作品タイトル不明
第988話 触れ合い入浴事業
ドラリシオ・ブルーム事件やトロール族との初対面等々、怒涛の週末が過ぎ去り、ひと時の穏やかな平日を過ごすライト。
といっても、穏やかな平日を堪能しているのはライトだけで、レオニスやラウルは超多忙な日々を送っている。
レオニスはその翌日から約一ヶ月半、竜騎士団のシュマルリ山脈南方研修で一日置きに竜騎士達のもとを訪れる日々が続いた。
竜騎士団団長ディランを含む第一陣以降、第二陣、第三陣と順調に送り出しては、白銀の君や中位ドラゴン達とともに竜騎士達を鍛える手伝いをしている。
そしてシュマルリ山脈に行かない日は、ユグドライアのもとを訪ねて海樹の枝を譲り受けたり、その海樹の枝に天空樹ユグドラエルの祝福をかけてもらったり、海樹の枝の加工依頼をアイギス及びナヌスに再び持ち込んだり。
それはもう息つく暇もない程に、あちこち駆けずり回る日々が続いていた。
一方ラウルも、秋野菜の栽培と収穫を中心に方々で動き回っている。
カタポレンの畑の常時半分はサツマイモを栽培し、週二回のペースで収穫している。もちろんカタポレンの畑で栽培したものは全て巨大サイズだ。
特にサツマイモは、天空島に住む二羽の神鶏、ヴィゾーヴニルとグリンカムビの大好物。その蔓や葉も好んで食べる。
今では天空島でも様々な野菜を栽培しているが、それでもラウルも神鶏達への恩返しとして今後も巨大野菜を持っていくつもりだ。
そして、ラウルが十月初旬に植えた林檎の木が、約一ヶ月で成木となり実をつけた。
ラウルに依頼されて、ラグーン学園図書室で林檎のことを調べたライト曰く『林檎って自家受粉しないんだって。だから品種の違う木を植える必要があるらしいよー。あと、普通は他の野菜なんかと同じく実を一つだけ残して、他の実を摘み取って養分を集中させる必要があるらしいんだけど。カタポレンの畑なら養分代わりの魔力が無限にあるし、そこにラウルの植物魔法をかけてあげれば摘果する必要はないと思うよー』とのこと。
その他ライトの様々なリサーチ結果とアドバイスに従い、ラウルは三つの品種を畑の横に二本づつ植えて、全ての林檎の木を日々甲斐甲斐しく世話をして育てていった。
その結果、一ヶ月で結実に至ったという訳である。
「おおお……かなりデカくなったなぁ……」
林檎の白い可憐な花が咲いてから一週間後。
みるみるうちに木々中の実が赤く色付いていき、最終的にはラウルの頭一つ程もある巨大な林檎の実ができた。
一番大きくて赤々とした実は最初に捥ぎ取り、ライトとレオニスとともに食べるために空間魔法陣に仕舞い込む。
ラウルは次に二番目に大きな実を捥ぎ取り、その場で果物ナイフを出して表面の一部を切り取り口に放り込んだ。
「おお、これは甘くて果汁たっぷりでなかなかに美味いな!」
シャクシャクと音を立てながら林檎の試食をするラウル。味の方はそこそこ満足できるようだ。
その場で丸々一個を食べ切るのは無理なので、残りは後で何かしら加工するとして早々に空間魔法陣に仕舞い込む。
「こいつは『紅玉』だったっけ……おお、こりゃまた酸っぱいな!……でも、こういう酸っぱい林檎がアップルパイやタルトタタン向きなんだよな。たくさん採れたらジャムにしても良さそうだ」
「えーと、こっちは『王林』か……うん、甘味たっぷりなのにさっぱりしていて一番クセがないな」
三種類の林檎を一つづつ食べ比べていくラウル。
ちなみに一番最初に食したのは『つがる』、どれも人気品種である。
そして、カタポレンの畑での林檎の栽培が成功したので、今度はオーガの里にも林檎の木を植えようと考えている。
オーガ族には植物魔法を会得できる者がいないので、ラウルが世話するカタポレンの畑の林檎の木のように爆速で育つことはないだろう。
だが、カタポレンの森の魔力はラウルが耕す畑以上に満ちている。そこに時折オーガの里を訪れるラウルが植物魔法をかければ、きっとオーガの里でも立派な実をつけるはずだ。
ラウルは今からその日が楽しみである。
そしてライトはと言うと、ひたすらシルバースライムとの触れ合いに勤しんでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
とある日のライトの夕方の一日。
ライトは帰宅早々マッピングである場所に移動していた。
それは全く人気のない山中で、ライトが土魔法で平らにした場所で巨大な桶の前でしゃがんで何か作業をしている。
「♪フーン、フフンフン、フフフ♪」
鼻歌交じりで巨大桶の中に水を張るライト。
左手で水魔法を発動し、水を出しながら右手で水を掻き混ぜる。
右手は火魔法による発熱をイメージしていて、つまりライトは桶の中にお湯を張っているのだ。
何故にこんな山中で大量の湯を沸かす必要があるのだろうか?
