軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第968話 ドラ恵とドラ代の本名

「何か……すっごくパワフルなドラリシオさん達だね……」

「おう、ドラ恵とドラ代は昔っからこんなやつらだ」

「俺が知るドラリシオとは、また別次元の生き物だな……」

『でもさ、これだけ感情豊かなお姉さんだと、毎日が楽しそうだよねー』

ブルーム達を両頬で頬ずりしながら、おいおいと大泣きし続ける二体のドラリシオ・レディー達。

その摩訶不思議な光景に、ライト達はただただ真上を見上げながら眺めるしかない。

すると、レディー達にとっ捕まったブルーム達が目を覚まし頼たようだ。

「ね、姉様……も、もう、大丈夫です……」

「オ、オ姉チャン……」

「ク、苦ちィ……」

「イ、息ガ、できなイ……」

四体のブルーム達の訴えに、レディー達が慌てて頬からブルーム達を離す。

『ホント!? ホントに大丈夫ッ!?』

「は、はい……」

『よ、良かったぁぁぁぁ』

「「「…………」」」

ブルーム達を捕まえている蔓を高々と上げて、四体が目を覚ましたことにこれまた大喜びの滝涙を流すレディー達。

まるで幼子を全力で高い高いしているような図である。

地上10メートルの高さを超える高い高いは、さぞかし絶景もしくは恐ろしい光景であろう。

だが、当のレディー達にはブルーム達を怖がらせよう!などという悪意やいたずらなどをしている気はさらさらない。本当に、心の底からブルーム達の目覚めを喜んでいるだけなのだ。

とはいえ、このままではまたブルーム達が酷い目に遭ってしまう。

レオニスがレディー達に向けて声をかけた。

「つーか、ドラ恵、ドラ代。喜ぶのもいいが、その辺くらいで止めとけ。でないとまたブルーム達が気絶しちまうぞ?」

『え"ッ!? それは困るわ!』

『そ、そうね!それはとっても困るわね!』

止めに入ったレオニスの忠告に、レディー達の身体がピタッ!と石のように固まる。

そして慌てて四体のブルーム達を地面にそっと置いた。

レディー達の熱い抱擁からようやく解放されたブルーム達。見るからにほっ……とした表情で安堵している。

そしてレディーはレディーで、まずはブルーム達に謝り始めた。

『小さな貴女達を振り回してしまって、本当にごめんなさい……』

『私達だって、もちろん悪気はなかったんだけど……』

『でも、貴女達にしてみたら、初めて会う姉がこんなガサツだったらビックリしちゃうわよね……』

『こんなんだから私達、母様やカティアにいっつも怒られちゃうのよね……』

先程までの暑苦しい号泣ぶりはどこへやら、途端にしょぼくれるレディー達。二者の言葉からするに、どうやらこの手の騒動は日常茶飯事のようだ。

二本の極太蔓の先端にある花の手をチョン、チョン、と軽く突き合わせたり、クネクネと絡ませながら反省しきりのレディー達。しょんもりとした顔で呟く彼女達は何とも可愛らしく、その仕草と相まって本当に心から反省しているように見える。

