軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第952話 魂を揺さぶる切実な願い

ドラリシオ・ブルームの目に映る、空に浮かぶ四つの黒い点。

それらは次第に大きくなっていき、そのうちの一つがドラリシオ・ブルームの輪の内側にいる瀕死の個体の真上にまで来て止まった。

「お前ら、大丈夫か!?」

空中から突如現れたその何者かは、何故か顔を苦痛に歪めながら倒れているドラリシオ・ブルームの容態を心配している。

颯爽と現れたヒーローの如き闖入者に、ドラリシオ・ブルーム達だけでなくノーヴェ砂漠の固有魔物達までびっくりした顔で固まっている。

「アナタハ…………誰?」

「俺の名はラウル、カタポレンの森に住む妖精族の一つ、プーリアだ」

「プーリア……って……あの、引き篭もりの……?」

「そう、その引き篭もりの偏屈妖精族だ」

ラウルが瀕死のドラリシオ・ブルームと会話している間に、マキシ達は彼女達を取り囲む敵魔物を駆逐している。

フギンが雷魔法で飛行種族のブルーヒュプノモスやエフェメロプターを攻撃し、数多の雷で敵をバンバン撃ち落とす。空を飛ぶ敵には雷魔法は覿面に効く。

レイヴンは風魔法を使い、砂を巻き込んで小規模の竜巻を起こす。デザートスイーパーやサンドキャンサーは、その竜巻に巻き込まれてグルグルと上空に飛ばされて、はるか遠い空に放り出されていく。

