軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第980話 トロール族の気質

ユグドラシア達と別れ、八咫烏の里を後にしたライト達。

次に向かうはトロールの里である。

しばしのんびり歩きながら目的地を目指す。

「ところでラキ、トロールの里で『コレだけはしてはいけない!』とかいう禁止事項みたいなもんはあるか?」

「いや、特にはないと思う。ただ、如何せんあいつらは何しろ短気というか、短絡的でな。何かというとすぐに腕力で解決しようという傾向がある」

「……ぁー……」

レオニスがラキに禁止事項の有無を問う。

何しろトロールの里はレオニスでも初めて訪問する場所だ、相手に失礼があってはいけない。

だが、ラキから帰ってきた答えは礼を失する云々以前の問題のようだ。

「とはいえ、勝負をして負けた相手には敬意を払うようにはなるので、勝てる勝負なら真正面から受けてきっちりと力の差を見せつけるのも、友好の近道ではある」

「トロールってのは、ホントにお前らオーガ以上の脳筋なんだな……」

「お前も大概我らと変わらんがな」

ラキのアドバイスに、レオニスが呆れたようにため息をつく。

しかし、ラキに言わせればレオニスとてオーガ族と大差ないくらいには立派な脳筋族である。

シレッとレオニスを腐した後、ラキがはたとした顔になり再び口を開く。

「……ああ、そうだ。もう一つ言っておきたいことがある」

「ン? 何だ?」

「我があの、書簡とも呼べぬような書簡をシンラに書いた理由を覚えているか?」

「あー……トロール族相手に小難しいことを書いても通じる訳がねぇから、ってヤツか?」

「そう、それだ」

今度はラキからレオニスに、一つ伝えておきたいことがあるという。

それは、かつてラキが八咫烏達との橋渡しのために書いた書簡に関連することらしい。

その書簡には『八咫烏は俺のダチだから、おめーもダチになってやってくれ』『俺のダチいじめたらコロス』と書いてあったという。

普段のラキは、オーガ族族長としてその名に恥じぬ毅然とした振る舞いをするよう常に心がけている。だがシンラ宛のその書簡は、とてもじゃないが族長同士で交わす書簡には到底思えない内容であった。

「何しろトロールというのは、あまり頭の出来がよろしくない。シンラは特にその傾向が強いとは思うが、それでも種族として全体的にそうした傾向があると思っていい」

「…………つまり?」

「我らには理解し難い言動をすることも多いが、その大半は悪気なくしている、ということだ」

「なるほど、そういうことか」

ラキの言わんとしていることを、レオニスは早々に理解する。

要は『あいつらが変なことをしても、なるべくスルーしてやってくれ』ということだ。

もちろんそれは、悪気がないから全て許される、などということでは決してない。だが、こちらの常識非常識と向こうの常識非常識がかなり異なるとなれば、それにいちいち腹を立てていてはこの先の交流はかなり難航することになる。

ましてや相手は物事をあまり深く考えない傾向にあるという。

それを踏まえた上で『あー、こいつらも別に嫌味とか皮肉でやってる訳じゃないんだな』と分かれば、多少の無礼も見逃せるというものだ。

ラキ曰く「我らは五回も十回も言われれば分かるが、シンラは百回繰り返し言ってようやく理解する」らしい。

そこまで根気良く付き合ってやれるのは、親兄弟か妻子か大親友くらいのものであろう。

ただし「今は我の言うことならば、一回もしくは数回言うだけですんなり受け入れる」らしい。

「……ま、余程酷い侮辱でもされない限りはな、なるべく取り合わないことにしよう」

「そうしてもらえると助かる。本当にな、根は悪い奴ではないのだがな……」

ラキの忠告を受け入れたレオニスに、ラキもはぁー……と深いため息をつく。

だが、すぐに顔を上げて改めてレオニス達の方を見る。

「だが、トロール族は一度認めた者達に対しては、以後決して侮ったりぞんざいに扱ったりすることはない。むしろ『自分達と対等に渡り合える』ことに対して限りない尊敬の念を抱く。そして仲間に対しては無条件で信頼を置き、絶対に裏切ることはない」

「そこら辺も、オーガ族とよく似てるんだな」

「ああ。だからレオニス、我らオーガ族に認められたお前ならきっと……いや、必ずやシンラにも認められると我は信じている」

ラキがトロール族の長所を述べつつ、レオニスへの強い信頼をも率直に伝える。

そこまでラキに信頼されていると知ったレオニス。ラキの真っ直ぐな瞳を見つめ返しながら、ニカッ!と笑う。

「おう、任せとけ。……じゃあ、ラキの懸念をサクッと払うためにも、とっととトロールの里に向かうとするか。ライト、ラウル、ここから走って行くぞ」

「うん!」

「了解」

「ラキもちゃんとついてこいよ?」

「 吐(ぬ) かせ、お前に遅れを取るような我ではないわ」

レオニスの言葉を聞いたラキが、オーガ族族長の正装である外套のボタンをすぐさま外して脱いで、小脇に抱える。そんな立派な外套をまとったままでは、全力疾走など到底適わないからだ。

