軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第956話 幻想的な光景とノーヴェ砂漠再び

ラグナロッツァの屋敷では、ライトとレオニスの支度が整いラウルの待つ客間に戻ってきていた。

二人ともその頭にハイパーゴーグルを乗せていて、いつでも目に装着できるよう準備万端整えている。

三人揃ったところで、レオニスがこれからの行動の説明をする。

「まずは目覚めの湖に行って、アクアに会うぞ」

「アクアに? てことは、どこかの水場に移動するの?」

「ああ。ノーヴェ砂漠には、そのド真ん中に『ワカチコナ』という名の唯一無二のオアシスがある。アクアにそこに連れてってもらう」

「あー、それいいね!それなら冒険者ギルドに知られないように、ノーヴェ砂漠からカタポレンの森に直接移動できるもんね!」

「そゆこと」

「…………!!」

レオニスの出してきた策に、ライトは即座に賛同しラウルは目を大きく見開いている。

確かに水神アクアの力を借りれば、世界中のありとあらゆる水場を自由に行き来できる。

これなら人族側である冒険者ギルドにも不利益は与えないし、ラウルが救いたいドラリシオ・ブルーム達を誰にも知られず密かに救出することができる。

ラウルが求めて止まない、人族側の冒険者ギルドへの義理立てとドラリシオ・ブルーム達の救出。

この二兎を追い、どちらかを犠牲にすることなく双方を得る方策を、レオニスは見事に指し示してくれた。

ラウルは目から鱗が落ちる思いだった。

「てな訳で。浴室から目覚めの湖に移動するぞ」

「うん!さ、ラウル、行こう!」

「ぁ、ぁぁ……」

レオニスの掛け声をきっかけに、ライトがまだソファに座っているラウルの手を引っ張って立たせる。

レオニスの考えた案と、ライトの輝かんばかりの眩しい笑顔。

二人の主人から差し伸べられた、大小大きさの違う手の温かさ。一度は絶望しかけたラウルの目の前に、再び大きな希望の光が差し込んでいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラグナロッツァの屋敷の浴室、浴槽の前に立つライト達三人。

出立直前、レオニスが二人に向かって確認の言葉をかける。

「二人とも、水神の鱗はちゃんと持ってるか?」

「うん、マントの内ポケットに入れたよ!」

「俺もここにちゃんと持っている」

レオニスの確認に、ライトはマントの内ポケットから、ラウルは燕尾服風ジャケットのポケットから、それぞれが持つ水神の鱗を取り出して見せた。

水場を介してアクアのもとに移動できるこのアイテム、アイテムリュックや空間魔法陣などの異空間に入れたままでは使えない。

少なくとも外に出して身につけておかなければならないのである。

「よし、じゃあ行くぞ」

「うん!」

「おう」

レオニス、ライト、ラウルの順に、浴槽の水に触れて目覚めの湖に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