マキシは浄化魔法をアビスソルジャーに向けて撃つ。アビスソルジャーは様々な怨念の塊なので、浄化魔法を食らえばひとたまりもなく霧散する運命である。

八咫烏三兄弟の見事な連携と活躍で、ドラリシオ・ブルーム達を追い詰めていた敵魔物はあっという間に蹴散らされた。

これには瀕死のドラリシオ・ブルームを守っていた三体も唖然とするばかりだ。

「エ……何?」

「一体……何ガ、起きタ……ノ?」

たった今、自分達の目の前で起きたことが信じられないドラリシオ・ブルーム達。

一体何が何だかさっぱり分からない、といった様子だ。

だが、とりあえず目の前の危機が去ったことだけは何とか分かる。

しばし呆然としていたドラリシオ・ブルーム達が、それまで身を挺して庇っていた瀕死のドラリシオ・ブルームのもとに駆け寄る。

「オ姉チャン!」

「悪いヤツラ、いなくなったヨ!」

「オ姉チャン、しっかりしテ!」

瀕死のドラリシオ・ブルームの横にいたラウルを突き飛ばすように退かし、姉の身を案じる三体の妹。

だが、姉の容態は非常に芳しくない。息も絶え絶えで、何とか起き上がろうとするも身体に力が入らず、自力で起きることすらできない有り様だ。

そして、よく見ると瀕死の姉は三体の妹と身体の特徴が違う。

頭の花弁が妹達は一重なのに対し、姉は二重三重になっていて八重咲きのようになっている。

そして花弁の下からは、腕より細くて腰より長い蔓が何本も生えていて、ぱっと見ではロングストレートのような髪型にも見える。

ちなみにこの髪の毛のように見える蔓は、妹達にも生えているが然程長くない。いいとこ肩をちょっと過ぎた程度までで、ショートヘアやセミロングといった感じだ。

そして、妹達には腕が肩から生える二本しかないが、姉には肩に四本と腰と球根の境目に左右一本づつ、計六本の腕の蔓があった。

今は全員満身創痍で傷だらけのボロボロで分からないが、もしかしたら本当はもっとたくさんの腕があったのかもしれない。

これらの違いは、姉と妹が性質的に違があることを示している。

ドラリシオ・ブルームは、身体から蔓がたくさん生えている程直系に近いとされている。

そしてその蔓も長ければ長い程力が強く、頭の花弁も多い程直系の血が色濃く残っている証。

つまり、今生き残っている四体のドラリシオ・ブルームのうち、瀕死の一体だけが直系寄りであり、他の三体は傍系の中でも末端に数えられる方である、ということだった。

力量で言えば、この中で最も強いはずの直系寄りが瀕死で、極々普通の平均以下の傍系が三体残っているというのは何とも不可思議な話だ。

とはいえ、この状況に至るのもそこまで不可解なことではない。

力ある勇敢な直系寄りの個体達は、率先して先頭に立ち外敵達と戦い続けた。

しかし、ノーヴェ砂漠の固有魔物達はリポップする通常魔物。倒しても倒しても、どれだけその屍を積み重ねようとも時間が経てばどこからか涌き出てくる。

際限なく湧いてくる敵相手に、百体しかいないドラリシオ・ブルーム達は摩耗していくばかり。

そうして日が経つにつれて、強かった直系寄りが一体倒れ、二体倒れ―――どんどんその数を減らしていく。

数が少なくなっていくことで、それまで直系寄り達が身を挺して庇っていた、平凡で弱々しい傍系達も奮起して戦うようになっていった。

だが、直系寄りに比べたら力の乏しい傍系はやはり弱かった。

ドラリシオ・ブルーム達はどんどんジリ貧になっていき、残り四体にまで追い詰められたのだ。

それでも、三体の傍系ドラリシオ・ブルーム達は必死に頑張って耐えていた。

これまでずっとお姉ちゃん達に守ってもらっていたんだ、今度は私達がお姉ちゃんを守る番なんだ!

