軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第909話 華麗なる出で立ちとレオニスのあれやこれや

ライトがイェソド郊外銀鉱山であれやこれやと行動していた頃。

レオニスは冒険者ギルド総本部で、マスターパレンとあれやこれやしていた。

「よう、マスターパレン。相変わらず忙しそうだな」

「おお、レオニス君!よく来てくれた、ささ、椅子に座って少々待っててくれたまえ」

レオニスがマスター専用執務室を訪ねると、そこには相変わらず書類に囲まれたパレンがいた。

入口から入るレオニスにはパレンの姿こそ直接見えないが、書類の向こうから輝く謎の後光とパレンの爽やかなイケボで彼がそこにいるのだと分かる。

レオニスがいつものように応接ソファに座ると、パレンの第一秘書シーマがお茶とお茶菓子を二人分持ってきてテーブルに楚々と置いていく。

普段はあまり目立たない存在ではあるが、冒険者ギルド総本部マスターであるパレンを陰から支える秘書だけあって実に有能な女性だ。

そうしてお茶を飲みつつしばらく待った後、パレンが執務机から離れて応接ソファの方にやってきた。

本日のパレンのファッションは、十月のハロウィンに 因(ちな) んだドラキュラスタイルのようだ。

大きく捲れた襟に、踵くらいまである長いマント。

一目で上質と分かる生地の表は黒、内側は赤でどちらも艶やかなで上品な色合いである。

マントの内側は白のシャツに、黒のスラックスはマントと同生地のようだ。

そして頭の上には、吸血鬼の定番アイテムである黒のトップハット。

今日のパレンは、ウィッグ無しで普段のスキンヘッド状態なのだが、帽子がずり落ちる様子は全くない。

顎紐がある訳でもないのに、どういう原理でスキンヘッドに留められているのか相変わらずさっぱり分からない。

しかし、それ以上に特筆すべきはパレンの牙だ。いつもの爽やかな笑顔から垣間見える白い歯から、犬歯っぽいパーツをつけている。

『つけ睫毛』ならぬ『付け牙』で、それはドラキュラ感をより一層強く感じさせて、ドラマチックな程にマシマシにしていた。

如何にもハロウィンコスプレらしい出で立ちに、レオニスは内心で唸る。

おお、今日のマスターパレンはハロウィンのドラキュラコスプレか。

冒険者ギルドのマスターが吸血鬼に扮するとか、他のやつがやったら洒落にならん所業だが……普段からいろんな衣装を着こなしているマスターパレンだからこそ、こういうコスプレだって許されるってもんだ。

しかも衣装だけでなく歯まで牙に見せるとか、いつにも増して拘りが半端ねぇな。細部の作りまでとことん表現するとは、さすがはマスターパレンだ!

今日もレオニスの脳内で、マスターパレンに対するポジティブレビューが繰り広げられる。

まぁ確かにレオニスが内心で思っていた通り、冒険者ギルドのトップたる人間が魔族の象徴たる吸血鬼に扮するのは、外聞的に如何なものかと思う。

だがここは、現代日本企業であるサイサクスが創造したゲーム世界。

日本独自の季節毎の行事やイベントがあり、それらに則った風物詩や慣習が反映されているだけのことなのだ。

応接ソファにドカッ!と座り、シーマが出しておいたお茶を一口二口啜る。

「こちらから呼びつけておいて、待たせてすまなかったね」

「いやいや、マスターパレンが忙しいのはいつものことだから気にしなくていい」

「そう言ってもらえるとありがたい」

すぐに対応できなかったことを謝るパレンに、レオニスは優しい言葉をかける。

そんなレオニスの気遣いに、パレンは巨大や八重歯を見せつつ笑顔になる。

そう、今日レオニスがここに来たのは、冒険者ギルド総本部から呼ばれたためだ。

冒険者ギルドでは、レオニスに何か用事がある場合ラグナロッツァの屋敷に遣いが来る。屋敷にはラウルがおり、ラウルを通して早急にレオニスに連絡を取りやすいからだ。

ちなみにこのシステムができる前、ライトがラグーン学園に通う前はどうしていたかというと。週に一度はディーノ出張所もしくはラグナロッツァ総本部に顔を出すように、という条件しかなかった。

