軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第984話 レオニスの二つ名の真偽

尊敬する 兄貴分(ラキ) からの励ましを受けて、元気を取り戻したシンラ。

改めてレオニスの方に向き直り、謝罪した。

「森の番人、さっきはこっ恥ずかしいところを見せてしまって悪かった」

「いや、済んだことだから気にすんな。とはいえ、ラキの執り成しには感謝しろよ?」

「おう、もちろんだ!ラキ兄はやっぱすげー鬼人だぜ!」

「……で、手合わせはどうする? 俺としては、してもしなくてもどっちでもいいんだが」

レオニスもシンラの謝罪を受け入れ、今後どうするかを問うた。

正直なところ、レオニスとしてはシンラとの勝負は受けても受けなくてもどちらでもよかった。

いや、本音のところではレオニスにも『一度はトロールとも戦ってみたい』という欲求も少なからずあるだろう。だがそれは、絶対に今日中に必ず成し遂げなければならないことでもない。

別に今すぐ戦わんでも、何なら日を改めてからやってもいいことだしなー……というとで感じで聞いてみたことだった。

すると、シンラはキリッ!とした真面目な顔でレオニスを見つめる。

「俺は、一度でいいから番人と手合わせしたい。今日を逃したら、次にいつ会えるかも分からんしな」

「そりゃまぁそうだが」

「もちろん条件なんてつけねぇ、全力で戦いてぇ。だから……番人よ、このまま手合わせを受けてくれるか?」

「……本当にそれでいいのか?」

「ああ。俺も男だ、何度も言葉をひっくり返すような真似はしねぇ」

決意に満ちたシンラの真剣な眼差しに、レオニスもシンラが本気であることを感じ取る。

そしてシンラはラキの方に向き直り、やにわにラキの両手を取って握りしめる。

「ラキ兄……もし俺が死んだら、俺の仇を取ってくれるか?」

「……安心しろ。お前の骨はこの俺がきちんと拾って弔ってやる」

「お前らね……俺を無差別殺人鬼か何かと勘違いしてやがんのか?」

まるで死地に向かうかの如き 舎弟(シンラ) に、それを熱い眼差しで見送る 兄貴分(ラキ) 。

デカブツ義兄弟のやり取りに、レオニスが顔を引き攣らせながら文句をつけている。

だが、ラキはともかくシンラは本当に死ぬ気で挑むつもりのようだ。

壮絶なまでの悲壮感を漂わせるシンラの顔つきに、レオニスは渋い顔で俯き頭をガリガリと掻き毟りながら呟いた。

「……しゃあねぇなぁ。剣と攻撃魔法と飛行、この三つのうちどれか一つ、今日は使わんことにしてやる。どれでも一つ選べ」

「……いいのかッ!?」

「ああ。俺の気が変わらんうちに選べ。今から十数える、ゼロになるまでに決めろ」

「ぁーと、ぇーと、どどどどれを使わせんのが一番いいんだ!?」

レオニスが出してきた好条件に、一も二もなく飛びつくシンラ。

「十、九、八、七……」とレオニスが数えるカウントダウンの中、あばばばば……と慌てながらも懸命に考える。

剣はともかく、飛行しながら魔法を繰り出されたら自分に勝ち目はない。ならば魔法か飛行、どちらかを選ぶべきだ。

魔法を封じた場合、剣と飛行が残る。

地上でしか戦えない俺にとって、番人の空中戦は非常に厄介なことになるだろう。もし番人がずっと空中にいたら、俺に反撃する機会など巡ってこないはず。

その上で剣でじわじわと切り刻まれ続けたら、いくら俺でもジリ貧に追い込まれる。

一方、飛行を封じた場合は剣と魔法が残る。

俺らトロールは魔法には滅法弱いが、桁外れの回復力がある。腕や足を斬り落とされても繋げて治すことができるし、それこそ首や胴体を真っ二つにでもされない限り大抵の怪我や傷はすぐに治る。

