

何か悪夢を見ていたようだが、その内容が靄がかかったようにぼんやりと霞んで思い出せない。

ライトは夢見は悪くない方だが、時折こうして悪夢を見ることもある。

例えばそれは、焼き立て熱々の巨大カガー・ミ・モッチに伸し掛かられて押し潰されそうになる夢だったり、BCOのイベント中に大事にしていた武器防具を鍛冶屋で壊されて消失したり、何故か百匹以上の暗黒蝙蝠マードンに取り囲まれて鬱陶しい騒がしさでブチ切れる夢だとか。

こうして考えてみると、悪夢と呼べるようなものはBCO関連が多いな……と感じるライト。昨晩見た夢も、何だかBCO関連のような気がするのだが、どうにもイマイチはっきりと思い出せない。

「うーーーん……何かすっごく怖い夢を見たような気がするんだけど……何だったっけ……」

「とても大事にしていた物を、失くすか壊してしまったような……」

悪夢で掻いた脂汗を流すべく、洗面所で顔を洗うライト。

水魔法で水を出し、適度な湯温にしてからバシャバシャと洗う。

顔を洗ってさっぱりすれば思い出せるかな、と思いつつタオルで顔を拭くもやっぱり思い出せない。

喉まで出かかっている気がするのに―――

だが、思い出せないものは致し方ない。

ま、夢なんて大概は意味のないものだったり、不可解な行動ばっかりするもんだし。必要がありゃ、そん時になって思い出すっしょ!

ライトはとっとと考えを切り替えて、いつものように朝のルーティンワークである魔石回収作業に出かけていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして朝の作業を終えて、ラグーン学園に登校するライト。

二年A組の教室には、いつもの仲良しメンバーがいた。

「あッ、ライト君、おはよー!」

「おはよよよよよ!」

「やぁ、おはよう、ライト君」

「ライト君、おはようございます」

「イヴリンちゃん、リリィちゃん、ジョゼ君、ハリエットさん、おはよう!」

明るく挨拶をしてくれる級友達に、ライトも明るく朝の挨拶をする。

十一月も終わりが近づいてきた昨今、彼女達の話題は早くも冬休みのことが中心だった。

「ねぇねぇ、ハリエットちゃんは今年の冬休みもプロステス?だかにお出かけするのー?」

「はい。いつも伯父様が『皆でおいで』と誘ってくださいますし、何よりプロステスはお父様の故郷ですから」

「そっかー、プロステスって冬でもすっごく暖かいんだよね? 寒くないところで過ごせていいなー」

「そうですね。でも、今年の冬からはもうそんなに暖かくならないかもしれませんが……」

温暖な気候のプロステスで、年末年始を過ごすハリエットを羨ましがるイヴリンとリリィ。だが、ハリエットは少しだけ苦笑いしながら答える。

前冬までは、プロステスの冬は絶対に冬と言えない暖かさだった。

それは炎の洞窟で起きていた異変のせいであり、今はライトとレオニスの尽力によりその異変の原因は取り除かれて通常の気候に戻った。

故にハリエットも『今年はもう暖かくないかも』と言葉を濁したのだ。

するとここで、ジョゼの方から珍しくハリエットに声をかけた。

「あ、ハリエットさん、そういえばハリエットさんのお兄さんがジョブ適性判断を受けるんだったよね?」

「はい、今月最後の日曜日に受けることになってます」

「もしできたら、僕も見学していいかな? 僕、身近にジョブ適性判断を受けるような人が全然いなくてさ、まだ一度も見たことがないんだ」

「そうですね……」

ジョゼのお願いに、ハリエットは少し考え込むような仕草をしている。

このサイサクス世界のジョブ適性判断は、十歳以上になったら誰でも受けられる。そしてその時期は本人の意志や周囲の大人達と相談するなどして、いつでも執り行っていいことになっている。

ただ、ジョブ適性判断を受ける時期は身分によってかなり異なる。

ライトやレオニスのような平民は、一日でも早く独り立ちするために十歳になったらすぐに適性判断を受けることが多い。

それに対して、貴族は十歳を過ぎてもすぐには受けない者が多い。

それは、跡取りとして領地や役職を受け継ぐ場合、何のどんなジョブを得ようともほとんど影響がないからだ、と言われている。

確かに将来受け継ぐべき領地や爵位があれば、ジョブなどどうでもいいと考える貴族は多いだろう。

だからジョブに対する情熱など薄いし、それを伸ばして将来に活かそう!などという考えも起きないのだ、と思えば腑に落ちる。

実際ハリエットの兄ウィルフレッドも、将来はウォーベック伯爵の爵位を継ぐことが決まっている。

ウォーベック伯爵家には直接治める領地はないが、それでもプロステス領主ウォーベック侯爵家の流れを汲む由緒正しい家系。将来的にウォーベック侯爵家の領地の一部を託される可能性もある。

