軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第920話 摩訶不思議なシステム

ライト達が水の姉妹の対面に尽力し、無事にその約束を果たせた日の翌日の日曜日。

この日もライト達は、朝早くにツェリザークの地に赴いていた。

前日は水の女王とアクアがいたため、カタポレンの目覚めの湖から黄泉路の池を経由して氷の洞窟に行ったが、今日はライトとレオニス、ラウルの三人で行くので冒険者ギルドの転移門を使用しての移動である。

この日もツェリザークは朝から曇天模様で、小雪がちらほらと宙を舞っている。

三人して白い息を吐きながら、今日も氷の洞窟に向かう。

「ホント、ツェリザークって冬になるのが早いねぇ……」

「全くなぁ……これで十月の頭だってんだから、他所者には信じられん景色だ」

「ま、俺としてはツェリザークの雪が長期間採れるのはありがたいがな」

「そんなことで喜ぶのはラウル、世界中でお前唯一人だけだと思うぞ……」

ライトとレオニスがしみじみとツェリザークの冬の長さを感じる中、唯一ラウルだけは雪が採れることを喜んでいる。

端から聞いてたら『???』となるところだが、ツェリザークの雪をこよなく愛するラウルにしたらそれは当然の感覚である。

思わずレオニスがラウルにツッコミを入れるも、当のラウルは悪びれることなく応戦する。

「そうかー? そんなことはないと思うぞ? ライトだって、ツェリザークの雪がたくさん採れたら嬉しいよなぁ?」

「うん!夏は美味しいかき氷代わりになるし、ただ融かしただけの飲み水にしても普通に美味しいし、何よりツィちゃん達神樹へのご馳走になるのが一番良いよね!」

「そうそう。さすがは小さなご主人様だ、よーく分かってらっしゃる」

「ンー、まぁなぁ……水以外にツィちゃん達へあげられる土産がないってのはその通りだがな」

ラウルに話を振られたライトの答えに、ラウルが実に満足げに頷いている。

ライトが言ったことは、ラウルがライトに期待した通りの模範解答にして揺るぎない事実である。その言葉には、レオニスも素直に認める他ない。

そしていつしか話題は今日の目的である氷の洞窟、その中にいるであろう守護神探しの話に移っていく。

「氷の洞窟の守護神、今日見つけられるといいねー」

「そうだな。あれから氷の女王が洞窟探索をしてくれているはずだから、探索ポイントが絞られているといいな」

「だねー。手がかり無しに闇雲に探すよりは、ココ!っていうポイントがあればそこを重点的に探せるもんねー」

「そゆこと。すまんがラウルも アレ(・・) の提供よろしくな」

「了解ー」

話の流れでレオニスがラウルに協力を要請し、ラウルも快く応じる。

レオニスが言う『アレ』とは、卵の孵化に欠かせない餌、聖なる餅のことだ。

昨日の帰り道や晩御飯の時にも話し合ったのだが、今回の氷の洞窟の守護神孵化にも聖なる餅を使おう、という話になったのだ。

「しかし、不思議なもんだな。神殿の守護神も卵から生まれて、しかも殻の外から与える餌を食って成長するなんてなぁ」

「ホントにねー。でも、ラウルもオーガの里でラニが生まれたところを見てたでしょ? あれと同じだよー」

「ああ、あの時の卵にはパイア肉を食わせて、それでラニが生まれたんだよな。あれは今思い返しても摩訶不思議としか言いようがない」

餅の提供者であるラウルがしみじみと呟く。

ラウルが守護神の孵化に立ち会ったことは一度もないが、過去に似たような経験はしたことがある。

それはオーガの里で、ライトがともに連れていたフォルが使い魔の卵を見つけた時のこと。その卵の孵化の瞬間を、ラウルも見ていたのだ。

その時もライトの巧妙な手引きにより、ラウルの手持ちのパイア肉を卵に与えることで黒妖狼のラニが無事孵化に成功した。

こうした経験を得ていたことで、未知であるはずの守護神孵化の手順や段取りもだいたい理解できていた。

ちなみにオーガの里での孵化の光景を見たラウルが、後日ヨンマルシェ市場で購入してきた卵にも肉や餅を触れさせてみたらしい。

結果はもちろん不発。普通の卵が肉や餅を吸収することはなかったという。

好奇心旺盛なラウルらしい逸話である。

その話を聞いた時、ライトは『それ、有精卵じゃないからでは?』と思ったのだが、それと同時に『いや、有精卵でも結果は多分同じだよな……だって普通の卵が肉や餅を吸収する訳ねぇもん』とも思う。

