軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第977話 人化の術の会得状況・男衆編

アラエルにムニン、トリスの人化の術の成果が無事披露された後は、フギンとレイヴンの番である。

当然ライト達の視線も自然と二羽の方に向かう。

「そしたら次は、フギンさんとレイヴンさんの番ですね!」

「ああ、フギン達のも楽しみだな」

「誰を手本にしたんだろうな」

ライト達の期待に満ちた視線を受けて、フギンとレイヴンが「まだ自信がないのですが……」と呟きつつ人化の術を開始する。

シュルシュル……と縦長のシルエットに変化していき、二人の男性が現れた。

身体は首から下が黒一色になっていて、手と足だけ顔と同じ肌の色をしている。

それはまるでタートルネックのボディスーツを着ているような姿。

ミサキ達女性陣の人化の術が黒のドレスをまとうのと同じく、男性陣はボディスーツを身にまとうことにしたようだ。

「おおお……二人ともカッコいい!」

「フギンは……ラキが手本か?」

「はい。ご本人を前にしてこの姿を見せるのは、何とも気恥ずかしいのですが……」

フギン達の人化した姿に、ライトは大喜びし、レオニスが早速そのモデルが誰かを問う。

ラウルは人化したフギンとラキ、双方をキョロキョロと見比べている。

そしてフギンの人化のモデルとなったラキは、フギンの姿をまじまじと見つめている。

「何と……フギン殿が我を手本にしてくださるとは、夢にも思わなんだ」

「まだまだ未熟者の私が、ラキ殿の姿を真似るなど甚だ烏滸がましいとは思うのですが……」

「いや、そんなことはない。手本に選んでいただいたこと、心より光栄に思う」

ラキと人化したフギン、顔の作りはほぼ同じだがそれ以外の部分はかなり違う。

肌の色はラキは小麦色、フギンはオークル系の白肌。髪の色はラキは生成色でフギンは黒。そして髪の長さもラキは肩より少し長い程度、フギンは背中の中程まであるロングストレートとかなり違う。

もちろんラキの額にある一本角も、フギンの額にはない。

角はオーガ族を象徴する最も重要な要素なので、そこまで真似てしまっては逆にマズいのだ。

そして体格も全然違う。ラキは5メートルを越す巨躯だが、フギンは人族の範疇に収まるためにレオニスと同じくらいの体格にしている。

フギンの姿は、まさに細めのラキのミニチュア版。もしラキが人族だったら、きっとこんな姿なんだろうな、と誰もが思う姿を再現していた。

「私が最も尊敬するのは、シア様と父様ですが……それと同じくらいに、ラキ殿のことも尊敬しています。若くしてオーガの里の族長となり、立派に一族を率い治めておられるラキ殿の姿は、将来八咫烏一族の族長となるであろう私が目指す理想そのものなのです」

「フ、フギン殿……さ、さすがにそれは褒め過ぎというものぞ……」

「いいえ!決してそのようなことはありません!次代を担う者が立派な先達の背を見て倣い敬うのは当然のことです!」

ラキのことをベタ褒めするフギンに、ベタ褒めされる側のラキが真っ赤になりながら照れ臭そうにしている。

しかし、フギンは至って大真面目である。

実際のところ、八咫烏一族の族長は世襲制ではないというが、魔力の高さで決まるなら今のところフギンが最有力候補に間違いない。

将来八咫烏一族の族長となるフギンにとって、既に族長として活躍しているラキは尊敬する先輩なのだ。

ラキへの尊敬の念を隠すことなく熱弁するフギンに、ラキはますます顔を赤くして口篭る。

そんなラキの珍しい姿を、レオニスが嬉しそうな顔で見つめている。

「ラキよ、こんなにも誰かから尊敬されるなんて、すげーことじゃねぇか!大親友の俺も鼻が高いってもんだぜ!」

「レオニス……お前、この状況を面白がっているのではないか?」

「ンなこたぁない!」

胡座をかいて座っているラキの背中を、横に立っているレオニスが満面の笑みでバンバン!と叩いている。

レオニスの満面の笑みが、心なしかニヨニヨとしているような気がするが。多分気のせいであろう。キニシナイ!