外はもう日が落ちて、カタポレンの森にも夜の帳が下りる。

目覚めの湖にも夜が訪れ、湖面には薄い月明かりがゆらゆらと揺らめいている。

一方目覚めの湖の中は、星屑を散りばめたかのようにキラキラとした光が舞う。

光の一つ一つは然程強くはなく、眩しいほどではない。薄ぼんやりとした綿毛のような淡い光が水の中をゆったりと漂う。

それはまるで地上の蛍を見ているかのような、とても幻想的な光景だった。

「ぉぉぉ……夜の目覚めの湖って、こんな風になるんだね……ぼく、初めて見るからすっごく新鮮ー」

「俺も中から見るのは初めてだわ。夜中に上を飛んでて、湖がぼんやり光ってるのは見たことあるけど」

「これはこれで、綺麗なもんだな」

初めて見るとても綺麗な光景に、ライト達三人は感嘆を漏らす。

これは、目覚めの湖に住む固有種『湖の宝石』と呼ばれるものだ。

昼は湖底や岩陰などに潜んでいるが、夜になると出てきて水中をゆらゆらと漂うという習性がある。

特に何をするでもなく、本当に空中を舞う埃のようにただそこにいて流れに身を任せているだけである。

何とも不思議な存在だが、そもそも目覚めの湖自体が人の手の入らないカタポレンの森の中にあるので、目覚めの湖に住む生物全般が詳しい生態は全く知られていない。

そのためレオニス達は『綺麗だなー』としか思わないし、ライトも『エリトナ山の鬼火にそっくりだなー』と思っている。

だが実はこのライトの所感は当たっていて、この湖の宝石はエリトナ山の固有魔物である鬼火の亜種である。

つまりこの綺麗な光景は、正真正銘魔物が作り出しているのだ。

ただし、この湖の宝石という魔物、その正体はBCOにおけるボツ案モンスターという悲しい存在だ。

ゲーム内で正式採用されていないだけに、他種族への敵意や襲撃の衝動もほとんどないに等しい。

故にこうして目覚めの湖の中をただ漂うだけの、のんびりとした存在に収まっていられるのは、ボツ案=不採用という不名誉も長い目で見れば存外幸運なことかもしれない。

ライト達が初めて見る幻想的な光景にうっとりしていると、突如目の前に大きな影がヌッ……と現れた。

『……あれ? ライト君?』

「あッ、アクア!こんばんは!」

「おう、アクア、久しぶり」

「もう夜中になるってのに、突然訪ねてきてすまんな」

『ううん、気にしないでいいよー。レオニス君もラウル君もようこそー』

夜中の突然の訪問にも拘わらず、ライト達を快く受け入れるアクア。

アクアがライト達と挨拶をしている間に、どこからかウィカもやってきた。

『あれー? ライト君にレオニス君に、ラウル君までいるのー?』

「あッ、ウィカもこんばんは!」

「よう、ウィカ。水の女王やイードも起きてるのか?」

『ううん。夜になっても起きてるのは、ボクとアクア君くらいだよー』

『そうそう。水の女王やイーちゃんは、夜になると早くに寝ちゃうことが多いんだよねー』

「そうなんだ、それは知らなかった」

アクアに次いでウィカも登場したことで、もしかして『目覚めの湖の愉快な仲間達の』一員である水の女王やイードも来るか?と思ったのだが。どうやらどちらとも夜になるとさっさと寝てしまうらしい。

時と場合によっては、夜遅くまで起きていることもあるらしいが(例:初めて天空島に出かけた日。この日は興奮し過ぎてなかなか寝つけなかったらしい)、普段は日没後に水草のベッドで寝てしまうようだ。

水の女王やイード達とも結構仲良くなってきたと思っていても、まだまだ知らないことがいっぱいあるんだな……とライト達が思っていると、ウィカが小首を傾げながらライトに問うた。

『どうしたの? ライト君達が夜になってからここに来るなんて、初めてのことだね。何かあったの?』

ウィカが疑問を持つのも当然だ。

わざわざこんな夜中に、ライト達が訪ねてくるのは初めてのことである。というか、そもそも夜中に誰かがアクアやウィカを訪ねて来ること自体が、余程の事態でもなければあり得ない。