その答えは、巨大桶の前で作業しているライトの後ろにあった。
「皆、お待たせー!」
適温のお湯を張り終えたライト。右腕で額を拭いながら後ろを振り返る。
振り返ったライトの視線の先にいるのは、十匹のシルバースライムだった。
「「「♪♪♪」」」
むにむにと動きながらのそのそと巨大桶に群がり、次々と巨大桶に飛び込むシルバースライム達。
でろーーーん……と巨大桶の縁に凭れかかるようにのんびりと湯に浸る様は、まるで温泉にでも浸かって寛いでいるかのようだ。
巨大桶の温泉に十匹のシルバースライムが浸かる中を、ライトはさらに個々の世話を焼く。
「あー、アインのお肌は今日もぬるすべだね!」
「ツヴァイ、身体が少し大きくなった?」
「ドライは足の裏の怪我は治った?」
シルバースライムの一匹一匹全てに名前をつけ、それぞれに声をかけてペットのように可愛がるライト。
銀色に輝くシルバースライムの表面を、優しくマッサージするように撫でている。
ちなみにその名前は全部ドイツ語の数字由来で『アイン』『ツヴァイ』『ドライ』『フィー』『フュン』『ゼクス』『ズィー』『アハト』『ノイン』『ツェン』と名付けた。
見た目はほぼ同じにしか見えないのだが、ライトにはちゃんと十匹全部の区別がつくらしい。
ライトが万遍なくシルバースライムを構っていると、一匹のシルバースライムが巨大桶の縁にのっそりと乗り上げた。どうやら風呂から上がりたいらしい。
「あ、ノイン、もうお風呂から上がる? タオルで拭いてあげるから、こっちおいでー」
ライトに『ノイン』という名で呼ばれて声をかけられたシルバースライム。
ライトの言うことに従い、巨大桶の縁の上をのっそのっそと綱渡りのように歩いてライトのもとに近づいていく。
ライトはライトで、すぐ後ろに置いてあった大判のバスタオルを広げて、ノインの身体を包み込むようにして抱き抱えた。
もちもちとした弾力のある、スライム特有の柔らかさ。それがタオル越しにも伝わってきて、湯上がりのシルバースライムの身体を拭いてあげているライトの方も何気に楽しかったりする。
「ノイン、綺麗になったねー。……あ、ゼクスも上がる? 皆順番に拭いてあげるから、桶の縁で並んで待っててねー」
ノインに続いて、何匹かのシルバースライムも巨大桶の縁に乗り上げた。
次々と桶風呂から上がるシルバースライムを相手に、ライトは一匹一匹丁寧にバスタオルで受け止めて身体を拭いていく。
シルバースライムの身体からは、湯上がりの蒸気がホカホカと立ち上る。
十匹全部がお風呂から上がったところで、ライトは使用済みのバスタオルをアイテムリュックに仕舞う。
そしてここで生産職スキルの【遠心分離】を発動し、巨大桶のお湯を遠心分離の器に全て入れたではないか。
そう、ライトがシルバースライム達を風呂に入れてたのは、クエストイベントのエクストラのお題『銀色のべたべた』を手に入れるためであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この『スライムを風呂に入れて有効成分を得る』という方法、実はスライム飼育場でも採られている方法である。
スライム飼育場でも、全部のスライムをいちいち風呂に入れているのかどうかは分からないが(そこら辺は一応企業秘密?らしい)、話を聞かせてくれた飼育員のロルフによると「各エリアに必ず一つは水場を作り、スライム達に水浴びをさせている」らしい。
ライトもその話にヒントを得て、この巨大桶を使った風呂事業?を思いついたのだ。
まず一回目の遠心分離で、お湯=水成分とその他の成分を分離させる。
分離した水成分を全て地面に捨てて、そのまま二回目の遠心分離をかける。
二回目で分離するのは、有効成分であるスライムの各種成分と、それ以外の土や泥汚れなどの不純物。スライムは地べたを這う魔物なので、そうした土汚れはどうしても出てしまうのである。
もちろん不純物はその場で捨てて、有効成分のみを遠心分離の器に残す。
そして最後にもう一回、三回目の遠心分離をかける。
ここまでやることで、やっとスライムの有効成分『ぬるぬる』『ねばねば』『べたべた』を分けることができるのだ。
スライム風呂一回の入浴?で採れるスライムの有効成分の量は、その時々によって多少の増減はあるが、採れる量の大小は必ず決まっている。『ぬるぬる>>>ねばねば>>>>>べたべた』の順である。
最もレア度の低いぬるぬるは、一回の入浴で空瓶三本は満たせる。レア度が中程度のねばねばも、空瓶一本くらいは採れる。
だが、ライトのお目当てのべたべたは、スライム系素材の中で最もレア度が高い。故に、一回の入浴で採れる量は空瓶の三割程度だった。
そしてこの『シルバースライム入浴大作戦!』は、何気に結構労力を使うので、如何にライトと言えども毎日行えるものではない。
頑張って三日に一度、間が開けば一週間くらい開いてしまう時もあった。
だが、お目当ての『銀色のべたべた』が三回のスライム入浴で一個分になる。やればやった分だけその成果が目に見えるというのは、ライトのモチベーション維持にも大いに繋がっていた。
お風呂上がりの飲み物代わりに、おやつとして銀の塊をシルバースライムに与えるライト。マイページのアイテム欄から銀塊1個を取り出し、手で小さく千切ってスライムの口に近づける。
どのシルバースライムも皆パクッ☆と食いつき、それはそれは美味しそうに、もっもっ、もっもっ、と銀を食べている。
「皆、いつもありがとうねぇ。クエストイベントが終わっても、ぼくここに来るからさ。これからもぼくと仲良くしてね」
「「「♪♪♪」」」
もともとはクエストイベントのエクストラページをクリアするために、シルバースライムにお近づきになったライト。
だが今は、それを抜きにしてもこのシルバースライム達と仲良くしていきたいと思っている。
それは、人懐っこいシルバースライムにライトがノックアウトされてしまったことの裏返し。
おやつの銀塊を美味しそうに食べるシルバースライムの愛らしさに、すっかり魅了され癒やされているライトだった。