軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第944話 海樹からの伝言と次代を担う者達

新しい結界の見学ツアーも無事終えて、ユグドラツィのもとに戻ったレオニス達。

ユグドラツィの根元で一休みすることにした。

まずはユグドラツィへのおやつとして、レオニス達が戻ってきてすぐに天空島のアクアの泉の水をバケツ五杯分をご馳走した。

フギンやレイヴンにも手伝ってもらって、ユグドラツィの幹から根元にかけてゆっくりとアクアの泉の水をかけていく。

『これはまた……いつもいただく氷の洞窟の水とも違う、何とも心地よき魔力溢れる味わい深い水ですね』

「だろう? これは天空島に新しく作った泉の水なんだ。その名も『アクアの泉』と言ってな、目覚めの湖に住む水神アクアと水の女王が力を合わせて作った最高の泉、その水だ」

『ああ……先日エル姉様の御座す天空諸島領域に、新たに作っていた泉ですね。こんなにも素晴らしい水が湧くとは……さすがですね』

ユグドラツィがいつもご馳走になっているものとは、また一味も二味も違う新しい水。アクアの泉の水の滋養豊富さに、ユグドラツィはうっとりとしながら味わっている。

ここ最近は、ユグドラツィお気に入りの氷の洞窟の融水をあげることが多かった。だが、たまにはこうして違うところの水を味わうのもいいだろう。

しかもその水は、属性の女王と水神がタッグを組んで作り上げた最高の泉の水。その味を、ユグドラツィが気に入らない訳がないのだ。

ユグドラツィへのおやつをあげた後は、自分達の休憩に入る。

今日はライトもラウルもいないので、敷物も敷かずに適当に地べたに座る。

レオニスが空間魔法陣を開き、自分の分のおやつにカスタードクリームパイを取り出す。

フギンとレイヴンの前には、ラウル特製たまごボーロが山盛りに入った皿を置き、そしてラキには巨大キュウリを一本丸ごと渡した。

「レオニス殿、これは以前いただいた……何という食べ物でしたっけ?」

「これはたまごボーロという食べ物だ。俺の知人のとこでカラスを飼っている家があってな。そこのカラス達の大好物だって聞いたラウルが、その作り方を教えてもらったんだ。ムニンやトリスにも大好評だったぞ」

「そうそう、たまごボーロでしたね!前に食べさせていただいた時も美味しかったなぁ」

ラウルの八咫烏用新作おやつ、たまごボーロに舌鼓を打つフギンとレイヴン。

それはかつてホドの街にあるバッカニアの実家、ヴァイキング道場にてラウルが教えてもらった秘伝レシピのたまごボーロである。

八咫烏を奉るヴァイキング道場で飼われているカラス達も大好物だという逸品。前回フギン達が初めて人里見学に来た折にもご馳走し、彼らもまたそれを覚えていて懐かしんでいた。

そしてラキはラキで、「おお、このキュウリは瑞々しいな!」と絶賛しながら、巨大キュウリを美味しそうに食べている。

ボリボリと豪快に齧るラキに、自分だけおやつが生野菜であることに全く不満はないようだ。

そんな四者の休憩風景を見て、ユグドラツィの枝葉がワッシャワッシャと嬉しそうに揺れる。

『レオニス、先程イア兄様から私宛にお言葉が来ましたよ』

「お、そうなのか? イアは何て言ってた?」

『シア姉様のためなら、枝の一本や二本喜んで譲るからいつでも持ってけ!と仰っておられました』

「そりゃ良かった!フギン、レイヴン、イアが枝をくれるってよ!」

「「ありがとうございます!」」

ユグドラツィからもたらされた朗報に、八咫烏兄弟はもとよりレオニスやラキもその顔が綻ぶ。

しかし、ユグドラツィからの伝言はこれだけで終わりではなかった。

何故かユグドラツィは何故かもじもじとした口調で、レオニスにそれを伝え始める。

『あ、あとですね……イア兄様から、レオニス宛の言葉も預かってまして……』

「ン? 何だ?」

『えーと……『レオニス!てめー!要らんこと言ってんじゃねぇ!』と……』

「ブフッ!」

非常に言いづらそうに、イアからの言葉を復唱して伝えるユグドラツィ。

その内容に、レオニスは思わず噴き出してしまった。

先程の結界見学ツアー中に、レオニスが身に着けている右袖カフスボタンから漏れてきた海樹の照れ臭オーラ。

それを皆に披露して揶揄したことに対して言っているのだ。

カフスボタンの向こうで、イアがプンスコしながら文句の一つも言っているだろうなぁ……と思っていたが、まさか末妹を介して即時クレームが入るとは思わなかったのだ。

「そ、そうか……」

『で、でも、イア兄様もそこまですごく怒っている訳ではないと思うので……』

「だといいがな。……ま、どの道近いうちにイアんとこに行くから、そん時にまたお説教されてくるわ」

『私からも、イア兄様によくお願いしておきますので……』

短気な 兄(イア) の瑣末なクレームに、 末妹(ツィ) が申し訳なさそうな声で兄を宥めることを約束する。

しかし、この程度のことで凹むようなレオニスではない。

右袖で輝く深紫色のカフスボタンに向かって、明るい声で話しかける。

「イアよ、お手柔らかに頼むぞー!」

何とも大胆不敵なレオニスの言い草に、ユグドラツィの枝葉はまるで笑い転げるかのようにザワザワと大きく揺れていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後ユグドラツィと別れ、オーガの里に戻ったレオニス達。