そんな巨大な姉達を、ブルーム達がじっと見つめていた。

「……姉様、姉様が私達のことを想ってくれていることが、よく分かりました」

「うン。大きナ、オ姉チャン、とってモ、優しイ」

「私達のこト、大事ニ、想っテ、くれてるのガ、分かル」

「私モ、大きナ、オ姉チャンのこト、大好キ!」

ブルーム達がレディーに向かって無邪気な笑顔で『大好き!』と伝える。

その輝かんばかりの四つの笑顔に、それまでしょぼくれていたレディー達の顔が一気に明るくなっていった。

『まぁ、何て素敵な子達なの!?』

『本当に、本当に可愛らしい子達ね!』

『大きなオ姉チャン、て呼び方も新鮮で、何だかすっごい嬉しい!』

『でもね、私達にはそれぞれにちゃんとした名前があるのよ?』

小さなブルーム達の好意に、身体をクネクネさせて大喜びするレディー達。

ブルーム達の『大きなオ姉チャン』という呼び方もとても気に入ったようだ。

だが、彼女達にはマザーから賜った立派な名前がある。

二体のレディー達は、エッヘン☆とばかりに胸を張りつつ各々名乗る。

『私の名は『レナータ』。南の里に住むドラリシオ・レディーよ!』

『私は『ミレイユ』。いつもは西南の里にいるわ!』

『私のことは『レナータお姉ちゃん』って呼んで!』

『そしたら私は『ミレイユお姉ちゃん』ね!』

自己紹介もそこそこに、四体のブルーム達にワクテカ顔を向ける。

そのワクテカは、お姉ちゃんと呼ばれたい彼女達の願望がこれでもか!というくらいに詰め込まれているかのようだ。

レディー達に迫られたブルーム達は、はにかむようにレディー達の名を呼んだ。

「レナータ……オ姉チャン?」

「ミレイユ、オ姉チャン?」

照れ臭さと嬉しさが入り混じった、ブルーム達の笑顔。

その愛らしくも可憐な姿に、思いっきり胸を射抜かれるレナータとミレイユ。

仰け反る二者の、くはァッ!あうッ!という小さな呻き声とともに、ズドーーーン!バキューーーン!という効果音がどこからともなく聞こえてきた、気がする。

『ハァ、ハァ、ハァ……何だか今、心臓が止まりかけた気がするわ……』

『ぇ、ぇぇ……何かしら、この心臓を鷲掴みにされたようなものすごい衝撃は……』

『ちょ、あ、貴女達、大丈夫!?』

ブルーム達に見事射抜かれたレナータとミレイユが、勢いよく仰け反って後ろにひっくり返りかける。

そのまま後ろに倒れるのだけは何とか堪えたが、今度は前屈みになって極太蔓で己の胸を懸命に抑えている。

そんな二者の挙動を見たカティアが、慌ててレナータ達のもとに駆け寄った。

そして、レナータ達を心配して駆け寄るのはカティアだけではない。

見えない矢で彼女達の胸を射抜いた四体のブルーム達も、卒倒しかけたレナータ達のもとに駆け寄っていた。

「レナータ姉様、ミレイユ姉様、大丈夫ですか!?」

「レナータ、オ姉チャン!」

「ミレイユ、オ姉チャン!」

「しっかりしテ!」

レナータやミレイユの球根部に寄り添い、心配そうに腕の蔓で撫でるブルーム達。

前屈みになったレナータ達の目に、球根部に縋りつきながら姉を心配する妹達の姿が映る。

先程の照れ臭そうな笑顔が消え失せて、今は自分達の体調を心配して憂いている。

憂い顔の妹達を宥めるように、レナータとミレイユがブルーム達に声をかけた。

『だ、大丈夫よ……この程度のこと、何でもないわ』

『ええ、ちょーっと目眩がしただけだから……心配は要らないわ』

「……本当ニ?」

「レナータオ姉チャンも、ミレイユオ姉チャンも、本当ニ、大丈夫?」

『ええ、本当よ。レナータお姉ちゃんは、決して嘘はつかないわ』

『ミレイユお姉ちゃんも、本当のことしか言わないわよ?』

レディー達は穏やかな笑みを浮かべながら、自分達を心配そうに見上げるブルーム達の頬を極太蔓でそっと撫でる。

大きな姉の優しい仕草に、ブルーム達の憂い顔は次第に落ち着きを取り戻していく。

ドラリシオという種族の中で、ブルームは最も地位が低い。

頂点がマザーなのは言うまでもなく、マザーの次にマダム、マダムの下にレディー、チルドレン、ブルームと続いていく。

ドラリシオ社会、そのヒエラルキーの中においてブルームは最も下。しかもラウル達が保護したブルーム達は、悪徳商人が人為的に改造した違法栽培の種から生まれた者達。

その出自を考えたら、他の通常のブルームよりもさらに下に見られることは明らかだった。

だが、今ライト達の目の前で繰り広げられている光景には、そうした差別や忌避など全く感じられない。

レディーもブルームも、純粋にドラリシオという種族、その一員として接している。

もとより砂漠生まれのブルーム達には、水神アクアという強力な後ろ楯が既にあった。

しかし、レディーであるレナータとミレイユからも気に入られたということは、アクアの後ろ楯と同じくらいに心強い味方ができたということだ。

大小様々なドラリシオ達が織りなす交流に、ライト達は心温まる思いで見守っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ブルーム達を安心させることに成功した、レナータとミレイユ。

