軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第924話 ツェリザークでの午後の過ごし方

氷の洞窟を後にし、無事ツェリザークの街に戻ったライト達。

思った以上に早く事が済んだので、早めの昼食を摂ることにした。

冒険者ギルドツェリザーク支部の五軒横にある、ご近所の人気定食屋『迷える小カニ亭』に入る。

ここでも客の入りはかなり良く、満席状態に近い中で運良く空いたテーブルに三人は無事座ることができた。

「俺は狗肉のサイコロステーキ十人前」

「ぼくは特製狗肉ハンバーガー!」

「俺は狗肉鍋五人前かな」

メニュー表を見てそれぞれに食べたいものを注文する。

ここツェリザークは氷蟹だけでなく、狗狼の肉もちょっとした名物品となっている。

氷蟹は高級食材として名を馳せるが、狗狼肉は流通量が多いのでお手頃な庶民用の肉としてツェリザークの民に広く愛されているのだ。

店員に注文を伝えた後、三人でこの後の予定などを話し合う。

「これから俺は、ツェリザーク支部長に邪竜の島討滅戦と邪龍の残穢の話をならんから、この後すぐに冒険者ギルドに行くが。お前達はどうする? ツェリザーク内でどこか行きたい場所があるなら、二人で出かけててもいいが」

レオニスの提案に、早速ラウルが反応する。

「ンー、ご主人様の話は長くなりそうか?」

「天空島の邪竜の島の話から説明しなきゃならんから、結構かかると思う。多分小一時間くらいはかかるだろうな」

「そうか、なら俺はその間に殻処理依頼をこなしておきたいな。せっかくツェリザークに来ていることだし」

「分かった」

レオニスとラウル、二人の話し合いにライトも早速答えた。

「あ、そしたらぼくはラウルが殻処理の仕事をしている間に、ルティエンス商会に行きたいな!」

「ルティエンス商会? お前、その店大好きだね? あの店には、そんなにいいもんがたくさん置いてあんのか?」

「うん、いろんな品物があってすっごく面白いよー!いつ見ても、何度通っても飽きないもん!」

ライトが行きたいな!というルティエンス商会。

それを聞いたレオニスが、不思議そうな顔で首を傾げる。

ルティエンス商会には、レオニスもかつて何回か足を運んだことがある。それは、ナヌスの結界を通るためのアイテム【加護の勾玉】の作成に必要な『大珠奇魂』を入手するためだった。

だが、レオニスの記憶に残るその店には、子供のライトが行きたがるような要素があるとは全く思えない。

レオニスの印象に強く残っているのは『壁一面にお面がびっしりとかけられた不気味な店』と『異様なオーラを放つ大鎌があった』ということくらいだ。

しかし、当のライトが『面白いお店だから行きたい』と言うならば、猛反対するほどのことでもない。

見た目はかなり胡散臭い店ではあるが、そこまで怪しい物品が売られている訳でもないし、犯罪臭がするといった危険性も感じられない。

本当はラウルと二人で行動してほしいところだが、ライトが特定の店にいる間にラウルが殻処理依頼をこなしてから改めて迎えに行けばいいことだ。

「そっか。じゃあラウル、お前がライトをルティエンス商会まで送っていってくれ。殻処理の仕事が終わったら迎えに行って、二人で冒険者ギルドに戻ってくればいいから」

「了解。じゃあ小さなご主人様よ、俺の仕事が終わるまでルティエンス商会で待っててくれ」

「うん!」

昼食後の行き先が決まったところで、それぞれが注文した品が届き始める。

三人でモリモリ食べた後、店を出た三人は再び冒険者ギルドツェリザークに向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

冒険者ギルドツェリザーク支部の建物に入ったライト達。

入口のロビーで分かれることにした。

「じゃ、俺は支部長んとこ行ってくる。ラウル、ライトの送り迎えよろしくな」

「おう、任せとけ」

「ライトもルティエンス商会?で楽しんできな」

「うん!」

レオニスが支部長室に向かった後、ライトとラウルは依頼掲示板の前に行く。

そしてラウルが掲示板に貼り出されている依頼を一通り見た後、三枚の依頼書を手に取り窓口に向かった。

「よ、今朝ぶり」

「あらー、ラウルさん!おかえりなさーい!今日はもうラグナロッツァにお帰りですかぁー?」

「いや、ご主人様がここの支部長に話があるらしくてな。俺はその間にここの殻処理依頼をいくつかこなすつもりだ」

「ホントですか!? ありがとうございますぅー!」

冒険者としての仕事をこなすつもりのラウルに、受付嬢のクレハがキラッキラの笑顔で大喜びしている。

ラウルが差し出した依頼書三枚を受け取り、弾むようなウッキウキの声で受付処理をするクレハ。超ご機嫌である。

「ああー、本当にラウルさんは我がツェリザークの救世主ですぅー。神様仏様殻処理王子様々ですぅー♪」

「「……殻処理王子……」」

そこは普通に名前で『ラウル様々』でいいんじゃね?と密かに思うライトとラウル。

だが、クレハのあまりにも眩しいご機嫌な笑顔に水を差すのも躊躇われる。

……ま、実際のところ今のラウルは殻処理界の第一人者だもんね!