フギンとレイヴンは、今日はオーガの里に泊まる予定なのでレオニスだけが帰宅することになった。

四者はオーガの里の外周、結界に入ってからすぐのところで立ち話をしている。

「つーか、フギン達はどこに泊まるんだ? 木の上にでも適当に寝泊まりすんのか?」

「失敬な。フギン殿とレイヴン殿は、八咫烏の里から我が里に遣わされた正式な使いだぞ? 如何に普段から木に住まう霊鳥族だからといって、野宿させられる訳がなかろう」

「じゃあ、ラキんちに泊めさせるのか?」

「当然。外からの大使をもてなすのも、族長たる我の務めだからな」

ラキの話によると、今夜のフギンとレイヴンの宿はラキ宅だという。

確かに里の外からの賓客を泊めるなら、オーガ側もそれ相応の地位にある者でなければ務まらない。

ラキの心遣いに、八咫烏兄弟達もラキに向かって「ありがとうございます」「よろしくお願いします!」と頭を下げている。

そんな八咫烏兄弟達に、レオニスが改めて声をかける。

「明日は俺は出かける用事があるから、フギン達の人里見学に付き合えなくてすまんな」

「そんな!気にしないでください!」

「その代わり、ラウルが案内することになっている。あいつも結構知り合いが多いし、いろんなところに連れてってくれるだろうから、ラグナロッツァ観光を楽しんでいってくれ」

「お気遣いいただき、本当にありがとうございます!」

翌日の人里見学に付き合えないことを謝るレオニスに、フギン達は慌ててフォローに回る。

この時のレオニスは、来たるべき竜騎士団のシュマルリ山脈研修の準備に付き合っていて何かと多忙な身だった。

もうすぐ帰宅するレオニスを前に、ラキが改めて礼を言う。

「レオニス、今日も世話になったな、ありがとう」

「どういたしまして。つか、俺とお前の仲じゃねぇか、礼を言われる程のことでもないさ」

「……そうか、それもそうだな」

礼を言われた照れ隠しか、レオニスがグッ、と握りしめた拳を前に突き出す。

その拳に、ラキもまた己の拳を握りしめてコツン、と軽く突き合わせて返事とする。

「じゃ、明日の昼前にはラウルに迎えに来させる。ラキんちに行くように言っておくから、よろしくな」

「また明日会うだろうが、ラウル先生にもよろしくお伝えしておいてくれ」

「おう。フギンとレイヴンも、長旅で疲れただろう。今日はゆっくり休めよ」

「「はい!」」

ラキとの挨拶の後に、フギンとレイヴンにも労いの言葉をかけるレオニス。

八咫烏の里からオーガの里に辿り着くまでに、三日も要して飛び続けた八咫烏兄弟。さぞや疲れているに違いない。

だがここで、レオニスがはたとした顔になりフギン達に一つ注文をつける。

「ああ、ただしラキんとこの子供達、ルゥやレンから『おもてなし』の話が出たら、きちんと受けてやれよ? 子供達からの心のこもったもてなしを受けるのも、外交大使の務めだからな?」

「「ウキョッ!?」」

「つか、お前らとルゥ達とでは、年齢や役割なんかは全く違うかもしれんが。『族長の子供』って意味では、お前らと同じ立場だからな?」

「…………!!」

レオニスからの注文に、フギンは心底驚いた顔をし、レイヴンはキラキラと輝いた顔になる。

レオニスが言う子供達のもてなしとは、おそらくはブラッシングを含む諸々のお相手。要は『遊び相手になってやれ』ということだ。

長旅で疲れきった二羽に、宿泊先の子供達が遊び相手に望んだらちゃんと受けてやれ!と言い放つとは、何という非情な鬼であろう。

しかし、レオニスの言うことも尤もだ。

フギンやレイヴンは里の外に遣わされた正式な大使で、ルゥやレンはまだまだ里の外にも出せない子供。果たす役割や背負う責任は比べるべくもない。

だが『現役族長の子息子女』という観点から見れば、フギン達とルゥ達は全く同じで対等な位置にいるのだ。

それは、次代を担う者同士、今からしっかりと交流して親睦を深めておけよ、というレオニスの言外の忠告。

そのことに気づいたフギンは、感動の面持ちでレオニスを見つめる。

そう、レオニスはただ単に非情な鬼という訳ではない。未来を見据えた考えのもと動ける人間なのだ。

「じゃ、またな。皆お疲れさん、ゆっくり休めよー」

「おう、レオニスも気をつけて帰れよ」

「「お疲れさまでした!」」

カタポレンの家に向かって駆け出すレオニス。

茜色に染まりつつある空の色によく似た、深紅のロングジャケット。その背が見えなくなるまで、ラキ達はずっと見送っていた。