心にそう誓ったドラリシオ・ブルーム達は、弱いながらも連携して最後の直系寄りの姉を守っていたのだ。

そんな姉の六本の腕には、たくさんの千切れた蔓や花弁、球根の欠片などが抱えられていた。

それを見たラウルが、思わず呟きながら問いかける。

「その蔓や花びらは……」

「……私達、の……姉や、妹の……欠片……」

「ここで芽吹いて、倒れていった仲間達のもの……か?」

「ええ……皆……私の……大事な……姉妹……」

「ここにいる以外に、生き残ったドラリシオはいないのか?」

「いない……もう……私達、だけしか……」

「……そうか……」

ラウルが他のドラリシオ・ブルームの生存の可能性を姉に問うも、今ここにいる四体以外に生き残ったドラリシオは一体もいないようだ。

ボロボロになった身体で、同じくボロボロに散っていった他のドラリシオ・ブルームの遺骸の一部を抱えている。

薄くしか開けられない目の眦からは、涙のような雫がツゥ……と零れ落ちる。

他の仲間の亡骸の一部、その全てを失くさぬように腕の中に大事そうに抱く姉の姿に、ラウルは居た堪れない気持ちになる。

今はさっきのような大音量の声では聞こえていないが、それでも彼女達の思いがラウルにもひしひしと伝わってきていた。

『森ニ、帰りたイ』

『オ母チャンノ、ところデ、眠りたイ』

『緑溢れる母様の傍で、皆を眠らせてやりたい』

ドラリシオ・ブルーム達の、声にならない心からの願い。

それは、ラウルの魂を直接揺さぶるかのように響き渡る。

死を間際にした切実な願い。それに直に触れて、黙って見過ごすラウルではない。

それまで悲痛な面持ちで、横たわる姉を見ていたラウルが動き出した。

「すまん、ちょっと横に退いててくれるか」

涙ながらに瀕死の姉を見守る妹をそっと横に押し退けて、ラウルが瀕死の姉の前に割り入る。

そして空間魔法陣を開き、まずはエクスポーションを一本取り出して瓶の蓋を開けた。

「おい、これを飲めるか?」

「………………」

「寝たままじゃ厳しいか?」

横たわる姉の口に、ラウルがエクスポーションをゆっくりと注ぐも、姉は飲み込まずにそのまま口の端から溢れてしまう。

寝たままで液体を飲み込ませるのは無理か、と思ったラウル。

姉の上半身をそっと起こしてやるべく、瓶を左手に持ち替えて右手を胴体の下に潜り込ませようとした、その時。

横にいた妹がラウルの腕を蔓で掴んだ。

「……ッ!!」

突然他のドラリシオ・ブルームに腕を掴まれ、ラウルが思わず警戒する。

これは、姉の身を案じた妹が俺に敵意を向けたか?と思ったためだ。

だが、ラウルの腕を掴んだ蔓にはそこまで力が強く込められている訳でもないことを、ラウル自身がすぐに感じ取る。

そして、ラウルの腕を掴んできた妹の顔を見ると、ふるふると横に頭を振っている。

「私達、上の口でハ、あまリ、物を食べたリ、飲んだリ、しなイ」

「……そうなのか?」

「うン」

「そしたら、元気になる水を飲ませてやるには、どこがいい?」

「こっチ」

妹はラウルの腕を掴んだまま、立ち上がり姉の下半身の方に移動する。

ラウルもそれに従い、いっしょに移動していく。

ドラリシオ・ブルームの下半身は、大きな球根そのものの見た目をしている。

そして球根の下には、無数の細くて短い根のようなものが生えているのが見える。

「飲んだリ、食べたリ、するのハ、ココ」

「……この、球根の真ん中のコレか?」

「そウ」

「その下の、根っこのようなところじゃないのか?」

「ココでモ、飲もうと思えバ、飲めル。でモ、本当ニ、水を飲むなラ、ココじゃなイ」

ドラリシオ・ブルームの話によると、球根の下から生えている根っこのようなものは、歩いたり走ったりするために使うのだという。

要は人間でいうところの足の役割を持つ器官で、推進力を得るための繊毛的なものと考えればいい。

見た目はそのまま根っこなだけに、川や湖などの大量の水に漬かれば根っこからも水を吸収できるようだが、普段はほぼ年中地面に接しているので吸水能力は滅多に発揮しないらしい。

そして妹が指した、水を飲むための本当の場所。球根の真ん中から少し上のあたり。

濃緑色の外皮に覆われていて、そこには何もないように見える。

だが、妹が蔓を伸ばして下に軽く引っ張ると、そこはまるで口のように横一線の上下に分かれたではないか。

「水とカ、食べ物とカ、ココから取り入れテ、飲み込ム」

「ぉ、ぉぅ、そうか……そしたら、ここから元気になる水を飲ませてやってもいいか?」

「……(コクリ)……」

ドラリシオ・ブルームの口に当たる場所を教えてもらったラウル。

あまりにも意外過ぎる場所に一瞬だけ戸惑うも、すぐに気を取り直してエクスポーションを飲ませてもいいかどうかを妹に尋ねる。

妹達は三体とも反対することなく、無言のままコクリ、と頷いていた。

妹達の了承を得て、ラウルが球根の口にエクスポーションをそっと流し込む。

今度は先程のように端から漏れてこない。ちゃんと飲み込めているようだ。

飲み込む際に咽ないよう、ラウルはゆっくりと慎重にエクスポーションを注ぎ込んでいった。

一本分を全部飲ませきったところで、ラウルが改めて姉の顔色や様子を窺う。

弱々しかった呼吸が少し落ち着き、ずっと薄目だった目が今は閉じられている。どうやら敵がいなくなったことで安心し、さらにはエクスポーションの回復を受けて寝てしまったようだ。

眠りに落ちた姉の安堵に満ちた顔に、妹達も大喜びしている。

「オ姉チャン、顔色、良くなっタ!」

「ちょっとだけド、元気ニ、なっタ!」

「ソレ飲めバ、オ姉チャン、もっと元気ニ、なル?」

それまで絶望に 塗(まみ) れていたドラリシオ・ブルーム達の顔に、希望の色が灯る。

ドラリシオ・ブルームの肌、いわゆる表皮は濃緑色をしているのでラウル達他種族にはその顔色の変化はほとんど分からない。

だが、同じドラリシオ・ブルームの妹達が、姉の顔色が良くなった!というのなら、それは本当のことだろう。

もっと 水(エクスポ) を飲ませれば、姉はもっと元気になるのか?という妹の無邪気な質問に、ラウルは少し考え込みながら慎重に答える。

「とりあえず、あともう一本だけ飲ませてみよう。だが、今はもうこの通り寝てしまっているからな。あまりたくさん飲ませ過ぎない方がいいだろう」

「そっカ……分かっタ」

「そしたら、お前達の手で姉ちゃんにこれを飲ませてやってくれるか?」

「うン!」

「いいか、俺がさっきやったようにゆっくりと、少しづつ飲ませるんだぞ? その間に、俺はちょっとあいつらと話をしてくる」

「「「うン!」」」

ラウルは空間魔法陣から追加のエクスポーションを一本取り出し、瓶の蓋を開けて妹に渡す。

姉の看病を頼まれた妹達は、三体とも全員がパァッ!と明るい顔になる。

球根の口に向けて、ゆっくりと瓶を傾けてエクスポーションを流し入れる。少量を入れては瓶を他の妹に渡し、三体で順番に渡すことで全員で姉の看病をしているようだ。

瀕死の姉の看病を三体の妹達に任せたラウルは立ち上がり、少し離れた場所で待機していたマキシ達と合流した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ラウル、お疲れさま」

「ああ、マキシ達も魔物退治ありがとうな」

「ラウル殿、あのドラリシオ達はどうでしたか?」

「ドラリシオの生き残りは、ここにいるあの四体だけのようだ。しかも真ん中の一体はかなり容態が深刻そうだったが、今エクスポーションを二本渡して飲ませたことで少し落ち着いた」

