軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第92話 回復師と回復剤

「そういえば、ポーションとかの薬で回復するのと回復師の魔法で回復するのって、何か違いはあるのかな?」

薬屋に向かう道すがら、イヴリンが誰に問うでもなく声にした。

イヴリンはもともと平民の生まれだし、回復師と出会う機会などほぼないだろう。

それに対し、お抱えの回復師がいるというウォーベック家のハリエットが答える。

「ポーションなどの回復剤は、その質によって等級が決まるので回復する量も一定で決まっています。例えばポーションなら小回復、ハイポーションなら中回復というように、回復量は老若男女関係なくどこの誰に対してでも均一で固定です」

「それに対して回復師の回復は、その回復師の持つ魔力の量や質によって効果が変わってくる、と聞いたことはあります。特に光属性の素質を持った回復師は効果が高く、王侯貴族の専属になっていることも多いとか」

端的かつ分かりやすく説明するハリエット。

知的な外見のイメージ通り、かなり聡明な頭脳を持っているようだ。

「ふーん、そうなんだー。ハリエットちゃんちの回復師って、どんな人なの?」

「我が家の回復師、ですか?」

「うん、私回復師の人って一度も会ったことないからさー」

「イヴリンさんは、街の回復所にも行ったことはないのですか?」

「んー、ないよー。いつもポーションで済ませちゃうから」

回復所とは、前世でいうところの病院みたいなものだ。そして、そこに勤める回復師は医者に相当する。

ただし、前世のように内科だの外科だの事細かく分類されてはいない。毒や呪いなどの特殊例を除き、全てを回復魔法ひとつで済ませてしまうからだ。

そして金銭的に見れば、怪我や病気の程度にもよるが大抵は回復所に行って治療するよりはポーションの方が断然安上がりになる。この世界に、健康保険などという医療制度は存在しないのだから。

故に平民は、ポーション類に頼る場面の方が圧倒的に多かった。

「そうですね……ウォーベック家の回復師は優秀な方ですよ。普段は宮廷魔術師として宮殿におられますし」

「そう、今のところ我が家には常駐してもらわねばならないような病人や怪我人はいないからね。普段は宮廷魔術師として宮仕えしていて、万が一我が家に何かあったら緊急事態として来てもらう契約になっているのさ」

ウィルフレッドがハリエットの話を補足する。

確かに、常時看病が必要な病人がいるのでなければ、回復師に常駐してもらう必要もない。

だが、緊急事には即来てくれるように頼んでおければ、これ程心強いことはないだろう。緊急事のみ出動を要請する非常勤の外部委託とは、なかなかに合理的な話だ。

しかも宮仕えするほどの宮廷魔術師であれば、その腕も確実に高いと思われる。ウォーベック家の経営手腕の有能さが窺い知れる話である。

「ぼくのうちはイヴリンと変わりないなー。お抱え回復師なんて到底無理だし、ちょっとした怪我や風邪程度じゃポーションで済ませて終わりだもん」

ジョゼがまたも世知辛い話をする。当の本人は何事もないような飄々とした表情と語り口だが、やはり男爵や子爵あたりではどこも内情は火の車なのだろうか?