「……ま、冗談抜きで俺はラキが族長として日々頑張っていることをよーく知ってるぜ?」

「…………まぁな」

「八咫烏一族もこれから外の世界を知るために、人化の術の会得に励んでいるんだ。お前らオーガ族も負けちゃいられんぞ?」

「……そうだな。我もまだまだ精進せねばならんし、未来を見据えて努力するフギン殿達に置いていかれぬようにせねばな」

レオニスに励まされたラキが、改めてフギンの方を見て話しかける。

「フギン殿が我の姿を真似てくれたこと、心より嬉しく思う。そのことをフギン殿が後々になって後悔せぬよう、フギン殿に恥じぬ生き様を貫くことをここに誓おう」

「ラキ殿……私もいつか、貴殿のような立派な指導者となるべく精進します!」

ラキがその大きな手をフギンの前に差し出し、フギンも人化したままラキの手を取り固い握手を交わす。

若き指導者達の絆がより深まった瞬間だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

フギンの人化の術を見た次は、レイヴンの番だ。

レイヴンもまたラウルくらいの背格好で、全身ボディスーツをまとった状態だ。

そして肝心の顔立ちの方だが、どこかで見たことがあるような気がする。

「レイヴンのその顔……絶対にどっかで見たことあるはずなんだが……」

「あ、レオ兄ちゃんもそう思う? ぼくも、どっかで見た覚えがあるんだけど……どこで見たか、思い出せないんだよねぇ」

「何だ、ご主人様達もあの顔に見覚えあんのか? 俺もどっかで見た気がするんだよなぁ」

「我には全く見覚えないが……」

人化したレイヴンの顔に、見覚えがあるライト、レオニス、ラウル。三人して上下左右に首を捻りながら、うんうんと唸り続ける。

もちろんレイヴンから先に正解を明かすことはない。レイヴンはニコニコ笑顔のまま、ライト達が言い当ててくれるのをじっと無言で待っている。

そして一番最初にハッ!とした顔で目を開いたのは、ライトだった。

「……あッ!ツィちゃんの新しい結界を作るのに協力してくれた、ナヌスの人達の中にいたあの人だ!!」

「……ああ!あの時のナヌスの一人か!確かに若いナヌスの中にあの顔がいたな!」

「えーと、誰だっけ…………シモン?」

「正解!」

レオニスがようやく捻り出した答えに、レイヴンがパァッ!と明るい顔で正解と告げる。

喉まで出かかっているのに、閊えて思い出せないもどかしさ。それがようやく晴れたことに、ライト達の顔はとてもすっきりとしていた。

「あー、シモンかぁ。あいつもなかなかに男前だったが……レイヴンは何でシモンを手本にしたんだ?」

「いやー、シモン殿って何か俺と似たような感じしません?」

「…………確かに」

レオニスからの問いに、レイヴンがサクッと答える。

レイヴンが人化の見本にしたシモンとは、ナヌス族の守備隊隊長を務める若き精鋭。

実際レイヴンの言う通りで、シモンはナヌスの長老達に対して『俺に嫁? あと五百年待て!』『俺の孫? あと千年待て!』と言い放つような人物だ。

「あの受け答えの軽さが結構俺に似てるなー、とか思ってたんスけど……それ以上に、ナヌスの長老方と気さくに話しておられる姿が、とても魅力的な御仁に見えたんですよねぇ」

「まぁなぁ、里の重鎮相手に怯むことなく言いたいことを言えるってのは、ある意味大物だよな」

「俺は別に、大物になりたいともなろうとも思いませんが……それでもあの時のシモン殿の周りには、常に笑顔と笑い声がありました」

ライトやレオニスは、シモンに会ったのは二回しかない。

だがその二回だけでも、シモンがどういう人物なのかはある程度知ることができた。

その時の記憶を辿れば、レイヴンが言っていることは正しいと理解できる。

「俺は、周りの者達を笑顔にできる者を、心から尊敬しています。笑顔とは、明るい未来や希望なくしては決して実現し得ないものですから」

「……そうだな。レイヴンが目指す理想は、笑顔に満ちた日々なんだな」

「はい。それにシモン殿は、守備隊隊長という要職にも就いておられる。俺も将来はフギン兄様のもとで、この八咫烏の里を守る一員として力を尽くす所存。故に、シモン殿は俺の理想の人なのです!」