するとここで、今度はクルッ!と首を横に90°回転させてレオニスの方を見遣る。

『そんな訳で。レオニス、アンタも今日から私達のことをちゃんと名前で呼ぶこと。いいわね!?』

「ぇー……別に『ドラ恵』と『ドラ代』のままでもいいじゃねぇかよー」

『お黙りッ!私の名はミレイユなの!もう『ドラ代』じゃないんだからねッ!』

『そうよ!私だって『レナータ』なんだからねッ!』

レオニスに向かって、険しい顔で名前の呼び方を指導し始めたレナータとミレイユ。やはり彼女達にとって、マザーから与えられた新たな名はとても重要なものらしい。

何気にずぼらなレオニスが軽く抗議するも、レナータ達は決して引かない。

ここで引いたら、なし崩しにそのままズルズルと『ドラ恵』『ドラ代』と呼ばれ続けることが分かっているのだ。

レナータとミレイユは、その黄金色の瞳を山吹色に輝かせてギラリ!とレオニスを睨みつける。

『つーか、今度またドラ恵とかドラ代って呼んだら……』

『この蔓で、その首を思いっきり絞めちゃうんだからね☆』

「……(ヤバッ、こいつら本気だ)……」

山吹色の瞳がギラギラと光り、その口元は口角が左右に大きく上がって見事な三日月型になっている。

三日月型になった口からは、ノコギリ刃のようなギザギザ歯が垣間見える。そのギザギザ歯は、どこぞの陽気な某丘ゴブリンAを彷彿とさせる。

ドラリシオ・レディーの瞳が山吹色に変わったということは、彼女達の中に怒りが渦巻いている証拠。

その怒りの度合いは低めと言えど、決して侮っていいものではない。

これ以上レナータ達の機嫌を逆撫でするのは決して得策ではない。

レオニスは観念したように、レナータ達の名を呼んだ。

「……分かった。ドラ恵は『レナータ』で、ドラ代は『ミレイユ』になったんだったか?」

『そうよ。私がレナータ』

『私はミレイユ』

「だよな。ヘソの下に赤紫色の痣があるのがドラy……じゃね、ミレイユで、腰のドレスの葉脈模様が超細かいのがドr……レナータ、だもんな」

『そうそう!……って、レオニス、アンタ、そんなところで私達の見分けをしてたの?』

ようやくレナータ達の名を呼んだレオニス。

レナータ達も一瞬だけ喜んだものの、レオニス流『ドラリシオ・レディーの見分け方』を聞いて呆れた顔をしている。

「しゃあねぇだろ……人族の目には、ドラリシオは顔を見ただけじゃなかなか区別できんのだからよ」

『だからって、アンタ……もうちょいマシな区別の仕方はない訳?』

「無茶言うなよ。お前らだって、 灰闘牙熊(グレイファングベア) なんかの顔の区別なんぞつかんだろ?」

『…………まぁね』

レオニスの言い分に、ミレイユが渋々ながらも納得する。

これは人族に限ったことではなく、他の種族の顔の違いが分からないということは多い。

人族の顔だって目鼻や口の形が様々あるように思えても、他の種族から見たらどれも同じ顔に見えることだって往々にしてあるのだ。

「ていうか、お前らの新しい名前も知ることができたことだし。そろそろブルーム達の療養に取り掛かっていいか?」

『!!そ、そうね、それは早く進めなければならないわね!』

『可愛いブルーム達が連れて帰ってきた、大事な妹達だものね!急いで療養を始めましょう!』

話がだいぶ逸れてしまったのを、レオニスがキリのいいところで修正にかかる。

レナータとミレイユの登場により、かなりバタバタしてしまっていたが。ここ北の里でのレオニス達の本来の目的は、ブルーム達が連れ帰ってきた他のブルーム達を復活させることにある。

レオニスの軌道修正に、レナータとミレイユも慌てて同意する。

「おう、そしたらレナータとミレイユ、カティアも手伝ってくれるか?」

『もちろんよ!』

『私達は何をすればいいの!?』

「ライト達が整えてくれた、この療養所?の畝、土を筋状に盛り上げているところが何列もあるだろう? この畝に、適度に間隔を開けて小さな穴を作ってくれ。そこにブルーム達の欠片を入れる」

『分かったわ』

「そうだな……畝が十二列あるから、一列につき九個の穴を作ってくれ」

『『はーい!』』

レオニスの指示に、三体のレディー達が従い動き始める。

ドラリシオ・レディーは体躯が大きく、蔓を伸ばせば療養用畑の端から端まで伸ばすことができる。

その蔓を使って、畑の畝にブルームの欠片を入れる穴を作ってもらおう、という訳だ。

極太の蔓を使って、器用に畝に穴を作っていくカティア達。

人間で言えば、指一本で柔らかい土に穴を開けるようなもので、然程難しい作業ではない。カティア達は先端に花の手がない蔓を用いて、ポス、ポス、と畝に器用に穴を開けていく。