特にライトが赤ん坊の頃は、赤ん坊相手に手も目も離せないのでその週一すらも顔を出さないことが多かった。

レオニス曰く『これは立派な育児休暇だ!』という理論で、ずっとゴリ押ししていたのだ。

ただし、ライトがある程度成長するまではカタポレンの森の家から一歩も外に出さなかったため、育児= 子供(ライト) の存在が実在のものだと信じていた者はほぼ皆無だったらしい。

本日のお茶菓子『【Love the Palen】特製フルーティートマトゼリー』を頬張りながら、パレンが今日の本題に触れた。

「さて、今日レオニス君に来てもらったのは他でもない。先日話していた邪竜の島の殲滅のために、我がアクシーディア公国の竜騎士団の参加が認められたためだ」

「マスターパレンがラグナ大公に直訴したのか?」

「ああ。邪竜の島を殲滅させることで、奴等―――廃都の魔城の連中の戦力が削げるならば、人類にとっても見逃せない好機だからな」

「そうだな……」

意気込んでみせるパレンに、レオニスも静かに頷く。

今日レオニスが冒険者ギルド総本部に呼ばれたのは、邪竜の島の討滅戦に竜騎士団の参戦が決定したことを伝えるためだった。

ここで言う竜騎士団とは、アクシーディア公国直属の竜騎士団のことを指す。

アクシーディアの竜騎士団といえば、サイサクス大陸でも最強との呼び声も高い超有名な騎士団である。

大型飛行種族である飛竜を飼い慣らし、魔法に長けた騎士が飛竜に乗って空を駆る。その威容は国内外を問わず 夙(つと) に有名で、男の子のなりたい職業アンケートでは常にトップスリーに入る程の人気職業なのだ。

だが、レオニスにとってはそんなことはどうでもいい。

一番の問題は、レオニスが提示した条件を竜騎士団側が呑んでいるかどうかだ。

それを竜騎士団側が認めていなければ、邪竜の島討滅戦の竜騎士団の参戦は認められない。

早速レオニスがその件について、マスターパレンに確認するべく問うた。

「マスターパレンよ、それはありがたいことだが……俺が出した条件は忘れてないよな?」

「ああ、シュマルリ山脈南方での一週間以上の研修の件か。もちろん先方の竜騎士団からも承諾を得ている」

「そうか、なら良かった」

パレンからの回答に、レオニスもほっと胸をなでおろす。

邪竜の島の討滅戦には、竜の女王である白銀の君も参戦することが確定している。

白銀の君が参戦する以上、同じ竜族を使役する竜騎士団も彼女から認められておかなければならない。彼女からの信頼が得られなければ、如何に大陸最強を誇る竜騎士団であろうとも足手まといにしかならないことは明白だった。

「で? 竜騎士団側は誰が研修に参加するんだ?」

「現時点で、騎士団団長と副団長二人の三人の参加が確定している。他の参加者は、順次彼らが選定する予定だ」

「上役三人が全員参加するのか? そりゃまたかなり気合いが入ってるな?」

「そりゃあな、邪竜の島の討滅戦ともなれば、普段の戦闘訓練などとは全く違うからな。そしてそれは、我等人間達ばかりではない。飛竜達にとっても、他の竜種と会う経験など滅多にあるまい」

「それもそうだな」

研修に誰が参加するのか、レオニスは何の気なしにとりあえず聞いてみたのだが。まさか竜騎士団の団長と副団長、トップスリーが全員参加するとは思ってもいなかった。

それはパレンが代弁したように、彼らにとっても意気込むべき事案であることの証左だった。

「その確定の三人は、順番に研修に出るってことか?」

「もちろんそういうことになる。これは竜騎士団に限ったことではないが、ラグナロッツァを拠点とする騎士団の役職全員が同時にこのラグナロッツァを離れることなど、万が一にも許されんからな」

