軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第936話 理想的な家庭と未来の展望

ニルとの楽しい余生計画?の話を終えたラウル。

ニルと別れた後、当初の予定通りラキ宅に向かい厨房で料理教室を開催した。

本日の料理教室では、十月のハロウィンに 因(ちな) んで様々なスイーツを作っていった。

パンプキンパイにパンプキンプリン、ハロウィンマシュマロにキャンディアップル、どれもハロウィン由来のスイーツで老若男女問わず人気の品だ。

「やはりラウル先生の作る品は、どれも絶品ですな!」

「ラキさん、甘いものも結構イケる口だよな」

「甘辛問わず、美味いものは美味いですからな!……というか、正直なところ、この料理教室以外で甘いものはほとんど我の口に入りませんでしてな……」

「ぁー、うん、まぁな……おやつは子供の特権だしな」

「そういうことです」

ラウルの指導で出来上がったパンプキンパイやパンプキンプリンを、それはそれは美味しそうにバクバクと食べるラキ。

他のご婦人方が「このプリン、すっごく滑らかで美味しい!」「マシュマロもふわふわした食感が楽しいわね!」等々、ゆっくりと味わいながら絶賛とともに初めての味を楽しんでいる横で、ラキは猛烈な勢いで自分の分のスイーツを食べている。

その勢いにラウルが笑うも、ラキに言わせれば『スイーツ類を存分に食べられるのは、この料理教室内だけだから』ということらしい。

確かにラキ家の食卓では、この手のおやつは三人の子供と一匹の狼に優先的に渡されてしまうことだろう。

そこら辺はラウルにも容易に想像できるので、横の席に座るラキの太腿をポン、ポン、と軽く叩いて慰める他ない。

そんなラキに、周囲のご婦人方がニコニコとしながら話しかける。

「あらあらまぁまぁ。族長ってば、ご謙遜なされちゃってぇー♪」

「リーネ様なら、ちゃんと族長の分もお作りになられるでしょうにー♪」

「きっと族長のことだから、自分の分もすぐにルゥちゃん達にあげてしまうのでしょう?」

ラキ家の仲睦まじさを知るご婦人方が、ウフフ♪と微笑みながら口々に推測を語る。

実際のところ、ご婦人方が推測したそれらは全て正鵠を射ていた。

ラキの細君であるリーネは、食事だけでなく食後のデザートなども毎回必ず六人分作っては皆に平等に出している。

だがラキは、デザートに関しては必ずと言っていいほど小さな一口だけ食してから、残りの全てをルゥやレン、ロイ、そしてラニに分け与えてしまうのだ。

「おお、やはりママの作る甘味は極上品だな!…………さ、ルゥ、パパの分のおやつも皆で分けてお食べ」

「パパはもう食べなくていいの?」

「ああ。一口食べただけで十分に美味しかったからな」

「わーい♪パパ、ありがとう!」

「皆、ご飯もおやつもたくさん食べて、もっともっと大きくなるんだぞ」

「うん!」

こうした会話がラキ家の日常であり、旦那と子供達の微笑ましいやり取りをリーネもニコニコ笑顔で見守っている。

もちろんこのご婦人方は、こうした場面を盗聴だの覗き見だのをして知っている訳ではない。

ただ『族長夫婦はとても仲が良い』『夫婦だけでなく、親子関係もとても良好』というのはを里内では夙に有名で、広く周知された事実である。故に奥様方も簡単に推察できてしまうだけのことだ。

だが、ラキにしてみればたまったものではない。

他所の奥様方に家庭内での光景をズバリと言い当てられて、しどろもどろになっていく。

「お、お前達……な、何を言い出すんだ……」

「何をって? 族長のご家庭の仲の良さを知らぬ者など、この里には一人としておりませんよ?」

「そうそう、族長宅は私達の中でも理想の家庭ですもの!」

「うちでも族長宅を見習いたいですわぁ。まずはうちの旦那にも料理を覚えてもらいたいわ!」

「……皆、頼むからもうやめてくれ……ラウル先生の前でこんな話ばかりされ続けたら、恥ずかしくて敵わん……」

ニコニコ笑顔のご婦人方に持て囃されたラキ、次第にその顔が赤くなっていく。

目線は斜め横下を向き、照れ隠しで口に手を当てながらブツブツと文句を言うラキ。小麦色の肌は耳まで真っ赤になり、もはや茹でダコ状態である。

如何に歴代族長の中でも屈指の強さを誇るラキでも、ご婦人方の奥様パワーには敵わないようだ。

オーガ族の男は、一にも二にも腕っぷしの強さが物を言う。

強くなければ何もできないし、他者から認められることは絶対にない。

そんなオーガの里で、腕っぷしの強さ以外のことで賞賛を浴びることなど稀だ。

唯一の例外はニルの抜群の歌唱力だが、それ以外でオーガの男が讃えられることと言えば力の強さに関連することばかり。

故に、家庭の温かさをご婦人方から手放しで褒められたラキが、照れ臭くて仕方がないのも無理はなかった。

ちなみに今日の料理教室に、リーネは参加していない。

料理教室が始まった直後に、お昼寝タイム真近で眠たくなったロイが愚図りだしたのだ。ロイを寝かしつけるため、リーネは別の部屋に移動してロイの横で添い寝している最中なのである。