その間に、レオニスはマキシ達八咫烏三兄弟に向かって声をかける。

「マキシ、フギン、レイヴン、すまんがレナータ達が開けた穴にブルーム達の欠片を一つづつ入れてやってくれるか?」

「了解です!」

「我らにお任せあれ!」

「俺達の出番ッスね!」

レディー達によってあっという間に作られた百個以上の穴に、今度はマキシ達がブルーム達の欠片を一つづつ入れていく。

マキシ達はブルームの欠片を傷つけないよう、脚の爪で優しく包むように持ち上げては穴の中にそっと置いていく。

三体のレディーと三羽の八咫烏の活躍により、ブルーム達の欠片は全て療養畑の中に収まった。

そしてレオニスは、最後の仕上げにかかる。

四体のブルーム達に向かって声をかけた。

「そしたらお前達は、この畑の四隅に一体づつ行きな」

「……え? 私達も行くの?」

「そりゃそうさ。お前達だって、ノーヴェ砂漠で散々戦って、散々傷付いてきただろう?」

「それハ、そうだけド……」

「だったらお前達も、ここできちんと療養して、しっかりと元気にならなくちゃな」

「「「………………」」」

レオニスからの思いがけない言葉に、ブルーム達は戸惑っている。

仲間達の欠片が療養するのは当たり前のことだが、まさか自分達も療養しろと言われるとは思ってもいなかったのだ。

そんなブルーム達に、カティア達レディーがそっと話しかける。

『レオニスの言う通りよ。貴女達だって、たくさん傷付いて、たくさん疲れたでしょう?』

『そうよ、貴女達もちゃんと休まなくちゃ!』

『それに、四隅に一体づつ行けば、畑の中で療養している姉妹達の回復する様子も見守れるわよ!』

レディー達の優しい言葉に、ブルーム達の顔から戸惑いが消えていく。

確かにミレイユの言う通りで、レオニスがブルーム達に四隅に行けと言ったのは、四体のブルーム達が自身の傷を癒やしつつ、それと同時に百体の姉妹の回復を見守れるように、という配慮からだった。

そうした心遣いがあることに気づいたブルーム達は、頷きながら応じた。

「分かった……姉様達や、レオニスの言う通りにするわ」

「うン。私モ、早ク、元気ニ、なれるようニ、頑張ル!」

「大きイ、オ姉チャン、ありがとウ!」

「レオニスモ、ありがとウ!」

レディーやレオニスに礼を言いながら、頭を下げるブルーム達。

どこまでも礼儀正しいブルーム達に、姉のレディー達の顔はますます頬が緩む。

『ホンット、何て可愛い子達なの!』

『よーし、ここはミレイユお姉ちゃんが隅っこに送っていってあげるわ!』

『あッ、そしたらレナータお姉ちゃんも送ってあげるわ!』

『なら、カティアお姉ちゃんは二体を送ることにしましょうね♪』

『『あ、カティア、ズルッ!』』

レナータとミレイユが、その極太蔓でブルームを一体づつ抱えた隙に、カティアが残りの二体を掻っ攫うようにして極太蔓に抱き抱える。

最後の最後にトンビが油揚げを掻っ攫っていくようなカティアに、レナータとミレイユがガビーン!顔になっている。

いそいそと畑の隅っこに向かうカティアに、レナータとミレイユも同じくいそいそと畑の隅に移動していく。

レディー達が四隅に到着し、ブルーム達を置く前に別の蔓で土を少し掘っている。

そうしてできた窪みに、四体のブルーム達がそっと置かれた。

柔らかいふかふかのベッドのような土の上に座り込んだブルーム達。

その土の気持ち良さに、四体とも思わずうっとりとしている。

「ああ……気持ち良い……」

「すっごク、ふかふかノ、土……」

「砂だらけノ、ところとハ、大違イ……」

「……(スヤァ)……」

療養畑の上に置かれた途端に、ブルーム達は間を置かずして早々に寝てしまった。

ライトが土魔法で耕し、ラウルの手によって一つ残らず土以外の固形物が排除された、土だけの柔らかな極上ベッド。

そこにアクアの高魔力の上等な水がたっぷり撒かれ、そしてレディー達姉の腕に抱かれて連れられてきたとなれば、これ以上ない最上級の寝心地であろう。

ノーヴェ砂漠で傷付いた身体を癒やすために、眠りに入ったブルーム達。

その安心しきった可愛らしい寝顔に、ライト達はもちろんのことレディー達もにこやかな笑顔で見つめていた。