フギンの時と同じく、手本とした人物に対して熱い思いを語るレイヴン。

真面目な八咫烏族にしては軽い性格のレイヴンだが、それでもこういう時には八咫烏族の気質が大いに出るようだ。

珍しく熱血なレイヴンに、フギンもまた感じ入ったように声をかける。

「レイヴン、よくぞ言ってくれた。これからも私とともに八咫烏の里、ひいてはシア様をお守りしていこうぞ」

「はい!俺も兄様方に負けぬよう、日々頑張ります!」

レイヴンの肩に手を置き、ともに八咫烏の里と大神樹を守る約束を交わすフギン。

もちろんレイヴンも真面目な顔で兄の言葉に応える。

八咫烏兄弟が交わす誓いは、実に感動的なシーンだ。

だが、しばらくしてレイヴンが何やらむず痒そうな顔をしている。

レイヴンに何か思うところがあるのだろうか?

「………………」

「……ン? レイヴン、どうした?」

「…………ふぇ…………」

「ふぇ???」

「ふぇーッくしょーぃッ!」

眉を顰めて鼻をムズムズさせたかと思うと、盛大なくしゃみをしたレイヴン。

レイヴンと向かい合っていたフギンの顔に、思いっきりレイブンのくしゃみが噴きかけられた。

「………………」

「……す、すません、フギン兄様……ズビッ」

レイヴンの唾が飛び散り石のように固まるフギンに、鼻を啜りながらもすぐに謝るレイヴン。

そのレイヴンの顔が、何やらおかしなことになっている。

身体や顔の目鼻は人化のままなのに、口の部分だけが嘴に戻ってしまっていた。

突然の喜劇勃発に、ライト達は目を丸くしながらも己の手の甲をギューーーッ!と力一杯抓り出す。

嘴だけもとに戻ってしまったレイヴンを前に、今ここで大笑いする訳にはいかない。そんなことをしたら、レイヴンがものすごく傷ついてしまう。

笑いを堪え必死に平静を装うライト達を他所に、レイヴンがものすごく落ち込んでいる。

「……嘴が引っ込んで見えなくなるってのが、未だにどうにも慣れないんスよねぇ……」

「……まぁな。レイヴンのその気持ちは、私にもよく分かるがな……」

「でしょでしょ? つーか、マキシも最初のうちはなかなか上手く人化できなかったって言ってたし。人化に慣れるまでは、かなり大変だったんだろうなぁ……」

レイヴンの言い分によると、日頃見慣れている嘴が引っ込んで視界から消えるのが、八咫烏にとってはかなり不安というか心地が悪いらしい。

実際マキシもレイヴンと同じ失敗をしたことがあることを、かくてラウルが八咫烏達にシレッと暴露していた。

フギンもレイヴンの言い分に頷きつつ同意しているので、きっとそれは間違いないことなのだろう。

すると、今度はレイヴンがボフン!という音とともにもとの八咫烏の姿に戻ってしまった。

そして次の瞬間、フギンもまた黒々とした八咫烏の姿に戻った。

どうやら二羽とも時間切れらしい。

「はぁー……まだまだ我らは未熟者だな……」

「ですねぇ……俺もうマキシのことを『師匠』と呼ぼうかな……」

己の未熟さに落ち込む八咫烏兄弟。

ライト達もフギンとレイヴンの会話で何とか気持ちを落ち着かせ、努めて明るく声をかける。

「レイヴンさん、そんなに落ち込むことないですよ!失敗なんて誰でもすることですし!」

「だな。ここはもう慣れるために、ただただひたすら人化の術を繰り返して数をこなし経験を積むのみだな」

「そうそう。マキシだって最後まで嘴のところで苦戦してたからな。八咫烏一族が人化の術を得るためには、この嘴問題こそが乗り越えなきゃならん壁なんだろう」

ライト達の励ましに、フギンもレイヴンも少しづつ顔を上げていく。

「……そうですね。ライト殿やレオニス殿、ラウル殿の言う通りです」

「マキシが通った道なら、俺達だって苦労して当然ですもんね!……よーし、俺ももっと人化の術を繰り返し回数をこなして、絶対に克服してやるぞー!」

やる気を取り戻した八咫烏兄弟達の意気込みを見て、ライト達は心から安堵するのだった。