ラキが外套を小脇に抱えたのを見て、ライトがラキにもしょもしょと声をかけ、ラキが申し訳なさそうに外套をライトに渡す。

外套をラキから預かったライト、早速アイテムリュックを開いて収納した。オーガ族族長に代々伝わる装束なのだ、大事に扱わねばならない。

ライト達のやり取りが終わり、準備万端整ったのを確認したレオニスが駆け出していく。

勢いよく走るレオニスの背を追うように、ライト達も負けじと走っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてカタポレンの森の中を走ること約二十分弱。

疎らだった木々が突如なくなり、広く開けた場に出た。

先頭を走っていたレオニスが一旦足を止め、追いついたライト達もレオニスの後ろで止まった。

「ここからはもうトロール族の縄張りだよな?」

「ああ。トロール族の里には、柵や塀といった外敵から里をを守るような機構はない。侵入者は力づくで排除するのみだ」

森の中で開けたその場所には、遠目から見てもすぐに家と分かる藁葺の建造物が見える。

建造物というほどの大仰なものではないが、それでも体格が大きいトロールが暮らすための家とあって、その大きさはかなりのものだ。

その家にラキが真っ直ぐに向かい、中にいた数人のトロールに声をかけた。

「すまんが、邪魔するぞ」

「あァン、誰だ?…………って、ラキさんじゃねぇか!」

突然入ってきたラキに対し、中で寛いでいた三人のトロール達。皆顔立ちや声が若く、人族で言えば二十歳前後の若者に見える。

そんなトロール達三人がラキを怪訝な目つきで睨みつけるも、その視線は瞬時に驚きと歓迎の色に染まる。

ちなみにラキは、この里に住んでいるトロール達全員にその顔と名を知られている。何せラキはトロール族族長シンラの兄貴分なのだ、そんな人物の顔も名前も知られていないなど万に一つもあろうはずがない。

突然の賓客の来訪に、三人のトロール達は一斉に立ち上がってラキの前に出た。

そして歓喜に満ちた表情で次々とラキに話しかける。

「ラキさんに会うの、本当に久しぶりだなぁ!」

「そうだな。我も族長になってからは、めっきり遠出しなくなったしな……皆息災に過ごしておるか?」

「ソクサイ? ……何だソレ、美味しいのか?」

「…………皆元気に過ごしておるか?という意味だ」

「ああ!ならそう言ってくれよ!俺達にゃ難しい言葉は分かんねぇんだから!」

「全くだ!ラキさんは本当に昔っから頭が良過ぎて、俺達じゃ話についていけなかったもんな!」

「「「ワーッハッハッハッハ!」」」

己達の無知を恥じることなく、豪快に笑い飛ばすトロール達。

三人して腰に手を当てふんぞり返りながら笑う様は底抜けに明るく、いっそ清々しささえ感じる。

欠点を自覚しながら全く凹まずに笑い飛ばせるなら、このトロール達にはストレスなどほぼ無縁なのかもしれない。

そんなトロール達の笑い声を遮るように、ラキが一際大きな声でトロール達に声をかけた。

「あー、すまんが族長のシンラに繋いでもらえるか?」

「ハーッハッハッハッ…………って、ラキさん、うちの族長の顔を見に来たんか?」

「ああ、所用があってこの近くに来たのでな。そのついでと言っては何だが、シンラの顔も見ていこうと思ったのだ」

「そりゃあいい、族長もきっと大喜びすると思うぜ!…………って、その前に。ラキさん、一ついいか?」

「ン? 何だ?」

ラキの話に破顔していた三人のトロールのうち、一人がライト達のいる方向に視線を遣った。

「ラキさんの後ろにいるちっこい奴ら、あれは一体何なんだ?」

「ああ、あれは我の連れでな。我だけでなく、この界隈―――八咫烏族や大神樹、果てはドラリシオ・マザーの恩人でもある」

「そうなんか? つまり、ラキさんにとって大事な仲間ってことか?」

「もちろん。なので、是非ともシンラにも引き合わせたく、今日はともにやってきたのだ」

ライト達のことを胡乱げな目で見ているトロール達だが、ラキの言葉を無視する訳にもいかない。

レオニス、ラウル、ライトの順でジロジロと見ていたが、フィッ、と視線を外して再びラキの方を見つめる。

「そういうことなら、俺達もここを通して族長のもとに案内するが……」

「いくらラキさんの連れであっても、この先どうするかは族長の考え方次第だ」

「今回はラキさんの顔に免じてそいつらも通すが、次は全員族長に認められてから来てくれ」

「もちろん分かっている。我らとてそのつもりで来たからな」

トロール達からの忠告に、ラキも頷きつつ答える。

ラキの連れとはいえ、初見の者に対してトロール達が警戒を抱くのは想定の範囲内だ。

ラキの答えに一応満足したのか、三人のうちの一人がラキの前に一歩進み出る。

「なら、俺が族長のところに案内しよう。ついてきてくれ」

「承知した」

案内役を買って出たトロールの後を、ラキとライト達はおとなしくついていった。