それに、俺らトロールには身体の大きさを自在に変える変身能力がある……身体を小さくした時の俺の足の早さは、今まで誰にも負けたことはねぇ。

番人の魔法の腕がどの程度のものかは分からんが、身体を小さくして魔法攻撃の的にならんよう避けつつ、機を見て反撃する―――これしか勝ち筋はない。

これらのことを、十秒の間に断片的に思考して答えを導き出したシンラ。

レオニスの「……二、一、ゼ」のところで大きな声を張り上げた。

「飛行だ!飛行なしにしてくれ!」

「……それでいいんだな?」

「ああ。やっぱどう考えても、空からずっと攻撃され続けるのが一番厄介だからな」

「そうか。ならお望み通り、俺は空を飛ばんと約束しよう」

「ありがとう!」

シンラが選択した飛行に対し、レオニスは何の躊躇もなく封印に同意した。

自分に最も不利な条件が一つ消えたことで、シンラの表情はさらに明るくなる。

破顔しつつ礼を言うシンラに対し、レオニスが右手の人差し指をビシッ!と立てつつその他の注意事項を述べ始める。

「ただし。今から俺がいくつか言うことをよーく聞け。もし納得ができない、不満がある、となったらその場ですぐに言え。勝負をするならちゃんと話し合いをして、双方納得した上で挑みたいからな」

「おう。何でも言ってくれ!」

「まず、魔法に関して。飛行しない代わりに、魔法は普通に使うぞ。攻撃魔法はもちろん、力や素早さを上げる身体強化や防御強化、回復魔法なんかも全部使うからな」

「うん、そりゃ当然だ。俺だって回復しまくるし、強化魔法?だって、それを使わなきゃ人族なんて俺らの敵じゃねぇし」

一つ目の注意事項=レオニス自身にかける魔法に関して、シンラもうんうん、と頷きながら聞き入る。

強化魔法無しに、人族がトロール族に挑むなど無謀もいいところである。

それに、強化魔法を使えるのも実力のうちだし、能力を底上げすることでより強大な相手に挑むのは当然のこと。

そこら辺はシンラにもきちんと理解できたようだ。

そして、レオニスが中指を追加して二本の指を立てつつ、二つ目の注意事項を続けて話す。

「次に、体力回復剤や魔力回復剤なんかも戦闘中に普通に飲むからな。前に、戦闘中に回復剤を飲むなんてズルい!って文句を後から言ってきたやつが複数いるんでな……一応先に言っとく」

「ぁー……分かった。その手の道具を使わせたくなけりゃ、飲む隙を与えなきゃいいだけのことだしな」

「理解してもらえて助かる。何ならそっちも使いたい道具、回復剤類なんかがあれば好きに使っていい」

「いや、俺の方には特にない」

前例を出しつつ、回復剤類の使用承諾を求めるレオニス。

ちなみにその前例、レオニスにクレームを入れてきた人物は二者。一つはシュマルリ山脈南方に住む中位ドラゴンの鋼鉄竜、もう一つは廃都の魔城の四帝【愚帝】である。

どちらも戦闘中にレオニスが回復剤を使用したことに『卑怯デハナイカ?』『ずりぃぞ!』と後から言われたことを、レオニスは結構根に持っているらしい。

ならば戦闘前に、アイテムを使うことを先に宣言しとこう!という訳である。

そしてレオニスは薬指を追加し、三本指を立てて最後の注意事項に移る。

「最後に、勝負の止め時だが。これはラキに任せる。死なない程度にやり合うつもりだが、これ以上は危険だと判断したら止めてくれ。あるいはどちらかが降参もしくは気絶したら、その時点で勝敗決定だ」

「俺もそれでいい。ラキ兄、頼んだぜ」

「ああ、任せておけ」

勝負の審判員を任されたラキが、力強く頷く。

レオニスの言う『死なない程度にやり合う』というのがそこはかとなく怖いが、とりあえず死ななきゃ大丈夫だろ!というレオニスの大雑把なキニシナイ!精神が大いに垣間見える発言である。

そして、これに全く異を唱えないシンラも大概大雑把な脳筋である。

だいたいの条件が決まったところで、レオニスが皆に声をかける。

「じゃ、とりあえず行くか」

「おう!」

一旦立ち止まってその場で話をしていたレオニス達は、再び場所移動を再開した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