そう、例えばそれは神樹襲撃事件に、大神樹ユグドラシアに助けを求めるためにウィカの力を借りに来たマキシのように。

そのため今回も何事かが起きたことを、アクアもウィカも薄っすらと感じ取っていた。

その何事かを、今度はレオニスが率先して話していく。

「実は、緊急でアクアに頼みたいことがあってな」

『僕に? 何なに?』

「ノーヴェ砂漠にある『ワカチコナ』というオアシスに、今すぐ俺達を連れていってもらいたいんだ」

『……ワカチコナ……』

レオニスが目的地を告げると、アクアはしばし無言になる。

これは、アクアがこの目覚めの湖に顕現して以降初めて耳にする水場に対し、その名を頼りにどこにあるかを水神の権能を使ってサーチしているのだ。

『……うん、場所は特定したよ。広大な砂地の中にある水場だね』

「そう、そこだ。そのワカチコナに俺達を連れていってもらえるか?」

『……もちろんいいよ。きっと何かすごく大事な理由があるんだろうしね』

「ありがとう、アクア!」

レオニスの願いに、アクアがライトをちろりと見遣った後に快諾する。

本来なら水神であるアクアに、人族の願いをいちいち聞き届けてやる義理などない。

だが、ここにはアクアの生みの親であるライトがいる。

ここではレオニスが代表して交渉の先頭に立っているが、レオニスの横にライトがいるのだからレオニスの弁はライトの弁でもある。

アクアにとって、親であるライトの願いを叶えることは至極当然のこと。故にアクアはレオニスの願いであっても聞き届けたのだ。

もっとも、レオニスもラウルももうアクアにとってはそれなりに大事な友達なので、ライトがいない場面でも軽い願い事ならサクッと叶えてしまうだろうが。

そんなアクアの優しさに、ライトがアクアの首っ玉に抱きつきながら礼を言う。

ライトにしてみれば、それはお礼と喜びを表すだけの何気ない行動。しかしアクアにとってはこの上ない極上のご褒美である。

破顔しつつ抱きつくライトの頬に、アクアもまた本当に嬉しそうに頬ずりをしていた。

『……さ、じゃあ皆僕の背中に乗って。急ぎの用事なんでしょ?』

「うん!レオ兄ちゃん、ラウル、行こう!」

「おう。ありがとうな、アクア」

「俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう、アクア」

『どういたしまして』

アクアの呼びかけに、ライト達は早速アクアの背に乗り込む。

ライトの腕の中にウィカがちゃっかりと収まっているのはお約束だ。

生まれたばかりの時のアクアは、今のウィカのようにライトの腕の中にすっぽり収まるサイズだった。

それが今ではライト達三人を乗せてもなお有り余るほどの、大きくて頼もしい背中になっている。

ライトはアクアの背に乗りながら、心の中で彼の成長ぶりを大いに喜ぶ。

『とりあえず、何が起きたのかは行った先で聞かせてね』

「もちろんだ」

『じゃ、ワカチコナに行くよー』

「うん!よろしくね!」

ライト達を背に乗せたアクアは、ワカチコナに向かって瞬間移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

目覚めの湖からワカチコナに移動したライト達。

それまで

アクアがオアシスの水面から音もなくスーッ……と浮上し、空高く浮いた。

『レオニス君、ここで間違いないよね?』

「……ああ、間違いない。ここはノーヴェ砂漠の中だ」

アクアからの確認に、レオニスは眼下に広がる光景を見回しつつ肯定する。

今日のノーヴェ砂漠の月明かりは、目覚めの湖同様に薄い。故に普通の目視ではあまりよく見えないが、レオニスの目にはハイパーゴーグルが装着されている。

このハイパーゴーグルを装着すれば、薄い月明かりでもくっきりとした視界が確保できるのだ。

アクアは一旦ワカチコナの畔に下りて、レオニス達からワカチコナに移動した理由の説明を受ける。

このノーヴェ砂漠の中に、ドラリシオ・ブルームというカタポレンの中に住む魔物の一種がいること、そのドラリシオ・ブルームをラウルは助けたいと思っていて、今はマキシ達八咫烏が傍にいて守っていること。

ドラリシオ・ブルームを助けるとは、つまりは故郷であるカタポレンの森に帰してやること、そのためには人族の街を介しての移動はまず不可能なこと。そもそもそのドラリシオ・ブルーム達は深手を追っていて、ノーヴェ砂漠超えもほとんど無理なこと、故にアクアの力を借りてワカチコナから巌流滝に移動したいこと等々。

それらの説明を、アクアもウィカも静かに聞いていた。

「……と、いう訳なんだ。俺もライトも、ラウルの願いは妥当なもので叶えてやりたいと思ってる。誰かを傷つけたり害するものでもないし、むしろラウルが助けたいドラリシオ・ブルーム達は人族の欲望の犠牲者だ。ここで俺達人族の手で助けなければ、ラウルやマキシに顔向けができん」

「アクア、ぼくからもお願い。ラウルに力を貸してあげて。そして、可哀想なドラリシオ・ブルームさん達を助けてあげて」

ライトもレオニスも、真摯な眼差しでアクアに嘆願する。

そんなご主人様達の姿に、ラウルもアクアに向けて深々と頭を下げる。

「アクア、俺からもこの通り頼む、どうか力を貸してくれ」

「草木一つないこの砂の地で、ボロボロに傷ついて死んでいった、あの哀れなドラリシオ達を……花びら一枚、葉っぱ一枚だけでも、カタポレンの森に帰してやりたいんだ……」

ボロボロに傷ついた身体、その胸に仲間達の遺骸の一部を抱えて横たわるドラリシオ・ブルームの姿を思い出したラウルが、堪えるように拳を握りしめながら頭を下げ続けている。