ツェリザークの氷蟹だけでなく、ネツァクの砂漠蟹やエンデアンのジャイアントホタテの貝殻もラウルが全ーーー部処理を引き受けているから、どの街でも引く手数多のモッテモテだし。

俺がラグーン学園を卒業して、冒険者として動けるようになる頃にはきっとアイテムバッグが普及して、今よりも殻処理がしやすくなるだろうけど。

それまでは空間魔法陣持ちのラウルの優位は揺るがないから、今のうちにバンバン稼いでおくべきだよね!

ライトがそんなことをつらつらと考えていると、依頼の受付処理が終わったようでクレハがラウルに声をかけていた。

「受付完了いたしましたー、今日もよろしくお願いいたしますぅー♪」

「はいよ。もし俺達が戻る前にご主人様の方が先にここに来たら、建物の中で適当に待っててくれと伝えといてくれ」

「わかりましたぁー」

クレハから依頼書三枚を受け取り、空間魔法陣に仕舞うラウル。

笑顔で手を振るクレハに見送られながら、ライトとラウルは冒険者ギルドツェリザーク支部を後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

冒険者ギルドからルティエンス商会に移動したライトとラウル。

ルティエンス商会の入口の扉の前で、一旦二人は立ち止まる。

ラウルは店に入らず、そのまま依頼書の一件目に向かうためだ。

「じゃ、殻処理三件こなしたらまたここに迎えに来る。それまでおとなしく待っててな」

「うん!ぼくはお店の中でいろんな品物を見ながら待ってるから、ラウルもお仕事頑張ってきてね!」

「おう、ガッツリ稼いでくるわ」

ラウルが踵を返し、殻処理依頼を待つ依頼主のもとに向かっていく。

どんどん遠ざかるラウルの背を見送ったライトは、ルティエンス商会の扉を開けて店の中に入っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ごめんくださーい」

カラン、カラン……。

ルティエンス商会の扉を開くと、扉の内側につけられた鈴が鳴る。

そしてライトの耳に馴染んだ、軽やかで心地の良い澄んだ音色。

この鈴の音を聞くのも、もう何度目のことになるか。

片手では足りないくらいに通っていることは間違いない。

鈴の音を聞いて、店の奥からルティエンス商会店主のロレンツォが出てきた。

ライトの顔を見て、ロレンツォの顔が綻ぶ。

「ライトさん、ようこそいらっしゃいました」

「ロレンツォさん、こんにちは!」

「お久しぶりですね。前回当店にいらしてくださったのは、一ヶ月くらい前でしたか」

「そうですね、それくらいになりますかね」

来客(ライト) を迎え入れながら、ロレンツォが扉の外の掛け札を『閉店』に裏返す。

そんなロレンツォの気遣いに、ライトがはたとした顔で声をかけた。

「あ、ロレンツォさん、後からラウルがぼくを迎えに来るので、入口の扉の鍵は閉めないでおいてください」

「分かりました。今日はお連れ様と別行動なのですか?」

「はい。レオ兄ちゃんは冒険者ギルドの支部長とお話があって、その間にラウルは氷蟹の殻処理依頼をこなすって話になって、ならぼくはルティエンス商会に行きたい!と言って、ここでラウルの仕事が終わるまで待ってるってことにしたんです」

「そうでしたか。勇者候補生のライトさんにお立ち寄りいただけて、当店としてもとても光栄なことです」

ライトの来店理由を聞いたロレンツォが、扉の前で鍵をかけようとしていた手を止めて微笑みながら振り返る。

そしてライトのもとに戻ってきて、早速本題に入った。

「本日のお越しの目的も、 例の世界(・・・・) のお話ですか?」

「もちろんです!……というか、ぼくが 例の世界(・・・・) のことを話せる相手って、本当に限られてますし……」

「そうでしょうね……私でよければいつでも、いくらでもお聞きいたしますよ」

「ロレンツォさん……ありがとうございます!」

ここには二人の他に誰もいないというのに、何故かBCOのことを『例の世界』とぼやかすライトとロレンツォ。

それは、BCOという特殊な別世界を知る者同士の暗黙の了解か。

そして少しだけ俯きながら、我が身の置かれた現状を語るライトにロレンツォは穏やかな口調で励ます。

ロレンツォの優しい言葉に、ライトは心から感激していた。

しかし、ロレンツォは己の顔の前に人差し指を立てながら、今度はおどけたような口調で話す。

「ですが、所詮私は交換所のしがない店主ですので。ライトさんのお話が分からないこともきっと多いと思われますよ? ヴァレリアさんのような強い力もありませんし……それでもよろしいですか?」

「もちろんです!ぼくの話をただ聞いてくれるだけでも、ぼくにとってはすっごくありがたいことなんですから!」

「そうですか、それは良かった」

己が無能さをライトにも再確認させるようなロレンツォの言葉に、ライトは慌てて全力で否定する。

ライトが気兼ねなくBCOのことを話せるのは、現状ではロレンツォ以外だとヴァレリアと転職神殿の三人だけだ。

BCOという世界規模の秘密を共有できる仲間は、ライトの小さな片手一つ分で足りてしまう。

もともとの数が僅少なだけに、ライトにとってはロレンツォの存在もまた特別なものなのだ。

「では、この続きは念の為奥の間でお伺いすることにしましょう」

「はい!」

ロレンツォの誘いと案内により、ライトは店の奥に消えていった。