軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話 新天地へ(side:レミ)

ディーノ村の冒険者ギルドで、全財産確保と受付嬢クレアへの挨拶を済ませたレミは、ギルド近くの馬車停留所でハイロマ王国行きの乗り合い馬車を探した。

身重の身体で乗り合い馬車に乗って長距離移動するのは、かなりきついからなるべく避けたい。

しかし、貴族が乗るような乗り心地の良さげな馬車には平民など乗れないし、 翼竜(ワイバーン) の籠便なんてもっとお値段高くて使えやしない。

だが、22歳にして黄金級冒険者となっていたグランの稼ぎはかなり良く、消耗品である回復剤や傷んだ武器防具を買い替えても余りある貯蓄があった。

その蓄えを今こそ使うべく、レミは停留所にいる商隊の集団に個別交渉をした。

「あの、もし良かったら私をハイロマ王国までいっしょに乗せていってくださいませんか?もちろんお代は、ちゃんと出しますので」

だが、この交渉がなかなか上手くいかない。

明らかにお腹の大きい女性、道中で産気づいたりでもされたら敵わん!と、けんもほろろな対応が続いた。

そこにいる殆どの御者に断られ続け、どうしようかといよいよ途方に暮れかけたその時。いきなり誰かにレミの背後から声をかけられた。

「ねぇねぇ、そこのお姉さん」

一瞬びっくりしながらその声に振り向くと、小柄なレミより僅かに小さいくらいの少年がいた。年の頃は12、3歳くらいか。

ショートの黒髪の頭のてっぺんには、ふさふさとして大きな可愛らしい猫耳が見える。金茶色の大きな瞳が愛らしく、少年らしいあどけなさがまだ残っている。

よく見ると、後ろに細長めの黒い尻尾がピョコピョコと動いているのも見える。

どうやら獣人の少年のようだ。

「そのお腹じゃ、普通の馬車乗るのは厳しくない?俺の翼竜籠に乗せてってやろうか?」

レミは驚き戸惑いを隠せないながらも、自分に声をかけてくれた少年に向き合い問いかけた。

「……本当にいいの?……でも、翼竜の籠便ってすごくお金がかかるんでしょう?そこまでのお金、今の持ち合わせで足りるかどうかも分からないんだけど……」

おずおずと言うレミに対し、少年はカラカラと笑いながら元気な声で答えた。

「 大丈夫(だーいじょぶ) だってー、俺今日ここのギルドに届け物したばかりで、カゴ空っぽなんだよ。往復便じゃなくて片道便の仕事だったから、帰りはそのまま空いてんだよね」

「そういう時はさ、なるべく客とっ捕まえて多少寄り道でもいいから帰る前にちっとでも売上出せ!ってねー、じいちゃんからいっつも言い聞かせられてんのよ」

「全くさー、優秀な翼竜乗りってのも辛いもんだよねー、ニャハハハッ」

「そうなの……あなたも大変ねぇ……」

少し雑談を交えながら、レミは少年に確認する。

「そしたら、あなたの翼竜籠便でハイロマ王国までいくらで移動してくれるの?」

「んー、ハイロマ王国の場所にもよるけどぉ、お姉さんはどこに行きたいの?」

「行きたい場所は特に決まってないの。ただ、ここには帰らずそのままハイロマ王国に移住するつもりだから、なるべくなら移民の手続きとか諸々まとめてこなせる大きめの街や都市がいいかなぁって」

「そっかー、んー……そしたらアレかなー、国境沿いで一番大きなエメラルドシティ?がいいかなぁ。ハイロマの南玄関口と呼ばれるあそこなら、国外から来た人々の移住に関するいろんな手続きもできる筈だし」

「へぇ、そうなのね。それはいいことを聞いたわ!なら、そのオススメのエメラルドシティに行こうかな。そこまでの翼竜籠便はおいくら払えばいいの?」

「そうだねー、そしたら10万Gでどう? 2泊3日の空の旅、宿代込み!ここから出るハイロマ行きの翼竜籠便としちゃかなり格安な方だよ?」

レミは思わず息を呑みかける。というか「ヒョエッ」とか少し声に出ちゃってた気がする。

10万Gと言えば、結構な大金だ。レミがディーノ村で宿屋の手伝いで1ヶ月間休み無く毎日働いても、10万Gなんて絶対に届かない。10万どころか1万いくかどうかすらも怪しい。

だが、確かに2泊3日でハイロマ王国に行けるならレミにとってもかなり助かる。

普通の乗り合い馬車なら、カタポレンの森を大きく迂回して一度大陸の端の海沿いを行かなければならないので、ハイロマ王国まで10日はかかる距離なのだ。

その日数を考えると、見た目にも分かる身重のレミがハイロマ行きの馬車に乗ることを悉く断られたのも、致し方ないことと言えた。

しかし、空路なら悪路の山道や森の中をガタガタと揺られることなく、より短時間で目的地に進めて道中の宿代も込みだという。

レミはくるりと踵を返し、少年に背を向けながら財布の中を見た。

「1、2、3……5…… うん、これなら、まぁ……」

レミは少し考えた後、向き直って少年に答えた。

「分かりました。お金もちゃんと足ります。では、今からあなたの翼竜籠便で、ハイロマのエメラルドシティ行きをお願いできますか?」

「もちろんもちろん、ニャハハハッ!」

「…………ふふッ」

10万Gという金額は、レミにとっては十分に大金だが全く払えないほどではない。手持ちのお金で賄える範囲だ。

基本倹約家のレミにとっては驚愕のお値段だが、背に腹は代えられない。お金も大事だが、今は何よりお腹の子の安全を最も優先して考えて、行動しなければならないのだから。

「ではお願いね。頼もしい御者さん、あなたのお名前は何ていうのかしら?」

「俺?俺はシグニスってんだ。安心安全迅速快適がモットーの、翼竜籠便界の王子様だぜ!よろしくな!」

「ふふっ、ありがとう。私はレミっていうの。ハイロマ王国までよろしくお願いね?」

「任せとけって!あッ、お代は前金半分到着後に残り半分で頼むね?ニャハハハッ!」

ニパッと明るく笑う、獣人の少年シグニス。

こうしてレミは、祖国アクシーディア公国を旅立ち新天地ハイロマ王国へと向かっていった。