「それは良かったですね!……って、果たしてこの状況を良かった、と言っていいものかどうか分かりませんが……」

「そうなんだよな……」

ドラリシオ・ブルーム達に話を聞かれないよう、小声で話すラウル達。

皆で会話しつつも、フギンやレイヴンは時折周囲を見回しては敵が出てきていないかを確認している。

さすがは八咫烏の里を守る治安部隊を担う兄弟である。

まずは互いの働きに敬意を払いつつ、今後どうするかを悩むラウル達。

今回の偵察目的である、ドラリシオ・ブルームとノーヴェ砂漠の固有魔物達との抗争の様子。既にネツァク側でも把握していた通り、その勝敗はほぼ決しており決着は間近だ。

だがしかし、どのようにして決着を付けるかが問題だ。

ネツァク側、冒険者ギルドネツァク支部にとっては『予定外に放たれた外来種、ドラリシオ・ブルームの全滅』、これが今回の事件の迎えるべき顛末であり、それを見届けて確信に至ることを以って一件落着となる。

もちろんラウルにだって、その理論や言い分は十分に分かる。

ノーヴェ砂漠固有の魔物達だけでも厄介なのに、そこに全く生態の分からない新種の魔物が混ざって定着したらもっと厄介なことになる。

既存の生態系が狂うことで、もとより危険地帯のノーヴェ砂漠にさらに新たな危険要素が増えたら―――もはや人族がノーヴェ砂漠を横切ることすら不可能になるかもしれないのだ。