もし普通の卵まで同じ孵化方法だったら、それがサイサクス世界の常識として広く知れ渡っているはずだからだ。

しかし、実際にはそうなってはいない。

レオニスだって最初のうちは卵に餅を与えることに懐疑的だったし、ラウルやラキだって『卵に肉? 何でそんなもんを??』と不思議そうな顔をしていた。

これらのことから、やはり『卵に肉や魚、野菜などの可食アイテムを与える』という孵化方法は、BCO由来の卵に限定された特殊方法なのだということが分かる。

そうした流れで、今回の氷の洞窟探索でも卵が見つかったら餅を与えよう、ということで話が決まっている。

いや、本当は別のものも試してみたいところなのだが、何しろ相手は守護神の卵だ。その孵化に至るまでの餌の量が半端ないことは分かりきっていた。

今氷の洞窟に向かう道中でも、次のような会話が繰り広げられていた。

「そういやご主人様よ、その暗黒神殿と炎の洞窟では餅を何個くらい与えたんだ?」

「あー……正確な個数を数えながらやったんじゃねぇから、ざっとだが……二千個くらいか?」

「ゲッ、そんなに個数費やしたのか!? あの回復効果の高い聖なる餅を二千個も食らうとか、一体どんだけ底なし沼なんだ……」

「まぁな……俺も去年、ラグナ宮殿からの緊急依頼で五千個くらい拾ってきたんだが、もう俺の手持ちはスッカラカンだ」

レオニスからの答えに、ラウルがギョッ!とした顔になる。

ラウルも人里に住むようになって、聖なる餅の存在を知ってからだいぶ経つのでその美味しさや回復効果の高さもよく知っている。

一個食べるだけで軽い風邪なら治してしまう程の餅を、二千個も与えたというのだからラウルが驚愕するのも当然である。

「試しに他の食材にしてみようかと思ったが……こりゃ他のを試すより、去年の聖なる餅を使った方がよさそうだな」

「だろうな。ラウル、お前の聖なる餅はあと何個くらいある?」

「俺も全部数えた訳じゃないから、ざっとだが……まだ三万個くらいはあるんじゃねぇかな?」

「「さささ三万個……」」

ラウルが明かした聖なる餅の脅威の在庫数に、ライトもレオニスも唖然とする。

しかし、昨年末に人里に降り積もった聖なる餅は、それはもう見事な量だった。農業で言えば大豊作、漁業で言えば大漁、近年稀に見る大雪ならぬ大餅といったところか。

しかもラウルは、ラグナロッツァの屋敷のご近所さん数軒から全ての餅を譲り受けている。

レオニス邸のご近所さんといえば、当然名門貴族の邸宅ばかり。敷地の広さもレオニス邸より広大なところばかりだ。

そんな豪邸のご近所さんの、敷地からベランダから屋根から木の上から、全ての餅を一個残らず根こそぎラウルが持ち帰ったのだ。

未だに万単位の餅を所持している、というのも頷ける。

「これでも在庫はかなり減ってきてはいるんだがな。これまでに何度かオーガの里で、餅を使ったおやつを作ったりもしたし」

「あー、オーガ相手じゃ使う餅も一回に数百は消えるわなぁ」

「そゆこと。でもまぁ、今回二千個使ったところで問題はないな。あと三ヶ月もしないうちに、今年の大晦日がやってくるし」

「そうだな。また今年もたくさん餅が降るといいな」

「そう願いたい」

歩きながらのんびりと雑談するレオニスとラウル。

雑談の傍らで、襲いかかってくる雑魚魔物をペシッ!と片手で弾き返しては、ライトがその都度雑魚魔物の死骸をいそいそと拾ってアイテムリュックに入れていく。

のほほんとした会話とのギャップが壮絶にすごい絵面だが、これももはや定番の光景だ。

そうして三人で歩いていくと、氷の洞窟の入口が見えてきた。

「お、氷の洞窟が見えてきたぞ」

「……ン? 入口に誰かいるな?」

視力が良く魔力感知に人一倍長けたラウルが、氷の洞窟入口に誰かがいることをいち早く察知した。

だが、こんな朝早くに氷の洞窟入口にいるなんて一体誰だ?といちいち考察する必要などない。そんなのは、この世にたった一人しかいないのだから。

ライト達の予想通り、そこには白く輝く美しい氷の女王が立っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『おお、ラウル!待ち侘びたぞ!』

ライト達の姿を見た氷の女王、堪らず入口から勢いよく駆け出してラウルに抱きつく。

三人の中で真っ先にラウルに飛び込んでいくあたり、氷の女王が如何にラウルのことが大好きかがよく分かる。

そこら辺はもうライトもレオニスも分かりきっているので、イチャコラしたい氷の女王にとりあえず朝の挨拶をする。

「おはよう、氷の女王」

「氷の女王様、おはようございます!」

『おはよう、其方らもよう来てくれた!』

ラウルの胸に飛び込んだまま、顔と首をクルッ!と90°曲げてライト達を歓迎する氷の女王。

氷の女王がラウルにするような、ライト達に抱きついてくるなんてことは決してない。だがその輝かんばかりの歓迎の笑顔は、ライト達にそうしたヤキモチなど一切妬かせることなく毒気を抜いてしまう。

そして抱きつかれた方のラウルが、ひとまず氷の女王の身体をそっと離してから問いかける。

「氷の女王、あれから洞窟内の探索はしたのか?」

『もちろんだとも!水の姉様とアクア様、そして其方らが帰った後から先程まで、ずっと洞窟内の道や壁を見て回っておったぞ!』

「そっか、そりゃ偉いな。ご苦労さん」

ラウルの問いかけに、氷の女王がドヤ顔で答える。

まずはその行動を労うために、ラウルが優しい言葉をかけつつ氷の女王の頭をそっと撫でる。

大好きなラウルに褒められて、氷の女王がますます嬉しそうな顔をしている。

そしてラウルが続けて質問をしていく。

「で、どうだった? 何か気になるところとか見つけられたか?」

『ああ、何箇所か気になる場所があったんだが、特に気にかかるのが一ヶ所あってな』

「なら、早速そこに案内してくれるか?」

『いいとも。ささ、皆ついてまいれ』

氷の女王によると、やはり氷の洞窟内に氷の女王の気を引く何かがあるようだ。

その中でも特に一ヶ所気にかかるところがある、と言うではないか。ならば早速そこに行こう!という話になった。

率先して洞窟の中に入っていく氷の女王。

白く輝くその背の後ろを、ライト達三人はおとなしくついていった。