そんな話を皆でわいわいと繰り広げているうちに、ヨンマルシェ市場内のその他エリアに到達した。

午前中に見た武器屋防具屋以外にも、よくよく見れば薬を取り扱うお店も何軒か点在していた。

確実に高い武器防具と違い、ポーション等の回復剤なら参考としていくつか実際に購入することも可能なので、冷やかしにはならないだろう。

ライトはどの店に入ろうか?と考えて、ふとイヴリン達の方を向く。

「イヴリンさんやジョゼ君は、いつもポーションはどこで買っているの?この市場内のお店?」

「うん、この通りのもうちょっと先にある『ロレンツィ薬店』で買ってるよー」

「ぼくんちもそこで買ってるかな。品数が豊富で価格もお手頃だから、複数の薬をまとめ買いするのにも向いてるんだよね」

「そっかー。二人のおうちが買っているお店なら、ぼくもそのお店を見てみようかなー」

イヴリンとジョゼ、二人のオススメの店に行くことにした一行。

イヴリンがもうちょっと先にあると言った通り、そこからすぐに目当ての店『ロレンツィ薬店』に辿り着いた。

そっと扉を開けておそるおそる中に入ると、店内はなかなかに広くジョゼの言っていた通り品物もかなり置いてあった。

「おや、イヴリンにジョゼじゃないか。今日はお遣いかい?」

店の奥から、店主と思しき壮年男性が出てきた。

赤毛の髭モジャ面で頭にターバンを巻いたその風貌は、若干どころか壮絶に胡散臭い。

だが、イヴリンやジョゼが親しげに話しているところを見ると、見た目が強面なだけで中身はごくごく普通の優しいおじさんなのだろう。

「ロレンツィおじさん、こんにちは。今日はラグナロッツァに引っ越してきたばかりの同級生に、この市場を案内しているんだ」

「このライト君って子がそうなの。薬屋さんに行きたいって言ってたから、私達のオススメのお店としてここに連れてきたのよ」

「そうかい、それはありがたいねぇ。ライト君、何か欲しい薬はあるのかな?」

薬屋の店主ロレンツィは、ライトに微笑みながら声をかけた。

「あ、はい。えーと、エクスポーション以上の効果のある回復剤ってありますか?」

確かブレイブクライムオンラインの中では、HPを回復するポーション類ならポーションやハイポーション、エクスポーション以上のHP回復効果を持つ『セラフィックポーション』や『コズミックポーション』という名のアイテムもあったはずだ。

MPを回復するエーテル類も、下はエーテルから上は『スペースエーテル』まで5種類はあったはず。

だが、レオニスのもとで暮らしていてそれらをライトは今まで一度も見たことがないのだ。

「エクスポーション以上の回復効果、ですか?エクスポーションを複数個服用しても全快しないとなると、さすがに回復剤のみでは手に負えないので回復師に見てもらうしかないですねぇ」

やはりそうなるか。

ライトとしても、超一流の冒険者であるレオニスの手元で見ない時点で、そんな気はしていた。

「そうですか。では、店内の品物をゆっくり見てもいいですか?何かしらの買い物はするつもりですので」

「ええ、もちろんいいですよ。じっくりお探しください」

「ありがとうございます」

そう言うと、ライトは店内の品揃えをゆっくりと見ていった。

いつも使うお馴染みのハイポやエクスポの他にも、回復効果のある飴玉やぬるぬる入り栄養ドリンク、カロリーメイトのような栄養クッキーバーなどが陳列されていた。

価格は原料の産地によって若干異なるようだ。

現代日本で言うところの魚沼産コシヒカリのような、ブランド産地もあるのだろうか。

ライトは初めて見る飴玉や栄養ドリンクをいくつか手に取り、購入を決めた。

まだ空間魔法陣を持たないライトには、ポーションを大量に持ち歩くことは厳しいが、飴玉程度なら鞄の底にいくつか忍ばせておくのもありだろう。

その効果の程は、実際に何度か食しながらステータスチェックしてみないと分からないが、それでも新しい未知のアイテムに巡り会えたワクワク感は十二分に満たされていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

いろんなお店を見たり買い物をしているうちに、日も傾いて夕暮れ時になってきた。青かった空も徐々に茜色に染まっていく。

「暗くなる前に、もうそろそろおうちに帰ろうか」

「うん、そうだね。今日はとっても楽しかったー!」

「ぼくもすごく楽しかったよ。イヴリンさん、ジョゼ君、ハリエットさん、ハリエットさんのお兄さん、今日はぼくのためにありがとう!」

「私も皆さんと市場を回ることができて、とても楽しかったですわ」

同級生四人、意気投合してお互いの親睦を深められた一日を過ごせたことに喜び合う。

その姿を、本日の護衛ウィルフレッドは微笑ましい思いで眺める。

「じゃあ、帰りもウォーベック家の馬車で皆を家まで送ろうじゃないか」

「えっ、ハリエットちゃんのお兄さん、いいんですか?」

「ああ、もちろんいいとも。君達はハティの大事な友達なのだからね!」

「やったー!」

「お兄様、ありがとうございます!」

いつもなら過保護な兄に辟易しているハリエットも、この時ばかりは心から兄にお礼を言った。

「さて、ではここから一番近い家は誰かな?」

「ジョゼじゃない?その次は私で、ライト君は貴族街におうちあるから、ハリエットちゃんちから近そう」

「そうか、ではその順番で家まで送ろう」

ウィルフレッドからの質問に、イヴリンが速攻で答える。

溺愛する妹のためとはいえ、その友達全員を馬車で家まで送ってくれるとは、何と気前の良い兄であろう。

重度なシスコンだけはちょっとアレだが、それ以外はやはり善良な性格のようだ。

貸切バスのようなウォーベック家の豪華な馬車の中で、ライト達は帰路も賑やかに楽しく過ごしたのだった。