そんなラウルに、アクアが徐に口を開いた。

『分かってるよ。皆の願いを叶えるために、僕はここに来たんだから』

「…………ッ!!」

いつもと変わらぬ穏やかな口調のアクアの答えに、ラウルはガバッ!と頭を上げてアクアの顔を見る。

感激の面持ちでアクアを見つめるラウルに、アクアは事も無げにさらっとなおも言い放つ。

『だって、ラウル君はいつも僕に美味しいものをご馳走してくれるし』

『うんうん!アクア君だけじゃなくて、ボクや水の女王ちゃんやイーちゃんにもたくさん美味しいものをご馳走してくれるもんね!』

『そうそう。だからって訳じゃないけど、僕達はラウル君のことが大好きなんだ』

『大好きなラウル君が、こんなにも真剣にお願いしてるんだもの。叶えない訳がないよね!』

『『ねーーー♪』』

アクアとともに、ウィカまでもラウルのことが大好き!だから願いも叶えちゃうよ!と宣う。

ラウルと目覚めの湖の愉快な仲間達、日頃の交流が功を奏した。

アクアとウィカの言葉に、ラウルはまたも深々と頭を下げて礼を言う。

「アクア、ウィカ……本当、本当にありがとう……」

『いいのいいの、気にしないでー!これが終わったら、また皆で美味しいもの食べようねー☆』

『ウィカの言う通りだよ。……さ、そしたら早いとこそのドラリシオ?達を探そう。このノーヴェ砂漠というところは、僕が思ってたよりもはるかに寒い地のようだからね』

「……ッ!! 分かった、すぐに捜索に出よう」

ふるり、と身体を一震えさせるアクアを見たラウル、慌てて出立する旨をアクア達に伝える。

アクアもウィカも、この程度の冷え込みで凍る程柔ではない。だがそれでも、このノーヴェ砂漠の夜の冷え込みは想定外だったようだ。

出立するに当たり、レオニスが改めてラウルに確認を取る。

「ラウル、今どの辺りにマキシ達がいるか分かるか?」

「………………あっちだ」

「よし、そしたらラウル、お前が先頭になってマキシ達のいる方に飛べ。俺達はラウルの後をついていく」

「了解」

「あ、そしたらラウル、ぼくのハイパーゴーグルを貸してあげるよ!これを着ければ、明かりの少ない夜でもよく見えるようになるよ!」

「ありがとう、早速着けさせてもらうわ」

ライトが己の頭に着けたハイパーゴーグルを外し、サイズ調整のベルトを緩めてからラウルに渡す。

ライトはこのままアクアの背に乗って移動するので、ハイパーゴーグルは当分不要だ。ならば先頭で飛ぶラウルに貸し与えた方が、余程有意義というものである。

ライトからハイパーゴーグルを受け取ったラウルが、早速頭に着けて目に覆い装着する。

そしてキョロキョロと周囲を見回し、ハイパーゴーグルの性能を己の目で確かめている。

「おお……これ、かなりよく見えるようになるな」

「でしょでしょ? これ、ジョージ商会でも買えるんだよー」

「そりゃ良いことを聞いた。後で早速買いに行こう」

ハイパーゴーグルの高性能さを実感したラウルが、感嘆したように呟く。

ラウルも決して目が悪い訳ではないが、それでも夜目が利くとは言い難い。その点ハイパーゴーグルを装着すれば、昼の視力と大差ないくらいに暗闇の中もよく見えるようになる。

ラウルの優れた魔力感知だけでなく、肉眼でもマキシ達の姿を視認できれば万全である。

「よし、じゃあ行くぞ。ラウル、先頭は任せたぞ」

「おう!」

「うん!」

レオニスとラウルがふわりと宙に浮き、ライトとウィカもアクアの背に乗りアクアが飛ぶ。

ラウルがマキシ達のいる方向に向かって飛び立ち、レオニスとアクアもラウルの背を追って飛んでいった。