もしこの場にリーネもいたら、きっとご婦人方に向かって「あらヤダ!どうして皆、うちのご飯の時のことを知ってるのー!?」と、ラキと同じく顔を赤くしながら照れまくっていたことだろう。

その照れ臭さを紛らわすためか、ラキが話題を切り替えるべくラウルに別の話を振ってきた。

「ぁー、コホン……時にラウル先生。このあっぷる?という甘い実は、野菜ではなく『クダモノ』というものでしたかな?」

「ああ。果物とは木になる実のことで、種や苗を都度育てる野菜とはまた異なる作物だ。ちなみにこのアップルというのは、林檎という木に成る実だ」

「その林檎?という木は、このオーガの里に植えることは可能ですかな?」

「ぁー……うーん……どうだろうなぁ……」

ラキの思いがけない問いに、ラウルも呻りながらしばし考え込む。

野菜はいわゆる『一年草』で、一年のうちに収穫を終えて再び種や苗を育てる。一方、林檎や桃など樹木を育てて実を得る果物は『多年草』とされる。

『桃栗三年柿八年』という諺じゃないが、一年草の野菜類よりも多年草の樹木を育てる方がはるかに難易度は高い。

そして、ラキ達オーガ族やライト達が居を構えるこのカタポレンの森は、樹木豊かな大森林であると同時に瘴気にも近い高濃度の魔力に満ちた特殊な地。

この森の中に普通の果実の木を植えたとして、果たして正常に育つかどうか。あるいは樹木として育っても、果実が正常に実るのかすらも定かではない。

「ンーーー……俺もまだ農業初心者だし、野菜はかなり育ててきたが果実のなる木はまだ育てたことがないんだよなぁ……」

「ラウル先生のご指導により、先だってから我が里内でもバジルを育てておりますが……やはりバジルと果物とでは、相当勝手が違うものなのですかな?」

「バジルも木には違いないが、あれはそもそも実じゃなくて葉っぱを食うもんだからなぁ……葉っぱと実では、また違いそうな気がする。つーか、林檎の木は俺も育てたことがないから分からん」

「そうですか……」

ラウルからの答えに、ラキだけでなくご婦人方もまた少し落胆したような顔になる。

ラキが言うように、最近オーガの里では里の中に畑を作り、バジルの栽培を始めた。

ライト達のように、ポーション&エーテル入りといった特殊な水遣りはしてないので、その葉も然程巨大化はしていない。だがそれでも、カタポレンの森の魔力を吸収するのか森の外で作るバジルよりは倍以上大きく立派な木となって、目当ての葉もたくさん収穫できているという。

だから、もしかしたら他の作物も作れるようになるかも?と思っていたようだ。

「食せる作物を己の手で育てるというのも、なかなかに難しいものなのですな」

「まぁな……それは俺も、カタポレンの森で畑を耕すようになってから実感してるわ」

落胆しながらぼそりと呟くラキ。

これまでオーガ族は、里の外での狩猟で糧を得て生きてきた狩猟民族だ。そんな彼らが野菜や果物などの農作物の美味しさに目覚めたのは、本当につい最近のこと。

彼らにそれを教えたのは、料理の師と仰ぐラウル。そのラウルが難しいと言うならば、それは限りなく困難であることをラキ達も認識しているのだ。

だが、落胆するラキに反してラウルは然程がっかりした様子はない。

それどころか、まるで何か良い事でも思いついたかのように明るい声で話を続ける。

「でもそれは、まだ一度もやったことがないってだけの話だ。ならばこれから試してみる価値はあるだろ」

「それは……もしや、ラウル先生が直々に林檎の木を育てる、ということですかな!?」

「ああ。ダメ元でご主人様んちの横の畑の隅に、林檎か何かを実験的に植えてみよう。何、もし万が一おかしなものに変異したとしても、その時はとっとと伐って潔く諦めるさ」

ラウルの話を聞いたラキ達の表情が、みるみるうちに明るくなっていく。

ラウルの料理に対する情熱は本物だ。そしてその情熱は、料理だけでなく食材に対しても常に向けられている。

そのラウルが、今度は果物栽培に挑むという。これはオーガ達でなくとも期待せずにはいられない。

もしラウルが、その情熱を以てカタポレンの森の中での果物栽培に挑み、なおかつ成功したなら―――それはきっと、このオーガの里においても展開可能になるに違いない。

ラキ達の眼差しは、自然と輝きに満ちていく。

「ラウル先生!その実験が成功したら、次はこのオーガの里でも実験してくだされ!」

「おう、どれくらい時間がかかるかは分からんが……ま、何年かかろうが絶対に成功させてみせるさ」

「もし我らにも手伝えることあらば、何なりとお申し付けくだされ!」

「ああ、ラキさん達にもいつか手伝ってもらうこともあるかもな。その時はよろしくな」

喜色満面の笑みのラキが、ラウルの手をガシッ!と握りしめる。

ラキだけでなく、料理教室に参加したご婦人方もラウルを取り囲んで喜んでいる。

既に様々な野菜類を栽培してきたラウル。今日のこの話を契機に、果物まで作れるようになればラウルの料理の幅はますます広がるだろう。

もちろんオーガとしても、何としても果物栽培できるようになりたい。それは食卓の充実だけでなく、里の外への新たな輸出品としての発展が見込めるからだ。

より豊かな食卓と一族の繁栄を目指して、やる気に満ちていく妖精と鬼人達であった。