「ま、そりゃそうだよな。そしたら、団長副団長以下の竜騎士は何人くらい参加するんだ?」

「一回につき六人を研修に出し、これを五回繰り返す予定だそうだ。そして第一陣の選出はほぼ決まっているそうなので、明日にも正式な連絡が私のところに届く予定だ」

今後の予定について、レオニスとパレンの間でどんどん話が決まっていく。

竜騎士団側は五人一組となって六回参加、延べ三十人が研修に参加するらしい。

ラグナロッツァの竜騎士団は、常時総勢五十人程の人数がいる。その中での三十参加ということは、かなりの実力者が集まると考えていいだろう。

「一週間以上の研修を五回派遣するとなると、一日でも早く研修を開始した方がいいな」

「そうだな、全員の研修が終わるまで最低でも一ヶ月以上はかかる計算になるしな」

「つーか、そしたら研修の間だけの期間限定でいいから、シュマルリ山脈中央あたりに転移門を作っていいか?」

「もちろんだとも。往復時間も短縮になるしな。……って、何故に山脈南方ではなく中央なのだね?」

レオニスの『移動のための転移門を作りたい』という提案に、パレンが一度は頷くもすぐに問い返す。

竜の女王である白銀の君がいるのは、シュマルリ山脈南方。ならば転移門も山脈南方に作る方が効率が良いのに、何故わざわざ山脈中央などという離れた場所に作るのか。

パレンの顔と頭の上には、たくさんの『???』が浮いていた。

「そりゃあ、行き来にも多少の苦労がないと研修にならんだろ?」

「そ、それは……」

「ま、それだけじゃないんだがな。シュマルリ山脈中央は飛竜の生息地だからな、そこを通るのも飛竜達に取って良い経験になるだろ」

「ああ、そういうことか……なら納得だ」

レオニスが最初に出した理不尽な理由に、パレンが一瞬だけ言葉に詰まる。

だが、その後に語られた別の理由はパレンも納得できた。

竜騎士団が飼い慣らしている飛竜は、基本的に騎士団内で番となっている飛竜が生んだ卵を孵化させて育てている。

言ってみれば完全養殖の飛竜なのだが、その故郷は間違いなく野生の飛竜が生息するシュマルリ山脈中央だ。

飛竜達の本来の故郷である彼の地を飛ばせてやることは、彼らにとってもきっと有意義だろう。

一見単なる意地悪なように見えるレオニスの提案は、実は竜騎士団側にもメリットがある有益なものなのである。

だいたいの話がまとまったところで、レオニスがクイッ、とお茶を飲み干した。

「とりあえず、今俺達が話せるのはここまでかな。この先の竜騎士団との連絡は、引き続きマスターパレンに任せるからよろしく頼む」

「うむ、任せてくれたまえ。……あ、あと、これは先方の竜騎士団団長からの要請なのだが」

「ン? まだ何かあるのか?」

そろそろ帰ろうと思っていたレオニスに、パレンが待ったをかける。

他にもまだ何か伝達事項があるようだ。

「できればレオニス君、君にも研修前に顔合わせをしておきたい、と言われててな」

「……ぁー、確かにな。俺が竜騎士団と全く一度も顔を合わせないまま、いきなり現地で会うってのもおかしな話だしな」

「そういうことだ。竜の女王と竜騎士団の交流も大事だが、彼らの橋渡し役であるレオニス君との交流も欠かせないからな」

パレンの要請に、レオニスも納得顔で頷く。

レオニスが白銀の君と竜騎士団の協調性を重視するのと同じく、レオニスと竜騎士団の協調を図ることもまた円滑な研修推進のために必須であった。

「分かった。そしたら明日の竜騎士団側からの連絡を聞いてから、俺も竜騎士団を訪ねることにしよう」

「そうしてくれると助かる。私はこの通り多忙故、レオニス君についていくことはできないと思うが……よろしくな」

「承知した。ま、俺も子供じゃないからな、一人でお使いくらいできるさ」

竜騎士団への訪問を約束したレオニス。

ニカッ!と笑って答えたその爽やかな笑顔に、パレンが安堵の表情を浮かべる。

貴族嫌いのレオニスが、その立場上貴族寄りの竜騎士団と上手くやっていけるかどうか、パレンとしても若干心配なところではある。

だが、レオニス自身そこまで気負っている様子もないし、何より今回の討滅戦は種族を問わず重大な作戦だ。

絶対に負けられない戦いを前に、貴族嫌いだの人嫌いだの言っている場合ではないことは、レオニスも十分理解していた。

「じゃ、明日また来る。マスターパレンも仕事頑張れよ」

「ああ、ありがとう。レオニス君も頑張ってくれたまえ」

執務室の扉に向かっていくレオニスに、パレンもまた書類の山の檻の中に戻っていく。

互いを労る言葉をかけあいながら、レオニスは執務室を後にした。