故にウィルフレッド自身も『ジョブ適性判断は、中等部卒業直前にやればいい』という考えで、未だ受けていなかった。

一方でジョゼは、同じ貴族でありながら『万年平子爵』を自称する通り、ウォーベック伯爵家ほど裕福ではない。

いつだったか、ジョゼが「冒険者になろうかなー……」と溢したこともある通り、感覚的には貴族よりも限りなく平民寄りである。

ジョゼは将来冒険者になることも視野に入れていて、ライトと同じく十歳になったらすぐにでもジョブ適性判断を受けるつもりだった。

そのため、ジョブ適性判断という儀式に興味津々なのである。

しばし悩む様子のハリエットに、ジョゼはなおも熱心に口説き続ける。

「もちろん近くでなくていいし、遠くから見るだけでもいいんだけど……どうかな?」

「そうですね……まずはお父様とお兄様に、同席していいかを聞いてみますね」

「うん、よろしくね!」

ハリエットの『聞くだけ聞いてみるね』という返答を得て、ジョゼが明るい笑顔になる。

その笑顔を見たイヴリンやリリィも、ジョブ適性判断に興味を示し始めた。

「何、ジョゼはそんなに早くジョブ適性判断を受けたいの?」

「うん。だって僕んちって、将来継ぐものとか何もないからね。名前だけの子爵家じゃ、絶対に食べていけないもん」

「ホンット、ジョゼの未来って暗いわよねー……」

「そりゃリリィちゃんはいいよ、将来は向日葵亭を継ぐことが決まっているんだもん。だけど僕にはそういうのが一切ないから、将来どんな仕事に就きたいかを今からしっかりと考えておかなくちゃならないんだ」

「それ言ったら、私も将来何になるかを考えなくっちゃー」

イヴリンとジョゼとリリィ、幼馴染三人組の姦しくも賑やかな会話が続く。

それを横で聞いていたライトとハリエットだが、ハリエットの方がライトに話しかけた。

「ライトさんは、将来は冒険者になるんでしたよね?」

「うん、ぼくもレオ兄ちゃんや父さんのような立派な冒険者になりたいんだ」

「そしたらライトさんも、十歳になったらすぐにジョブ適性判断を受けるのですか? でしたら、ライトさんもお兄様のジョブ適性判断を見学できるよう、父に伝えておきますが」

「うーーーん……それは、分かんない、かな……」

ジョブ適性判断に関して口篭るライト。

ハリエットからの厚意を断るとは、普段真摯なライトにしては珍しい。

ライトの躊躇に、ハリエットは一瞬だけ不思議そうな顔をした後すぐにハッ!とした顔になる。

「……あ……そういえばライトさんは去年、ラグナ神殿で大変なことになりましたよね……」

「うん……だから、正直今でもあのラグナ神殿の中に入るのが怖いんだよね……薬草園とか、他の場所ならまだ大丈夫なんだけど」

「ですよね……」

ライトの顔が曇ったことに、ハリエットの顔も曇り沈んだ表情になる。

かつてライトはラグーン学園の行事でラグナ神殿を訪問し、主教座聖堂に入った途端に原因不明の体調不良に陥り、挙句丸三日以上意識を失う羽目になった。

それからもうすぐ一年になるが、その時のことを思い出すと今でもライトの背筋が凍りつく。

正直なところ、ライトはあの主教座聖堂にはしばらく近づきたくなかった。

あの体調不良の元凶?が、ラグナ教で唯一公的に奉られている聖遺物【深淵の魂喰い】であることは分かっているし、その聖遺物もいずれレオニスと対峙して負の状態である魔剣から聖なる状態に戻されるだろう。

そうなればライトでも近づくことができるようになるし、むしろそれを過ぎるまでは絶対にライトは【深淵の魂喰い】に近づかない方がいいのだ。

ハリエットがしょんぼりしてしまったことに、ライトが慌ててフォローに回る。

「……あ、ハリエットさん、ごめんね!? せっかく誘ってもらったのに……」

「いいえ、あんなことがあったんですもの、ライトさんがあの場所に行きたくないと思うのは当然のことです!……むしろ、そのことにすぐに気づかなかった私の至らなさが、お恥ずかしいです……」

「ううん、ハリエットさんは全然悪くないよ!」

謝罪合戦を始めたライトとハリエットに、イヴリン達の視線が自然と集まる。

「ライト君とハリエットちゃんって、本当に仲良しさんだよねー」

「ハリエットちゃんって、貴族のお嬢様とは思えないくらいに優しいもんねー」

「そうそう、僕達庶民にも仲良く話しかけてくれるし、本当に素晴らしい令嬢だよねー」

「ジョゼは一応貴族で、庶民じゃないでしょ……」

「ぃゃぃゃ、僕なんてもうほとんど庶民だって」

子供達の取り留めのない話の最中に、教室の扉が開き担任のフレデリクが入室してきた。

授業の開始の合図に、子供達は皆自分の席に戻るべく一斉に散らばっていく。

こうしてライトの平穏な平日、ラグーン学園での一日が始まっていった。