軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第918話 守護神不在の理由

『……!!』

『いるなら同じ守護神仲間として、ご挨拶したいんだけど……』

『そ、それが……』

キョロキョロと周囲を見渡すアクアに、氷の女王が一瞬だけ固まった後にゴニョゴニョと小声で話し始めた。

その目はキョロキョロと泳ぎまくり、かなり戸惑っていることが傍目から見ても窺える。

『この氷の洞窟には、守護神と呼べる者はおりません……というか、神殿守護神というものが何なのかすら全く分かりません……お恥ずかしい話ですが、今日初めて聞きました……』

『え、そうなの? ……ライト君、これってどう思う?』

「えッ!? ぼく!?」

アクアからの突然のキラーパスに、ライトがギョッ!としながら驚愕する。

アクアからすればライトこそが生みの親であり、自分に分からないことは親に聞くのが当然の流れだ。

だが、ライトにしてみたらたまったものではない。

湖底神殿の守護神とされるアクアの中身は、実はBCOではレイドボスという位置付けだった。

そして使い魔の卵同様に、神殿内にある卵に何かを食べさせれば守護神として孵化するという驚愕の真実―――BCOとはまた違う、サイサクス世界独自のシステムを今ここで皆に明かす訳にはいかないからだ。

しかし、氷の女王の縋りつくような眼差しを見たら、ライトも素気無く知らんぷりすることも躊躇われる。

何とかして氷の女王様の力になりたい―――そう考えたライトは、隣のレオニスを巻き込むことにした。

「ねぇ、レオ兄ちゃん。これってさぁ、多分暗黒神殿や炎の洞窟と同じ……だよね?」

「おそらくそうだろうとは俺も思うがなぁ……どこかにまだ孵化していない卵があるんだろう」

ライトからのパスに、レオニスも同意しつつ氷の女王に向き直り問いかけた。

「氷の女王、いつもいるあの最奥の間に大きな卵はあるか?」

『……卵? 我が知る限り、あの広間には卵と呼べるものなどないが……』

「ないのか? 本当に?」

『ああ。少なくとも我の持つ記憶の中には、そうした存在はない。ただ……』

「……どうした? 何か他に心当たりがあるのか?」

レオニスからの問いかけに、氷の洞窟に卵などない、と断言する氷の女王。

しかし、氷の女王には卵以外の心当たりがあるようだ。

しばし思いあぐねる氷の女王だったが、その言葉をレオニス他一同は静かに待つ。

そして氷の女王が徐にその口を開いた。

『……いつの頃からかは定かではないのだが……この氷の洞窟のどこかに、我以外の強大な気配が潜んでいるような気がしてならないのだ。其方達の話を聞いていて、もしかしたらそれが守護神と呼ばれるものなのではないか……と、思う……』

「強大な気配? それがどこから発しているのかは、感じ取れるのか?」

『それが……これまで我は、最奥の広間から外に出ることは滅多になかったので……この洞窟内のどこかに何かがある、ということしか分からないのだ……』

「そうか……」

しょんぼりとしながら答える氷の女王に、レオニスも再び無言で考え込む。

ライトがレオニスを巻き込むことにしたのは、レオニスもこれまでにレイドボスの孵化に二度、ライトとともに立ち会ったことがあるからだ。

それは暗黒神殿のノワール・メデューサと、炎の洞窟の朱雀。

どちらもライトの巧妙な手引きにより、レオニスが大量の聖なる餅を与えることで見事孵化させたという経緯がある。

その経験から、レオニスも氷の洞窟内のどこかに守護神の卵があるだろう、という予測をしてくれるはず!というのが、ライトがレオニスに期待した役割であり目論見だ。

そしてレオニスは、ライトの期待に見事応えてくれた。そう、ここまではライトの予想通りの流れだったのだ。

しかし、氷の女王から返ってきた返事はその流れを塞き止めるものだった。

まさか氷の女王が、ここにあるはずの守護神の卵の存在を知らないとは、正直ライト達にとって完全に予想外だった。

これにはさすがのライトもレオニスも、しばし言葉に詰まる。

氷の女王が守護神の卵の在り処を知らないと知り、ライトとレオニスは戸惑いながらも再び思案し始める。

レオニスが思案している間に、ライトも改めて懸命に考えを巡らせていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『これ、多分システムの実装時期が違うのが原因だとは思うんだが……だとしても、何故氷の洞窟だけアプデ対応していないんだ?』

『つーか、もしかして、これ……アプデの修正漏れじゃないのか?』

ライトは持てるBCO知識をフル稼働させて、氷の洞窟の現状問題と照らし合わせる。

実はライトには、氷の洞窟に守護神がいない原因に心当たりがあった。

それは、氷の洞窟が冒険ストーリー及びダンジョンとして登場した時期と、使い魔システムが実装された時期が全く違うのだ。

氷の洞窟はゲーム開始から三ヶ月後に登場した街で、使い魔システムは二年半後の大型アップデートで実装されたコンテンツである。

実装やその登場時期で言えば、氷の洞窟の方がはるかに古い。

先発で登場した氷の女王が、その後新たに出現した後発のコンテンツを知らないのも無理はなかった。

そしてこのサイサクス世界では、世界中にいる属性の女王達と使い魔システムが何故か融合していて、属性の女王の傍には必ずBCOのレイドボスが元の『神殿守護神』という新たな存在が発生している。