しかし、ラウルとしてはドラリシオ・ブルーム達を殺したくはない。

せっかくこの地獄を生き残ったのだ、何としても彼女達の故郷であるカタポレンの森に帰してやりたい。

だが、果たしてそれを人族側である冒険者ギルドが認めるか?と問われれば、正直なところラウルも全く自信が持てなかった。

人族が普段立ち入らないカタポレンの森に帰してやれば大丈夫!とラウルが主張したところで、人族側の冒険者ギルドネツァク支部がそれを認めなければどうしようもない。

そしてそれを認めないということは、必然的に『ドラリシオ・ブルームの完全なる全滅を求める』ということに他ならなかった。

それだけは何としても避けたいラウル。

だが悲しいかな、ラウルには全者が納得して円満解決に至る方法が思いつかない。

これからも人里で暮らし、冒険者としても活動していくには冒険者ギルドとの良好な関係を保つべきだ。

しかし、今彼の目の前にいる哀れなドラリシオ・ブルーム達のことも助けたい。

人知れず彼女達を故郷のカタポレンに帰すには、一体どうすればいいのか。その方策が、いくら考え込んでもラウルには思いつかなかった。

こんな時、どうすればいいか―――ラウルは無意識のうちにそれを知っていた。

問題解決のために、ラウルは意を決して動き出す。

「……マキシ、フギン、レイヴン。俺は一旦ネツァクに戻って、今回の偵察結果を冒険者ギルドに伝えてくる」

「うん、分かった。……そしてその間、僕達はここを守っていればいいんだね?」

「……さすがマキシ、言わなくても分かってくれるか」

「もちろん!ラウルが考えそうなことは、僕にはお見通しなんだからね!」

ラウルが全てを言い切る前に、自分達に求められている役割を察して問い返してきたマキシ。五十年以上もラウルの親友だった間柄は伊達ではない、ということか。

自分の予想が正解だったことに、鼻高々ならぬ嘴高々でエッヘン☆と胸を張るマキシ。

マキシの横で、フギンとレイヴンも無言で頷いている。二羽もラウルの一旦帰還に異論はないようだ。

「そしたら、ラウルはいつ帰ってくるの? 冒険者ギルドに報告をし終えたら、すぐにここに戻ってきてくるの?」

「いや、俺はそのままラグナロッツァに戻って、ご主人様を探してここに連れてくる」

「え!? レオニスさんを連れてくるの!?…………ああ、でも確かにここはレオニスさんに頼った方が良さそうだね」

「だろ?」

ラウルが出してきた腹案に、一瞬だけ驚くマキシ。

だが、今ラウル達を取り囲む状況を考えるとその案が最善策であることはマキシにもすぐに理解できた。

ラウルには全く思いつかない解決手段。レオニスならそれを提示してくれるかもしれない―――ラウルもマキシもそう思ったのだ。

「とりあえず、ここに必要な物資を置いていく。一刻も早く戻ってくるつもりではいるが、どれくらいで戻ってこれるか全く分からんからな」

「そうだね。とりあえず道具の使い方とか、一通り教えていってね」

「分かった」

ラウルが空間魔法陣を開き、様々な道具を出して砂地の上に置いていく。

まずは退魔の聖水十本に、エクスポーションやアークエーテルなどの回復剤を各数十本づつ出した。

最初にラウルは退魔の聖水を一本手に持ち、その効果をマキシに解説する。

「これは退魔の聖水と言って、円や四角形、何でもいいから自分達の周りを取り囲むようにして地面に撒くと、魔物に襲われなくなるというアイテムだ」

「へー、そんなすごい効果があるんだね!何時間くらい効果があるの?」

「撒いてから六時間は保つらしい」

退魔の聖水の解説をしながら、実際に地面に撒いていくラウル。

ドラリシオ・ブルーム達を中心にして、大きめの円を描きながら退魔の聖水を撒き、二本丸々使用して退魔の効果を発動させた。

退魔の聖水は、液体の色は極薄の灰色だが、地面に撒けば十分間だけ撒いたところが淡い水色に発光する。

自分達の周りにいきなり淡い水色が出現したので、ドラリシオ・ブルーム達が不思議そうな顔でキョロキョロと周りを見回している。

退魔の聖水を撒き終えたラウル、今度は黒の天空竜革製パンツのポケットから懐中時計を取り出して時間を確認する。

そのついでに、夜のノーヴェ砂漠の寒さ対策として数枚の毛布なども出してマキシに渡す。

「今五時を回ったところだから、最低でも夜中に一度撒き直さなきゃならんが。頼めるか?」

「もちろん!ていうか、場合によっては明け方にも撒かなきゃだね」

「そうだな……だが、何としても夜明け前までには戻ってくる。俺を信じて待っててくれ」

「うん、分かった!」

退魔の聖水の使い方をマキシに伝授したところで、ラウルがドラリシオ・ブルーム達がいる方を見遣る。

「それと、さっき出したエクスポなんかの回復剤だが……マキシ達が使う分には構わんが、ドラリシオ達にはあまりやらんでくれ」

「そうなの? どうしてなのか、聞いてもいい?」

「俺がカタポレンの森で出会ってきたドラリシオってのは、穏和なやつもいるにはいたが……かなり気の強い奴も多くてな。気に入らないことがあると、すぐに蔓を鞭のように飛ばしてくる奴も普通にゴロゴロいたんだ」

「そ、それは……」

ラウルの注意喚起とその理由を聞いたマキシが、思わず言葉に詰まる。

「今はあの通り、瀕死と傷だらけでおとなしいもんだが……あいつらの気性や性格が分からんうちは、下手に全快させない方がいい。最悪、元気になった途端に見境なく暴れ出す可能性だってあるからな。ドラリシオ達を全快させるのは、少なくともカタポレンの森に帰らせてからだ」

「……分かった」

ラウルの説明に、コクリ、と頷くマキシ。

ラウルがここでドラリシオ・ブルーム達を全快させずに、警戒し続けるのも無理はない。

ラウルが知るドラリシオ・ブルームの性格や気質を考えたら、無闇矢鱈に全快させることで良くないことになる可能性も十分にあるからだ。

アイテム関連の説明をだいたい終えて、ラウルがふと空を見上げる。

ノーヴェ砂漠の空は、もうほとんどが茜色に染まりつつある。

冒険者ギルドネツァク支部に偵察報告をするためにも、ラウルだけでも早急に戻らなければならない。

「マキシ達が食べる晩飯はあるか?」

「うん、ラウルに分けてもらったタコ焼きとかお好み焼きとかあるよ!」

「それだけじゃ足りんだろ。俺の手持ちを分けてやるから、空間魔法陣を開け」

「ありがとう!」

ラウルは最後にマキシ達の晩御飯の心配をし、手持ちのサンドイッチ入りバスケットやらおかずがたっぷり入った三段の重箱やらを渡していく。

これから寝ずの番をしなければならないマキシ達への、ラウルからのほんのささやかな心遣いだった。

「じゃ、行ってくる」

「ラウルも気をつけてね!」

「ラウル殿のご武運をお祈りしております」

「ここは俺達に任せてください!」

「…………皆、ありがとう。すぐに帰ってくるからな!」

自分の願いを叶えるために皆を置き去りにしていくのに、誰もそれを咎めることなどしない。

快く送り出してくれる八咫烏達に感謝しながら、ラウルはネツァクの街に向かって飛び立っていった。