軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第94話 救助

ライトはその謎の物体に気づき、おそるおそる門扉の前まで近づいてみる。その黒い物体は、カラスのような鳥だった。

カラスといっても、前世のそれよりかなり大きい。手で捕まえられるサイズではなく、小さなライトには両腕で抱え込まなければならなさそうな大きさだ。

そして、遠目で見るだけでは生きているのか死んでいるのかさえ判別できない。

うーん、もし死んでたらどうしよう、困ったなぁ……などとライトは考えながら、その判断を下すべくさらにそーっと近づいて観察を試みる。

よく見ると、胴体の胸のあたりが微かに上下している。どうやら生きてはいるようだ。

そうとなれば、そのまま見捨てる訳にはいかない。

ライトはその大きなカラスをそっと抱きかかえて、大慌てで邸宅の中に駆け込んだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ラウル!ラウル!いるよね、ラウル!!」

家の中に入るなり、ライトは大声でラウルの名を叫ぶ。

その声に、瞬時にラウルが応答し姿を現す。

「おう、小さなご主人様、おかえりー……って、何だ、どうした?珍しいな、そんなに大声出して慌てて」

「ラウル、門扉の前にこのカラスが倒れてたの!」

「ん?カラス?」

「全然動かないけど、それでもまだ何とか生きてるみたいなの!ラウル、お願い、助けて!!」

ライトは半べそになりながら、ラウルに助けを求めた。

ぐったりとして動かない大きなカラスを、その小さな両腕いっぱいに抱えながら必死に懇願するライト。

「分かった、とりあえずエクスポを飲ませてみるか」

ラウルはそう言うと、一瞬姿を消し再びすぐに現れた。その手には、先程まではなかったエクスポーションの瓶を持っている。

エクスポーションの瓶を一旦ライトに渡し、その入れ替わりに大きなカラスをラウルが抱えて寝室のある二階に向かう。

ベッドの上にカラスを寝かせ、その嘴にそっと少しづつエクスポーションを垂らして含ませていく。

しかし鳥は、人間や獣のように水分をごくごくと飲み込むことができない。しかもカラスに意識がなく、これでは呼吸器官の方に誤嚥させてしまうかもしれない。

思うように回復させてやることができず、もどかしいばかりだ。

「うーん、これは……レオニスに見せた方が早そうだな……」

ラウルは少し困ったように眉を顰め、レオニスの名を呟いた。

確かに、思うように水分を摂れない鳥類相手には、エクスポーションを飲ませるよりも回復魔法をかけた方がよほど早いだろう。

「レオ兄ちゃんを呼んだ方がいいんだね!?」

「えっと、レオ兄ちゃんに繋がる、緊急連絡ボタン……どこだ、どれだ、どこだ……」

「……あった!!」

ライトは、慌てて自分のウエストポーチを弄る。

手をバタバタと動かし、魔法を付与しておいたと聞いたモチーフ3つを見比べる。

その中から、レオニスの頭文字の『L』が刻印されたバッヂを見つけた。これが、強めに長押しすればレオニスに即時繋がる緊急連絡用アイテムだったはずだ。

ライトはそれを見つけざま、思いっきり強く押した。

これでレオニスには連絡が入ったはずだ。後はレオニスがこちらに来るのを待つばかりである。

レオニスが来るまで待つことしかできないライトは、ベッドに寝かされたカラスを見守るしかできない。己の無力さに苛まれるばかりのライト。

そのまましばし待つこと2分ほど経過しただろうか。

宝物庫のある隣の部屋からバタバタと物音がして、レオニスがライト達のいる部屋に飛び込んできた。

「ライト!どうした!何かあったのか!」

心底慌てた様子で、部屋を見回すレオニス。

視線の先には、ラウルとライトがいる。とりあえず二人の見た目が負傷などしていない様子を確認できて、レオニスは少しだけ安堵する。

「レオ兄ちゃん!この子を助けて!!」

今にも大泣きしそうな顔で、その目に溢れそうなほど涙を溜めてレオニスに駆け寄るライト。

レオニスには一体何のことか分かる由もなく、しゃがんでライトを抱きとめつつ説明を求めるようにラウルの方を見る。

「さっきライトが市場のお出かけから帰ってきたんだがな、うちの門扉の前にこのカラスが倒れてたんだそうだ」

「見た感じ確かに生きてはいるんだが、全く動かないし脈もかなり弱くて生命力もほとんど感じられないくらい、相当衰弱している」

「人間や俺ら人型の妖精や精霊、獣なんかはエクスポをがぶ飲みすりゃある程度の対処にはなるんだが」

「如何せん、鳥類相手じゃ水分をがぶ飲みさせることもできん」

「ここはレオニスに回復魔法をかけてもらう方が早い、と判断した」

ラウルはレオニスに求められた説明を、ざっくりと一通りではあるがほぼ完璧にこなし伝えた。

ひとまずレオニスは、カラスが寝かされているベッドの横に寄り、カラスの身体を全体的に見ながらそっと触ってじっくり様子を見ている。

「うん……擦り傷やかすり傷とかの小さい傷はあるが、大きな外傷や致命傷はなさそうだな」

「毒や呪いの類いは…………ん?」

レオニスが若干怪訝そうな表情を浮かべた。

カラスを眺めながら、そのまましばらく何か考え込んだレオニスだったが、小さく頭を振り、改めて目の前のカラスを見据える。

「俺も回復魔法はそんなに得意な方じゃないが、とりあえずキュアラを連続でかけてみるぞ」

「ラウル、大丈夫だとは思うが一応念の為にアークエーテルを一本用意しといてくれ」

「分かった」

レオニスはそう言うと、カラスに向けて両手を翳した。

瞬時にレオニスの手のひらから、ほんのりと明るく柔らかい光が輝きだしてカラスの身体を包む。

どれほどの時間、そうしていただろうか。時間にして5分くらいか。

ライトが不安そうな顔で見守る中、レオニスは翳していた両手を下ろしカラスの身体をそっと抱きかかえた。

そしてライトに向かってしゃがみ込み、目線を合わせながら口を開いた。

「……もう大丈夫だ。とりあえず、生命の危機は脱したはずだ」

レオニスのその言葉を聞いた途端、ライトは堪えきれず大粒の涙をポロポロと流した。

「……ッ……、レオ、兄、ちゃ……あッ、あり、がとッ……ひッく……ありがと……」

今にも死にそうだったカラスの、生命が無事助かったことへの安堵とそれまでずっと不安だった反動なのか。懸命に泣くのを止めようとしても、どうにも涙が止まらない。

ライトの可愛らしい顔は、さっきからもうずっとぐしゃぐしゃだ。

「助けられて良かったな」

「うん……うん……ありがとう……ホントに……ありがとう……」

俯きながら小さな手で己の顔をぐしぐしと擦り、くしゃくしゃの顔のまま溢れる涙を懸命に拭うライト。

そんなライトの健気な姿に、レオニスは思わず片手でライトの身体をそっと抱き寄せる。

「ライト、よく頑張ったな。偉いぞ」

レオニスの口から語られたその労いの言葉の優しい響きに、ライトの涙はますます溢れる。

抱き寄せられたレオニスの肩に顔を埋めたまま、溢れ続ける涙と嗚咽を止めることなどできなかった。