これはBCOを知り尽くしたライトでも知らなかったことであり、ライトとしては『将来的にこういう内容のアップデート予定があったんだろうな』と推測する他ない。

ただ、それならそれで既存の氷の洞窟にも追加更新という形で対応しているはずだ。

実際プロステスにある炎の洞窟も、氷の洞窟とほぼ同時期に発表された最初期ダンジョンだが、あちらには玉座の奥に守護神の卵が置かれた部屋があった。

だがしかし、どういう訳か氷の洞窟にはそれがないという。

しかも氷の女王の方も、そうした大きな変化を感知しきれていないらしい。

それを聞いたライトは『もしかしたら、氷の洞窟にだけアップデートの修正漏れが起きている?』と考えていた。

あの運営のことだ、きっと『何でか氷の洞窟だけバグってて、他のダンジョンよりもアプデ対応が遅くなっちゃいました☆テヘペロ☆』ってなところなんだろう。

でも、それでも氷の女王様が何かを感じているんだから、必ずどこかに守護神のもとになるものが黙って追加で置かれているはずだ。そもそもあの運営、サイレント修正常習犯だったしな!

……となると、今度はどうやってそれをレオ兄や氷の女王に伝えるか……

考えろ、考えるんだ、レオ兄達にも分かってもらえる、何か良い言い回しを……

必死に脳内で思考を巡らせるライト。

ライトは前世からの知識で『実装時期の相違』やら『アップデート修正漏れ』『サイレント修正』に思い当たり、その食い違いの原因を推察することができた。

しかし、それをそのままレオニスや氷の女王に伝える訳にはいかない。

それらは現代日本でのみ通じる、ゲーム特有の専門用語のようなもの。そんな言葉をそのままここで出したところで、彼らに理解できるとは到底思えなかったし、ライトも上手く説明できる自信など全くなかった。

ならば、レオニス達にも通じる言葉に言い換えなければならない。

ゲーム用語を使うことなく、運営がどこかにひっそりと隠したであろう卵の存在を伝えるには、どうしたらいいか。

そしてはたと何かを思いついたライト。

レオニスに向かって声をかけた。

「ねぇ、レオ兄ちゃん。この氷の洞窟の中のどこかに、隠し部屋とかあるんじゃないかな?」

「隠し部屋……か?」

「うん。ほら、氷の女王様は最奥の広間から滅多に出てこないって言ってたでしょ? だから、洞窟の入口から最奥の広間に行く手前のどこかに氷の女王様も知らないような部屋があって、そこに卵が隠されているとかさ。ありそうじゃない?」

「そうだな……」

ライトの唱える隠し部屋説に、レオニスも前向きな表情で再び思案している。

氷の女王と友達だというフェネセンが、かつて今代の氷の女王について話していた。

それによると、今の氷の女王が壮絶な人族嫌いになったのは、氷の女王の美しさを一目見たさに冒険者達が 挙(こぞ) って押し寄せたのが原因なのだという。

それ以来氷の女王は洞窟内部に引き篭り、それに伴いツェリザークの寒冷地化がかなり進んだらしい。

レオニスが知る限り、ツェリザークが極寒の地となったのはここ数年の話ではない。少なくとも数十年以上前から、今の気候と大差ないはずである。

ならばその数十年間、氷の女王が最奥の広間に引き篭っている間に洞窟内部で何らかの異変が起きている可能性は、それなりにありそうだ―――レオニスはそう考えていた。

ちなみに隠し部屋説を唱えた当のライトは、実はレオニスとは全く別の観点から考えていたりする。

それは『隠された卵』という言葉から思いついた、『隠し部屋』という言葉。

これならきっと、現役冒険者であるレオニスにも経験があることだろう。何故ならレオニスは、これまでにかなりの遺跡回りをしてきているからだ。

ライトのそうした予想通り、レオニスにも遺跡探索で思わぬ発見をしたことが過去に何度かある。

例えばそれは、何かの拍子に意図せず触れたスイッチによって出現した未発見エリアだったり、 罠(トラップ) の落とし穴に落下しかけて穴底に落ちる手前の壁にあった横穴を見つけたり等々。

そうした経験がある故に、この氷の洞窟にもそうした秘密の未踏破エリアがあるのではないか、とレオニスも思うことができた。

「氷の女王も知らない隠し部屋がある、という可能性は大いにありそうだな」

「だよね!」

「だが、もし氷の洞窟の通路のどこかに隠し部屋があるとして……さすがに今日すぐに捜索するのは無理だな」

「そうだね、今日は水の女王様も来ていることだしな……」

ライトとレオニスがゴニョゴニョと相談していると、氷の女王が不安げな顔でライト達に問うた。

『我には、其方達が話していることがさっぱり分からんのだが……やはりこの氷の洞窟に、守護神はいない、のか……?』

「いや、そんなことは決してないと思う。他の属性の女王達のところには、例外なく孵化済みの神殿守護神もしくはまだ孵化していない卵があったし」

『ならば……その卵がこの氷の洞窟内にもあって、卵を見つけさえすれば我も守護神を迎えられるのか?』

「ああ。卵の在り処さえ分かれば、後は俺達が孵化させてやることもできる」

『それは 真(まこと) か!?』

それまで絶望しかけていた氷の女王の瞳に、希望の光が灯った瞬間だった。