トロールの里の中で、一番開けた場所に到着したライト達。

向かう道中で語っていたシンラの解説によると、ここはいわゆる闘技場のような役割を果たす場所らしい。

といっても、特に何がある訳ではなく、壁はおろか柵すらないただただだだっ広いだけの更地。ライトの目には、田舎の小中学校の十校分以上は余裕ですっぽりと納まりそうな程な広さに映る。

しかし、これだけ広ければ多少派手な戦いになっても他の場所に影響を及ぼすことはないだろう。そういう意味では、レオニスとシンラが大いに暴れまくっても安心である。

これから手合わせするシンラとレオニスは、広大な更地の中央に向かって無言で歩いていく。

その少し後ろをライト、ラウル、ラキがついていく。

レオニスの深紅のロングジャケットの背中を見ながら、ライトがぽつりと呟く。

「レオ兄ちゃん、大丈夫かなぁ……」

「あのご主人様なら大丈夫だろ」

『うんうん、レオニス君なら心配いらないでしょ?』

「でも……あのシンラって人、トロール族の族長してるくらいなんだから、トロール族の中で一番強いんでしょ? それに、身体もラキさんより大きいし……」

レオニスのことを心配するライトだが、横にいるラウルやラウルの肩にちょこんと乗っかっているウィカは『大丈夫、大丈夫〜』とのほほんとした様子で答える。

ラウルもウィカも、レオニスを心配する様子など全くどころか微塵もない。それだけレオニスの力を評価している、ということの裏返しか。

しかし、ライトだけは心配が尽きない。

レオニスとシンラの体格差は三倍以上あるし、レオニスの譲歩により空中飛行もしないことになってしまった。

もちろんライトだってレオニスがものすごく強いことを知ってはいるが、それでもやはり未知の相手との死合は何が起こるか分からない。

眉をハの字にして心配するライトに、今度はラキが優しく語りかける。

「ライトよ、そんなに心配するな。我はレオニスとシンラ、双方のことを知っているが……正直なところ、レオニスがシンラに負けるとは到底思えん」

「ラキさんは、そう思うんですか?」

「ああ。あれの強さは我も身を以って知っているし、あれが我が里で普段から何と呼ばれているか、ライトもよく知っておろう?」

ラキの問いかけに、ライトが少し考えた後答えた。

「……【角なしの鬼】、ですか?」

「そう。我らオーガは、実力のない者に【角なしの鬼】という二つ名を与える程愚昧ではないぞ?」

「…………そうですね。ラキさん達が、レオ兄ちゃんにそんな忖度をする訳ないですもんね」

「ああ。その二つ名が伊達ではないことを、今こそ見せつけてくれることだろう」

ラキの言葉に、ライトも頷きながら次第に顔を上げていく。

そう、レオニスは当代人類最強の金剛級冒険者。異種族相手にそれがどこまで通用するかは分からないが、それでも人類最強と称賛される男がそう易々と負ける訳がないのだ。

ライトの顔に明るさが戻ったことに、ラキは安堵しつつ改めてライト達に声をかける。

「ライトはここら辺で待っててくれ。我はもう少しレオニス達の近くで勝負を見守るが、ライトに危険が及んではいけないからな。……ラウル先生、ライトの護衛をお頼み申す」

「承知した。俺達はここからご主人様の勇姿を見守るとしよう」

「ラキさんも、お気をつけて!」

「ありがとう」

ライト達はラキに言われた通りにそこで立ち止まり、ラキはレオニス達の後についていき少しづつライト達から遠ざかっていく。

そうして程なくして、レオニスとシンラが更地中央に立ち止まった。

ライトとラウルのいる位置からは、もはやレオニスは豆粒程度の大きさにしか見えない。だが、対戦相手のシンラが豆粒三つ分の大きさがあるので、まだ二者が立つ場所の位置把握はしやすい。

更地中央で向かい合うレオニスとシンラに向かって、ラキが大きな声で合図を出す。

「相手の生命を奪わない程度に、双方力の限りを尽くして戦え!―――始め!」

ラキの掛け声をきっかけに、レオニスとシンラの手合わせという名の死合が始まっていった。